一意専心、電光石火の如く ◆uL1TgWrWZ.


 ――――――我妻善逸は、ごく普通の男子高校生である。

 齢は十六歳。
 両親はいない。
 いわゆる夜逃げという奴で、幼少のころに両親に捨てられ置き去りにされた善逸は孤児院に拾われた。
 その孤児院はそう大きくも立派でもなかったが、院長である老人はよくしてくれた。
 いや、よくしてくれたという割にはかなり厳しい人物だったが、それでもよくしてくれたと善逸は思う。
 よく殴られたらが、院長は決して善逸を見捨てることは無かった。
 それが善逸には嬉しかった。
 両親は自分を見捨てたからだ。
 彼らが逃げ出す前の晩、善逸はその耳で聞いていた。

 ――――善逸はどうしようもない奴だ。邪魔になるから、置いていこう。

 布団の中でうずくまり、耳を塞ぎながら、今での会話を耳にしていた。
 そして、声で分かった。
 彼らは本気で自分を捨てようとしているのだと、理解してしまった。
 ずっとそうだった。
 善逸はダメな人間だから、誰も善逸には期待しない。
 なにもできないと思っているから、すぐに善逸のことを見限った。
 だから、院長が自分を見捨てずに叱ってくれるのが嬉しかった。
 いや、ほんとに厳しすぎだとも思ったが。殴りすぎだと思ったが。
 それでも、決して見捨てることなく根気よく、自分を育ててくれたことに感謝している。
 感謝しているが……つい昨年、善逸は孤児院を追い出された。
 それはもちろん見捨てられたというわけではなく、要するに「自立しろ」という話で。
 最低限の仕送りはしてやるから、そろそろ独り立ちできるように頑張ってみろ……ということらしい。
 善逸は抵抗した。
 それはもう泣いて喚いて懇願して全身全霊で抵抗した。
 院長が善逸のためを思って言っていることは声から理解できたが、それはそれとして抵抗した。
 死ぬと思った。
 絶対死ぬと思った。
 とにかく全力で駄々をこねて抵抗して……最終的に疲れ果てて寝てる隙に話が全部進んで結局追い出されることになった。
 死を覚悟した。

 ……が、案外どうにかなって今に至る。
 今はバイトで必要な金を稼ぎ、仕送りと共にどうにか暮らしている状態だ。
 バイトはすぐクビになるが。
 なにやってもすぐにクビになるが、どうにか暮らしている。どうにか。
 …………。

「あああああああ待って待って待ってくださいよここクビになったらほんとに死んでしまうぞ!!」

 …………………喚きながら、善逸が建物から追い出された。
 バン、と無慈悲に扉が閉められる。

「うっそぉほんとに!? 一声もなし!? 俺結構頑張ったんだけどそこまで容赦なくクビにできるの!? 人の慈悲が無いのか!?」

 善逸は扉に縋りついてガンガン叩いた。
 泣きわめき、必死に呼びかけた。

「待って待ってもうちょっと雇ってくれよ今月も厳しいんだよ餓えて死んじゃうだろ死んだらどう責任取ってくれるんだよ!」

 それはもう必死に呼びかけ、それが届いたのか扉が勢いよく開く。
 縋りついていた善逸は弾き飛ばされ、尻餅をついた。

「ぶべっ」

 直後に扉が閉まった。

「………………………」

 ……もう扉が開く気配はなかった。

「……うっそぉ……」

 ――――その日、善逸は一人暮らしを始めてから通算三十九回目の解雇通告を受けた。


  ◆  ◆  ◆


「嘘だろ……嘘すぎるだろ……これでもう三十九回目だぞ……そろそろ四十回目だぞ……」

 ……善逸は、泣きながら夜道を歩いていた。
 今回クビになったのはファミリーレストラン。勤務期間は一週間。
 最初はホールスタッフに入っていたのだが、接客に対する恐怖から使い物にならないとして就業その日に厨房へ。
 そして不器用なりに厨房でどうにかやっていたものの、本日火加減を間違えて派手な火を出してしまい、それにビビッて暴走。
 色々ひっくり返したり壊したりして、晴れてクビになった。
 ちなみにこれでも善逸的には長くバイトできた部類である。
 一応一週間分のバイト代は支払われるらしいのが救いか。

