天使の救い方 ◆CxyioHyIhc


それはささいなすれ違いだった。
迷い子となった少女が最後に帰ろうとした果ての場所。
受け入れてくれると信じた。あの『お兄ちゃん』ならば。
自分に愛が何たるか教えてくれた彼ならば。
きっときっと、受け入れてくれると信じていたのだ。
だから、軋む心と体に鞭打って全速力で飛び続けた。
そして―――



『エンジェロイドは帰ってくんなッー!!』




そして、優しい『幻想(ユメ)』は終わる。

よろよろと、尻もちをついて崩れ落ちる。
世界が壊れた音を聞いた気がした。
絶え間なく動力炉が痛み続ける。
こんなのは嘘だ。嫌だ。
頬を何かが伝っていく。

ぽとり、
そんな音を立てて自分が抱えている上履きの中から何かが落ちた。
頬から流れる液体そのままに、視線でそれを追う。
それはカードだった。
シナプス製カードにも似ていたが、違う。
それは白紙だった。
白紙の、トランプだった。
ぐちゃぐちゃの思考回路でそれに手を伸ばす。
直ぐそこで聞こえるお姉様達の声も聞こえない。
ただ茫然と、まっさらなソレを、少女は掴んだ。






「―――痛い、痛い、痛い痛い痛いぃ………」


打ち捨てられた廃教会で、少女は独り打ちひしがれる。
その背の幾何学的な黒い翼は未だ修復せず、右手に刻まれた刻印も相まって、哀れな咎人が神に懺悔するようで、
胸が痛い。心が痛い。何もかも痛い。
その痛みは忘却を許さない。安穏としたモラトリアムの期間さえ奪い去る。
シナプスの第二世代戦略エンジェロイド。
最先端兵器たる体は、本来ならシナプス本国の防御プログラム・ゼウスすら容易には破壊できないはずなのに。
今は、何もしなくても、壊れて崩れて行ってしまいそうで。



「ッ!…………くすくすくす」


だから、心を守るためには、狂うしかないのかもしれない。


「そう、なのね?」


堕ちていくしかないのかもしれない。
エンジェロイドは、夢を見ない。


「やっぱり、痛いのが『愛』なのね?」


ならば、与えよう。この痛みを、この愛を与え続けよう。
ここに来るさい、刷り込み(インプリンティング)された情報を参照する。
この街にいる人間全てに『愛』を与えていけば、聖杯というものが手に入る。
それをお兄ちゃんに渡せば、褒めてもらえるかもしれない。
『いい子』として、おうちに帰れるかもしれない。
だから。






「ううん、違うよ」
「違うな」



その声で、自分の前に誰かがいるのにようやく気がついた。
自分のレーダーにも捕捉されず、今突如として現れた人影二つ。
ゆっくりと顔を上げ、何某かを検める。
自分とは真逆の白い修道服を纏ったシスターと、
ツンツン頭の『お兄ちゃん』位の年の少年がそこにいた。


「お兄ちゃん達、誰……?」


そう問われると、二人は目くばせを交わすと、白シスターの方が進み出でくる。
そして、静かに少女を抱きしめた。


「私はね、インデックスって言って
とうまが貴方に呼ばれて、私もとうまに呼ばれて、貴方を助けに来たんだ、マスター」
「助、けに……?」


うん、と力強くインデックスと名乗った少女はカオスと自分が呼んだ少女に微笑みかけた。
彼女は優しく頭を撫でながら、言葉を紡ぐ。
全ては、迷える子羊を救わんがために。

「貴方は悪い子なんかじゃないよって
誰かに痛くしなくても、おうちに帰れるよって、教えてあげに来たの」
「―――ちがう!!」

違う。
自分は悪い子で。
だからお兄ちゃんは。
良い子にならなければ、
皆みんなに愛を”押し付けて”、聖杯を手に入れなければ。

…そんな破綻した思考回路のまま少女は後方へ下がり、禍々しい黒の翼を広げ、インデックスを恫喝する。
少女の翼は既存の兵器など容易に輪切りにできる。それだけの威圧感も持っている。
だがインデックスは臆する様子も無く、カオスに歩み寄っていく。

「大丈夫だよマスター。やっぱりあなたは悪い子なんかじゃないから」
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……こないで!」


カオスはインデックスの言葉を否定し、キリキリと狙いを絞る。
まるで駄々をこねる子供のように。
それを見たインデックスは、静かに瞑目すると、祈りの姿勢を取った。

轟っっ!!

