元・MI6のエージェント、ニクスは自らが置かれた状況を整理する。
復活したダ・ヴィンチの起こした事件をルパンが解決し数ヶ月が経過したころだ。
既にMI6を半ば強引な取引で退職していた彼は、今まででは考えられないほどに平和な生活を満喫していた。
愛する妻と三人の娘。彼らに後ろめたい気持ちで接することがなかったこの数ヶ月は本当に幸せであった。
だが、それは突如として一変する。いや、彼ら家族が平和だったことには変わりがないので周囲のみが変わったというべきだろう。
ポストに入っていた紙―――これがトランプであることは後になって知った。これに触れた途端、今までの記憶は全て消え、気が付けばスノーフィールドの警察官の一人となっていた。
また、家族もこのスノーフィールドへ連れてこられており、ニクスは彼らと円満な生活を送っていた。
MI6や余計なしがらみを気にすることのない平凡なこの生活。彼にとってはやはり満たされたものであった。
数週間後、捜査資料として見つけたトランプに触れた瞬間―――すべてを思い出す。
自分は警察官ではなく元エージェントであったこと。
この世界にはトランプに触れてから連れてこられたこと。
また何者かが家族に手を出したのか―――瞬間湯沸かし器のように怒りが煮えくり返りそうになったニクスだが、この世界での家族の顔を思い出し留まる。
この数週間は本当に平和な日々だった。家族だけでなくニクスも心から笑顔で過ごすことができた。
ここがどこかはわからないが、もしかしたら何者かは自分を匿ってくれたのではないだろうか。
そんな淡い期待はすぐに撃ち破られることになる。
「あなたが俺のマスターか」
背後からかけられた声に振り返る。
いつの間にいたのか―――そこにはレインコートに身を包み、丸眼鏡とマスクをし顔を隠した男が立っていた。
不審者だ!そう叫びまわるよりも早くニクスは拳銃を構える。
こうも気配を隠すことができる達人だ。おそらく他の者が来たところで太刀打ちはできないだろう。
「貴様、何者だ」
「俺はあなたの味方だ。この世界のことを知るために、俺の話を聞いてくれ」
「......」
ニクスは考える。
この男は味方というが、どう見ても信用に値しない。
このような男が娘に近づこうものなら躊躇わず能力を行使し意地でも引き離そうとするだろう。
(だからこそ、聞くだけの価値はあるか)
信用を得たい者ほど見栄えがよく小奇麗な装いをするものだ。
エージェントであるニクスはそういった者ほど裏の顔を持つことを身に染みている。
だが、この男は取り繕いもせずに話を聞いてくれというのだ。
少なくとも下手に小奇麗な者よりは信用がおけるだろう。
「...話してみろ」
「ありがとう」
拳銃は突きつけたまま、ニクスは男の話に耳を傾ける。
男の語る事柄はにわかには信じがたいものだった。
この男―――宮本篤はサーヴァントというかつて死んだ者であり、自分以外にもマスターとサーヴァントの関係にあるものがいること。
如何なる願いをも叶えることができる聖杯に、それを巡る聖杯戦争のこと。
本当に信じがたい。信じがたいが―――彼の言葉を嘘と断定することもできなかった。
「俺は可能ならば聖杯を手に入れたい。だが、最終的な判断はあなたにゆだねる」
「......」
ニクスは考える。
現在の自分の状況。家族。聖杯戦争の性質。etc...