「よくないよこれ……かなり嘘だよ……またもやし齧って生きて行かなきゃだぞ……まだ十六歳の少年としてあんまりだろ……」

 ぐずりながらふらふら歩いている善逸に、自分が悪かったという考えはとくにない。
 いや、あるにはあるのだが、それに目を向けるとかなり死にたくなるので目を向けないようにしている。
 とりあえず、また節約して生活するしかない。
 その惨めさに善逸が涙した時、目の前を何かが通り過ぎた。

「ギャーーーーーーっ!!!」
「ニ゛ャ゛ーーッ!」

 猫だった。
 一瞬ヤバイ妖怪か何かかと思って本気で死を覚悟したが、ただの猫だった。
 妖怪?
 ……何か、忘れている気がする。
 気がするが、思い出せない。というかそれどころではない。

「おおお前お前お前マジでふざけるなよ今心臓がまろび出るところだったぞ!!
 そしたらお前殺人猫だからなわかっているのか!!
 言っておくが俺の心臓は多分おいしくないぞわかっているのか!!」

 善逸が泣きながら喚き散らすと、猫はそそくさと逃げて行った。
 あとに残されたのは善逸のみである。むなしい。
 ひとまず今日の所はもう帰ろう。
 善逸がそう思いまた涙した時―――――――ふと、聞こえる声があった。

 ――――――――今何か聞こえたな、セイバー。
 ――――――――うむ。微かだが、男の声だったように聞こえる。
 ――――――――どうする?
 ――――――――夜道の一人歩きか。なら、試し切りにはちょうど良いかもしれん。
 ――――――――然り、然り。では行くか。これも聖杯戦争なる運命の妙よな。

 …………距離は遠い。遠いが――――

「せい、はい……せんそう……」

 ――善逸は、その言葉になにか聞き覚えがある気がした。
 セイハイセンソウ。
 せいはいせんそう。
 聖杯戦争――――――

「――――っ!」

 ――――――――全て、思い出した。
 じいちゃんのこと。
 鬼のこと。
 鬼殺隊のこと。
 伊之助のこと。
 禰津子ちゃんのこと。
 蜘蛛の鬼のこと。
 毒のこと。
 それから、炭治郎のこと。

「……そうだ、俺、あの時……白い札が降ってきて……」

 蜘蛛の鬼との戦いを終え、毒が回らないように呼吸で抵抗していた時。
 木の葉に紛れて空から白い札が降ってきて……それが額に当たった直後、この世界に送られたのだ。
 懐に手を入れれば、そこには白い札。
 そしていつの間にか握られていた日輪刀。
 同時に、聖杯戦争の知識が入ってくる。
 サーヴァント。令呪。マスター。聖杯……

「……………………あっ、これ死ぬ!」

 善逸は聖杯戦争の仕組みを正しく理解した。
 サーヴァントとマスターが殺し合い、唯一の願望機を求めるバトルロイヤル。
 死ぬ。
 どう考えても死ねる。
 と言うか何より問題なのは、先ほど聞こえた声は聖杯戦争の参加者のそれだろうということで……

「――――おう、いたな。童ではないか」
「いや、よく見ろマスター。あの童、刀と、白い札……それから、令呪まで備えておる」
「ほう。つまり――――参加者か。試し切りにはちょうどよかろうな」

 ――――その参加者が、明らかにこちらを殺す気満々だということだろう。
 現れた二人組は、双方侍のような恰好をした美丈夫だ。
 セイバーと呼ばれた方の男は和服を着崩して刀を担ぎ、マスターらしき方は着流しに刀を一本差している。

「おう、童。サーヴァントを――――」
「ギャーーーーーーッ!!!!!!!」

 善逸は逃げ出した。

「待て待て待て待てどういうことだ早いだろ早すぎるだろあんまりだろ!!!!
 心の!!! 準備とか!!!! あるでしょ!!!!!
 俺は今記憶を取り戻したばかりなんだよもう少し待ってくれてもいいだろ時間をくれ時間を時間時間時間!!!!」
「……おー、見事な逃げっぷりよ」

 全力で喚き散らしながら、善逸は逃げ出した。
 なんかもう色々と無理だった。絶対死ぬ奴だった。
 せめてめちゃくちゃ強いサーヴァントが出てきて自分を守ってくれればいいのだが、まだサーヴァントは出てきていない。

