怪物親子 ◆cjEEG5KiDY
しゃきん。
しゃきん。
しゃきん。
金属同士が滑らかに擦り合う音が、殆ど明かりのない空間に響き渡る。
息を切らせて女が走る。
脇目もふらず、どこへ向かっているのかも分からず、ただがむしゃらに軋む廊下を駆けていく。
恐怖と混乱が渦を巻く頭の中で、"なぜ、どうして"を繰り返す。
聖杯戦争のマスターとして覚醒した彼女はトランプから呼び出されたセイバーを伴い、一人の女性を追っていた。
スノーフィールドに拠点を置く、環境保護団体エーテル財団の代表・ルザミーネ。
ひょんな事からルザミーネが聖杯戦争の参加者である可能性を見つけた彼女による調査の結果、この街で起きた何件かの失踪事件に彼女が関わった痕跡があった。
ルザミーネが危険人物であると当たりをつけた彼女は、市街地から離れた廃ビルへとルザミーネが単身で向かった事を使い魔から伝えられるとセイバーを伴い接触する為に後を追い、ルザミーネが入ったという廃ビルに潜入したのだ。
それがルザミーネの仕掛けた罠であることに気付けていれば、今のような事態には陥る事はなかったろう。
廃ビルに潜入し、ルザミーネがどこにいるかを探している最中に建物が鳴動した。
何事かと周囲を見回し、彼女は目を見張る。
廃ビルの内装が別の物に侵食されていく。
コンクリートの壁が木目に。
床にはいつの間にか絨毯がしかれ、殺風景だった空間には高級そうな調度品の数々が姿を現す。
異変を察知したセイバーが直ちに実体化し、彼女の横に並び立つ。その顔には隠しようのない緊張が浮かんでいた。
部屋を出る為に扉を開けると、そこはビルではなく洋館を連想させる廊下が広がっている。
固有結界、あるいはそれに類するものか。何にしろ彼女はルザミーネのサーヴァントの城へとまんまと誘い込まれてしまった事を自覚せざるを得なかった。
手段は検討もつかないが一刻も早くこの建物から逃げ出さねばならない。
そう判断し、廊下へと踏み出そうとした彼女の背を衝撃が襲い、不意を突かれまともな反応をとることも出来ずに廊下へと倒れこむ。
何が起こったのか、後ろにいたのはセイバーだけ。ならばセイバーが自身を突き飛ばしたのか。
事態を把握する為に起き上がりながら振り返り、彼女は息を呑んだ。
そこにいたのは突き飛ばした体勢のままのセイバーの姿。そして、その胸の中心から突き出た鋭く尖った金属の板。それは剣ではなく、閉じた鋏の形をしていた。
霊核を貫いたであろう刃がセイバーの体に沈む。正確に言えば、背後からセイバーの体へこの鋏を突き刺した主によって引き抜かれていく。
口と胸から血を溢れさせながら倒れるセイバーの背後に一つの影。
少年、そう呼んで差し障りのない背格好の男は赤く塗れる巨大な鋏を両手で持ちながら立っていた。
木乃伊の様な顔を喜悦に歪ませながら少年、彼女の視界を通して得られたクラス名・アサシンのサーヴァントはしゃきんしゃきんと鋏を擦り合わせる。
視線が重なり悪意に満ちた眼差しが彼女を捉え、咄嗟に彼女は指先からガンドを放つがいとも容易く避けられた。
無駄な抵抗をあざ笑うかの様に奇声をあげ、アサシンは一歩一歩、彼女ににじり寄ってくる。
すぐに殺せるというのに嗜虐に満ちた笑顔を浮かべる様は、アサシンが哀れな獲物をいたぶる魂胆であることを証明していた。
だからこそ、アサシンは文字通り足元を掬われる事となったのであろう。
彼女にだけ注視をしていたアサシンの右足に不意に手が伸びた。
手の主はセイバー、戦闘続行スキルにより彼はまだ死んではいなかったのだ。
バランスを崩し床へ強かに体を打ち付けたアサシンの胴体に、倒れたままの体勢でセイバーは空いた手に持った自身の剣を深々と突き刺す。アサシンの絶叫が響き、その身体から血が流れ出る。
セイバー、と口にする彼女に対し、セイバーは力なくほほ笑んだ。その身からは黄金の粒子が散り始めている。最早助からない事は明白だった。
ここから離れろ、ルザミーネを見つけろとセイバーは告げて塵と消える。アサシンが倒れ、この空間が元に戻ったとしてもルザミーネが脱落する訳ではない。
この危険なサーヴァントを使役していたルザミーネを仕留める事でこの一連の戦いは本当の意味で集結する。それを理解した彼女は駆けだした。
一刻も早くルザミーネを見つけなければならない、セイバーの犠牲を無駄にしてはならないのだと。
そうして走り始めて数分、彼女は異変に気付く。
今いる場所は変異した洋館の中、元いた廃ビルに戻る気配は一向にない。
それはおかしな事だ。
