アカネと不愉快な魔法使い ◆Jnb5qDKD06



 茜は駆ける。不破茜は駆け抜ける。魔法少女『アカネ』は駆けていく。
 道場を抜けた少女は次の瞬間別の姿に変身していた。
 剣道部の部活を途中で抜け出し、人気のないところで変身したアカネは建物から建物へ跳躍して寺へ向かう。
 魔法少女は一般人に見られたら困る。ならば見えない速度で駆け抜ければいい。
 幸いアカネは身体能力に恵まれていた。普通の人からはただの黒い影にしか見えないはずだ。
 駆け抜ける身体以上にアカネの脳内には一つの想いが駆け巡っていた。


 ────家族が前代未聞のイカサマをしようとしている。


                                                   多くの人の希望を踏みにじって。


 ────それを許すわけにはいかない。


                                                   それこそが責任であるのだから。


「いた!」

 寺には母と姉と妹がいた──魔法少女の。
 寺では女性限定の徒競走「花競争」が行われようとしていた。札を受け取り、一番最初に本堂へ札を納めた人の願いが叶うといわれ全国から人が集まるイベントである。

 駄目だ。あれは駄目だ。
 遠くから来た人。この日のために鍛えてきた人。大小長短含めて色々な思いがこの場にある。それを魔法少女の身体能力で踏み潰していいはずがない。

 母が好きだ。
 姉が好きだ。
 妹が好きだ。
 だからこそ、四人がそういった行動を取るのを見過ごすわけにはいかないのだ。

 四人の持つ札を切り落とすため鯉口を切り、札を目視し────それが白紙のトランプであることを認識した瞬間、世界が流転した。


       *       *       *


 まず感じたのは粘性。

 流動する水銀の蛇体が宇宙を構成し、その鱗の一つ一つが宇宙である。

 その水銀の蛇がゆっくりと鎌首をもたげ、口を開き、アカネを呑み込んだ。



 時空が歪む。



 時系列が捻じれる。



 未来から過去へ



 アカネが死んだ瞬間を見た。



 アカネが狂った姿を見た。



 アカネが壊れた原因を見た。



 アカネが戦う時間を見た。



 不破茜が魔法少女になる光景を見た。



 不破茜が生まれた日を知った。



「問おう、君が私のマスターかね」



 そしてその果てにサーヴァントがいた。


       *       *       *


 目が覚めた時、アカネは廃墟にいた。
 周りを見回すとどうやら自分は長椅子の上にいるらしい。
 身体を起こすと教壇と十字架があり、ここが教会であることを知った。
 火事でもあったのだろうか。教壇や長椅子には炭化しているものが多々あり、積もった埃は長年人が出入りしていないことを意味する。
 そして、教団の上、まるで司祭か教祖のごとくサーヴァントがそこにいた。加えてサーヴァントを認識したとき、アカネの中に聖杯戦争の知識が流れ込み状況を理解した。
 色々聞きたいことがあるが、まず聞くべきことは1つしかない。

「今のは……幻?」
「全て事実だよ。私と魔力のパスが繋がった時点でどうやら魔力が逆流し、君に過去の光景を見せてしまったようだ」
「あれが……過去?」
「君にとっては未来だがね。だが紛れもなく過去に起きたことであり、未来に必ず起きることだ」

 つまりはこれから先に起きることを見たということなのだろう。
 男の言うことは難しいが、何となく意味するところを体感したことで理解した。
 ならば、あの未来は────

「絶対に変えることはできないの」
「可能だとも。君にはその資格があり、それを為すための奇蹟がここにある。
 此処は偽りの聖杯戦争の戦場。他の敵を殲滅し、その魂を散華させ、聖杯に納めることで如何なる願いをも叶える魔術式が起動する。
 無論、最後には私を殺す必要があるがね」

 平然と自分を殺せという男の貌はせせら笑っていた。
 殺れるものなら殺ってみろという意味か。それともその前にアカネが敗北すると決めつけているのか。どちらにせよ無性に腹が立った。

「令呪で自害させろってこと?」
「いや、私の召喚は特殊でね。君が最後の一人になった時点で令呪を使い切れば自動的に消滅する故、何も問題はない。
 私のステータスは見えるかね」
「ええ、見えているよ『キャスター』」
「重畳。では、改めて問おう。君は聖杯を求めるのかね?
 流血を忌み、殺戮を嫌うその性情で。己が狂い、壊れた所業に再び手を染めると?」

「聖杯は欲しいけど、貴方の言うそれとは少し違う」
「ほう、如何に違うのかな」
「私は戦わない人を殺さない。逃げ出す人も」
「それでは聖杯戦争の勝利者にはなれぬよ」
「サーヴァントだけを倒せばいい。貴方にはそのための宝具がある」

 キャスターの宝具は敵を打ち負かすものでも天変地異を引き起こすものでもない。
 人を改造する宝具。人を人でなしにする宝具。

「私の宝具の効果を知ってそれを言っているならお嬢さん、君は覚悟があると見ていいかね。
 古今東西に雷名を打ち立てた英雄勇者。
 凄惨な殺戮、陰湿な魔道によって名が知れ渡った魔術師に殺人鬼。
 さらには人外の者、魔性の者、魔獣神獣……そういったものに”直接”相対する勇気があると?
 老婆心ながら忠告させてもらうとコレは遊びではないのだよ?」

 それは神の宣告か、あるいは責任を一切負わないぞという悪魔の誓約書か。
 味方であるはずのサーヴァントは酷薄な笑みを浮かべたままアカネに問う。
 だが、アカネの答えはあの未来の光景を見た瞬間に決まっていた。

