そいつの名は悪魔◆uL1TgWrWZ.







 夜の路地裏――――二人組の男が、死体を漁っている。
 いや、厳密にいえば、一人の男が死体を漁り、もう一人の男はそれを横から覗いているのだが……

「おっ、見なよライダー。S&WのM36……『チーフ・スペシャル』だ。
 フィリップ・マーロウの愛銃で有名な38口径だよ。
 これがまたいい銃なんだ。銃身が短いから、携行に向いててね」

 死体を漁っている方の男――――いかにも軽薄そうな、口紅を差した痩躯の男が笑いながら銃を弄ぶ。
 耳につけた薬指型のイヤリングが特徴的な男。
 彼は死体の懐から取り出したその銃をあれこれと眺めながら、グッと握りしめた。

「とはいえ、珍しくもないしランクはEってとこかな」

 ――――――――――すると、銃が手の中に消える。
 手品ではない。
 文字通り、銃が“手の中に消えて行った”のだ。

「はえー、マスターも好きでござるなぁ。
 でもちょっとわかります。アニメのキャラが使ってる道具とか、揃えたくなるもんネ!」

 それを、横から男が眺めている。
 酷く背が高い大男で、鉤鼻と編み込みの黒髭が特徴的だ。
 そしてそれ以上に――――その男が羽織る、海賊のようなキャプテンコートが目を引いた。
 まるで大航海時代の海賊そのもののような、粗雑さを滲みださせる大男。

「拘りって奴だね。
 そういう付加価値がついてる物はランク高めに見積もるよ、僕は」

 痩躯の男はケラケラと笑いながらまた死体の懐を漁る。
 死体は銃殺死体だった。
 脳天を撃ち抜かれ、死んでいた。

「いやぁ、それにしてもいきなり襲いかかってくるなんて驚いたなぁ。
 血気盛んな参加者もいたもんだ……っと、今度はソード社製オートマか!
 これは珍しいな! 映画『ロミオとジュリエット』に出てきた拳銃のレプリカだよ!」
「あ、知ってますぞ。リア充が死ぬ話ですな!
 確かヴェインくんが悲劇厨だったっけ……oh、ブッチー……」
「これはD-ってとこかな。まったくいい拾い物をしたよ」

 つまるところ――――彼らは聖杯戦争の参加者であり、主従であった。
 そして他の参加者から強襲を受け、返り討ちにした……という次第である。

「他は……特にないか。んじゃ、証拠隠滅っと」

 痩躯の男が死体に触れ……そして、死体もまた男の手の中に呑まれて行った。
 あとには何も残らない。血だまりだけだ。
 まさしく異能であり、異形である。

「……さて、どうしよっか。
 さっきのソード社のオートマ、試し撃ちしたいなぁ」

 聖杯戦争の参加者とはいえ、人を殺しておいて主従共に罪悪感のようなものは感じられない。
 どころか、その行為を楽しんでいるようにすら見える。
 第三者が彼らを見ればこう感想を述べるだろう――――まるで悪魔のようだ、と。

「つまりこのまま略奪続行2クール目でござるな?
 それなら拙者、今度は金目の物とか……ってアッー!? 大変大変大変ですぞマスタァーッ!?」
「えっ、なに、どうしたの?」

 そのまま気まぐれに殺人でも犯そうかと路地裏を去ろうとするマスターに対し、ライダーが素っ頓狂な声を上げた。
 流石にマスターも驚き、何事かと周辺を警戒する。
 ライダーはいかにも大事だと言わんばかりにあたふたと手を動かし……

「今日は薩摩示現流の達人であるオレっ子美少女がサッカー界に殴り込みをかける大人気アニメ、
 その名も『オレごわっそ』の放送日でござったァァァーーーーッ!?
 しかも微妙にデッキの整理してないから録画できるか怪しい! 黒髭史上最大のピィーンチ!!」

 めちゃくちゃどうでもいい理由を吐露した。

「さらに今日は温泉回! かわいいちっぱいも包容力溢れるおっぱいもあられもない姿でくんずほぐれつ!
 これを見逃せば拙者は明日の朝日を拝めねぇ……! 聖杯に呪いあれ……!
 ……あ、ちなみに拙者、包容力のあるロリもバッチコイですぞ。
 お洗濯とか、してもらいたい……してもらいたくない? デュフッ☆
 ――――というわけでマスター! 拙者帰って全裸待機する系の仕事があるのでこれで!」

 そしてそのままシュビッと手を挙げて帰宅しようとするライダー。
 それを見て、マスターはやれやれとため息をついた。

「わかったよ。今日はここまでにして帰ろうか。
 マスターの一人歩きは危ないし……それに、試し撃ちの機会はいくらでもあるだろうしね」
「さっすがマスター、話がわかるゥ!
 それでは共に局部を隠す謎の輝きの向こう側を渇望しブルーレイに備える作業に臨みましょうぞ!」
「いやそれはいいや」
「なぜ!?」

