葛西善二郎は煙草に火をつけ、フゥ、と一息つきつつ思いにふける。
ここに連れてこられる前。
葛西は、絶対悪の王者である男、『シックス』の集めた組織、『新しい血族』の一員として生きてきた。
元々、『シックス』に出会う前から犯罪を美学と称していたし、彼と出会った後でもやはり犯罪を犯していた。
葛西善二郎という男は誰に命令されるまでもなく犯罪を犯していたし、そんな自分が決して嫌いではなかった。
ただ、生きる意味だけは確かに変えられていた。
かつては犯れるだけ犯ってあっさりと燃え尽きれる犯罪者の花道を歩んでいた彼だが、『シックス』に生きる悦びを植え付けられて以降は一転。
葛西善二郎は、誰よりも『人間の犯罪者らしく』長生きをしたいと思うようになった。
さて。そんな葛西善二郎だが、自分の同格の仲間は全て死に絶え、『シックス』は魔人探偵に殺されたことで再び1人の犯罪者となった。
『シックス』よりも長生きをしたいという彼のささやかな願いは見事に叶い、彼を縛るものも無くなった。
だが、それで彼という男がなにか変わったのかと問われればそのようなことはない。
人間の知恵と工夫のみで犯罪を犯しつつ、誰よりも長生きする犯罪ライフスタイルはなにも変わらなかった。
ここに連れてこられ、記憶を失っていた今までもだ。
そう。彼という男はどこまで行っても人間の犯罪者だったのだ。
...さて。そんな葛西善二郎だが、記憶を取り戻し改めて思うことがある。
どうやら自分は生死の瀬戸際に立たされる運命にあるらしいと。
☆
「するってえと、これから俺は他のマスターとやらを倒していけばいいんで?」
「そうだ」
バチバチと燃えさかる民家を背景に、葛西は召喚された男へと伺いを立てる。
男の名は、ツル・ツルリーナ三世。
かつてマルハーゲ帝国という国を治め多くの民を絶望により支配した男である。
「聖杯を手に入れ再び帝王の覇道を歩むには貴様の力が必要だ。力を貸せ、葛西善二郎」
それが当然だと言うように言い放つ三世だが、しかし葛西は特に嫌悪を抱くことも無く恭しく肯定のお辞儀する。
「かしこまりました、三世殿。...んで、俺はなにをすればいいんで?」
「まずはオレの下僕と成り得る者たちを集める。帝国を再建する以上、俺の手足となるべく者は必要だ」
これはまた随分と堅実的な考えだと葛西は感心した。
かつての主である『シックス』も血族の血を引いている者を集めはしたが、実質それは遊びのようなもの。
少しでも期待を背けば容赦なく壊してしまうこともあれば、何の非がなくとも気分次第で踏みつぶすこともある。
要は、彼は三世とは違い、部下を駒にすら見ていない。真の血族であるのは自分だけだという自負のもと、玩具を遊ばせているにすぎないのだ。
そんなシックスよりは、彼の方が幾らかマシなタイプだと思った。
「葛西。この聖杯戦争で俺の役に立てばお前には三大王の座を与えよう」
「ソイツはイイ立場なんで?」
「オレの側近だ。光栄に思え」
「へぇ...ま、考えておきますわ」
そんな葛西の予想外な返答に、三世は思わず呆気にとられてしまった。
葛西はマッチを取り出し、燃え尽きた煙草を捨て新しい煙草に火を点ける。
「ああ、いや、勘違いして不機嫌になられても困るんで先に言っておきますが、俺はあんたを過小評価なんざしてません。むしろ、絶対に俺の敵わない化け物だと思っています」
「ほう。そこまで分かっていて、オレの側近には興味がないと。ならばお前の願いはなんだ」
「ちっぽけなモンですよ。大多数の人間と同じ望み。ささやかで、冷めててそれでいてだいそれている」
「ほう。その望みとは?」
指で挟み煙草を口から離し、ふう、と上空に煙を吐く。
「長生きしたいんですよ。あんたみたいな人間離れした怪物よりね」
煙は空に昇り四散する。が、一部だけはそのまま空へと昇っていく。
「あんたみたいな化け物は世界の誰よりも長く生き続けるだろう。あんたを脅かす者がいない限りな」
昇った煙は、他に散った煙同様そのまま消えた―――が、確かにほんの数コンマだけ他の煙より長く視認することができた。
