Fakers/Straight faith◆uL1TgWrWZ.





「……問おう」


 ――――衛宮士郎はその日、全てを思い出した。
 10年前に起きた、あの大災害を。
 そこで見た、まるで自分の方が救われたかのような顔をした、自分を助けてくれた男のことを。
 一番大切な、亡き養父と交わした誓いを。
 冬木の町で過ごした、10年を。

 記憶喪失、というほどでもない。
 ただ、自分の根幹をなす記憶が排除されていた。
 あの大災害の記憶が無くなっていた。
 ■■士郎が死に、衛宮士郎が産まれた日のことを忘れていた。
 その記憶は、土地に根差したものだったからだ。
 代替の記憶では賄えない、無二の原風景であり、だからこそ士郎は全てを思い出した。
 白いトランプに導かれ、自分が巻き込まれたものがなんであるかを理解した。
 聖杯戦争――――ふざけた魔術儀式に巻き込まれたことを理解した。


「……貴方が……」


 そして士郎の目の前にいるのは、黒づくめの女だ。
 士郎はそれが“自らのサーヴァント”であると理解した。
 工房とも呼べない、士郎の魔術の修練場である土蔵で、彼はサーヴァントを召喚したのだ。
 目元だけを露出させた黒衣の女は、現代の人間では到達し得ぬ膨大な神秘を伴っている。
 その佇まいは、まるで物語の中に現れる暗殺者のようで。
 あるいは、実際にそうなのかもしれない。
 士郎は聖杯戦争について詳しくはないが、聖杯から授けられた知識がアサシンというクラスの存在を示している。
 ともあれ黒衣の女は、召喚による魔力の本流に気圧されて尻餅をついた士郎を静かに見下し、か細い声で問いを投げかけた。


「貴方が……聖杯を得るために……私を呼び出した魔術師か……?」


 静かな問いかけである。
 だが、士郎は直感した。
 答えを誤れば、殺される。
 嘘をついても、殺される。
 女の、唯一露出した瞳からは、死を直感させるほどの冷たさがあった。
 ゾッとするような、どこまでも冷たい鉄のような瞳。
 その瞳を、その強固な意志で塗り固められた視線を、どこか美しいとすら感じながら、士郎は喉の奥からこみ上げてくる恐怖を飲み込んだ。
 答えなくてはならない。
 女は答えを急かすことは無く、ただ微動だにせず士郎を見下ろしているが、それが逆に士郎にとっての恐怖であった。

「お、俺は……」

 声を絞り出す。
 言葉を選ぶ。
 誤解なく、嘘をつかず、虚飾もなく、ただありのままに自分を理解してもらえる言葉を探す。

「……俺は確かに魔術を使えるが、魔術師じゃない」

 まず、否定。
 その回答が、正解であるかどうかもわからない。

「聖杯も、俺には必要ない……!」

 続けてもう一度、否定。
 衛宮士郎に、聖杯に託す望みはない。
 彼の中にある望みは、自分自身の行いで成すべきものだからだ。
 女はその答えをどう受け取ったか、しばし士郎を見下し続け、それからゆっくりと黒布越しに言葉を発する。

「……魔術を使えるが魔術師ではない、とは……どういうことだ」

 再度の問い。
 士郎は言葉を自分の中でかみ砕きながら、再び答えた。

「……俺にとって、魔術は目的じゃなくて手段だ。
 魔術を手段とする人間は、魔術師ではなく魔術使いなんだって爺さんに教わった。
 だいたい、俺の魔術の腕じゃとうてい魔術師なんて名乗れない」

 そんなものは、本物の魔術師に対して失礼だ、と。
 士郎は心からそう思っているから、そのままを伝えた。
 女が冷たい視線を投げかける。
 殺されるのか。
 こんな、唐突な理不尽に自分は殺されるのか。
 何もできないまま、自分は殺されるのか。
 そんなことは、許されてはいけないのに。