 血だまりを背に、主従は夜の街に消えて行く。
 その途中――――ふと気になったマスターが、ライダーに問いかけた。

「……そういえば、ライダーは聖杯が手に入ったらどうするんだ?」

 サーヴァントは、聖杯と言う万能の願望機を求めて人間の従僕に甘んじる。
 これは、聖杯戦争における基本中の基本。
 であればこのクソオタクの典型のような男にも、渇望する願いがあるはずで。


「よくぞ聞いてくれました! それは当然――――――――拙者が主人公のハーレムモノエロゲが欲しい!!!!!」


 ……その渇望がものすごくどうでもいいものだったので、もうマスターは呆れる気にもならなかった。
 その代わりに、マスターはゲラゲラと笑うことにした。

「ハハハハッ! 天下の大海賊黒髭ともあろうお人の願いがそれか!」

 笑われても気を悪くした素振りを見せず、ライダー……エドワード・ティーチは、カリブの大海賊は、ニィと笑う。
 道化のような笑顔である。
 同時に、底知れぬ笑顔である。

「なにをおっしゃる! 自分が主人公のハーレムモノエロゲとか、もはや全人類の夢と言っても過言ではありませんぞ?
 願いが叶った暁には、マスターもヒロインの好感度を教えてくれる友人枠で出演を約束しましょう!」
「ヒーッ! ヒーッ! すごくどうでもいい! アッハハハハハハハッ!!」

 なおも爆笑するマスターに、ライダーは逆に問いかけた。

「それなら、マスターは聖杯にはなにを? 拙者気になります!」
「僕かい?」

 ――――サーヴァント同様、マスターもまた、万能の願望機の使用権を得る。
 それが、命を懸けたバトルロイヤルに身を投じる理由。
 その問いに対し、マスター……ベロニカ=ストレリチアは、笑い過ぎて出てきた涙をぬぐいながら答える。

「僕さぁ。自分が持ってない物見ると欲しくなんだよね。レアモノならなおさらだ。
 その点聖杯は最上級だね。ランク付けるならSSSって感じ?」
「ほほう。つまり、聖杯をコレクションに加えたいと?」
「そ。コレクションケースに聖杯が置いてあったら最高だろ?
 使い道は手に入れてから考えればいいや」

 歌うように、踊るように、ベロニカが天を仰ぐ。
 手を空にかざし、薬指と中指の間から月を覗く。


「――――――――僕は、“収集慾”の悪魔だからね」


 つまり、それがベロニカの全てだ。
 この世の全ての物を集める。
 ベロニカはそういう風に“設計”された悪魔なのだから。
 黒髭はまた、道化の笑みを浮かべた。

「なるほどォ! わかりますぞマスター! わかり哲也!
 この黒髭、かつてはカリブで悪魔と呼ばれた男! 略奪に関してはプロフェッショナル!
 即ち、拙者とマスターでダブルデーモンって寸法でござるな?」

 悪魔が笑う。
 悪魔が嗤う。
 悪魔の笑みと道化の笑みが交差して、二人は再び歩を進め始めた。

「さ、そういうわけだ。帰ろうよライダー」
「かしこまり! さーぁおうちで『オレごわっそ』が待っていますぞ!」
「ああうん。それはいいや」
「うーん突然の裏切り!」

 夜の街に悪魔が消える。
 この街の財宝を全て奪い尽くそうという悪魔たちが、街に溶けて行く。


 ――――――――――設計された悪魔と、生まれついての悪魔が。













【CLASS】ライダー

【真名】エドワード・ティーチ@Fate/Grand order

【属性】混沌・悪

【ステータス】
筋力B+ 耐久A 敏捷E 魔力D 幸運C 宝具C

【クラススキル】
騎乗:-
 騎乗スキルは『嵐の航海者』により失われている。

対魔力:E
 魔術に対する守り。無効化はできず、ダメージ数値を多少削減する。

【保有スキル】
嵐の航海者:A
 船と認識されるものを駆る才能。
 集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。
 カリブ海で最も恐れられた海賊である黒髭は極めて優れた船乗りであり、図太く立ち回った。恐れられたんだってば。

海賊の誉れ:B
 海賊独自の価値観から生じる特殊スキル。
 低ランクの精神汚染、勇猛、戦闘続行などが複合されている。
 部下に何の前触れもなく暴力を働く一方で剣林弾雨に向けて猛然と突進する勇猛さを持つ。

【宝具】
『アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)』
ランク:C++ 種別:対軍宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:300人
 クイーンアンズ・リベンジ。
 黒髭が実際に乗船していた船。
 元々はフランス船であったが奪い取った黒髭によって、『アン女王の復讐』と名付けられ、海賊船となった。
 敵船にはまず四十門の大砲を撃ち込み、
 その後で低級霊となった部下たち(名はなく、「黒髭の部下」としか本人たちにも分からない)と共に猛然と襲い掛かる。
 奪い去る、ということに特化した怪物船。
 その圧倒量の暴力は数多の宝具でも極めつけだろう。
 また、この船は海に限ってならば『常時展開宝具』として顕現する。
 空や陸も進むことができるが、その場合は魔力を大量に消費する。

