ハンター◆6l0Hq6/z.w
内臓がひっくり返りそうな悪路。
シボレー・インパラは派手に二、三度バウンドした。
直後、地形が豹変する。
土地の起伏がなくなっていて、平野になり、やがては背後に退いて、水平線の景観と化した。
「サム!奴は来たか!?」
運転に集中して振り向く暇がない。
「いや、うまくまいたみたいだ!」
「ありゃ何なんだ一体!?本物のターミネーターだぞ、アイツ。銀も聖水も鉛弾も効かない。俺たちでも手に負えないぞ!」
「サーヴァントって使い魔らしいけど…凄かったな」
聖杯戦争から逃げるため、スノーフィールドから南下し、彼らはラスベガスを目指していた。しかし…。
ディーンの運転するシボレー・インパラが停車した。
「おい、嘘だろ……」
サムは自分の目を疑った。
同じくハンドルに頭にこすりつけてディーンは途方に暮れる。
「冗談じゃない!ふざけるな!俺たちは宇宙人にさらわれちまったのか?」
蜃気楼?いや、ありえない。
周囲の荒野に対して不釣り合いな無機質な緑黄色のポリゴン。地面すらない。
サムは車から降りて左右を見渡す。
壁が何処までも立ちはだかった。
行き止まりだ。
「この街はダークシティかよ…」
どうやらこのスノーフィールドからの脱出は絶望的だ。
「これは兄貴のせいだ!ベガスでの狩りの帰りに兄貴がカジノに行きたいって言ったから、行ってみたらハンガーゲームする羽目になっちゃったじゃないか!」
「ポーカーやってたら、白紙のトランプが配られてきた気づいたらココだぞ!俺にどうしろって言うんだ!?」
悪運を招き寄せるこのウィンチェスター兄弟は今回、とんでもないものを引き当てた。
脈々と語り継がれてきた伝説たちが競い、争う夢の饗宴《きょうえん》への招待チケットだった。
「俺は自分が誰だか気づくまで保険のセールスマンしてたんだ、営業成績一位の…信じられるか?お前に会わなかったらどうなってたか…」
「僕もだよ…」
「コイツ《インパラ》だってそうだ!中古車ディーラーに売られてたんだぞ、俺の車なのに一体どうなってんだ!?」
次にディーンはダッシュボードを開いた。
レッドツェッペリン、ラッシュ、 AC/DC ─…
あれだけ大量にあった往年の名曲が一枚もない。空っぽだ。
「見ろ! 俺のベストセレクションが…。質入れした奴を見つけ出して、必ずこの手で殺してやる!」
「また買えばいいじゃないかそんな物…」
「カセットテープなんて今時どこに売ってんだ!?」
ディーンは左腕の袖を捲った。
それはサーヴァントのマスターの証。令呪だった。
「それにこれ見ろよ!糞ダッサダッサのロックバンドみたいなタトゥー!これじゃ人前にも出られない。いくら擦っても落ちないし…」
「何で隠すの?」
サムは真顔でそう言った。
「正気か?」
「全然。格好いいじゃないか、ソレ」
たまに来るこの二人のセンスの違いにはどう表現していいのやら…。
「そんなことよりこれからどうする?」
「二人でこの街を出るんだ」
「でも、どうやって…」
もう腹を括るしかない…。
「いつも通りだ、サム」
「狩りだよ。それしかない」
同じ場所で何度何度も繰り返される交通事故。
夫が妻子と無理心中。老衰と書かれた死亡記事欄。
新聞の社会面や都内版で小さく数行で片づけられて読み飛ばされるような事件。でも…それは…。
それは違った。
そんな現実を知った僕《俺》たちは世界が違って見えていた。
世間に潜む闇の住人。 災いの影。
僕《俺》たちウィンチェスター家は先祖代々戦い続けている。
人の衣を借りる妖怪、病院を餌場にする亡霊、幼い子供に取り憑く悪魔、森に住み人を喰う怪物達…。
その首をはねるか、尽く滅する。
俺《僕》たちは──ハンターだ。
「あぁ、それしかないけど…でもまずはマスター同士話し合いから…」
「でも、向こうから突っかかって来たらお前どうするつもりだ?」
兄のディーンは弟サムの眼を見て話した。
「それは…」
「全員潰す」