小さな少女の体など、百人纏めて貫いて余りある、漆黒の暴威が振るわれた。
斬撃が空間を灼き、轟音が大気を裂く。
しかし、純白のシスターは斃れない。
傷一つ無く立っている。
『歩く教会』
あらゆる魔術的干渉、聖人の攻撃すら守護する、喪われて久しい彼女の霊装が彼女を護る。

「一人ぼっちにならなくてもいいんだよ、人と人はやり直せるんだよ
『お兄ちゃん』とも、きっと仲直りできるよ」

一年ごとに忘れたくない人を忘れてきた少女は高らかに言う。
築いてきたものを、余りにも短い一年という時で零にするしかなかった少女は、それでも。
罪は赦せる、祈りは届く、人はそれで救われる。
甘い夢物語だと唾棄される事すらあったかもしれない。
しかし彼女達修道女はそれを謳い、長い時の中、教えを広めてきたのだ。
そして彼女もまた、救われた。
皮肉にも、神様の奇跡すら否定する右手で。
だから。



「きっと、とうまと私がおうちに帰してあげる」
「あ…」


今度こそ、少女を離さぬように抱きしめる。
それが決壊の合図だった。
唇が震え、瞼の奥が熱くなる。
堪らなくなって、遂に黒い修道服の少女は純白の修道服の少女に抱きついた。
戦略兵器などではなく、子どもの様にただ泣き続ける。
純白のシスターは、再び瞑目しそれを慈しむ。
そうやって、しばらく二人の少女は抱き合っていた。




「じゃ、これ以上はカオスの魔力的に良くないし…また次に呼ぶときまで頼むんだよ、とうま」
「あぁ、でもなぁ…あんまり無茶するなよ。見てるコッチがヒヤヒヤしたぞ」
「とうま直ぐ女の子泣かせちゃうから、裸にひん剥くし、しょうがないんだよ
それよりも、次呼ぶときはご飯を一杯用意しておいてほしいな」
「お前にとっての俺の評価は女泣かせの鬼畜か何かなのか…?
てか、宝具のくせに食い意地張ってんじゃ…ああやめろやめろそんなガチガチ歯を――」






白い純白のシスターが消え、世界は三人から二人になる。


「ブレイカー、インデックスお姉ちゃんは…?」
「ああ、あいつならお前の負担にならないよう一端帰ったよ、
でも大丈夫だ、またきっと呼んでやるから、てか呼ばないと俺が喰いちぎられるしな」

そうやって力強く言う少年。
カオスはその言葉にとても心強さを覚えた。
あのお姉ちゃんの顔を思い出すと、それだけで胸が熱くなってくる。

(ああ、そっか)

これがきっと―――お兄ちゃんが言っていた。

「さてマスター、インデックスのお蔭で俺からいう事はあんまりないんだけどさ
お前は、どうしたい?」

何か得心がいった様子の主を見つめて少年は問う。
問われた少女は僅かな逡巡と共に答えた。

「私は…『お兄ちゃん』の所へ帰りたい。聖杯なんて手に入らなくてもいいから
それでも、帰りたいよ」

そうか、とその答えにブレイカーの少年は静かに笑った。
やるべきことは定まった。
ここからは自分の―――上条当麻の仕事だ。

「あぁ、絶対帰して見せるよ」

抱き合う二人を見て、守ろうと思った。
“この“自分は大した人間では無いけれど。
学園都市を救って見せたワケでも、
世界大戦を終結させたワケでも、
魔神を救って見せたワケでもない、
偽善使い(フォックスワード)でしかないけれど、
後の上条当麻も、自分が大した人間だからと、拳を握り続けた訳ではないはずだから。
笑っていて欲しい女の子の為に、拳を振るったはずだから。

「証明してやるから」

特別なポジションや理由など必要ない。
ブレイカーを示す名に正義や邪悪など必要ない。
それしきでブレイカーは揺らがない。
きっと、後の上条当麻もこういうだろう。
過去と未来、二つのピースが交差し、嵌る。

「お前の幻想(ユメ)は簡単に壊れるものじゃないって」

やる事はどうしようもなくシンプルだ。
そのままだと堕ちていってしまう天使に、
救われぬ者に、救いの手を。


【クラス】
ブレイカー

上条当麻@とある魔術の禁書目録

【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:E 幸運:EX 宝具:EX

【属性】
中庸・善

【クラススキル】

救済否定者:EX
神の右席や魔神の世界救済を打ち破ってきた後のブレイカーの逸話から与えられた破壊者としてのスキル。
その性質は救済の否定。
セイヴァー、或いは世界に救いをもたらさんとしたものがブレイカーと相対した場合、
全てのパラメーターが1~2ランクダウンし、+補正も打ち消される。
超越した力を以て世界を救おうとするものを、右拳の届く世界に引きずり堕とす。

