二重螺旋 ◆Vj6e1anjAc


 人をきずつけるのはいけないこと。
 人をころすのはかなしいこと。
 それはわたしも知っている。小さなわたしでも知っていること。

 だけどそうしてたたかわないと、手に入らないものがあった。
 みんなの上に立つおひめさまには、だれか一人だけしかなれない。
 いすにすわれる一人になるには、いすにすわっているだれかを、どうしても下ろすしかなかった。

 ルーラが言ってた。
 「リーダーは憧れの対象でなければならない」。
 「皆がリーダーを目指すことで、組織が活性化するのだ」って。
 わたしはルーラになりたかった。
 ルーラにあこがれていたから。ルーラが大すきだったから。
 だからわたしは手をのばした。それがルーラののぞみだから。そういうそしきをめざしていたから。
 ルーラへの大すきをしめすためには、これが一番だっておもったから。

 だから、これからもそうする。
 いまのわたしはもうルーラだ。
 ルーラをめざして、ルーラをたおして、ルーラになったのがわたしなんだ。
 こんどはわたしがルーラをやる。あこがれられるリーダーになる。
 ころしたいと思われるほどに、あこがれられるリーダーに。

 だから、いまは、生きてたたかう。


「――小娘、お前は何がしたかったんだ?」

 ふぅっと紫煙をくゆらせながら。風に髪を棚引かせながら。
 コンクリート色の迷宮の中、天に程近いビルの上から、少女を見下ろし青年は問うた。
 つまらない――というよりも、興味が湧かないといったような、無感動な顔つきで。
 神話の大魔人を相手取り、必死に戦う少女の姿を、他人事のように観賞しながら、緑の髪の男は言った。

「愛した者を殺したと言ったな。お前は認められたかったと。だからこそ命を奪ったと」

 水着の少女は只人ではない。超常を操る魔法少女だ。
 鋭い槍を振りかざし、都会の闇へと姿を晦まし、影から現れて敵を襲った。
 あらゆる物質に透過・侵入し、空間を自在に泳ぐ異能――それは確かにこの男にも、備わっていなかった奇跡の御業だ。
 しかし、相手は物が違う。魔法が人の手によって、神の奇跡を模造したものなら、今まさに彼女が相対するのは、本物の神話を生きた勇士だ。
 突かれた程度で傷などつかぬ。逃げ回る程度は歯牙にもかけぬ。
 神か悪魔か、それ以上の何かか。かつて呪われし加護を受けた、緑の髪の男なればこそ、その恐ろしさが理解できる。
 半端者の現代っ子では、到底及びもせぬ器――それこそが英霊・サーヴァントなのだと。

「それは本末の転倒というのだ。お前はそれで何を得た? 語る舌など持たぬ死人が、お前の叛逆を賞賛したのか?」

 怨ォん――と雄叫びが木霊する。
 狂戦士(バーサーカー)の二つ名を得て、現世に蘇った魔性の戦士は、咆哮すらも力と変える。
 びりびりと天地を震わす声は、物理的な破壊力すら有して、水着の少女へ襲いかかった。
 形あるモノでない轟音は、魔法少女にすら凌ぎきれない。たまらず、痙攣したかのように震えた少女は、吹き飛ばされて壁に打たれた。
 からからと乾いた音が聞こえる。手にした鋭利な切っ先が、虚しく零れ落ちアスファルトを転がる。

「全てが徒労と……後の祭りと。何もかも自らの手で壊して、何もかも掴めなかったお前の、その顛末の感想はどんなだ?」

 そうまでして挑む少女の心が、男には理解できなかった。
 言葉少なく語られた、戦いの動機というものに、まるきり共感できなかったのだ。
 彼女は最も尊敬し、愛した魔法少女を殺している。
 組織を率いていたリーダーに、刃向かい殺したことによって、恩を返したなどとほざいている。
 とんだ間抜けだ。賞賛も報酬も、その者が死ねば、何一つ返ってこないというのに。
 あるいはそのことに気付きながらも、後悔の大きさに心を壊し、考えることを放棄したのか。
 僅か七歳に過ぎない童女の心は、とうの昔に砕け散っているのか。

「……まだ、何も終わってない」

 それでも、少女はなおも動いた。
 傷つき痺れた体を動かし、取りこぼした槍へ手を伸ばした。
 感情の機微の読み取れない、鉄面皮のような顔立ちではあったが、しかしその瞳には確かに、力の光が宿されていた。

