Welcome back,MADMAN ◆uL1TgWrWZ
「アアアアアアアアアア!!!」
肉の焼けこげるにおいがする。
「止めろヤメロやめろやめらァァァアァアアアアアアア!!!」
肉の焼けこげるにおいがする。
「バァァサァァァカァァァァァ! バァサァカァは何をしていアアアアアアアアアアアアアア!!」
肉の焼けこげるにおいがする。
それから、悪が焼けこげるにおいがする。
解説をしなければなるまい。
まず、時間は夜である。
月も雲に隠れ、暗闇に閉ざされた世界である。
場所はスノーフィールドである。
スノーフィールドの、薄汚い路地裏である。
――――――そして状況は、惨劇である。
「…………! ………………!!」
叫んでいた男は、もはや言葉らしい言葉を発することができないでいた。
彼はいわゆる人外であり、非常に高い生命力を持っていた。
肉体を真っ二つにされても死なないし、脳や心臓を撃ち抜かれても即死はしないほどに。
それが、彼にとっての不幸であった。
「……………………」
彼に馬乗りになっている男は、無言であった。
無言で、人外を焼いていた。
――――――――否。焼いている、という表現は正しくない。
彼の手にはアーク切断機がある。
溶接工が金属を溶融切断するために用いる道具である。
彼の手には犬の死体がある。
何の変哲もない、ただひたすらに無慈悲な犬の死体である。
アーク切断機は人外の顔を溶かしていた。
犬の死体は、男の顔に接着されていた。
すなわち――――――――――男は人外に、犬を溶接していた。
誰あろうこの男こそ。
他に並ぶものなど、該当するものなどいないこの男こそ。
かの犯罪都市ゴッサムにて、路地裏で悪人に犬を溶接し続ける無慈悲なヒーロー。
犬溶接マン
――――――――――Dog Welderに他ならない。
このヒーロー……ヒーローである。彼が犬を溶接するのは悪人だけだ……ヒーローは、聖杯戦争に巻き込まれていた。
罠にかけた犬がくわえていた白いトランプに触れ、スノーフィールドに導かれたマスターだ。
その証拠に、彼の象徴たる溶接マスクには三角の令呪が刻まれている。
となれば当然、彼が犬を溶接している人外もまた、聖杯戦争の参加者である。
彼は魔獣の類をサーヴァントとし、NPCを襲って魂喰らいを行おうとし……そこを犬溶接マンに捕捉され、襲撃されたのである。
死ぬに死ねない不死身性のせいで、彼は延々と顔面をアーク切断機で焼かれている。
彼の顔面には、既に三体の犬の死体が溶接されていた。
おそらく、彼が死ぬまで記録は伸びるだろう。おぞましい職人芸である。
人外もマスターだ。
ならばサーヴァントの助けがあるはずで、なぜそれが無いのかといえば――――――――
◆ ◇ ◆
「――――エヤッ!」
「■■■■■ーーーーッ!?」
気合一発、バーサーカーが地面に叩きつけられる。
バーサーカーは数多の人を喰らい、数多の惨劇を引き起こした魔獣である。
狂戦士として顕現し、人外のマスターと共にまた大いに人を喰らおうとした怪物である。
それが今、一騎の赤いサーヴァントに蹂躙されている。
「エヤッ!」
再び、掛け声とともに赤い男が襲いかかってくる。
その男はサーヴァントである。
その男は赤い。
その男は人型だが、どうも人間のようではない。
その男は赤い。
その男はまともな言語機能を有していないようである。
その男は赤い。
その男は無慈悲だ。
――――そして、その男は赤い。血のように。
「エヤッ!」
倒れ伏す魔獣に対し、赤い男はニードロップを仕掛けた。
バーサーカーはそれを回避できず、臓腑から血をこぼす。
赤い男もまた、自分と同じバーサーカーのようだ、と魔獣は冷静な部分で判断した。
だが同時に、時折気配を絶ったかのように姿を消し、死角から攻撃を仕掛けてくる。
アサシンの素養も持つのか……いずれにせよ、マズい相手であると判断した。
「エヤッ!」
