ざらざらと。
小さな部屋にて、己の感情を整理する。
生きてる。生きてる。生きてる。
この場―――スノーフィールドの地は知らないが、だが、生きている。
それだけが、彼女にとっての真実だった。
「……生きてる」
己を自己暗示して、精神を整理する。
何故生きているのかはわからない。
何故この場にいるのかもわからない。
聖杯戦争という知識だけが、残っている。
殺し合い。
願いを叶えるための、殺戮戦争。
……それは、なんて、恐ろしい。
考えるだけで手が震える。
楽しい気持ちになど、なれるはずがない。
……でも。
でも。
自分は、チャンスを手に入れたのかもしれない。
窓を開け、部屋を飛び出し、夜の町を駆けていく。
目指す場所は、ただ一つ。
○ ●
「貴方、サーヴァントですよね」
槍の英霊、ランサーは初めてその時―――背骨が丸ごと冷凍保存されたような、脊髄を冷やされたような、感覚をを抱いた。
初めてだった。
このような感覚を抱いたことは、彼の栄光ある生涯として一度となかった。
その槍は魔物を倒し。
その両腕は、あらゆる存在を締め上げた。
その、己が。
身体深くまで刃物を入れられたような―――恐怖を感じている。
「そうだが、何か」
だが、しかし。
初めてだったが故に、彼はその感情の意味を理解し得なかった。
いつも通り、生前何度も行っていたように、名乗りを挙げた。
彼は、気づかない。
恐怖とは身体を守る重要なサインであり、彼は此処で背中を見せ不様に逃走すべきだった。
「そうですか」
だが。
槍を構えて、しまった。
「じゃあ―――」
「座に、帰って貰います」
白スーツの男。
眼帯に歯茎が露出したような覆面を装着した男は、そう語った。
見るからに恐ろしい風貌だ。
クラスはバーサーカーか。それともキャスターか。
何にせよ、三騎士の敵ではない―――そう判断した、瞬間。
眼帯の男の姿が、『消えた』。
「―――ッ!?」
槍を構える。
周囲に視界を巡らせる。
しかし、何もない。
『何処にもいない』。
眼帯の男は、一瞬にして視界から消え、気配を消したのだ。
「では」
「まずその槍、貰います」
背後から、声が聞こえた。
酷く落ち着いた、まるでティータイムにでも興じているかのような声。
反応は早かった。
振り返り、槍を振るう。
数々の魔物を殺した槍は、背後の眼帯を貫こうと―――
「Non non non」
しかし。
其処にいたのは―――眼帯では、なかった。
右腕に巻き付くような剣を肩から生やした異形。
顔の鼻から上を隠したマスク。
しかし何処か気品を感じさせる、その佇まい。
誰、と疑問を口に出す暇もない。
油断すれば押し切られてしまいそうなその男の筋力の前に、槍は止められた。
「貴様は―――」
「余所見していいのかい?
我らが『キング』の前で」
ふと、目の端に。
影が、映った。
剣の男を弾き、即座にそちらの方角へ反応する。
ランサーの反応は迅速だった。
何よりも素早く、その判断は歴戦の勘によるものだ。
戦士の勘というものは、ある状況下において専門家の分析というものより正しい。
それだけ積み重ねられてきた、命のやり取りを行ってきた上で鍛えられてきたもの故、一瞬の判断を求められる状況も多い。
しかし。
この時は、間違いだった。
背後には、兎がいた。
正確には、兎の仮面が。
「遅ェよ、槍野郎」
兎マスクの肩から、弾丸が掃射される。
弾くので精一杯だった。
この者たちは、身体の至るところから武器を生成する。
その異形さに、判断が遅れるのだ。
数発、身体に受ける。
銃創よりも深く大きい穴を身体に開けられ、呻くが、まだ倒れない。
「この、マスク集団が」
悪態を吐いたと同時に、触手が伸びた。
兎マスクでも剣の男でもない。
今度こそ―――眼帯の男だ。
槍を手元で回し、突く。
点の攻撃は面へ。
素早い『点』の攻撃は、『壁』になる。
避けられない。
数多もの戦士を葬ってきたランサーの技術。
しかし。
それらは届くことなく。
全てを回避され、その槍は空を切る。
(何処だ)
(何処だ)
(ど)
(こ)
素早い眼帯の男の動きに、視界が付いていかず、その姿を見失う。
眼を見開き、周囲を探すが気配すら読み取れない。
そうした後の彼の末路は、早かった。
自慢の槍を叩き折られ。
防衛を失った槍兵は、成す術なく。
背後から剣の男に、心臓を貫かれた。
「ぁ―――ぎ」
口内をせりあがってきた血液が満たす。
折れた槍を地面に突き、倒れることだけは阻止する。
頭を垂れたランサーに、影が射す。
……眼帯の男と、その背後に並ぶ兎マスクと剣の男。
ああ、確か、聖杯から渡された情報にて、その名があった。