「私はルーラになったから……ルーラみたいに、もっと強く、正しいリーダーにならなきゃいけない」

 少女は恩人から立場を奪った。しかしそれはあくまでも、己が愛を証明するための、最初の一歩に過ぎなかった。
 王座をもぎ取り座っただけでは、ルーラと同じにはなれない。
 ルーラはもっと堂々としていた。ルーラはもっと賢かった。ルーラはもっと成果を示した。
 強く、気高くならなければ。停滞に甘んじているだけでは、ルーラの死すらも穢してしまう。
 涙を呑んで挑んだというのに、決意を固めて殺したというのに、本当に無駄な死で終わってしまう。

「上手にできたって褒められるのは、全部、終わってからでいい」

 男の指摘はもっともだ。しかしそれは、今の己が、道半ばに立っているからだ。
 まだ何一つ終わっていない。賞賛に値するほどの恩返しを、自分は未だ示せていない。
 魔法少女の争いがあるなら、チームを率いて頂点を目指そう。
 奇跡の聖杯がそこにあるのなら、手にしてより強いリーダーになろう。
 それでこそ、ようやく意味を持つ。ルーラにならんと、成さんとした決意は、それでようやく完遂される。
 全てを成し遂げ、同じ力を手にし、同じように討たれた時こそ――天寿を全うしたその時にこそ、あの世で待っているルーラに、認めてもらうことができるのだ。
 それがスイムスイムの決意だ。
 それこそが坂凪綾名の愛だ。
 まだ何も見せていないというのに、それだけでしたり顔で語られるほど、浅はかなものなどではないのだ。

「……く、クク」

 だからこそ、男はようやく笑んだ。
 震える体に鞭を打ち、決死の覚悟で立ち上がる、彼女の姿を見た時にこそ、ようやく目の色を変えたのだ。
 真紅の令呪で結ばれた、ライダークラスのサーヴァントは、己がマスターの在り方に、ようやく興味を示したのだ。

「ハハハハハ!」

 笑う。笑う。高らかに笑う。
 闇夜を無数のカラスが騒がす。その羽の音と叫びにも、微塵も掻き消されることなく、男は月下で大笑する。

「それこそがお前か! お前なりの愛か! ただ一人地獄の淵に立ち、羅刹修羅道を歩むことでしか、寄り添う資格を掴めぬ矛盾!」

 坂凪綾名は破綻していた。
 彼女の抱く愛と恩義は、男の下らぬ勘ぐりよりも、遥かに致命的に壊れきっていた。
 支えるのでも、寄り添うのでもない。まるきり同一の存在へと、己を高めることでしか、納得と完結を見ない信仰。
 しかしルーラは指導者だった。
 船頭になる者はただ一人。並び立つことは叶わない。二人のリーダーが共存すれば、組織は山に登るしかない。
 ルーラの存在を穢すことなく、ルーラと同一になるためには、ルーラに降りてもらうしかない。
 だからこそ、殺すしかなかったと――その最悪に至ったことに、何の疑問を抱かなかった時点で、綾名は完全に破綻したのだ。

「黒き殺意を突き立てるしか、清き愛を示せぬ矛盾! それこそはお前を狂わせ、捻じ曲げ! 獄炎すら照らさぬ無明の闇へと、お前を誘い突き落とすだろう――」

 それでも、綾名は止まらぬだろう。
 それをどん詰まりであるのだと、認めないどころか気付きすらせず、平然と反論してみせた彼女は、なるほど確かに本物だった。
 愛する者をこの手で殺す。代わりに愛する者になる。愛するものに認めてもらえば、道のりの全ては肯定される。
 であれば、あのおぞましき殺人は、罪科と呼ぶには値しない。この道は茨の道ではあっても、外道では断じてないのだと、本気で信じているのだ、彼女は。
 漆黒の死と、純白の愛。交わらぬ矛盾でありながら、しかし本人の中では矛盾せず、完全な太極図を描く二重の螺旋。
 ルーラがそれを望まぬと――他人の自己満足などより、己の命を欲するなどとは、思いもせずに描かれたのだ、それは。

「――この俺のように!!」

 瞬間、稲光が爆ぜた。
 雷光が天の暗雲ではなく、地の底から龍となり駆け上がったのだ。
 天が砕ける。大地が割ける。爆音と光の暴力が、綾名を、バーサーカーを揺さぶり、戦闘行為の一切を、その瞬間だけ遮った。
 災厄(カタストロフ)の光景が、過ぎ去った後に聳えるのは、暗天。
 月の薄明すらも遮り、影も形も認められぬ、無間の闇こそが現出される。
 否――その只中に、浮かぶものがあった。暗黒だけがあるはずの世界で、それを生み出している存在だけは、誰の目にも視認することができた。