「…………では……貴方の目的とはなんだ?」

 そして、三度目の問いが女から発せられた。
 恐らくこれが、最後の問答になるのだろう。
 より強い殺気が、視線と共に士郎の体を射抜く。
 士郎は祈るような気持ちで、焼けるように熱い胸から答えを出す。
 その答えだけは間違えようがない。
 たとえ間違いだったとしても、衛宮士郎にとってはその答え以外はあり得ない。
 これが女にとって気に入る答えかどうかはわからない。
 だが、その答えはずっと士郎の胸にあったモノだ。
 だから、口に出す答えは決まっていて、淀みなく答えることができた。


「決まってる。誰かを救える存在―――――――――――――正義の味方になることだ」


 亡き養父と約束したこと。
 かつて父がなりたくて、けれどなれなかったもの。
 かつて救われた。だから憧れた。
 そうなるために、そのためだけに、衛宮士郎は今まで生きてきた。
 誰かを救うための、誰もを救うための存在、正義の味方になるということのために。

「……いいだろう」

 一瞬だったようにも、あるいは永遠だったようにも思える沈黙を経て、女は瞠目した。
 同時に、彼女が放つ強烈な殺気と威圧感が消滅した。
 女は再び目を開き、眼下の士郎に対して言葉を告げる。

「貴方を……偽りの奇跡を打ち砕くための同志として認める。
 だが……私が主と仰ぐのは、我らが神と……偉大なる山の翁のみ。
 ……故に、名を。貴方をマスターと認めることはできないが……だからこそ……同志として、名を聞く必要がある」

 正直に言えば、士郎には彼女が言っていることを正確に理解できていない。
 緊張と安堵と、目まぐるしい急展開で冷静ではない自覚がある。
 それでも名を尋ねられたことと、彼女が自分を味方と認識したことを理解して、士郎はどうにか名を名乗った。

「――衛宮士郎だ。お前は?」
「――――……私に名はない。ただアサシン、と……そう呼べ、シロウ」


 ――――――それが、少年が偽りの運命に出会った日であり――――彼らの戦争の、始まりであった。



  ◆  ◆  ◆



「つまり、アサシンはこの聖杯戦争そのものが許せないのか」

 それから、士郎とアサシンは場を居間に移し、お互いのことを話し合っていた。
 アサシンが話したのは、彼女の聖杯戦争における目的――彼女たちの頭目を無暗に惑わす、異端の奇跡の否定。
 そんなものは偶像を拝する異教徒の邪法に過ぎず、異端の儀式によって奇跡が起こるなどあってはならない。
 偉大な神を信じるからこそ、その存在そのものが許せないのだとアサシンは言った。

「……そうだ。我らの神は杯など持たない。
 異教の偶像が偽りの奇跡を起こすなど……あまりにも許しがたい……
 なにより……偉大なる山の翁を惑わす偽りの奇跡など、一刻も早く破壊しなければならない。
 私はこの戦争に集る邪な異端と異教徒を殺し……聖杯を破壊する」

 机の差し向いに座る彼女の瞳には、固い決意が籠っていた。
 アサシンは狂信者だ。
 短い会話の中で、士郎はそれを理解していた。
 だが、それでも。

「殺すって……そこまでしなくてもいいんじゃないか?
 だいたい、他の参加者だって俺みたいに巻き込まれた奴もいるはずだ」

 衛宮士郎にとって、それは看過できない。
 人の命を奪うということは、いかなる理由があっても悪だ。

「……巻き込まれただけの者であれば、見逃そう。
 だが、それ以外は生かしておけない。我らの信仰と安寧のため、殺さなくてはならない」
「けど」
「…………正義の味方になりたいと言ったな、シロウ。
 それはつまり……無辜の民を脅かす邪悪を排除する、ということだ……
 ……貴方も、それは理解しているはずだろう」
「それは……」

 アサシンに諭され、士郎は押し黙った。
 “正義の味方”が孕む矛盾。9の善を生かすために、1の悪を排除する思想。
 誰かを救うために誰かを殺す矛盾。
 わかってはいる。わかってはいるが……

「……けど、他に何か方法があるはずだ。
 最初から殺すことだけを考えるなんて、そんなのは認められない。
 俺はこの戦争で、一人でも傷つく人を減らしたいんだ」

 それだけは、譲れない一線だ。
 譲ってしまえば、あとは妥協の果てに摩耗してしまう、そんな気がした。
 アサシンは瞠目し、黒布越しにため息をついた。
 ……どうも、呆れられてしまったらしい。