「よし、追うか」
「うむ、然り」
「追わなくていいだろぉぉぉぉーーーーーッ!?」

 そしてセイバーたちは情け容赦なく善逸を追ってきた。
 当然と言えば当然なのだが、とにかく善逸は必至で逃げる。

「おかしくない!? 俺なんかした!? しました!? まだサーヴァントも召喚してないのに殺されるとかあんまりじゃない!?」
「適度に痛めつければ出てくるのではないか?」
「おう、そうしよう。ダメならそのまま死ぬだけよ」
「どういう発想をしているんだこの人たちは!!! そんなことしたら死んじゃうだろ!!!!」
「殺すつもりだが?」
「然り」
「ヒィーーーーーーーーーッ!!」
「は、は、は、私は生まれつき人を斬りたくてしょうがない性質でなぁ。かれこれ三十は斬り殺した」
「某など、生前は二百ばかりは斬り殺した。勝ったな」
「殺した数を自慢するのかなり異常者だろ俺こんなのに殺されるの!!!」

 逃げる、逃げる、逃げる。
 向こうも遊び半分なのか、追いつかれてはいないが明らかに余裕そうだ。
 このままでは早晩追いつかれてしまう……と思いつつ、路地を右に曲がる。

「ひぎっ」

 壁にぶつかった。

 ――――つまり、行き止まりだった。

「ぎゃあああああーーーーーーーーッ!!!!!」
「お、行き止まりよな」
「これで逃げられんぞ、童」

 背後にセイバーたちが迫る。
 目の前には壁。逃げることはできない。

「うおおおおお待て待て俺は本当に弱いんだ!! とても弱いぞ!!!
 なんならその辺の野犬にも負けるぐらい弱い!!!
 こんな弱い俺を殺して良心が咎めないのか!!!!!」

 善逸の必死な命乞い(?)に、セイバーたちは肩をすくめた。
 ……答えるまでも無い、ということらしい。

 ――――――あ、死んだなこれ。

 善逸は理解した。
 恐怖と緊張が臨界に達し、意識のブレーカーが落ちる――――――


 ――――――――――寸前。


「■■■■■■■■■■■■■■――――――ッ!!!!」
「っ!?」

 ――――獣が、飛び出した。

「セイバーッ!」

 出所は善逸が手に握っていた白い札。
 門かなにかを通るように、ヒトガタの獣が闇を割き、セイバーに襲いかかる。
 その速度たるや弾丸の如く。
 有無を言わせぬ奇襲にてセイバーを掴み、肩を押し、腕を引き、足を差し込んで。
 一呼吸でその背は既に遠く、その突進力が下を向く。
 それは獣のような凶暴性でなお――――あまりにも美しい、“大外刈り”。

「■■■■■■――――――――ッ!!!!」

 受け身は不能。
 反応も不能。
 爆砕音が大地を砕き、土煙が辺りを覆う。

「セ、セイバー! 大丈夫か!」

 相手のマスターが、困惑のままに叫んだ。
 ……土煙が晴れるとともに、最初に見えたのは獣の姿。
 2mをゆうに超える巨体、尖った耳、耳元まで裂けた口に並ぶ鋭い牙、異様に鋭い手足の爪。
 それは形こそ人のようではあるが、明らかに人を超えた獣の姿。
 ―――――奇妙なのは、その獣がまるで“学生のような”服装をしている事だろう。
 ワイシャツと、ボンタンのような幅広のズボン。
 履物こそなく素足のままだが、まるで不良学生のようなそれ。
 獣の姿が人の装いに身を包む、酷くアンバランスな構図。
 その獣が、白い吐息を吐きながらのし、のしとセイバーのマスターへと足を向けた。
 次はお前の番――そういうことらしい。

「ま、て……」

 ……そしてその歩みを止める者が、獣の背後にいた。
 それはセイバーだった。
 地面に叩きつけられ、血を吐いてなお、その男は立って刀を構えていた。

「この程度で、某が負けたと思わないでもらいたいな、バーサーカー……!!」

 獣――――バーサーカーが、セイバーに向き直る。
 セイバーは執念で立っている。
 戦闘続行と呼ばれるスキル。
 システマティックに言えばそれだけのこと。
 だが、それ以上に――――強者と戦える歓喜にて、セイバーは刀を構えている。