「そんな帝王たるあんたより、コンマ1秒でも長生きしてみたい...俺の望みはそれだけでさァ」
葛西の返答を聞き終った後、三世は自然と笑みを浮かべていた。
(面白い奴だ。今までの部下にはいなかったタイプだ)
三世の部下には様々な人種がいた。
ただただ三世を信奉する者。
己の力を振るいたいだけの者。
従うことによって更になる力を手に入れようとした者。
物欲にかられた者。
真意の読めない者。
憎きボーボボ達に敗れたとはいえ、優秀な部下は多く、それは三世も認めている。
だが、この葛西はそんな元・毛狩隊の面子とは毛色が違う。
自分の力量を測り間違えず、それでいて己のスタンスを変えずに小賢しく立ち回り長生きしようとしている。
とはいえ、決して世の為人の為に動く人間ではない。召喚された時に見た放火場面がそれを物語っている。
いわば、誰よりも強かな『人間の犯罪者』のエキスパート。
今までの部下はどうにかボーボボ達を倒そうと躍起になっていたが、彼なら追い詰められればプライドもなにもかもを置き去りにしてさっさと逃げ出すくらいはやってのけるだろう。
案外、ただ強いよりはそういった者の方が長生きするのかもしれない。
「気に入ったぞ葛西善二郎。オレに従う限り、お前の命は保証してやろう」
「ありがたいお言葉で」
恭しくお辞儀をする葛西。
そんな彼の耳にサイレンの音が届く。
「警察だ!放火および器物破損の罪状で逮捕する!」
あっという間に銃を構えた数十人の警官に取り囲まれる二人。
「あらら...ちとお喋りがすぎちまったか。ここは、ズラかりましょうぜ三世様」
囲まれてはいるが、ちゃんと逃走経路は用意してある。
葛西の足元付近から走る灯油。
これに火を点ければ、炎は警官たちを襲い、その隙に自分達は足元のマンホールから逃走する手はずだ。
早速計画を実行しようとした葛西の前に、三世がズイ、と進み出る。
「貴様、それ以上動くな!」
「ちょうどいい。オレの力を披露するついでに凱旋の狼煙をあげるとしよう」
警官の言葉を無視し、三世は杖を生み出しくるくると回す。そこから現れるのは大量の純白のハト。
「やだなにこのハト!超カワイイ!」
「ほーらほら餌ですよ」
ハトに気をとられ、思い思いに触れ合う警官たち。
「真紅の手品真拳奥義『ハトの魔術』」
そんな警官の想いに応えるかのように―――ハトは警官諸共爆発した。
「ギャアアアアアア!国家権力万歳―――!!」
(悪役みたいな台詞で散った!?)
自分が引き起こした惨状にすら眼中などないかのように、三世は悠々と歩みを進める。
その様を見て改めて思う。シックスのような絶対悪ではなくとも、彼もまたれっきとした悪の帝王だと。
そして、こんな人間離れした力を手に入れることのないように、自分が死んだ後もサーヴァントとして呼ばれないよう聖杯に願おうかともボンヤリ考えた。
「いくぞ葛西。オレが帝王へと返り咲く日も近い」
王の歩みに、人間もまた続く。
伝説の犯罪者は、再び悪の帝王と共に炎燻る犯罪のロードへと足を踏み出した。
【クラス】キャスター
【真名】ツル・ツルリーナ三世
【出典作品】ボボボーボ・ボーボボ
【ステータス】筋力B 魔力EX 耐久B 幸運C 敏捷B 宝具A+
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。
道具作成:EX
魔力を消費することで無から武器を生み出すことができる。
【保有スキル】
執念:A
執念深さ。己の目的を達するまではなにがあっても挫けないだろう。
帝王:A
帝王たる素質。彼が放つ威圧感や圧力には並の人間や英霊では耐えられないだろう。
また、己の力を他人に譲渡することもできる。
カリスマ:B
人望を集める力。基本的には力で押し付けるタイプだが、部下であるハンペンは捨てられても尚敬称で呼んでいたり、コンバット・ブルースは最後まで三世についていたことからそれなりの人望はあることが窺える。
【宝具】
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:30 最大補足:30