「…………シロウ。貴方のその優しさは美徳だ。
 確かに今は異教の神を奉じ……異端に手を染めたものであっても……いつか悔い改める可能性はある。
 しかし……この戦争に参加する異教徒どもは……聖杯を手に入れるために……我々を殺そうとしてくるだろう……
 ……自らに刃を向ける者を前に、貴方は同じことを言えるか?」

 ……アサシンの言うことは正論だ。
 無論、そこには狂信者であるアサシンの視点が混ざっているが、それでも。
 万能の願望器を手に入れるため、自分たちを殺そうとしてくる者はいるはずだ。
 それを前にして、誰も殺したくないなどと吠えるのは愚かな理想でしかない。

「……繰り返すが……貴方のその優しさは、美徳だ。
 貴方が殺し殺されあうことはない……私が全て、殺す」

 暗に、お前は引っ込んでいろ、と言われている。
 実際、サーヴァントに対して士郎ができることなどそうはないだろう。
 文字通り格が違うのだ。
 サーヴァントと戦うなど、身の程知らずにもほどがある。
 だから、実際に戦争を行うのはアサシンであることは理解できる。
 だから、その方針はアサシンが決めるものだということもわかる。
 衛宮士郎はあまりに無力だ。
 それでも士郎は、不思議と気落ちせずにいられた。
 理由は、とても単純なことだ。

「優しいんだな、アサシンは」
「………………?」

 アサシンが、士郎の言葉を理解できずに小首をかしげる。
 その動作がひどく人間らしいものに見えて、士郎は少し笑ってしまった。

「俺のこと、気遣ってくれたんだろ」
「それは、そうだが……」
「けど、やっぱりダメだ。
 俺も戦うし、他の参加者は殺さない。俺だけ黙って見てるなんてことはできない」
「……シロウ。あまり私を……」

 それでなお甘えたことを言いだす士郎に、いよいよアサシンは声に苛立ちを乗せ始めて。
 しかしアサシンが次の言葉を言う前に、士郎は言葉を続ける。


「――――サーヴァントだけだ」


 それは妥協なのか。
 あるいは、すり合わせなのか。

「悪いサーヴァントだけ倒す。どうしてもって状況にならない限り、生きた人間は殺さない。
 ……これで納得してくれないか、アサシン」

 士郎には令呪がある。
 三度限りの絶対命令権。
 これを使えば、有無を言わさずアサシンを従えることは可能なのだろう。
 それでも、士郎はその選択肢を選びたくなかった。
 アサシンは優しい奴だ。
 こんな優しい子に、無理やり言うことを聞かせることなんて、士郎にはできなかった。
 その気持ちが通じたのか、アサシンはもう一度深くため息をついた。

「……いいだろう……私は最終的に、偽りの聖杯を破壊できればそれでいい。
 だが……こちらに刃を向けてくる輩の命は保証できないぞ、シロウ」
「ああ、それでいい。ありがとう、アサシン」

 士郎はほっと胸を撫でおろした。
 やっぱり、アサシンは優しい奴だ。
 士郎の譲れない気持ちを汲んでくれた。
 そのことを少しだけ申し訳なくも思うし、嬉しくも思う。

「さて! それじゃ、飯でも作るか。
 アサシンは何が食べたい?」

 とりあえず実務の話は終わったし、気分転換も兼ねてご飯でも、と、それぐらいの軽い気持ちでの提案。
 伸びをして席を立つ士郎に、アサシンは少しだけ困惑したような視線を向ける。

「……いや、我らサーヴァントは食事の必要がない」
「え、そうなのか?」
「無論、多少は魔力の糧にはなるが……」
「それなら、食べられるってことだろ。
 大した手間でも無いし、一緒に食べたほうが俺が楽しいんだ」
「しかし……」

 どうせ、士郎の魔力供給量などたかが知れている。
 それならご飯で多少なり魔力を得た方がいい……という大義名分と、その方が自分が助かるという視点の転換。
 ご飯は大切だし、誰かのために作る料理の方が士郎は好きなのだ。