「マスターはそちらの少年と遊んでいろ。
 この獣、某が一刀にて切り伏せる……!」
「■■■■…………■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――ッ!!!」

 応じるような、獣の咆哮。
 善逸はその咆哮から、怒りとも歓喜ともしれない感情を聴き取った。

 ――――俺はお前より強い。

 ――――そのことを証明してやる。

 そんな、酷く野性的な感情。
 呆然とそれを聞く善逸。
 対して、セイバーのマスターは薄く笑みを浮かべて再び善逸の方を向いた。

「遊び相手を見つけたか、セイバー……羨ましいことだが、手は出せん。
 しからば童よ、しばし私の暇つぶしに付き合ってもらうぞ」

 明確に向けられる殺気。
 男がスラリと刀を抜く。

 急に起こった色々なこと。
 セイバー。
 セイバーのマスター。
 聖杯戦争。
 バーサーカーらしき獣。
 今向けられている殺気。
 そういった諸々の情報が善逸の中で容量過多となり――――今度こそ、善逸の意識は暗転した。

「む……気絶したのか? なんと臆病な……」

 呆れるセイバーのマスター。
 ふらりと地面に倒れ込む善逸。
 ――――その刹那、善逸は踏みとどまり、その手が鞘に入ったままの刀の柄を握った。

「ぬ――――――――」

 その奇妙な様子にセイバーのマスターが警戒を向けた、次の瞬間。


 善逸の姿は掻き消え、セイバーのマスターの首が飛んでいた。


 ―――――――全集中、雷の呼吸。

 壱ノ型―――――――――――霹靂一閃。

「な、あ――――――――――?」

 目にもとまらぬ抜刀術。
 その一撃を受け、一瞬回転する視界の中で―――――

 ――――――セイバーが再び地面に叩きつけられ、頚椎を折られて消滅する瞬間を目撃し、セイバーのマスターは死んだ。


  ◆  ◆  ◆


「――――――――ハッ!」

 そして、善逸は目を覚ます。
 何があった?
 自分は死んだのか?
 とりあえず地面に寝転がっているのはわかる。
 周囲を見渡す。
 大きな足が見えた。
 見上げる。
 獣がいた。

「■■■■■■■■■■……」
「ア゛ーーーーーーーーッ!!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!」

 なんか咄嗟にすごい勢いで謝り倒して後ずさった。
 目の前に怪物がいる状況に耐えられるほど、善逸の精神力は強靭ではなかった。

「■■■■……」
「えっなに!? なんなの!!! そんな獣みたいなうめき声あげられてもわかんないだろ常識で考えろよ!!!」

 そして逆ギレした。

「……………………」
「黙るなよ怖いだろ!!!!」

 ついには(呆れたのか)黙った獣にすら怒鳴り始めた。
 それで一旦落ち着いたのか、肩で息をしながら恐る恐る獣を見る。

「そ、それで、お前が俺のサーヴァントなのか……なんですか?」
「■■■■■■■……」

 どうも肯定らしき唸り声。
 意識を集中させてみると、確かにこの獣に善逸から何かのエネルギーが流れ込んでいる感覚がある。
 まじまじと獣を見てみれば、そのステータスを見ることもできた。
 バーサーカー……狂気の代償に身体能力を向上させるクラス。
 つまり、現在の彼は言語能力を失っているらしい。

「喋れないのか……でっ、でもお前は俺のこと守ってくれるんだよな!? サーヴァントだもんな義務だろ守れよ頼むぞ!?」

 何が何だかわからないが、とにかくバーサーカーは善逸にとっての生命線である。
 とりあえず彼が自分を守ってくれるという確証があれば……と、ふと足元を見る。
 生首が転がっていた。