多くの異形を引き連れ、その頂点に立つ王。
人を喰らう悪鬼を統率し、人類との和解を目指した王。
最強の名を欲しいがままにし、死神を葬った百足。
その結末は闇に葬られ、どうなったかは定かではないが。
名前だけは、知っている。
「そう、か、おまえ、は」
もう数秒と身体を保てない。
末端から身体が消滅していく。
敗北したこの身が、座へと帰っていく。
その、動く最期の口で。
ランサーは、その名を紡いだ。
「"隻眼の王"―――か」
―――宵闇の中。
あらゆる生物が眠る、その闇の中で。
爛々と煌めく赫い左目が、その存在を主張していた。
○ ●
「月山さん、ありがとうございました。
アヤトくんも、助かったよ。暫くの間ですが、休んで」
眼帯のその言葉を聞き遂げてか。
月山と呼ばれた男は「ウィ、キング」と一言残し、アヤトと呼ばれた男は何も言わずに粒子と消えた。
「……」
残されたのは、眼帯一人。
サーヴァントを一人仕留めた達成感と、次の行動について思案を巡らせる。
すると。
ぽふり、と何かが着地する音が、聞こえた。
「やっと見つけました」
猫耳のヘッドキャップにメイドのような衣装。
控えめに作られているように見えて、所々主張する非日常。
まるで、例えるならば―――魔法少女、だろうか。
「…貴方が私のサーヴァント、ですね」
「…"違う"。って言ったら?」
「いいえ、違いません」
はっきりと、告げる。
現れた少女の左手には、三画の絶対命令権―――令呪が刻まれていた。
それを通じて、目の前のサーヴァントに魔力が流れ出しているのがわかる。
しかし、根拠はそれだけ。
目の前のサーヴァントが、マスターである彼女を殺して座へと帰る道を選ぶ可能性も十分ある。
それを少女も理解しているのか―――足はカタカタと震え、顔は冷や汗に濡れていた。
それでも。
それでも彼女は、一歩を踏み出した。
「貴方が私のサーヴァントなら、お願いがあるんです」
「……お願い?」
「私を、元の世界に帰らせてください。
聖杯も、あげます。だから…だから、」
眼帯のマスクは、見るものに恐怖を与える。
少女とて例外ではない。
見ているだけで腰が抜けそうになるし、叶うことなら今すぐこの場から逃げ出したい。
左目だけ露出したその眼は、とても恐ろしい。
「帰らなきゃ、いけないんです。
何で私が此所にいるのかもわからない。
……最後は、死んだ記憶しかありません。
でも…でも、生きているのなら、帰らなきゃ。
だって、だって、お母さんが、一人になっちゃうから―――」
その言葉は段々と涙が混じる。
立っているのもようやくというほどに足は震え、身体は縮こまっている。
だが。
それでも、元の世界に一人残した母親のために、帰らなければならないと。
やっと得たチャンスを無駄には出来ないと。
そう、告げるようだった。
(ああ)
『ぼくも大きくなったら』
『おかあさんみたいに、誰かを助けてあげられるかなぁ』
―――それは。
在りし日の、己を見ているようで。
眼帯は、ふと口を開く。
「君の名前は?」
「え?えっと……のっこちゃん、です」
「のっこちゃん、か。いい名前だね」
そう告げると、眼帯はそのマスクを外す。
外気に晒されたその顔は、酷く、優しげだった。
「僕は、アサシン。
……いいよ、わかった。君を、お母さんのところにまで返すよ」
のっこちゃんの目線に合わせるように。
眼帯―――アサシンは、ゆっくりと腰を下ろす。
『この子は、僕と同じだ』。
アサシンが抱いたのは、それだった。
この子は、自分が愛したものを守ろうと悲劇の中で必死にもがいている。
必死に抗っている。
不様に。
でも、懸命に。
奪われたくないと。
自分はどうなっても、一つだけは守り抜きたいものがあると。
……ああ、それは。
なんて、儚い―――
夜空の下で、一つの主従が誕生する。
彼らを主役に物語を書くならば。
それはきっと―――『悲劇』だ。
だが。
だが、絶対に。
『悲劇』だけでは、終わらせない。
歪んだ世界で、彼らは一つだけを、守り抜く。
【出展】東京喰種:re
【CLASS】アサシン
【真名】"隻眼の王"(金木研)
【属性】秩序・悪
【ステータス】
筋力B 耐久B 俊敏A++ 魔力C 幸運D 宝具C
【クラス別スキル】
気配遮断:B
クラススキル。サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。が、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
しかし、後述のスキルによりそれをカバーしている。
【保有スキル】
隻眼の喰種:EX