そこで、ある疑問に辿りつく。
「ひとつ聞かせろ。俺の家族もこのスノーフィールドに連れてこられている。彼女たちはどうなる?」
「えっ?家族がいる...のか」
「答えろ」
篤は俯きニクスから視線を逸らす。やがて、言い出し辛いような悲痛の面持ちを見せた。
ニクスが理解するのにはそれで充分だった。
「彼女たちも巻き込まれる可能性があるのか...!」
「...ああ。他のマスターが手段を択ばない奴であれば、な」
「貴様ァァァァァ!!」
ニクスは激昂し篤の胸倉を掴み上げる。
わかっている。篤もまた駒のひとつにしかすぎず、彼にもどうすることもできないことは。
だが、家族が危険な目に晒される可能性に憤りを感じずにはいられなかった。行き場のない怒りをぶつける他なかった。
「...マスター。俺は、聖杯を手に入れたいと言った。だが、あなたの家族を危険な目には遭わせたくない」
ハァ、ハァ、と息を切らしつつ篤はニクスを見据える。
「俺には弟がいた。優しくて、将来は小説家になりたいなんて言ってた弟だ。俺はそんな弟を地獄に引きずりこむだけではなく重い十字架を背負わせてしまった」
「地獄?」
「かつての仲間や肉親が容易く敵にまわり殺さなければ生きられない場所だ。俺も、多くの仲間を葬ってきた」
かつて篤は、亡者と化した友を殺した明を、よく試練を乗り越えたと褒め抱きしめた。
けれど、本心では明に戦ってほしくなどなかった。憎しみなど覚えてほしくはなかった。
かつての友・村田の弟、武と同じように、優しさを忘れず無理に変わってなどほしくはなかったのだ。
だが、彼岸島という地獄はそれを許してはくれなかった。
優しき少年たちは、憎しみを募らせ続け、やがてまともでいられなくなった。
そうすることでしか生き残る道は切り開けなかった。
「あいつは今でもその地獄で戦い続けているだろう。...俺は、もう誰にもこんな辛い思いはさせたくなかった」
篤は家族や仲間を失う辛さや殺す苦しさを知っている。
聖杯を手に入れたかったのは、明や仲間たち、涼子ら心優しき吸血鬼たちをあの呪われた運命から救い出すためだ。
そのためなら己にどんな地獄が待ち受けていようとも構わない。そんな想いであった。
だが、マスターの家族も連れてこられていたのは予想外だった。
「すまない。こんなことになってしまって...」
篤は目を瞑り己の腹に渦巻く苦しみを噛みつぶす。
いまの彼にできるのは謝ることだけだ。
そして一度戦闘が始まれば、ニクスたちになるべく関わらないよう自分だけでなんとかする。
聖杯を諦めるわけにはいかない篤には、そうすることでしか彼らを守れない。
「......」
そんな篤を見据えていたニクスは、やがて手を離し背を向けた。
「...俺も人を殺したことはある」
かつてのニクスはMI6のエージェントとして命令に忠実だった。。
その中には当然殺人の命令もあり、ニクスはそれに反対することなく素直に従ってきた。
本当は殺したくはない、などと感情を抱くことは無く、任務だと割り切るだけだった。
だから、篤のように心の底では殺人に忌避感があるわけではない。
きっと、彼とニクスが心の底から解り合うことはないだろう。
「家族を守れるのなら、今さら己の手が汚れようが気にすることは無い」
「!」
だが篤の顔に嘘は無いことだけはわかった。
彼にも守るものがあること。そしてなにより彼も家族を愛する者であること。
そして、そのためならば己の手を汚すのを厭わないことを。
それだけは、互いの唯一の共通点であるとニクスは確信した。
「聖杯戦争というのは二人で挑まねばならないのだろう。妙な気を遣って家族に危害が加わることになれば俺はお前を許さない」
「...礼をいう、マスター」
篤は、頭をさげずにはいられなかった。
正直、一人で勝ち残るのは苦しいと思っていたからだ。
彼もまた家族のために戦ってくれるのならこれ以上なく心強いことだった。
「ジャスティン・パーソン。これからはそう呼べ」
「え?」
「おまえがマスターと呼んでいるのを聞かれれば他の奴らにも俺たちが聖杯戦争の参加者だと割れかねん」
「...わかった。これからよろしく頼むよ、パーソンさん」
元・エージェントとアサシンの称号を得た戦士。
愛する者たちのために戦う彼らの聖杯戦争はかくして幕をあげることになった。
【クラス】アサシン
【真名】宮本篤
【出典作品】彼岸島
【ステータス】筋力:B 魔力:E 耐久:B 幸運:E 敏捷:A 宝具:B
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見は困難。
【保有スキル】
矢よけの加護:D
飛び道具に対する防御。
狙撃手を視界に納めている限り、弓矢による攻撃を肉眼で捕らえ、対処できる。
また、あらゆる投擲武器を回避する際に有利な補正がかかる。
ただし、超遠距離からの直接攻撃は該当せず、広範囲の全体攻撃にも該当しない。
単独行動:D
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
本来はアーチャーのクラススキルだが、長年の修練によって独自のスキルとして反映された。
無窮の武練:C+
かつて彼岸島の吸血鬼のボスである雅と一騎討ちの果てに一時的にとはいえ勝利を収めた武練。