「確か、アサシンの宗教だと豚はダメなんだよな」
「……聖別を受けていない獣肉も、聖典で禁じられている」
「そっか。じゃあ今日は野菜料理でも作ろう。
 肉は……この街にもアサシンと同じ宗教を信じてる人が少しはいるはずだし、今度探して買ってくるよ」

 そのまま勢いで押し切って、士郎はさっさと台所に移動する。
 よしよし、アサシンの現界初めてのご飯だ。
 とびっきり腕によりをかけてやるぞ、と主夫(せんし)は決意を固めた。
 その背に、アサシンがか細い声をかける。

「…………シロウ、話があるのだが……」
「んー?」



  ◆  ◆  ◆



「…………シロウ、話があるのだが……」
「んー?」

 ――――アサシンは考えていた。
 聖杯戦争において、サーヴァントとマスターは似通った属性を持つものが選ばれるという。
 ふざけた異端の儀式ではあるが……その法則をなんとなく、アサシンは実感として理解した。


 ―――――――――――――この少年は、どこか自分と似ている。


 アサシンの生前は、あまりに愚かで未熟なものだった。
 神を信仰し、そのために人生を捧げた。
 愚かにも、自分が確かに信仰者であったと、神の信徒であったと、それを証明できる証を望んだ。
 山の翁。ハサン・サッバーハ。
 暗殺教団の指導者たる、特別な名前。
 若かりし頃のアサシンはその名を求め、ひたすらに修行を行った。
 山の翁は、代々自らの編み出した奥義を『ザバーニーヤ』の名に隠し操るという。
 ザバーニーヤとは、地獄を管理し罪人に罰を与える19人の天使の名だ。
 山の翁の職務とはまさしくそのようなものである。
 教義に反した異端、邪神や偶像を崇める異教徒などの罪人を、速やかに処罰する処刑人。
 偉大な存在である。
 誰よりも信仰篤く、優れた技を持った尊敬すべき指導者である。
 その名を目指し――――アサシンは、歴代18人の御業を模倣した。
 それでもなお、「自ら御業を編み出すことのできない未熟」を指摘され、アサシンは山の翁になることはできなかった。
 代わりに山の翁になった者は、百の貌を自在に使い分け、あらゆる事柄をこなした。
 その姿を見て、アサシンは自らの未熟と愚かさを恥じ――――また、修行の日々に戻った。
 思えばあまりに愚かな話だ。
 偉大な長たちの背を追うあまり、その御業を穢してしまうなど。
 未熟、未熟、度し難いほどの未熟。
 それでも、それでもやはり―――――アサシンは、その背を追うことをやめられなかった。
 理想だった。
 憧れだった。
 信仰の守護者として、悪を屠り民を守る、その姿に手を伸ばし続けた。
 アサシンは未熟者だ。
 信仰は足りず、未熟を晒し続けた、愚かさの塊のような女だ。
 結局、アサシンは生前なにも成すことができなかった。
 信仰の渦と修行の日々に埋没し、歴史の闇に消えた。
 身の程をわきまえなかった未熟者の、どうということはない一生だ。
 アサシンは誰も……自分を忌み嫌った同胞も、自分を山の翁と認めなかった者たちも恨むことは無かった。
 ただ、自分の信仰が足りず未熟だったからだと、そう思っていた。
 それで結局何も成せなかったのだから、笑わせる。

 ……翻って、この少年は。

 理想を追い求めている。
 ―――――かつての自分と同じように。

 誰かの背を追い続けている。
 ―――――かつての自分と同じように。

 善なる者であろうとしている。
 ―――――かつての自分と同じように。

 そして、あまりにも未熟である。
 ―――――今なお未熟である自分と同じように。

 愚直に理想を追い求める姿に、かつての自分を幻視した。
 どこまでも笑わせる。異教徒の少年と自分を重ね合わせるなど、未熟にもほどがある。
 それでも、どうしてか、アサシンはこの少年を無視できなかった。
 漠然とした直感があった。
 この少年はいつか、自分と同じように理想を追い続け、そして自分と同じように、無銘の“セイギノミカタ”として一生を終えるのだろう、と。
 なにか根拠があるわけでなく、ただ漠然とした、しかし確信めいた直感。
 この少年は自分に似ていると。
 どこか、性質が似通っていると。
 あるいは自分は、この少年の末路の一つである、と。
 なんとなく、そういう確信があった。
 戦いは自分自身と。
 思い描くのは最強の自分。
 理想を追い求め、模倣の精度を求め、それだけしか能のない贋作者。