ディーンはそう言うとインパラのエンジンをかけなおし。元来た道を引き返した。
「まずは情報を集める。他のマスターの目星も付けないと話し合いも出来ない。それから──」
「マスター?」
「何だよ!?」
ディーンが吠え、
ちら見したバックミラーにスマイルが写った。
「オレっちのこと、忘れてない?」
後部座席に知らぬ間に何者かが、座っていた。
急ブレーキからパニックストップ。二人は慌ててインパラから飛び降りた。
「何時から居た?」
ディーンは懐から銃を抜く。
「ディーン。もう諦めよう、彼には効かない。君、話聴いてたでしょ?」
「最初は冷や水浴びせられたり、しこたま撃たれたけど、全然気にしない。許す!」
「俺のインパラのボンネットに立つからだ!サンズ・オブ・アナーキー!」
「この鬼ごっこで確信した!お前たち絶対まともじゃない!オレはこうゆうマスターを待ってたんだ。これこそ行幸!遠路はるばる海を渡ってきたかいがあったぜ!」
その青年は彼らを指差した。
「おたくらは最高のバディだ!」
サーヴァントからのマスター評価は、最悪のファーストコンタクトからにしては思っていた以上に高評価だった。
「そりゃ良かったな」
ディーンは煙草に火を点けて、ズボンの中に手を入れている。
「忘れてた。君の名前は?でも、自己紹介がまだだった…僕はサム・ウィンチェスター。こっちが兄貴のディーンだ。君のマスター…みたいだ」
「オレは坂田金時。世界一ゴールデンな男だ!夜狼死九《ヨロシク》!」
「そういや誰だよコイツ?何処のどいつだ?サム」
「ネットで調べるよ……日本だ」
相変わらず速い。スマートフォンでネットを開いて日本語を翻訳する作業に移る。
「どうせならフランスのジャンヌダルクとかケルトのスカサハとかがよかったよ。なんで外国かぶれの日本人の男が俺たちの所に来るんだ?ここ、アメリカだぞ」
大人しそうな美姫と妖艶で淫乱な魔女。いかにもディーン好みな選択だ。
「しかも、平安生まれの京都育ちみたいだね…」
サムがウィキペディアを読み上げながら、困惑した。液晶画面と彼を見比べる。
「普通はシルバーサムライみたいな奴だよな」
「何か文句でもあんのか?」
少しムッとした金時。
まだ腹の虫も収まってないディーンは喋るのを止めない。
「お前は自分を鏡で見たことがないのか?」
金時とディーンは捻りよりながら睨らんだ。並び立つ二人の身長は同じくらいだ。
坂田金時の服装は黒のバンダナ、黒のサングラス、黒革のベスト着て、金の鎖と髑髏をジャラジャラさせたGパン通した、てっぺんからつま先まで真っ黒の出で立ちだった。
「似合ってるだろ?」
ディーンはインパラの隣に横付けされた金時の愛車ゴールデンベアー号を指差した。
「それにこのバイク!ロングフォークチョッパーに高いライザー。ステップはミッドタイプでマフラーはハイパイプにフロントはキャストホイールのフリスコスタイル」
「よくわかってるじゃねぇか、マスター」
「ここはテキサスかよ!?」
「それになんだ!?ゴールデンって、アホか貴様は! お前のママは一体どういう教育してたんだ!?」
「兄貴…もうそろそろその辺にしといた方が…」
サムの悪い予感は着々と現実になる。
「何だと!?テメェ…もう一度言ってみろぉ!」
それに構わずディーンは喚き散らす。
「髪まで染めやがって不良息子が!」
「コイツは地毛だ!」
金時はディーンの肩を押した。軽いつもりでもかなり強い力だった。
五メートルほどふっ飛ばして、ディーンの身体を強く打ちつけた。
「ディーン!」
ディーンは苦もなく立ち上がる。
「あぁ…マズいな…」 サムは目を覆った。
ディーンは黙りこんだまま、右手を背後に回した。
背中から生えるようにマチェットを引き抜いた。
「ディーンやめろ!」
それから──
念押しの下準備をして暫く……。
いよいよ僕たち三人の決戦だ。
「──お前の母ちゃんに会ってみたいな、大したお人だ」
「だろ?」
危ないのはいつも事。死にそうなのもいつもの事。