いかなる戦況下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる
感染:B
宝具『吸血鬼化』を発動した時のみ発動できる。魔力を消費することにより血を与えた者を彼岸島産の吸血鬼にすることができる。
NPCのみに有効であり、マスターやサーヴァントには効果がない。
【宝具】
『丸太』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~4 最大補足:1~15
彼岸島の主要武器のひとつ。これを振り回すことで篤や仲間たちは吸血鬼や亡者といった人外の者たちを葬ってきた。
また、矢を防ぐ盾になるのはもちろん、車に槍状に括り付け亡者の壁を突破、巨大な丸太で分厚い城の門を破壊する、ケーブルカーに括り付け吸血鬼を一掃など応用性も半端ない。
『薙刀』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大補足:1~30
篤の本来の武器。これを手にした篤はまさに縦横無尽じゃ。携帯に不便なため、普段は薙刀より運びやすい日本刀や丸太を使用している。
日本刀はともかく丸太の方が持ち運びにくいのではとかツッ込んではならない。それには訳があるんじゃ。
『吸血鬼化』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:自身のみ。
彼岸島の吸血鬼の身体になる。吸血鬼になれば力は増すわ病気にはかからないわ少々の怪我ならすぐに治る体質になる。
デメリットとして定期的に人間の血を飲まなければ意識の無いままに暴れまわる邪鬼や亡者のような醜い怪物に変貌してしまう。
この宝具は一度発動すると二度と元に戻ることができなくなる。
【weapon】
篤の主要武器。
【人物背景】
彼岸島の主人公である宮本明の兄。作中の通称は兄貴。二年前、婚約者の涼子と共に来た神社で、閉じ込められていた吸血鬼の雅を開放してしまった為に、悲劇を起こす事になる。
後に明を助けるために雅の返り血を浴びて吸血鬼ウイルスに感染し、雅の動きを封じたまま、明が邪鬼を落とした振動で起きた雪崩に巻き込まれ死亡したかに思われたが、吸血鬼として五十嵐の研究所址にて再登場し、その際に自らの意志で雅に従っている事を告白。
明側、ひいては人間側と訣別。吸血鬼側につく。
涼子を傷付けた事への贖罪も兼ねて、人間を捕まえられず雅に見捨てられた年寄り吸血鬼達の面倒も見ており、皆から信頼されている。
お互い守る者(明は人間、自分は涼子達)があることを明に教え、自分が弟に超えられる事を恐怖に思っていたことを告白。ワクチンを賭けて明と真剣勝負を挑む。初めの頃は雅から「丸メガネ」と呼ばれていたが、後に「篤」と呼ばれている。以前は青山冷と組み、雅の不死の秘密について調査していた。
武器は丸太と日本刀を愛用していたが、実際には薙刀をもっとも得意とし、その腕前は師匠をも上回る(大型の武器で携帯に不向きなため、あまり使用していなかった)。
明との真剣勝負で深手を負い、それにより吸血鬼の血が覚醒、逃亡した先の教会において、そこで行われていた結婚式に乱入、そこに居た神父、花嫁、参加者を皆殺しにし、自分の血で吸血鬼にして利用するという吸血鬼の本性を表した。
激戦の際に左目を潰され失明した挙句、明に深手を負わされている。涼子やお腹の中にいる子供、そして村の老吸血鬼達を守らねばと命乞いをするが、直後に足場が崩れ転落した。
その際、落下の衝撃から明を庇ったため下半身を失い瀕死の重傷を負う。その後、明にとどめを請い、彼の介錯でその生涯を終える。享年25。平成15年4月3日の事であった。
【聖杯にかける願い】
雅を抹殺し愛する者たちを使命に縛られない元の生活へと戻す。
【マスター名】ニクス(ジャスティン・パーソン)
【出典作品】ルパン三世(2015年TVシリーズ)
【性別】男
【weapon】
愛用拳銃
【人物背景】
イギリスの諜報機関MI6に所属する殺しのライセンスを持ったエージェント。ローマのマルケルス劇場地下にアジトを築き、本部長パーシバル・ギボンズをトップとしてイタリア国内で様々な諜報活動をしている。
「ニクス」という名前はMI6内でのコードネームで本名はジャスティン・パーソン。妻と3人の娘を持つ妻子持ちである。
基本的に冷静沈着であり粛々と任務を遂行していく。しかし、家族が絡むと心拍数が上がって冷静さを失ってしまう。
同時に身体能力も飛躍的に上がるが、半狂乱状態となってエージェントとしては使い物にならなくなるので、その場合は銃撃して重症を負わせた上で回収するという荒業が必要になる。
【能力・技能】
かのルパン三世と渡り合えるほどの身体能力を有する。MI6内では間違いなく最強候補の一人だろう。
物音と反響だけで相手の居場所をつかめる。
心拍数がネズミのように速くなることで周囲の風景が全てスローペースに視えるほど身体能力が向上する。
ただし、暴走状態に近いため感情の制御が難しくなる。
【ロール】
一介の警察官(家族もち)
【方針】
家族を守る。家族に危害を加える者は殺す。
【聖杯にかける願い】
家族を安全な元の世界に帰す。
※ニクスの家族がNPCとして連れてこられています。
最終更新:2017年01月29日 23:46