 ――――アサシンは未熟である。
 未熟のまま、無為に一生を終えた。
 そのことを恥じはすれど、悔いには思わない。
 だが――自分とよく似た、この少年は、まだ生きている。
 つまり、伸びしろがある。ここからさき、どうとでも進むことができる。
 であるからこそ、アサシンはこれを“信仰の試練”と認識した。
 未熟な自分に課せられた、新たな試練であると。
 すなわち、この未熟な少年を守り、導くことこそ、自分の責務であると認識した。
 そのために、アサシンがまずすべきことは――――――――


「――――シロウ。貴方は今までの無知を改め、真なる神に信仰を捧げるべきだ」
「――――えっ」





 ……結局、二人の改宗問答は「よく知りもしない宗教を信仰するのは相手に対して失礼だ」という士郎の鶴の一声でひとまず決着した。
 決着した結果、なにかにつけてアサシンが宗教講義を始めることになるのだが、それはまた別の話である。



 ――――少年はその日、未来に出会った。

 ――――狂信者はその日、過去に出会った。

 歪な二人の運命は今、始まったばかり――――








【CLASS】アサシン

【真名】――(英霊の資格を得る頃には既に名を捨てていた)

【属性】秩序・善

【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具B+

【クラス別スキル】
気配遮断:A-
 サーヴァントとしての気配を断つ。
 技術は十分なのだが、本人の気質があまりに愚直であり、暗殺者というよりは戦士に近しいため、隠密行動に支障をきたしがち。

【保有スキル】
狂信:A
 特定の何かを周囲の理解を超える程に信仰することで、通常ではありえぬ精神力を身につける。
 トラウマなどもすぐに克服し、精神操作系の魔術などに強い耐性を得る。

【宝具】
『幻想血統(ザバーニーヤ)』
ランク:E~A 種別:対人・対軍宝具 レンジ:-
 肉体を自在に変質させ、過去に紡がれし18の御業を再現する能力。
 実際は過酷な肉体改造も行われていたが、英霊化にあたり肉体を自在に変質させる形となった。
 オリジナルの御業と比べて威力が上か下かはケースバイケースとなる。
 現在観測されている彼女が使用する御業は以下の通り。


◎『妄想心音(ザバーニーヤ)』
 背中から第三の腕を出現させ、触れた対象の疑似心臓を作り出し握り潰す呪腕。
 接触の必要こそあるが、如何なる鎧や防御の上からでも対象を呪殺できる。反面、幸運や魔力で抵抗可能。
 本家に倣うのであればレンジは3~9となる。

◎『空想電脳(ザバーニーヤ)』
 手で触れた相手の脳を爆薬に変え、頭部を破壊して爆殺する魔技。

◎『妄想毒身(ザバーニーヤ)』
 猛毒をその身に宿し、自身の肉体を利用して対象を毒殺する秘奥。
 本家は汗や頭髪、吐息でさえも毒を孕み、接触はおろか揮発した汗で対象に毒を与える事すら可能だった。
 が、彼女の場合は毒が無差別に無辜の民や同胞を殺めることを恐れ、毒を血液に濃縮させ、一時的に再現するに留まっている。
 この秘奥の存在と、そのための修行の副産物として、彼女には毒物が効かない。

◎『夢想髄液(ザバーニーヤ)』
 可聴領域を超えた歌声により、相手を操る魔歌。
 大人数に対して行使すれば、脳を揺らし魔術回路を暴走させ、魔術の制御を失わせる。
 個人に対して効果を集中させれば、サーヴァントでさえ膝を屈し、常人であれば脳そのものを支配して操ることが可能。

◎『狂想閃影(ザバーニーヤ)』
 自らの頭髪を操り、伸縮自在の刃とする絶技。
 本家であれば蜘蛛の糸のごとき細さで数里先の敵の首を気付かれぬままに刎ねることができたが、彼女にそれほどの力はない。

