思考と変換◆DpgFZhamPE
肉を焼いた薫りが辺りを漂う。
鳥を丸々オーブンの高温で炙り、旨味を閉じ込めた薫りが鼻腔を満たす。
食塩、胡椒でシンプルに味付けされたそれは焦げ模様でさえ食欲をそそる。
ナイフが皮の表面を切る度にパリパリと小気味の良い音を立て、閉じ込められた肉汁と旨味が音を立て流れ出す。
フォークを突き刺し、試しに一口。
口に運んでみると、無駄に手を加えてないが故に、肉の旨味が引き立てられている。
鳥の柔らかく優しい舌触りに、パリパリとした皮が食感にまたアクセントを加える。
ただ塩と胡椒を振りかけただけではこうも香ばしい味わいは出まい。
入念に準備された、職人の業だ。
―――美味い。
今まで食したローストチキンの中でも、一二を争うだろう。
食というものは奥深い。
良いものを食べれば食べるだけ見識が深まり、自然と笑みが溢れる。
テーブルに並べられたものは、殆どが肉類だ。
ステーキにローストビーフ。
ハンバーグにウインナーの炙り。
箸休めにサンドイッチも用意してある。
試しにサンドイッチを一つ掴んでみると、パンの柔らかさに驚かされた。
ふにふにと指で押すごとにパンの中に指先が沈み、挟まれたレタスの感触が伝わる。
口に運ばなくともシャキシャキとしたレタスの歯応えが伝わるようだ。
間に挟まれたのは……卵、だろうか。
食べることは得意だが、生憎と作る側には縁がなかったためよくわからない。
挟まれたハムとレタスを彩る黄の紋様が美しい。
一口かじると、肉汁で満たされた口内を一新するかのように、爽やかな感触が素敵だ。
肉の油に口が馴れていた為、たまにはこういった食物も良いものだ。
そしてまた肉を口に運ぶ。
口内の肉の油がサンドイッチでリセットされた為か、また一から肉の味わいを楽しめる。
「それ、あまりがっつくと喉に詰まらせるぞ。肉は逃げない、落ち着いて食べると良い」
まるで中世の騎士のような風貌をした少女が告げる。
剣の英霊、セイバーである。
ナイフとフォークを巧みに扱うその姿は、育ちの良さを思わせる。
そして、話しかけられた少女―――継ぎ接ぎのドレスを纏った乙女は、素手で肉を掴むのを止め、顔色を伺うようにセイバーを見る。
するとセイバーは微笑み、
「何、食べるなと言っている訳ではない。こんなにも沢山あるのだ。
二人でこの食事を楽しもう」
まるで、親に褒められた子供のように。
ぱあっと華開いた少女の笑顔は、とても眩しい。
その顔を見ていると、セイバーも微笑ましくなる。
やがて食事は進み、テーブルを彩っていた食事は綺麗さっぱり二人の胃袋へと導かれた。
グラスに注がれたワインで口内を充たす。
食後のデザートのようなものだ。
この身体にアルコールは作用しないが、それでも味は感じ取れる。
「いやはや、早急にこのようなモノを食せるとは思わなかった。
これは紛うこと無き一流の腕だろう。誇って良いぞ」
手元に用意されたペーパーナプキンで口元を拭う。
すると、向かいに座っていた少女も、満腹感を得て幸せなのかにまにまと笑っている。
口元に付けた食事の跡も相まって、大層と可愛らしい。
「口元が汚れているぞ」
ペーパーナプキンで少女の口元を拭いてやる。
セイバーにされるがままに吹かれている少女はまるでペットのよう。
綺麗になった、と頭を撫でてやると少女は気持ち良さそうに目を細めた。
「こ、これで良いですか…?」
部屋の隅。
まるで少年のように、大の大人が縮こまっている。
その身体はガタガタと震え、顔は冷や汗で濡れ、みっともないことこの上ない。
その瞳は恐怖の一色で染まっている。
「ふむ。此度の料理もまた美味だった。
何より我輩とソニアの口に合った。十分に賛辞に値する腕前だ。
褒美を与えよう」
一瞥すらせず。
男に瞳を向けることすらなく、セイバーはそう告げる。
ソニアと呼ばれた少女もまた、男のことは眼中にない。
ソニアの瞳の中には、セイバーしか映っていない。
「じゃ、じゃあ―――」
助けてくれるのか、と。
男が続けようとした言葉は、紡がれることはなかった。
一閃。
目で追うことすら不可能。
反応するなど以ての外。
避けることなど、到底敵わない。
ごとん、と。
サッカーボールほどの頭蓋が、地面に落ちる。
その表情は、己の首が落とされたことにすら気づいていない。
「疾く消えよ。それが褒美である」
血液が飛び散る前に。
ソニアが手を伸ばす。
頸動脈から溢れた血液は、ソニアの掌に触れた瞬間―――黒いクズと化し、残った肉体すら消える。
「さすがはソニア。仕事が速いな」
男は、アサシンと呼ばれたサーヴァントのマスターであった。
しかし、所詮は暗殺者。
マスター殺ししか脳のないサーヴァントなど、セイバーの前では取るに足らぬ塵以下である。