 そしてこの船は黒髭以外に同乗しているサーヴァントが存在すると、ダメージを飛躍的に向上させる力を持つ。

【weapon】
『鉤爪』
 右手に嵌めた手甲についている大きな鉤爪。
 ライダーは主にこれを用いた格闘戦を行う。女の子とくんずほぐれつラッキースケベをするために。
 ちなみに伸縮するらしい。

『銃』
 いわゆるマスケット銃。
 他にコメントすることがない。海賊としては一般的な装備。

『剣』
 あとなんか剣も持ってる。
 これもやっぱり海賊としては一般的な装備。

【人物背景】
 1700年初頭に活動していた、おそらく世界で最も有名な海賊。
 “黒髭”と仇名され、船乗りはおろか同業者にすら恐れられたカリブの大悪党。
 その残忍さは常軌を逸しており、時折何の前触れもなく部下の足を撃ち抜いて笑ったこともあった。
 悪魔の化身とまで言われた男だが、最期は軍に追い詰められ討ち死に。
 ニ十箇所の刀傷、五発の銃弾を受けても憤怒の形相で戦い続けたが、銃の装填中にとうとう力尽きて斃れたという。
 彼の首は船首に吊るされ、晒され続けた。
 海賊の代名詞とでも言うべき存在であり、有名な『黒ひげ危機一髪ゲーム』は彼が元ネタである。

 ……とまぁこのような天下御免の大悪党なのだが、なんの因果か今ではただのクソオタク。
 元々こういう性格だったのか、はたまた現世に触れた影響なのかは不明。
 とりあえず言えることは、今の彼はどこに出しても恥ずかしいクソオタクであり――――そしてやはり、大海賊黒髭だということである。

【サーヴァントとしての願い】
 え、拙者の願い?
 んもう、そんなこと聞かれたら黒髭恥ずかしい☆
 ……あ、やめて。その養豚場の豚を見るような目はやめてくだちい。
 ………………ハッ! タイツ履いたロリをウィンウィンできたら最高なのでは!?
 やったねエドちゃん! 時代はやはりBBAよりロリですなぁ!



【マスター】
 ベロニカ=ストレリチア@デモンズプラン

【能力・技能】
『収集慾』
 “慾”を糧に悪魔を設計する『悪魔の設計図(デモンズプラン)』による能力。
 ベロニカは“収集慾”に基づいた能力を保有する。
 その能力は「物品の収集と使用」。触れた物を体内に取り込んで保管し、また任意で体から取り出す力。
 取り出した物品は自分の肉体のように扱えるようであり、
 銃を腕と一体化した状態で発現させて発砲したり、背中から戦車砲を展開する場面も観測されている。
 なお、欠損した部位を人体パーツのストックによって補うことも可能なようだが、
 敵に接触してその肉体を保管する様子は無く、物言いなどから察するに恐らく死体に限り生物も収集可能なものと思われる。

【weapon】
『コレクション』
 拳銃、ガトリングガン、剣、斧、槍などに始まり、戦車砲や手榴弾などのあらゆる兵器を収集済。
 宝石やアクセサリー、貝殻なども保管している模様。前述の通り人体パーツも。
 そのコレクションは多岐に渡り、全貌は見えない。

【人物背景】
 “慾”を糧に悪魔を設計する『悪魔の設計図(デモンズプラン)』に選ばれた男。
 “収集慾”によって物品を収集し、カテゴリ分けしてランク付けして、実際に使ってみるのが好き。
 軽薄で陽気。殺人に一切の躊躇いが無い人格破綻者。
 その行動原理は「持ってない物を見ると欲しくなる」「手に入れたら使ってみたくなる」の二本柱に終始する。
 珍しい物を見たり、使ってみたりするのが好きで、そのためならば自他の被害はまったく頓着しない。
 慾に呑まれた悪魔と呼ぶに相応しい男だが――――しかし、言動の端々からどこかお人よしなところが見受けられる。

 その慾の原点は、おそらく婚約者。
 病気がちな女に惚れこみ、彼女のために彼女が見たことのないものを全てかき集めて見せてあげたいと願った。
 しかし結局婚約者は(おそらくは病で)死に、慾だけが残った――と、推測される。
 ―――――ベロニカの耳にイヤリングのように付けられた婚約者の薬指には、指輪が嵌まっている。

【参戦経緯】
 原作でボロに敗れ、パトロンに殺される瞬間にいつの間にかコレクションに混ざっていた“白いトランプ”に導かれた。

【ロール】
 親の遺産で暮らす好事家。

【令呪の形・位置】
 海賊旗を思わせるクロスボーンで三画。

【聖杯にかける願い】
 聖杯をコレクションしたい。







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最終更新:2017年01月18日 23:52