「此度の戦いに対して、俺には理由も興味すらもなかった。……だがな。お前がその道を歩むのならば、道化のようにも踊ってみせよう」

 声が聞こえる。天より響く。
 影の頂点で宣言するのは、かの緑の髪の男だ。
 聖杯戦争を下らぬと断じ、しかし綾名の在り方にこそ、意義を見出した男だ。
 遠き世界で刃を振るい、坂凪綾名と同じ矛盾に、酔いしれ殉じた反英霊の姿だ。

「目を背けることは許さん。しかと見届け焼き付けるがいい。何せそれはお前の姿だ! 俺こそがお前なのだからな!」

 天を閉ざすは闇の荒神。
 空に聳える黒鉄の城は、下界を見下し焼き払う、悪しき暗黒神の化性。
 怨神ヤマタノオロチの具現――その第一の首こそが、彼の宝具であり、彼自身だ。
 雄々しくも禍々しき威光を湛えた、鋼の巨人の姿こそ、「嶽鑓御太刀神(タケノヤスクナズチ)」であり、彼だ。

「この俺のこの姿こそ――スイムスイムの成れの果てだ!!」

 その名はツバサ。一ノ首、ツバサ。
 罪を背負って愛を守り、愛する者の平穏を、彼方より切に願った白を。
 罪にまみれて魔性を引き寄せ、引き裂かれた愛すら汚し尽くしても、此方へと引き寄せんとした黒を。
 矛盾した陰陽の欲望を、しかし一切の矛盾なく貫き、世界へと叫んだ魔人の姿だ。
 そのおぞましき末路こそ、坂凪綾名の行き着く果てだと、ツバサは天を衝く声で叫んだ。
 醜悪であっても、破綻していても、お前がその道を進むのであれば、必ずこの結末へ行き着くのだと。
 高らかに笑うその姿に、綾名が抱いた感情は――今はまだ誰にも、本人にすらも、推し量れるものではなかった。



【出展】神無月の巫女(アニメ版)
【CLASS】ライダー
【真名】一ノ首・ツバサ
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力A 幸運E 宝具A

【クラス別スキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:A
 幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

【保有スキル】
鋼鉄の決意(怨):A
 オロチの意志、すなわち怨念。深き絶望と黒き憎悪。
 最愛を引き裂いた人の世を、地獄と断じ滅ぼすと誓った、鋼の決意がスキルとなったもの。
 オロチの力による身体強化、勇猛・冷静沈着の効果を含む複合スキルだが、1ランク下の精神汚染スキルの効果も内包している。
 人間性を摩耗させ、妄執にのみ生きる男に、余人の理屈は通用しない。
 ……余談だが、精神干渉系の効果のうち、特に魅了に関しては、100%無効化することができる。
 神であろうが仏であろうが、ただ一人のみを見据える彼にとっては、等しく阿婆擦れでしかない。

魔力放出:C
 武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。

剪定事象:-
 並行世界の英霊である。
 特に剪定事象というのは、ある一つの世界から分岐し、乖離しすぎたために消滅した世界を意味する単語である。
 本来なら特記するほどの事項ではないのだが、現在残された世界には、オロチも天群雲剣も存在しない。
 このためツバサも異能とは無縁の、全くの一般人として生活しており、彼と同じ英霊の座を経ていない者には、正体を探ることはできないのである。

【宝具】
『嶽鑓御太刀神(タケノヤスクナズチ)』
ランク:A 種別:対城宝具 最大捕捉:1000人
 邪神・ヤマタノオロチの一部である黒鉄の巨神。
 月光の翼をその身に背負い、宵闇より現れ人の世を焼く、禍々しき荒神の像である。
 メイン武器は刀剣で、他にも両目からの光線や、胸からの熱線などの武器を保有する。
 また、神の分身であるため、Bランク相当の神性を有している。

【weapon】
刀剣
 何の変哲もない長剣。

【人物背景】
 今は剪定事象と成り果て、彼方へと消え去った遠い世界。
 かの地にて名を連ねし人類悪(ビースト)の一・ヤマタノオロチに見初められ、魔性の力を与えられた、七人のオロチ衆の筆頭である。
 怨念を引き寄せた心の闇は、生まれを選べなかったが故に家族と引き裂かれ、汚辱の限りを味わった地獄の記憶。
 しかしその最愛の家族――実弟・ソウマは、自らと敵対する道を選んだ。
 それ故にツバサは、世界の破滅よりも、彼を手に入れることにこそ、暗い情念を燃やしていた。