肉体を破壊する技。強力且つ使い勝手がいいためか、こちらが三世のメインの技となる。
ランク:B 種別:結界宝具 レンジ:20 最大補足:15
敵の精神に影響を及ぼす技。こちらは限定的な場面でしか使用できない。
ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:5 最大補足:30
一定時間、三世が空間を支配する。この空間内は三世の理想郷であり、自在にコントロールすることができる。
また、この空間を破壊するか三世の空間を維持する力が消えない限り脱出は不可能である。
【weapon】
真紅の手品真拳で生み出すため特になし。
【人物背景】
100年前、当時弱小国だったマルハーゲ帝国をたった4日で大帝国にのし上げた マルハーゲ帝国3代目にして歴代最強の皇帝。
真の姿に戻るために毛の王国の人間の体内に存在する毛力(パワー)の源である毛玉を欲し、毛の王国の生き残りを狙っていた。
極度の人間嫌いで人間をゴミ呼ばわりする反面、皇帝である自分を至高の存在だと信じて疑わない。
ボーボボたちと激戦を繰り広げるが超絶奥義の前に敗北。以降、コンバット・ブルースと行動を共にする事が多い。
後に毛玉を奪う為にコンバット・ブルースと共に新・毛の王国に現れる。ボーボボに敗れ満身創痍のビービビから毛玉を奪い取り、背中に4本のアームが付いた鎧を着た姿になった。
『真説』では「ネオマルハーゲ帝国」を創り上げ、毛狩り隊改めケガリーメンたちを支配下においている。
善滅丸を使いネオマルハーゲ帝国を超最強軍団に変える「Zプロジェクト」を進行。続いて自分の部下以外の真拳使いを皆殺しにすることを民衆に伝え、宣戦布告する。
その後、ボーボボとの戦いに敗れ、最終的に「オレは何度でも蘇る」という言葉とビービビの毛玉を残して消滅した。
【聖杯にかける願い】
マルハーゲ帝国を再建しボーボボ達を殺す。
【マスター名】葛西善二郎
【出典作品】魔人探偵脳噛ネウロ
【性別】男
【weapon】
袖に仕込んだ火炎放射器。これを使えば傍からみれば手から炎を出しているように見える。
【人物背景】
シックス率いる「新しい血族」の中でも選りすぐられた五人の腹心、「五本指」の一人。
全国的な指名手配犯であり、放火を主に脱獄も含めて前科1342犯のギネス級の犯罪者。
先祖代々、火を扱う者としての「定向進化」を受け継ぎ、その恩恵により火の全てを司ることができる...が、彼の美学は人間を越えないこと。
彼の手品のような炎の扱い方は、全て小細工と知恵、計算によるものであり、全ての「新しい血族」の中で、唯一「定向進化」に頼らず人間の犯罪者として在りつづけた。
また、葛西の目標は「人間としての知恵と工夫で、人間を超越したシックスよりも長生きすること」であり、「新しい血族」の中でも、唯一シックスに対する絶対な忠誠心を抱いていない。
そのため、自己中極まりないシックスに対して唯一意見ができ、且つシックス自身もそれを不快にも思わない、云わば友人(対等ではないにせよ)とも言える数少ない存在である。
重度のヘビースモーカーであり、一日に8箱ものタバコを消費する。
【能力・技能】
前述した通り、全ては知恵と工夫の結晶であり、何も無いところから火を放つことなどはできない。
そのため、火を起こす時にはマッチや火炎放射器を使用している。
他の「五本指」と違い、身体能力を飛躍的に上昇させる強化細胞を身体に埋め込んでいないため、純粋に生身の人間である。
しかし、高層ビルの壁をすいすいとよじ登る、強酸を仕込んだ銃弾を何発も受けても割りと余裕ある動きができるなど、かなり高い身体能力を有している。
- 火にかけた親父ギャグのレパートリー:1000以上。
例
「ヒヒヒッ」→「火火火ッ」
【方針】
三世と共に勝ち抜く。
【聖杯にかける願い】
己の美学である"人間を越えないこと"は決して曲げずに長生きする。そのため、聖杯そのものには大した興味は無い。
最終更新:2017年01月28日 03:25