一つ覚えのように、赤い男が掛け声と共にマウントをとって拳を叩きつけてくる。
バーサーカーは必死に抵抗した。
防御し、相手の体を掴み、引き倒して、また引き倒されて。
……どれほどの時間、そうして戦っているのだろう。
泥沼の戦いに時間の間隔は曖昧になり、疲労と負傷が判断力を低下させる。
追い詰められている。
この思考力の低下さえ、敵の術中であるとバーサーカーは理解する。
再度、赤い男がマウントを取った。
腕を振り上げる。
大振りだ。ガードは間に合う。
いや、だが、待て。
その手の形は、拳を握るというにはあまりに奇妙で――――
「――――――――レッドアロー!」
――――――赤い男の高らかな叫びと共に、その手には赤い槍が握られていて。
それが自らの口中に滑り込んで突き刺さる激痛を理解して―――――バーサーカーは消滅した。
◆ ◇ ◆
「嘘、だ、バーサーカーが、死ぬ、なんて……」
……人外が呆然と、うわごとのようにつぶやく。
魔力のラインが途切れ、自らの相棒が消滅したことを彼は理解した。
そして次の瞬間、五体目の犬が彼の顔面に溶接されて。
バーサーカーの消滅に遅れて三分、人外は意識と命を手放した。
…………後に残るのは、犬溶接マンのみである。
彼は人外が沈黙したことを確認し―――― 一応念入りに六体目も溶接してから、人外の上からどいた。
同時に、背後に佇む赤い人影を認識する。
赤い男――――アサシンのサーヴァント、レッドマン。
彼は犬溶接マンのサーヴァントであり、犬溶接マンは彼のマスターである。
二人のヒーローは向き合った。
「………………」
「………………」
無言。
表情一つ変えず、ただ向かい合う。
……まぁ、片方は溶接マスクに顔を隠し、表情をうかがうことはできないのだが。
とにかく、二人のヒーローは向かい合う。
二人の狂人は向かい合う。
二人は主従である。
だが、お互いにそれを正確に認識しているかは定かではない。
ともすれば、お互いにここで相手を悪と断じて殺しあう可能性すらある。
それほどまでに、二人は狂っている。
犬溶接マンは狂っている。
悪人に犬を溶接するという異形の戦型で犯罪都市を駆け抜けたこの男は、どうしようもなく狂っている。
そして、アサシンも狂っている。
彼の場合はもう少し単純だ。
彼の保有するスキル―――――『二重召喚:B』の存在を考えれば。
一部の英霊が保有する、複数のクラスの特性を同時に持って顕現するためのスキル。
つまるところ、彼はアサシンクラスで召喚されながら、バーサーカークラスの能力も内包していた。
その狂化のランクはそう高くないが、狂っている事には変わりない。
彼は怪獣を無慈悲に殺す、赤い殺戮者の側面を色濃く持って現界している。
彼の中で“怪獣”の定義はあまりに曖昧で……
……だからやはり、二人は向かい合っている。
次の瞬間には殺し合いが始まるかもしれないような淡々さで、向かい合っている。
どれほどそうしていただろう。
月の光が雲の切れ間から路地裏に差し込み……
「………………」
「………………」
…………二人の狂人は、静かに踵を返してその場を去った。
別々の方向に、である。
犬溶接マンは次の悪人を探しに行った。
アサシンは次の怪獣を探しに行った。
二人の狂人は、ヒーローである。
そして、管轄が違う。
だから二人はお互いに関与することなく、自分の獲物を探しに夜のスノーフィールドを彷徨う。
協調性とか、戦略とか、そういった考えは彼らの中にはなかった。
もしかすると犬溶接マンが窮地に陥れば、なんらかの繋がりや令呪によってアサシンが呼び出されることもあるかもしれない。
ただ、それでも――――――――二人の道は別の場所にある。
一人の狂人は、悪人に犬を溶接しようと思った。
一人の狂人は、怪獣に決闘を挑み退治しようと思った。
――――――――――――つまり、二人の狂人は聖杯戦争に参加した。
【CLASS】アサシン