一刀の元に斬り伏せ、残るはマスターの男だけだった。
しかしみっともなく命だけはと乞うたので、貴様の価値を見せてみよと告げたところ、料理人だと言うので腹ごしらえに使ったまで。
この部屋も、その男の自室だ。
今後の為に生かしておくという手もあったが、食物などこの御時世何処でも確保できる。
部屋の端で喚かれる方が喧しいため、首を落としておいた。
雉も鳴かずば撃たれまい、とは何処の国の言葉だったか。
「殺す必要、あったんですか」
すると。
背後から、声が聞こえた。
「あの人はサーヴァントももういなかった!殺す必要、なかったじゃないですか!」
声を荒げている。
女の声だ。
語気が荒ぶると同時に、長い髪が乱れる。
「こんな簡単に、人を殺すなんて……!」
光夏海。
それが、この女の名だった。
セイバーからすれば、最初に名前を聞いただけで、自分でもよく覚えていたものだと感心する。
「これ以上、殺すのは―――」
「―――四度目」
「……え?」
突如放たれたセイバーの言葉は、夏海の言葉を断ち切る。
答えが返ってくるなど思っていなかったため、素っ頓狂な声をあげる。
返された言葉は、酷く冷ややかで。
刃そのものだと勘違いするほどに、冷たかった。
「お前がマスターでなければ、この刃で首を落としていた回数だ」
差し出された手は、四本の指を立たせ、『四』という数字を強調させている。
「お前は大人しく魔力のみを提供しておれば良い。
何、外を出歩く自由ぐらいはくれてやる。
魔力源として必要な限りは守ってやる。
奴隷としては破格の待遇であろう?」
その言葉は、有無を言わせぬ迫力があった。
これは、殺気、か。
空気自体が凍ったような錯覚を覚える。
肺に流れる空気が、針のように尖っている感覚が襲う。
何も言い返せなかった。
バンっ!と。
扉を叩きつけるように開き、夏海は外に飛び出ていく。
セイバーは止めもせず、目すら向けない。
「全く、食事の後の余韻さえ味わさせてくれぬとは、騒がしいマスターだ」
ソニアは、首を傾げセイバーを見る。
あの奴隷のことだ、気にするなと再び頭を撫でてやると気持ち良さそうに、目を細めた。
その姿がとても愛らしくセイバーはまた微笑む。
「このようなつまらぬ些事に我輩が繰り出されたのも遺憾だったが―――ソニアとまた会えたのは、僥倖だな」
セイバー。
剣の英霊、中世の騎士。
魔法少女『プキン』は、そう告げた。
○ ○
町の中を、ずんずんと進んでいく。
その顔は怒りと、少しの恐怖が現れている。
(あんなの酷いです、あんまりです……!!)
サーヴァントという存在を使った戦争。
聖杯を求める戦争というのはわかった。
だが、無駄に命を奪うのは許されることではない。
夏海としても、それだけは譲る気はなかった。
いざというときは、令呪―――この刻まれた絶対命令権で従わせることも吝かではない。
だが。
だが、しかし。
(……無理です)
セイバーの目が届く距離で令呪を使っても、命令を告げる前に首を落とされるだろう。
かと言って、近くにいなければ凶行を止めることもできない。
『将軍でも閣下でも好きに呼ぶが良い』と初対面時に告げられた時は、意外といい人なのかな、と思ったがそんなことはなかった。
まるで、抜き身の剣だ。
不用意に触れれば切り裂かれ。
あの少女―――ソニアという鞘がなければ、あらゆるモノを殺し尽くすだろう。
(此処には、士くんもいない。
ユウスケもいない。
私が、私がなんとかしなきゃ)
大した力も持っていない。
変身もできない。
士たちを待っていることしかできない。
だが、それでも。
此処には自分しかいないのだ。
ならば、自分がやらねばならない。
セイバーを止める。
凶行を止める。
彼女は、スノーフィールドの地にて、決意を固めた。
【出展】魔法少女育成計画limited
【CLASS】セイバー
【真名】プキン
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力B 耐久B 俊敏A++ 魔力C 幸運D 宝具C
【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
魔法少女(旧式):C
清く正しく、人のため世のためにその魔法を使う、少女達の憧れ。
その旧式。
人体を遥かに超えた能力を持つが魔力とは別に、食物を必要とする。
しかし、数々の拷問・冤罪が発覚し監獄に捕らえられた彼女はランクが下がっている。
拷問技術:B
卓越した拷問技術。拷問器具を使ったダメージにプラス補正がかかる。
彼女の場合、剣を利用したため剣に関してのダメージプラス。
将軍の鑑識:A
人間観察の技術。