アサシンはセイバーによって倒された。胴体を串刺しにされたのであれば、セイバーの様に戦闘続行スキルを持っていたとしても長くはないだろう。で、あるならばこの洋館は消失し元の廃ビルに戻らなければならない筈なのだ。
で、あるならば。彼女の脳裏に最悪の状況が想起され、それを振り払おうとしたその時。
しゃきん、と鳴り響いた金属音が、彼女の想起したものが真であることを証明した。
それから彼女は逃げ続けている。
何故死んでいないのかという疑問も今は彼方。恐怖に心を折られた彼女はただひたすらに逃げまどい、そして今、一つの納屋に辿り着いた。
その目に映ったのは一台の車とその車の鍵らしき物体。
車があるということは板で塞がれた出入り口の先は外に続いているのだろう。
車に乗って逃げる事が出来れば、走って逃げるよりも助かる確率は上がるかもしれない。
混乱と恐怖に呑まれた頭はより速く、より遠くへ逃げる事が出来るであろう可能性を選択していく。
鍵を取り、車の扉に差し込む。
ガチャリという音と共に車の鍵が開く音。
これで逃げられるという喜びで彼女の心音が高まっていく。
車に乗り込み運転席へと座り、鍵を差し込んだ。
バックミラーを見上げる。後ろに人影はない。
早く、早く、とエンジンをかけようと鍵を回す手がぴたりと止まった。
視界がバックミラーに映る光景に固定される。
誰もいなかった筈の後部座席から、ぬっと、鈍く光りを放つ金属が姿を現した。
左右に大きく開かれた金属が徐々に交差していき、しゃきん、と音を鳴らす。
甲高い笑い声と共に後部座席から姿を現した鉄鋏が何度も何度も刃を交差させる。
車内に絶叫が響き渡った。
しゃきん。
しゃきん。
しゃきしゃきしゃしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃししゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃきしゃき。
じゃきん。
◇
古びた洋館から元いた廃ビルへと戻っていくのを、ルザミーネは黙って見上げていた。
体力の消耗もなくなっている。つまり、彼女のサーヴァントであるアサシンの狩りが終わったという事だった。
万が一の護身として出していた彼女の使い魔――ポケットモンスター、縮めてポケモン――のピクシーを手に持っていたボールに戻して一息をつく。
ほどなくして、哀れな犠牲者を血祭りにあげたアサシンが帰ってきた。
「おかえりなさい、アサシン」
異形としか呼べないおぞましい姿をした子供に対し、ルザミーネは愛する家族に向けるような暖かな笑顔を持って接する。
ルザミーネにとって、対象の美醜などというものは評価点として下位に位置するものだ。
重要なのは、自分の命令を忠実に聞く都合のいい存在であるかどうか。
その点、アサシンは時折やり過ぎるきらいはあるとはいえ、目的の為なら容赦も油断もなく、忠実に与えられた指示を遂行する理想的な駒だと言えた。
自分に忠実であればあるほど、有能であればあるほど、ルザミーネは惜しみなく愛情を注ぎ込む。
彼女の近辺をかぎ回るマスターらしき人物にルザミーネはとうに気づいていた。
だからこそ、そのマスターをアサシンが宝具を展開した建物の中に誘き寄せ、サーヴァント諸ともに始末する策に出たのだ。
アサシンは宝具の中であれば特定の条件を満たさない限り不死身の怪物であり、負ける要素は殆どないといっていいだろう。
死骸はアサシンの宝具によって作られた洋館へと丸ごと飲み込まれ、魂食いの要領で魔力として補填されている。
単なる失踪事件として扱われるのであれば、聖杯戦争の期間中に捜査の腕が伸びることもそうそうないだろう。
無論、その為の鼻薬もルザミーネは充分に嗅がせていた。財団の代表という元の世界と同様のロールはこういう事に役に立つ。
自身の身長の半分はあろうかという大鋏を手に、キャッキャッと嬉しそうに跳ねるアサシンを見て満足そうに目を細めながら、ルザミーネは建物の出口へと歩を進め始める。
聖杯、万能の願望器。
それさえあれば、親不孝者に連れられて逃げ出したアレを捕らえずとも、彼女の目的を達成する事ができる。
ウルトラビースト。異なる次元に住まう異質のモンスター。
ルザミーネが一心に愛を注ぐ彼らを一刻も早くアローラに、本来の彼女の世界に呼び出さなければならない。
例えそれが、何者かに植え付けられ、ねじ曲がり暴走した意思だったとしても、それが今の彼女の全てである事は変わらない。
ルザミーネの顔に酷薄な笑みが刻まれる。
カツカツと歩いていくルザミーネをアサシンは黙って見つめていた。
アサシン、シザーマンの瞳に宿る剣呑な光が、マスターである彼女にも向けられている事を彼女は夢にも思っていないだろう。