【真名】レッドマン@レッドマン
【属性】中立・狂
【ステータス】
筋力A 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具B
【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
狂化:D
理性と引き換えに、筋力と敏捷のステータスをランクアップさせる。
アサシンは正気と善性と言語能力の大半を失っている。
【保有スキル】
神出鬼没:C
どこへでも現れ、敵と戦うスキル。
敵と戦うためであれば疑似的な瞬間移動が可能。
戦闘中でも使用可能だが、その場合は移動できる距離は極めて短くなる。
無辜の罪人:A
観測と信仰の偏りにより、アサシンは本来持つ超常の能力をほぼ失っている。
本来ならば40mはあったはずの身長は180cmに抑えられ、飛行能力、光線技、超耐久なども失われた。
反面、活動時間が短い、寒さに弱いなどの弱点も失われている。
現在のアサシンは超常の能力を持つ英雄ではなく、一介の殺戮者に過ぎない。
怪獣退治の専門家:A
怪獣に対する膨大な知識と戦闘経験からくる戦闘術。
怪物の類と戦う際に有利な補正がかかる他、戦闘続行、心眼(真)などのスキル効果を兼ねる。
組み技や打撃で相手を弱らせ、確実に大技を叩きこんでトドメを刺すことこそ、怪獣退治の基本である。
二重召喚:B
アサシンとバーサーカー、両方のクラス別スキルを獲得して現界する。
極一部のサーヴァントのみが持つ稀少特性。
【宝具】
『赤い殺戮劇場(レッド・ファイト)』
ランク:B 種別:結界宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:5人
アサシンの高らかな真名解放と共に顕現する、殺戮空間。
この空間ではどんな存在であれ「退治される怪獣」に堕し、交戦を余儀なくされる。
敵対者に怪獣属性を付与し、それによって対象が持つ神性や聖性に由来する能力を停止・劣化させる。
この空間で頼りになるのは人としての技術、純粋な身体能力、そして怪物性に由来する能力のみ。
いわゆる固有結界に分類される宝具であり、維持可能な時間は極めて短い。
例えどんな背景や人格を持つ怪獣であっても、一切の容赦なく殺戮してきた赤い殺戮者のための独壇場。
『赤い殺戮映像(フィルムスタート)』
ランク:D 種別:対衆宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
アサシンが過去に行った戦闘を、レンジ内の人間に「夢」という形で見せる対衆宝具。
これによって時間の経過ごとにアサシンの恐怖が周知されていき、アサシンへの信仰が高まっていく。
高まった信仰は魔力となってアサシンに還元され、活動を補佐する。
また、戦闘時は対峙した者にこの映像をフラッシュバックさせ、「恐怖」のバッドステータスを与える。
基本的に映像は生前の戦いが流されるが、現界後に行われた戦闘を流すことも可能。
【weapon】
『レッドナイフ』
切れ味鋭い大ぶりのナイフ。
多数保有しており、投擲に用いることもあれば、二本同時に構えることもある。
『レッドアロー』
十字架の意匠を持つ槍。
アローと名前がついているがどう見ても槍。恐らく厳密には投げ槍。
手に持っての刺突はもちろん、投擲による攻撃にも用いる。
基本使い捨てだが、定期的に補充される。
【人物背景】
赤いアイツ。赤い通り魔。
宇宙の過去一万年間のあらゆる怪獣関連事件と怪獣名を暗記している、怪獣退治の専門家。
本来は平和を愛する心優しい青年で、黙々と怪獣と戦い続けたのだが……
……その戦闘の残虐ぶりに、見るものから「通り魔」「サイコパス」「スナッフムービーにしか見えない」と恐れられた。
アサシン・バーサーカークラスとして現界した時、レッドマンはその「赤い通り魔」としての側面を持って召喚される。