だけど…。
「──それで俺が森に入ったらウェンディゴが…」
「オレが森で遭った熊なんて──」
いつもよりなぜか僕は居心地が悪い、それは多分兄貴が二人居るように感じるためだろう。
クィーンを八時間ぶっ続けで流し続けたり、彼らは酒をあおって、互いの狩りの話をした。
サーヴァントの金時はどこからか拾ってきたギターを鳴らす。これがまた無駄に上手いのが腹立たしい。
『 Bnrn in the U.S.A 』が流れはじめた。
まただ…。
あぁ…これでもう、十八回目だよ。
もう、うんざり…。
「おまえあのコの話すると、ヤケにしおらしくなるな」
「ウルセェ」
「さてはお前…シタことないな~?あんな母ちゃん居たら女なんて絶対近寄ってこないもんな~?ははははっ!」
「ディーンちょっと飲みすぎ…」金時はたじろいだ。
すっかり酔っ払って、あの兄貴がインパラのハンドルを金時に譲っている。信じられない…。兄貴は銃で撃たれても絶対にハンドル離さないのに…。
「酔いが覚めたら、運転をかわれ」
「おい!サム」
ついに金時にも呼び捨てされて、サムは無言でこの狭い車内の中で入れ替わった。金時の靴の裏にはガムが付いていた。
足元の大量の酒瓶。臭いも酷い。
サムは気分が悪くなり後部座席の窓を開けて外の景色を眺めた。
顔を真っ赤にした兄貴が、
「ドライバーの特権で好きな曲かけていいぞ~」
「OK~じゃあ一曲」
金時はダッシュボードからカセットテープを一つ取り出した。
ボンジョヴィの『 Wanted Dead or Alive 《ウォンテッド・デッド・オア・アライブ》』だ。
カセットテープを突き刺して、リピートする。
奏でるギターの曲に合わせて、
「─just to get back home‥‥」
ディーンが唄う。
「I'm a cowboy………on a steel horse I ride 」
「I'm wanted!イェィ!─Dead or alive‥Wanted!ヘイ!─Dead or alive………」
金時も唄う。
彼を見て、わかったことがある。サーヴァントは使い魔という、道具ではなく、
彼も人だった頃があったという事を…。
彼にも優しくても強い母が居て、周りには仲間たちがいた…。僕たちみたいに…。
「 Dead or Alive! Dead or Alive!Dead or Alive!Dead or Alive!Dead or Alive!」
大合唱が始まった。
笑ったり、怒ったり、泣いたり、
今みたいバカ騒ぎして…。
そして静かに死んだんだ…。
でも彼はこれからまた死に逝く。
こんなわざわざ棺桶からミイラを引っ張り出して、また埋め戻すようなことをして。
何のためだ?
彼らを集めて何をする?
こんな事をして一体黒幕は何がしたいんだ?
「サミー。おねむの時間か?夜はまだまだ長いぜ~」
「ん?あぁ」
サーヴァントなのでアルコールなんて回ってない筈だが、夜の運転で彼も気分は軽いらしい。
「今夜は面白いもの見せてやる」
金時はハンドルを持つ手に力をこめる。
金時の魔力が励起し、マフラーから、ありえない量の炎を噴き出す。
普段乗り回すインパラから放たれる聞き慣れないエキゾーストに、ディーンとサムの顔色が変わった。
「おい、金時。お前ナニした!?」ディーンの酔いも一気に冷めた。
更に、金時はアクセルを踏む込んだ。そしてギアを繋ぐ。
『──ゴオォォルデン・インパァルスゥ!カァモォォオオン!』
金時はクラクション三回を鳴らす。
突如空に、曇天の雲が現れた。
前触れになくインパラの屋根に稲妻が堕ちる。
すると…。
ボンネットにひび割れが走り、光が翔ぶ。その隙間から何かがせり上がってくる。スーパーチャージャーか?
運転席の中まで変形し始めた…。親切にも酒瓶を車外に棄ててくれる。
タコメーターの針が増え、ハンドルがOからUへ変わる。
テールランプの中からジェットノズルが咲きはじめた!