「ギャーーーーーーーーーーッ!!!」

 それはセイバーのマスターのものだった。
 当然、善逸は意識を落とした後のことは覚えていない。
 つまりセイバーのマスターを斬ったのが自分だとわかっていない。

「えっこれバーサーカーがやったの!? 素手で!?」

 明らかに素手で掻き切った切断面ではない。
 ではないのだが。

「――――ありがとぉ~~バァサァカァ~~~!! お、俺死ぬかと思ったよぉぉぉぉぉぉ!」

 なんかもう、善逸の中ではそういう感じになっていた。
 少なくとも自分がやった、などとは微塵も思っていなかった。

「やっぱりバーサーカーは俺を守ってくれたんだな! そうなんだな!
 ありがとうバーサーカーこれからも俺を守ってくれよぉぉぉぉ!!」

 泣いて喜んでバーサーカーに飛びつく善逸。
 バーサーカーはそれに特に反応を示さず……しかし、ピクリとどこか遠くを見た。

「え、なに、どうしたのバーサーカー」

 善逸も耳を澄ませてみる。
 ……どこか遠くで、剣戟の音が聞こえた。
 つまり――――聖杯戦争の気配。

「■■■■■……」
「え、行くの? 嘘だろバーサーカーあんまりだぞ今助かったばかりなのに死んでしまうぞ確実に死んでしまうぞ」

 のし、とバーサーカーが巨体を剣戟の方向へ向けた。
 しがみついていた善逸の体が揺れる。
 すごく嫌な予感がした。
 ざわざわとバーサーカーの黒髪が揺らめき、大きく息を吸う気配。

「■■■■■■■■■■■■―――――――ッ!!!」
「ぎゃーーーーーーーーッ!!」

 バーサーカーは咆哮し、戦の方向へ駆け出した。
 善逸は手を放して落ちるわけにもいかず、必死でしがみつきながら、本日何度目かもわからない絶叫をするのであった。


  ◆  ◆  ◆


 ――――善逸は理解していた。
 この獣は、バーサーカーは、伊之助と同じような人間だ、と。
 いや本当に人間なのかは怪しいが、およそそういう思考回路の持ち主だ、と。
 つまり――――

 ――――――――俺が最強だ。

 ……これだけを胸に、それだけを誇りに、どれだけの敵にも戦いを挑む、獣の在り方。
 バーサーカーは聖杯戦争のあらゆる強者に戦いを挑み、倒そうとするだろう。
 それは修羅の道。畜生の生き方。

 だが、それは酷く恐ろしいが、それでも、善逸はバーサーカーを止められない。
 伊之助を思い出すと同時に、善逸の脳裏に浮かぶ者がいたからだ。

 ――――――――炭治郎。

 諦めるな、と言ってくれた彼。
 悲しいぐらい優しい声で自分を案じてくれる少年。
 彼は心配しているだろうか?
 自分は毒蜘蛛にやられてしまいそうになったが、どうにかこうして生きているよ。
 そう伝えたい。
 彼を安心させてやりたい。だって炭治郎はいい奴だ。
 自分を信じてくれた。応えてやりたいと思う。

 だから、善逸は帰らなくてはならない。
 そのためには、聖杯を手に入れなくてはならない。
 恐ろしい。恐ろしいけれど――――全ての敵を倒して、勝利しなくてはならないのだ。

 …………それに、バーサーカーが伊之助の同類だと言うのなら。
 ここに炭治郎はいないから。
 彼の世話を焼いていた、兄のような彼はいないから。
 炭治郎の代わりに、自分が彼の世話をしてやるべきだと――そう思って、でもやっぱり怖くて善逸の意識はその晩途中で途絶えた。
 気絶したマスターを運ぶのが面倒だったのか、バーサーカーは疾駆を止めて、善逸が気付くと既に朝だった。

「■■■■■■……」
「ひっなんだその目はやめろよ怖いだろ呆れたみたいな唸り声出すなよ!」

 ……彼らの聖杯戦争は、こうして始まったのだった。








【CLASS】バーサーカー

【真名】岩田我治@ジュウドウズ

【属性】混沌・狂

【ステータス】
筋力A 耐久B 敏捷A+ 魔力E 幸運D 宝具E

【クラススキル】
狂化:C
 魔力と幸運を除いたパラメーターをランクアップさせるが、
 言語能力を失い、複雑な思考が出来なくなる。

【保有スキル】
暴狗の雄叫び:C
 獣じみたウォークライ。
 いわゆる丹田呼吸法の亜種であり、急激に血を脚部に集め、強化する。
 使用する度に敏捷ステータスを一時的に向上させる。この効果は累積する。