さらに今回は二重召喚によってその二つのクラスが重ね合わさっているため、より無慈悲な殺戮者としての側面が強調された。
その残虐性・異常性は枚挙に暇がなく、
・突如として怪獣(何もしていない)の前に現れて攻撃を開始する。
・逃げまどう怪獣を追い回し、執拗に攻撃を加える。
・マウントポジションを取り、執拗にレッドアローによる刺突を繰り返す。
・既に倒した相手の肉体にレッドアローを墓標の如く突き刺す。
・きちんと倒せているか入念に確認し、確認が完了すれば天高く腕を掲げる謎のポーズをとる。
・倒した相手を崖下に投げ捨てる。
・本来は「優しい」「善良」とされる怪獣であっても容赦なく攻撃する。
・顔面を地面に何度も叩きつけ、頚椎を圧し折る。
・執拗に顔面・口腔を攻撃する。
など。
恐るべき「怪獣退治の専門家」としてその名を馳せた。
ちなみにいわゆる宇宙人。レッド星雲のレッド星の出身らしい。
【サーヴァントとしての願い】
怪獣を全て退治する(※)。
※狂化の影響下にあるアサシンにとって、怪獣の定義はひどく曖昧なものである。
【マスター】
犬溶接マン(ドッグ・ウェルダー)@HITMAN
【能力・技能】
手にしたアーク切断機を用い、敵に犬の死体を(原型をとどめたまま)溶接することができる。
……意味がわからない事象だが、おそらく『そういう能力』なので仕方ない。
敵に犬の死体を溶接することが犬溶接マンの保有する唯一絶対の攻撃方法である。
当然だが、アーク切断機で顔面を熱された段階で大抵の敵は死ぬ。
【weapon】
『アーク切断機』
アーク放電によって発生した熱を利用して対象物を溶融切断する道具。
……あくまで「切断機」であり、溶接棒などもないのにこれで溶接を行うのは本来不可能である。
当然だが、人体に向けていいものではない。死ぬ。
『犬の死体』
犬溶接マンが悪人に溶接する犬の死体。目が×マークになっててキュート。
当然だが死体は使い捨てであり、犬溶接マンは野良犬を罠にかけて殺害・捕獲してこれを補充している。
動物愛護団体にバレたら訴訟不可避。そもそもそういう問題でもないが。
ちなみにただの犬の死体なので、これを溶接することによってなにかの効果を発揮することは一切ない。
『溶接マスク』
本体。
……冗談ではなく、どうも呪いのマスクの類のようで、着用者を乗っ取って犬溶接マンにする効果を持つ模様。
この犬溶接マンがこの呪いによって乗っ取られた存在なのか、あるいは彼の怨念(?)がマスクに宿っているのかは不明。
いずれにせよ、もしも彼の死後にこの溶接マスクを被ってしまえば、第二の『犬溶接マン』が誕生する危険性が高い。
【人物背景】
ゴッサムシティで活動するヒーロー。
溶接工姿でアーク切断機と犬の死体を手に、ゴッサムの悪と戦う。
ヒーローである。大事なことなので二回言った。分類でいえばヴィジランテ。
世界有数の犯罪都市ゴッサムシティを拠点とするヒーローチーム、『セクション8』の一員。
一言も言葉を発することなく、ただ黙々と悪人の顔面に犬を溶接する正義のヒーロー。ヒーローなんだってば。
明らかに正気ではなく、個人の判別ができているかも怪しい。
が、一応リーダーの命令に従う程度の理性はある模様。
敵と見ればマフィアでも悪魔でも、かのスーパーマンと互角に渡り合った宇宙の賞金稼ぎでも容赦なく犬を溶接する。
【令呪の形・位置】
溶接マスクの右上部分に『R』で三角。
なぜ肉体でなくマスクに令呪が浮かんでいるのかはよくわからない。
【聖杯にかける願い】
不明。
そもそも聖杯戦争をちゃんと認識できているのかも不明。
【方針】
悪人に犬を溶接する。
【基本戦術、方針、運用法】
アサシンは怪獣にレッドファイトを挑む。
犬溶接マンは悪人に犬を溶接する。
以上。協調性や戦略は存在しない。交渉の余地はあるかもしれない。あるといいな。
最終更新:2016年12月28日 01:51