 彼のかつての望みとは、弟が己とは交わらず、穏やかな光の中で生きていくこと。
 オロチとしての望みとは、弟を闇に染め上げてでも、共に手を取り生きていくこと。
 矛盾した二つの感情は、しかし彼の中では反発せず、さながら陰陽魚のように、表裏一体であり続けた。
 ソウマが己を討とうとも、己に屈し堕ちたとしても、大望は等しく果たされる。
 己を下し、やがて破滅し、それでもと選択を誇った弟を、なればこそとツバサは祝福したという。

【サーヴァントとしての願い】
 もはや聖杯に願うようなものではない。今は反英霊として祭り上げられた、この身の醜悪こそを見せつける。

【基本戦術、方針、運用法】
 神性すら帯びたロボット宝具は、適切に運用することさえできれば、文字通りの鬼札となり得るだろう。
 しかし聖杯すら望まず、理解も共感もはねつける彼には、協調性というものが微塵も存在しない。
 どころか方針を考えれば、嫌がらせに近い行いすらも、平然と選択すると思われる。
 成り行きに身を任せるか、あるいはその思考すら読み切って、上手く誘導してみせるか。いずれにせよ、扱いの難しいサーヴァントである。



【出展】魔法少女育成計画
【マスター】坂凪綾名(スイムスイム)

【参戦方法】
 学校で白紙のトランプを拾った

【人物背景】
 スイムスイムの二つ名を取り、N市にて活動する「魔法少女」。
 先輩魔法少女・ルーラに心酔し、彼女の下につき活動していたが、状況の変化とある人物の後押しにより、反逆を決意。
 ルーラとなるべく、ルーラに挑み、ルーラを排除することによって、ルーラに代わる新たなリーダーとなった。
 愛するがゆえに教えを守り、教えられたがゆえに命を奪う。
 矛盾から始まったロジックは、冷徹な思考力と共に暴走し、魔法少女達へと牙を剥く。

 その正体は七歳の小学生。
 知識は少ないが頭の回転が早く、それが物事の善悪を知らぬ無垢さと噛み合い、最悪の方向へと転がり落ちていった。
 本来辿るべき未来において、彼女は多くの魔法少女達と戦うことになるのだが、正体を見るまで誰一人、その幼さに気付く者はいなかったという。

【weapon】
ルーラ
 魔法の国で鍛え上げられた槍。極めて強力な殺傷能力を誇る。
 ネーミングはもちろん、敬愛するルーラから。

【能力・技能】
魔法少女
 魔法の国の力を受け取り、魔法使いの少女として、変身し力を行使する存在。
 常人を遥かに超えた身体能力と、何事にも屈しない精神強度を誇る。
 ただし変身しなければ、その能力は一般人と変わらず、魔法を発動することもできない。
 変身した姿・スイムスイムは、綾名の実年齢よりもかなり年上であり、その上グラマラスなスタイルをしているため、見た目からは正体を悟られにくい。

「どんなものにも水みたいに潜れるよ」
 スイムスイムの行使する魔法。
 あらゆる物体に潜行し、その中を泳ぐように移動することができる。
 その範囲は無機物・有機物を問わず、相手の攻撃をすり抜けさせるように、無効化することも可能にする。
 ……ただしこの魔法の効果範囲は、実体を持つ「もの」にのみ通用するもの。
 このため光や音波など、実体を持たない攻撃は、無効化できず直撃を食らってしまう。
 また、潜ったものごと空間からえぐり取る攻撃や、そもそも物理的な効果を伴わない精神干渉など、他にも太刀打ちできないものは多い。

精神汚染
 人と会話が噛み合わない。
 ルーラが残したいくつもの教えを、額面だけ受け取り実行する彼女は、その論理に致命的な破綻を来たしている。
 善悪を判断する基準を知らず、結果と合理のみを追求する言動は、たとえ無垢なものであっても、もはや狂人のそれと大差ない。

【マスターとしての願い】
 ルーラのように強くなる。立派なリーダーになるための力を求める

【方針】
 ルーラのように作戦を立て、聖杯戦争に勝利する。強く、気高く、そして賢い、決して失敗などしないリーダーとして。

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最終更新:2017年01月28日 00:08