アサシンには大それた望みなど存在しない。
あるのはただ、手当たり次第に残酷に、凄惨に殺して回りたいという嗜虐的な欲望だけだ。
マスターに忠実であることは、単にそうしなければ現界して欲望を満たすことが出来ないことを理解しているだけに過ぎない。
令呪がなければ、マスターに頼らずとも現界する手段さえ確保できれば。
アサシンの象徴たる禍々しい光を放つ太刀鋏は一切の躊躇も慈悲もなく、自分を縛るルザミーネへと向けられるだろう。
忠犬の皮を被りながら、アサシンはただ時を待つ。
暗い望みを胸に秘め、アサシンは霊体へと姿を変えていく。
ルザミーネは気づかない。
あの時も、そして今回も。
彼女にとっての一番の障害は、彼女の最も身近にいるのだという事を。
【クラス】
アサシン
【真名】
シザーマン(ボビィ・バロウズ)@クロックタワー
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力:D 耐久:EX 敏捷:C 魔力:B 幸運:C 宝具:B
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
【保有スキル】
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
邪神の加護:A
邪神の加護を受けた信徒の証。
同ランクの精神汚染と加虐体質、戦闘続行スキルを得る。
偉大なる父と呼ばれる邪神の使徒として産み落とされたアサシンは高ランクの加護を得ている。この邪神の信徒は凶暴な性質となり、高い不死性を得る。
拷問技術:B
卓越した拷問技術。
拷問全般のダメージにプラス補正がかかる。アサシンの場合は鋏を用いた攻撃に対してこのスキルの効果が適用される。
【宝具】
『時刻まぬ惨劇の館(クロックタワー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:最低1(宝具発動時の建物の規模に依存) 最大捕捉:最低1(宝具発動中の建物内であれば制限なし)
アサシンのいる建物を外観をそのままに内部だけを彼の生家であり、彼が惨劇を繰り広げ続けたバロウズ邸へと置き換える。
バロウズ邸と化した建物の中ではアサシンは不死身の存在となり、建物内限定でいかなる場所へも物理法則を無視して移動が可能。
無敵のクリーチャーと化すアサシンだが、宝具発動と同時に建物のどこかから必ず繋がっている時計塔の時計を起動されるとアサシンは止まっていた時が動きだし衰弱死する。
なお、バロウズ邸内に惨劇に荷担したアサシンの親族は召喚されない。
【weapon】
太刀鋏
【人物背景】
代々邪神を信仰していたノルウェーの貴族、バロウズ家の次男。
偉大なる父と呼ばれる邪神の使途として生まれた異形の者。
本来であれば器官の未発達によって3日と持たない命であったが、母親がバロウズ邸の時計塔を止めて彼の時の流れを止める事で9年もの歳月を生きながらえてきた。
正確は残虐かつ狡猾で、人間や動物を殺す事を好む。
母親が連れてきた孤児の少女達を殺害しようとするが最後の一人だけは抵抗にあい失敗。
バロウズ邸の時計塔を起動された事によって彼の止まっていた時は再び流れ出し、苦しみに悶えながら時計塔から落下して死亡した。
【サーヴァントとしての願い】
思うままに手あたり次第殺して回りたい。マスターもその対象であり、単独現界さえ出来るようになれば不要とみて殺害する。
【マスター】ルザミーネ@ポケットモンスター サン/ムーン
【weapon】
使い魔として以下のポケモンを所持。(サーヴァント相手にはほぼ無力)
- ピクシー
- ドレディア
- ムウマージ
- ミロカロス
- キテルグマ
【能力・技能】
なし。
■■■■■の神経毒によって肉体の潜在能力が極限まで引き出されているため、身体能力は高いものと思われる
【人物背景】
ポケモン保護団体エーテル財団の代表を務める40代の女性。
母性に溢れた性格で人望に厚い一方でその母性が行き過ぎて独善的な面も多々見受けられる。
その裏に隠された素顔は極度に自己中心的で傲慢。思い通りにならなければすぐに癇癪を起す。
もっともこれは■■■■■に■■された結果である可能性があり、本性とは言えないのかもしれないが、この場に呼ばれた彼女は■■後であるためそれを語ったところでどうしようもない話である。
【マスターとしての願い】
ウルトラホールを自分の世界に開通させ、ウルトラビーストを呼び込む。
最終更新:2017年01月09日 18:29