細かな表情、動き、目線などから相手の自覚していない心すら見極める。
悪辣な教育:A
―――『悪いことをするとプキンとソニアがくるよ』。
ある地方にて、残虐を極めた二人の言い伝えが伝承として残り、言うことを聞かない子供を叱る際に使われた言葉。
その言葉を聞いた子供は恐れ、泣き、親の言うことを聞いたという。
プキンの周囲1kmに対する探査能力。
世間から見て『悪いこと』を行っている人間への自動探知能力。
生前所持していない能力だが、後世の伝承により獲得した。
【宝具】
『添い遂げよ継ぎ接ぎ乙女(マジカル・フォー・ソニア)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:0
『降れたものをボロボロにする』魔法を持つ少女の召喚。
常時発動宝具であり、サーヴァント『ソニア』を召喚する。
プキンの在るところソニア在り、ソニア在るところプキン在り。
プキンにはソニアが必要であり、ソニアにはプキンが必要なのだ。
存在そのものが彼女の精神を安定させる要因であり―――彼女が消失すれば、プキンを支える支柱は消え、プキンに狂化:E相当のスキルを与える。
サーヴァントと同じであるため、霊核を破壊されれば消失する。
『将軍振るいし思考変換(シンキング・チェンジ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:2 最大補足:2
彼女の持つレイピアで傷つけた相手の『考え』を改竄する。
同士討ちや幻覚を見せ付けるなど、大抵の事は何でも出来る恐るべき能力。
かつてはこの能力で相手にデタラメな罪状をやったと認識させ冤罪にしてきた。
更に能力の対象には自分も指定可能。
自分に能力を掛けてダメージを誤魔化し、頭部を半分吹き飛ばされても胴体を切断されても無理やり戦える状態に持っていくという荒業を披露している。
しかし、能力の対象は1人のみ。
別の人物に能力を発動すると、直前まで能力に掛かっていた人物は効果が切れて認識は正常に戻る。
【人物背景】
百三十余年前に優秀な監査役として数々の魔法犯罪者を取り締まり「将軍」と讃えられていたが、余興のためだけに自身の魔法により多数の冤罪を生み出した事が後に判明し魔法刑務所内で封印刑に処され、以後も「汚れ仕事」がある毎に封印解除されては駆り出され、解決したら再び封印される人生を送っていた。
ピティ・フレデリカの手により封印を解除され脱獄、彼女との取引で行動を共にする。
今の技術が確立する前の旧型の魔法少女であり、現行の魔法少女違い食事が必要で大食漢。
残虐でドSな性格。
残酷な拷問が趣味というとんでもない趣向の持ち主で、多数の冤罪も全て趣味として行ってきたものだった。相手を痛めつけるのが大好きで、特に妖精を拷問に掛けるのが一番楽しかったという。
男装の麗人のような中性的で貴族風味な喋り方をする。
一人称は「我輩」。活躍した時代と場所からか教養が高く、立ち振る舞いも気品が感じられる。
また、敵であっても尊敬するに値すると感じた相手には敬意を表する騎士道精神も持つ。
しかし礼を知らぬ相手には特に言葉をかけることもなく首を落とすなど、残虐。
借りは必ず返す。
旅の途中で出会い見出したソニア・ビーンの事を非常に大切に思っている。
本来は英語しか喋られないが、召喚に辺り知識を与えられているため他の言葉も話すことができる。
【サーヴァントとしての願い】
ソニアと共に現世に甦るのも良い。
とりあえず、この場を好きに生きる。
【出展】
仮面ライダーディケイド
【マスター】
光夏海
【参戦方法】
写真館にトランプが紛れ込んでいた模様。
【人物背景】
光写真館で受付係をしている女性。
20歳。一人称は「私」。「夏海の世界」出身。誰に対しても敬語で話し、他人の首筋にある「笑いのツボ」を押すことで相手を否応無しに大笑いさせる光家秘伝の特技を持つ。
士からは「ナツミカン」とも呼ばれる。
大勢の仮面ライダーがディケイドに倒される夢をよく見ており、士が変身したディケイドにも警戒心を抱いていた。
士が世界を旅する様告げられたことを知り、前述の夢に対する不安からその旅に同行する。
度々鳴滝から接触を受けディケイドの危険性を訴えられているが、自身は士の優しさを信じており、あらゆる世界から迫害を受ける士の「帰る場所」になりたいと願う様になる。
少なくとも最終回以前より参戦。
【weapon】
なし
【能力・技能】
他人の首筋を押すことで笑いを止まらなくさせる。
【マスターとしての願い】
ない―――が、その前にセイバーを止めなければと思う。
【方針】
セイバーを止めたい。
最終更新:2017年01月07日 00:34