左の眼を赫く染める、人外。
この眼を見たものに精神的恐慌状態を与え、筋力と俊敏の値を一時的にダウンさせる。
精神耐性スキルで軽減可能、Bランクで無効化できる。
また、人肉を喰すことで霊基の回復速度を上げ一時的な火力増強を施し、同ランクまでの単独行動スキルとしても働く。
このスキルにより、アサシンは三騎士相当の戦闘力を得ている。
また、喰種とは地下に暮らし人々の生活に紛れるモノという特徴から、戦闘に移っても気配遮断のランクは下がらない。
アサシンは元は人間ではあるが、隻眼の王となったことによりEXに。
文武の叡智:C
文字通り、文武のスキル。
偉人などの情報に長けており、また本を読んだとき・相手の動きを見たとき、それを高い熟練度で手に入れることができる。
眼帯覆面:A
彼が持つ、眼帯型の覆面。
これを見たものは精神恐慌に陥る。
精神耐性スキルで和らげることも可能。
戦闘続行:A+
文字通り、戦闘を続行するスキル。
致命傷を受けても尚、彼の場合は駆動する。
【宝具】
『黒山羊の雛(ゴート・オブ・チック)』
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大補足:100
生前、彼が率いた組織『黒山羊』の召喚。
一人ずつでの召喚も可能で、そのため魔力消費も調節できる。
『オウル』、SSレート『ラビット』『魔猿』『黒狗』から、他にも『美食家』『ヨツメ』『白スーツ軍団』などなども召喚可能。
戦力が高いものほど魔力消費は大きくなる。
特に功績も持たない白スーツの喰種なら、ほとんど魔力を消費しない。
『蠕動せし百足眼帯(センティピード・アイパッチ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大補足:20
彼の持つ『赫包』から作られる、無数の触手。
あるときは腕のよう。あるときは鞭のよう。あるときは百足のよう。
様々に形を変化させ、敵を貫く。
何度でも再生化であり、千切られた腕や脚の代わりにもなる便利。
本気を出せば身体を包むように、鎧のように宝具を展開する。
本来宝具になり得ないただの補食器官だが、喰種として頂点『隻眼の王』に立ったため喰種の概念が集中、宝具となった。
そして彼が恐れられた『眼帯』『ムカデ』『HS特別指定犯』との別名も混ざっており、敵をよく知ることで掟破りの『宝具破壊』を行うことができる。
【人物背景】
もし仮に僕を主役にひとつ作品を書くとすれば ―――それはきっと、“悲劇”だ。
だけど。
"悲劇だけ"では、終わらせない。
先代隻眼の王の意思を継ぎ、人間との和解を目標に掲げた頃の側面が強調されて召喚されている。
【サーヴァントとしての願い】
…聖杯というものが本物ならば、僕は―――
【出展】
魔法少女育成計画restart
【マスター】
のっこちゃん(野々原紀子)
【参戦方法】
死後参戦故に不明。
だが、キークの電脳空間とムーンセルが繋がっていた可能性がある。
【人物背景】
魔法少女育成計画restartにてデスゲームに巻き込まれた魔法少女の一人。
メイドさんのような衣装を着た幼い少女。
箒を武器として戦うこともできるが、戦闘力は低く非戦闘員に分類される。
リアルでも小学四年生と幼く、庇護欲を沸かせるあどけなさがあるが、年に似合わず芯はしっかりしている。
魔法少女になったのは四歳である為、魔法少女歴は長い(名前が「のっこちゃん」なのも、四歳児の時に深く考えず自分の名前を答えてしまった経緯によるもの)。
母親が難病で入院している為、学校生活から家事、魔法少女活動までを全て一人でこなすという多忙な日々を送っている。
自立した性格はそうした背景によるものであり、ゲームに参加している理由は母親の治療費を稼ぐためでもある。
また、後述の魔法を使用する条件もあって、自身の感情をコントロールする術に長けている。
彼女を主役として物語を描くならば、それはきっと、悲劇だ。
だが。
それでも彼女は、夢見てる。
待ってくれているたった一人の母のもとへ、帰りたい―――
【weapon】
魔法少女としての肉体
【能力・技能】
自分の感情を周囲の人に伝播することができる魔法。
他者の気持ちを変えることができる魔法だが、あくまでのっこちゃんの感情を起点としている。
周囲の雰囲気を和らげる為には、自分が楽しい気持ちにならなくてはいけないし、仲間を鼓舞する為には、自分が勇気を奮い起こさなくてはならない為、場合によっては自己欺瞞を必要とする。
【マスターとしての願い】
帰りたい。
【方針】
帰る。
最終更新:2017年01月11日 22:43