◎『断想体温(ザバーニーヤ)』
 自らの肉体を「魔境の水晶」の如く硬質化させる秘技。
 少なくとも、宝具域の銃撃を阻む程度の硬度を誇る。

◎『瞑想神経(ザバーニーヤ)』
 魔力、水、空気、電気などの「エネルギーの流れ」を感知する超知覚。
 人工物であれ自然であれ、周囲の地形や構造を我が身として完全に把握できる。


 ただしこれら秘奥の連続使用による魔力消費は甚大であり、士郎の魔力量では乱用できないと見ていい。

【weapon】
 (観測されている範囲では)なし。自らの肉体と歴代の御業で戦う。

【人物背景】
 かつて中東の暗殺教団で『山の翁』を目指した暗殺者。
 通常ならば一生をかけて習得する山の翁の秘奥を、それも歴代18人のそれ全てを、僅か数年で身に着けたほどの才覚を持つ。
 彼女の常軌を逸した信仰、常軌を逸した才覚は、異教徒どころか同胞にも恐れられた。
 その結果、彼女は山の翁になることはかなわず、19代目ハサンの名は『百の貌』の二つ名を持つ暗殺者が継ぐこととなる。
 それでも彼女は誰も恨まず、羨まず、ただ自らの未熟と信仰の不足のみを恥じた。
 同胞が自らを忌み嫌うのは自分が未熟で、信仰が足りていないからだ。
 自分は歴代の御業を模倣しただけで、自ら奇跡を生み出すという偉業には至れなかった。
 彼女は結局、未熟を恥じ信仰の渦に身を沈めながら、歴史の闇に消えて行った。
 ただそれだけの、何も成せなかった狂信者。

 なお、常軌を逸した信仰者ではあるが、同時に極めて善性の人物でもある。
 無辜の民を巻き込むことを嫌い、異教徒・異端であっても「将来的に改心して同胞となる可能性がある」と無暗に殺すことはしない。
 もちろん、害意には害意で応じ、増上慢には罰を下す程度の好戦性はあるが、異教徒・異端であっても他者を気遣える人間性を持つ。
 聖杯という偽りの奇跡を求める邪な異教徒・異端に対しては容赦しないが、逆に言えばそれ以外の人間には容赦する程度には善性。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯をこの手で破壊する。
 我らの神は杯など持たず、偉大なる山の翁を惑わせる異端の奇跡などあってはならない。

【マスター】
 衛宮士郎@Fate/stay night

【能力・技能】
 二十七本と、代続きしていない魔術師としては比較的多めの魔術回路を保有しているが、魔術の腕は壊滅的。
 満足に使えるのは構造解析の魔術程度で、あとは成功率の低い強化魔術と、ガワしか作れない投影魔術しか使えない。
 その構造解析ですら「非効率的」と言われるものなのでもう本格的にへっぽこ。
 長所としては弓が抜群にうまい他、身体能力もそこそこ高い。
 体内に聖剣の鞘が埋め込まれているが、聖剣の担い手が現界しない限りは無意味。

【weapon】
 固有の武器は持っていない。
 陣地として『衛宮邸』を保有。
 スノーフィールドでは少々目立つ本格的な日本家屋で、外敵の侵入を知らせる結界が張られている。

【ロール】
 高校生

【人物背景】
 正義の味方を志す青年。
 冬木市で開催された、第四次聖杯戦争の余波である大災害の数少ない生き残り。
 魔術使い衛宮切嗣の養子となり、彼の「正義の味方になる」という遺志を継いで魔術使いとなった。
 彼を突き動かすのは亡き養父との誓いと、「大災害で唯一生き残ってしまった」という意識。
 生き残ってしまった自分は、その分誰かのために何かをしなければならないという強迫観念にも似た義務感である。
 その結果、人助けのみを生きがいとする破綻者が誕生した。
 彼は無私の善人のようにも見えるが、その実それ以外の生き方を選べない、機械のような存在と言っていい。
 黙々と誰かのために尽くし続け、そして大災害から10年後。
 少年は運命……聖剣を担う金髪の少女……と出会うのだが――――その直前に、白いトランプに導かれた。

【聖杯にかける願い】
 とくになし。
 聖杯戦争における犠牲を可能な限り減らす。







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最終更新:2016年12月28日 01:58