【保有スキル】
前兆の感知:A
『本人の意図しない微弱な動き』からこれから行おうとしている攻撃を察知する力。
能力そのものと、そこから派生する余波を、どう利用するかと言う判断基準。そして具体的に行われる臨機応変な戦術の切り替え。
それらを反射神経と組み合わせて、頭の裏側にある部分で処理した結果光速の雷撃にも完璧に対応してみせる超反応。
直感と心眼(真)の複合的効果を持つ。

偽善使い(フォックスワード):B
カリスマなどの異能の関係しない精神干渉に対する耐性。
誰かの思惑が絡んでいた上での選択だとしても、自分の考える最善の行動を最後までやり通そうとする強い意志。
また、その意志を言葉にして相手に伝えることで、相手の精神を揺さぶって行動を鈍らせることもできる。

戦闘続行:B
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

【宝具】

『幻想殺し』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
偶像崇拝の理論により"上条当麻の記憶"が英霊となる際聖杯によって再現された、
本来の物とは異なる、しかし規格外の破壊者である彼の象徴とも呼べる宝具。
魔術であっても超能力であっても、それが『異能』に属するあらゆる力を打ち消すことができ、宝具であっても触れただけで破壊可能、その性質上無効化も不可能である。
ただし、宝具を破壊しても、魔力によってすぐ再構成されるだけなので、魔力供給減を断たぬ限り完全に打ち消すことはできない。
またブレイカー個人を対象とした呪いや精神干渉なども無効化できる反面、回復魔法なども無効化してしまう上に副作用として幸運パラメーターが測定不能の最低ランクまで下げられる。
そして聖杯によってあくまでそれらしく再現された贋作(フェイク)なので「サーヴァントそのもの」「マスターからの魔力供給」「令呪」「狂化」等は打ち消せない制約を持っている。

『竜王の顎(ドラゴンストライク)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大捕捉:1人
聖杯が幻想殺しの中に潜む者すら再現しようとした結果獲得した宝具。
当然その性質は本来の物とは異なる。
幻想殺しがブレイカーから切断されることで使用可能になり、右手が巨大な竜の頭に変わる。
幻想殺しの能力が遠隔でも発動するようになり、それに加えて牙に触れた相手の霊格を直接消滅、マスターならば記憶の全消去をもたらす。
こちらには幻想殺しにかかっていた制約がないのでサーヴァントにも有効だが、それはブレイカー自身も例外ではなく、この宝具の使用後ブレイカーは本聖杯戦争から消滅する。
事実上の特攻宝具。

『旧約・とある魔術の禁書目録』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
神の右席を退けた訳でもない、第三次世界大戦を終結させたわけでもない、魔神を救済したわけでもない、7月28日に死亡した彼が成し遂げた最大の救済にして逸話の具現。
当代の禁書目録の管理者としての権能を以て禁書目録を召喚する。
供給される魔力量によって再現できる再現される霊装等は決まり、絶対の物理・魔術干渉への守りを誇る『歩く教会』や『自動書記』等を全て再現しようと思えば、令呪のブーストが不可避な程に魔力消費は跳ね上がる。
ただし『首輪』だけは、救済の象徴としての宝具という性質上再現できない。
またそれらの霊装の他にも他者の詠唱を強制的に乗っ取る『強制詠唱』や『信仰』を否定し統一された集団を行動不能にする『魔滅の声』などを得意とする。
まだ禁書目録の少女がブレイカーにとっての日常になる前だからこそ、連れてくることができた。

【weapon】
右手。

【人物背景】
学園都市に住まう平凡な男子高校生…の筈だが
7月28日に死んでしまった"初代上条当麻の記憶"が後の世の影響によりただの記憶から昇華し、英霊となったもの。
そのため人格・性格は旧約一巻の上条当麻であり、生身の彼が持っていた『幻想殺し(イマジンブレイカー)』も本来の力を喪失している。

【サーヴァントとしての願い】
無い。マスターを元の世界へ帰す。


【マスター】
カオス@そらのおとしもの

【マスターとしての願い】
お兄ちゃんの所へ、帰りたい

【weapon】
第二世代エンジェロイドとしての肉体、及び搭載した多数の兵装・電子兵装。
自己進化プログラムPandora

【能力・技能】
上記の兵装に加えて変身能力やエンジェロイドには禁忌とされる夢への干渉能力も有する。

【人物背景】
第二世代エンジェロイド・タイプε(イプシロン)「Chaos」
ただ愛されることを夢見た、兵器の少女。

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最終更新:2017年01月29日 21:19