ディーンがバケットシートの上で身構えて言い放った。
「これ前に観たことある…ウィル・スミスの映──アアアアアアァァァァアァァアッ──!」
三人は女のような絶叫を上げた。
急発進。ノンストップだ。
なんとシボレー・インパラが超加速突撃形態へと変形したのだ。
「マジかよ!?スッゲー!これが俺のインパラ!?」
ディーンはあちこちを触り調べ始めた。
「ちなみにこれ…ちゃんと後で元に戻るよね。金時?」慌ててシートベルトを締めはじめるサム。
「何か…今ので、気持ち悪くなってきた…」ディーンが嗚咽を漏らす。
「おい、ディーン!オレの宝具にゲロ吐くな!絶対だぞ!」
「何言ってるんだ!この車は元々は僕たちの車だぞ!お前の宝具じゃない!」
──夜の静寂《しじま》を破る雷音。
テールランプは火を噴いて、無人のハイウェイをかっ飛ばす。
──廻る車輪は電電太鼓。
アスファルトを焼き焦がして、その炎の道標を書き綴った。
東洋の神秘を纏う1967年シボレー・インパラは3人のハンターを乗せ、いざスノーフィールドを目指しひた走るのであった。
【出典】史実
【SAESS】ハンター
【身長】190㎝【体重】88㌔
【性別】男性 【属性】秩序・善
【真名】坂田金時
【ステータス】
筋力A 耐久B 敏捷B
魔力C 幸運D 宝具C
【クラス別スキル】
単独行動:C 騎乗:C
【保有スキル】
鷲の眼:B
魔力放出(雷):A
天性の肉体:B
【宝具】
『黄金衝導《ゴールデン・インパルス》』
ランク:C 種別:対軍宝具
レンジ:0~800 最大補足:3000
1967年産のシボレー・インパラ。
ゼネラルモーターズ社製。
V8エンジン搭載。425馬力……だった。
たった一年間しか生産されなかった幻の名車は、
英霊・坂田金時の神鳴りに撃たれて、正体不明の宝具へと昇華した。
元のインパラ自身も幾つもの霊的処理がなされているため、相乗効果でこの車に近するだけでも金時以外のサーヴァントはダメージ判定が発生する。
壁だって登れるし、空だって飛べる。オマケにビームだって出せる。
『何じゃこりぁあぁぁぁあぁぁぁぁ!?』
『ディーン!少し落ち着いて!』
『ゴールデンベアー号 』
ランク:B 種別:対軍宝具
レンジ:0~600 最大補足:800
金時が駆るモンスターマシン。雷神の力を宿す大型バイク。
200万馬力と最高時速2500km(約マッハ2)という規格外の性能を有し、ひと吹きで百里を駆け抜け、熊百頭が行く手を阻もうとも問題なく蹴散らせるスペックを有している。
──しかし、乗り手が金時一人だけなのでインパラとの二台同時の運用は事実上不可能。
したがってインパラとの合体も出来ない。
大変もったいない代物です。
【 weapon 】
Coming Soon....
【人物背景】
マスターのウィンチェスター兄弟に引っ張られて、 神秘殺し由来の魔力放出(雷)、更にアーチャークラスの鷲の眼などを獲得して退魔《ハンター》としての面を全面に引き出しての現界。しかし、彼のマスター達の偏った才能のせいで、複数のスキルの消失とステータスが若干低下みられる。
遂に憧れのアメリカ本土に上陸。
『ハリウッドに進出して、全米デビューだぜ!』
【サーヴァントとしての願い】
『アメリカでビッグな男になってやる!』
【出典】 海外ドラマ SUPERNATURAL
【マスター】 サム&ディーン・ウィンチェスター
【参加方法】ラスベガスで手に入れた
【人物背景】
ディーン・ウィンチェスター
代々ハンターのウィンチェスター家の長子。 家無し、金無し。1967年製シボレー・インパラに乗り、 弟のサムとともに怪異と戦うため、日夜全米を駆けずり回る。血縁者は弟のサムのみで、かけがいのない存在だ。その命に変えても…己の魂すらも厭わない…。
弟のサム・ウィンチェスターととも聖杯戦争に参戦。
彼は金時の武器や二人の戦闘をサポートするが…。
【 weapon 】
【能力・技能】
- サーヴァントに対しては、手も足も出ない。
- ただし知識だけは豊富だ。
- 悪霊・悪魔憑きに専門だけあり、かなり立ち回れる
- いつも通り二人だけの狩りをする。
- ボビーは出ない。
- 今回は現在本編での
- 天使カスティエルのサポートはなし。
- 悪魔の根回しもなし。
- 他の因縁もろもろ無し。
【マスターとしての願い】
二人で街を脱出すること。勿論インパラもだ。
【方針】
聖杯戦争の全貌の解明。
最終更新:2017年01月18日 23:49