「当たり前だ。私もアレを見て知っている。だから言える」
「何をかね?」
「私は諦めない。責任を果たすまで、勝つまで百万回でもやってみせる」

 その返答に英霊は笑みを深め、悪魔の契約をここに果たす。
 内容はアカネの更なる魔人化。代償はその後の運命全て。
 無論、クーリングオフなどあるわけない魔人への片道切符である。

「よろしい。君の覚悟を認め魔名を授けよう『復讐者(ニードヘグル)』
 今この時より我が宝具『芝居の幕開け、黎明の刻来たれり』(モルゲンデンメルング)は発動する」

 キャスターの右手がアカネの頭の上に置かれる。
 不意にアカネの全身に激痛と熱が走り、耳には鼓膜を破りそうなほど大きな耳鳴りがし始める。
 頭の中で火花が散り、胸に強烈な飢餓感が押し寄せてあまりの苦しさに胸を抑えた。

 組み替えられる。組み込まれる。生き変えさせられる。
 この日、アカネは魔法少女でも、人間でもない別の生き物へと変成したのだ。
 そして────数秒とも数時間とも数日とも数週間とも感じる苦痛の時を超えて


「さぁ、今宵の恐怖劇(グランギニョル)を始めよう」


 聖杯戦争は始まった。



【クラス】
キャスター

【真名】
水銀、メリクリウスなど

【属性】
混沌・悪

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A++ 幸運:C 宝具:E~A++

【クラススキル】
陣地作成:E+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
水銀の場合は会話しやすいように土地に結界を張る程度。それ以上のことはしないし、魔力消費の面からもできない。

道具作成:-
道具作成スキルは、宝具『芝居の幕開け、黎明の刻来たれり』によって失われている。

【保有スキル】
影法師:EX
自己保存とは似て非なるキャスターの固有スキル。
マスターが無事な限り如何なる手段をもってしてもキャスターを倒す術は存在しない。ただし、本人は全然戦わない。というよりできない。
彼自身はマスターの影であり、彼への攻撃は影を殴るのと同義でありそして同時に彼からも攻撃ができない。
マスターが死ぬ、もしくはマスターのみが残っている状態で令呪をすべて消費すると自動的に消滅する。

千里眼:???
 過去・未来・現在を見通す眼を持つ……らしい。

奇蹟:A+++
 時に不可能を可能とするスキル。
 「星の開拓者」に近しいスキルであるが、適用される事物が異なる。

【宝具】
『芝居の幕開け、黎明の刻来たれり』(モルゲンデンメルング)
 ランク:E~A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:一人
 マスターに魔名を授け、霊基や魔力のパスをを弄り、魂を燃料として戦う外法を授ける。
 この対象となったマスターは令呪で自身の強化を行うことができる。
 早い話が人間の英霊化であるが、英霊と異なり魂を食らう際は殺さなくてはならない。
 また人を殺して強くなるかはマスター次第。ただキャスターはその行く末を眺めるのみ。

【weapon】
なし。強いて言えば舌

【人物背景】
Dies iraeより多分螢ルートだけやれば把握できる人。
放浪者(アハスヴェール)と呼ばれる古代からの放浪者。
サン・ジェルマン、パラケルスス、トリスメギストス、カリオストロ、カール・エルンスト・クラフトと数多の名前で呼ばれた最悪の詐欺師であり魔術師。
時に世を乱し、時に何かを試しながら未知を求めたという。

その正体は■■であり、サーヴァントは現身どころか切れ端の一部程度のスペックにすぎない。
またこの本体はセファールの白い巨人や神霊の分霊化とは異なり現世に召喚もしくは直接的な影響を及ぼせない。


【サーヴァントとしての願い】
聖杯にかける願いはない。しいて言えば未知を見せてほしい。


【マスター】
アカネ@魔法少女育成計画episodes

【マスターとしての願い】
”あの試験”で家族が死なない結果を作る

【weapon】
魔法の刀:
 太刀一振り、脇差二振り

【能力・技能】
『見えているものならなんでも斬れるよ』
 刀を振れば視界内の任意の座標に同時に斬撃を発生させる魔法 。
 遠近法によっては遥かに巨大なものも切断し、斬撃は硬度を無視して斬る。

エイヴィヒカイト:
 キャスターより授けられた魔道。一言でいうと超人化であり、聖杯戦争ではマスターの英霊化という形で具現している。
 霊基的にも性能的にも英霊と戦うことができる。また殺して魂を吸うほど強くなる。
 初期パラメーターは以下の通り

筋力:B 耐久:D 敏捷:C 魔力:E 幸運:D
 対魔力:E、心眼(真):C、戦闘続行:E++


【人物背景】
 魔法少女育成計画episodesより試験前のアカネ。
 責任感が強く、行動する人がいなければ積極的に自ら行動を行う委員長タイプ。
 剣道の全国大会準優勝の腕前。少しでも強さがほしくて魔法少女になったものの「あ、これ強すぎ」ということで自重した。
 勝負事に燃え上がり、熱くなりやすいため文字通りの猪武者になる可能性が極めて高い。


 水銀と契約したことにより彼女は時系列を無視して自らの未来を知ってしまった。同時に己の成れの果て、無残な最期さえも。
 しかしながら彼女はまだ絶望を知らないため諦めない──それこそが今、ここで聖杯を獲得できる機会を得た責任なのだから。


【方針】
 戦わない者、敗北した者、逃げ出した者は追わないし止めも刺さない。
 ただ敵対する者には容赦しない。

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最終更新:2017年01月27日 02:21