八破羅式:E-
 鬼神・田中柔蔵を開祖とし、子々孫々に伝えられ各々で特化していった柔道の技。
 剣術の補助を源流とする通常の柔道とは一線を画す、人を倒すことを追求した絶技である。
 バーサーカーはこの術理に精通しているとは言い難く、使えるのは基本技“大外刈り”のみである。
 ――――そして、彼にとってはそれだけで十分となる。

獣稽古:B
 山々を駆け巡り、獣相手に柔道の稽古を続けていた逸話に由来するスキル。
 獣属性を持つ者に対して与えるダメージにボーナス修正がかかる。
 また獣属性を持つ者がバーサーカーの姿、あるいは痕跡などを知覚した場合に“威圧”のバッドステータスを付与する。

【宝具】
『獣道(ケモノミチ)』
ランク:E++ 種別:対人奥義 レンジ:1 最大捕捉:1人
 バーサーカーが唯一使うことのできる“技”。
 暴力的なスピードで突撃し、反応を許さぬ速度で相手を投げ倒す超高速の大外刈り。
 言葉にすればただそれだけだが、常軌を逸した身体能力によって必殺の絶技と化している。
 また、本人のスロースターター気質が宝具の性質として昇華されており、
 この宝具の威力は「経過ターン」「宝具の使用回数」「『暴狗の雄叫び』の使用回数」が増える度に上昇していく。
 上昇した威力は、戦闘が終了することでリセットされる。

 厳密に言えば宝具というよりただの技であるため、魔力消費量が極端に少ない特徴を持つ。

【weapon】
 なし。八破羅村の村人にとって、最強の武器とは無手の柔道である。

【人物背景】
 柔道の鬼児どもが住まう村、八破羅村の山中に居を構える少年。
 身長2m30cmだが、一応17歳の少年である。明らかに人間の体してないけど。
 一日だけ訪れた道場で大外刈りを習うと、「これで十分だ」と全ての門下生を投げ倒して山へ籠った野生児。
 山を駆け回り、獣相手に柔道の稽古をするうち、ついにはその足跡を見るだけで獣たちが逃げ出すに至った。
 彼の技は超高速の大外刈り『獣道』ただひとつであり、常軌を逸した身体能力、特に異常脚力がこれを成立させている。
 かつては名うての“いじめっ子”だったが、ある男に倒され、その後もいじめられ続けた過去を持つ。
 その怨みを晴らすため、その男を倒すために修行を続けていたのだが――――――――

【サーヴァントとしての願い】
 敵を全員掴んで投げる。



【マスター】
 我妻善逸@鬼滅の刃

【能力・技能】
『超聴覚』
 常軌を逸した聴覚を保有する。
 これは単に「耳がいい」というだけに留まらず、声から他人の感情や性質をも理解することができる。

『雷の呼吸』
 特殊な呼吸法により、瞬間的に身体能力を飛躍的に高める技術。
 善逸はこの呼吸法により、超高速の抜刀術『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃』を使うことができる。
 が、普段はあまりの臆病さによって体が強張ってしまい、使えない。

『失神状態』
 恐怖や緊張が臨界点に達すると、善逸は失神して眠りについてしまう。
 ―――――が、直後に起き上がり、夢遊病患者の如く動きそのまま戦闘を開始する。
 この状態の善逸は無意識で行動しているために恐怖などの余計な感情が存在せず、十全な実力を発揮できる。

【weapon】
『日輪刀』
 太陽光を浴びせなければ殺すことのできない鬼を殺すことのできる刀。
 使い手によって色が変わる性質を持ち、善逸のそれは稲妻のような刃紋を浮かべている。
 恐らく太陽の属性を持つ武器であり、太陽を弱点とする存在に対して有効だと思われる。

『鬼殺隊隊服』
 背に「滅」の字が書かれた詰襟。
 通気性に優れ、燃えにくく、濡れにくく、下級の鬼の攻撃であれば引き裂くことができないほどに頑丈。

【人物背景】
 不死身の怪物・鬼を倒すための組織――――鬼殺隊の新人隊員にして剣士。
 鬼殺隊の剣士はその全てが精鋭であり、優れた能力を持つ……
 …………はずなのだが、善逸は恐ろしく臆病で小心者。
 死にたくない、恐ろしいと恥も外聞もなく泣きわめく生粋の腰抜け。
 緊張が極度に達することでようやく剣士として戦える……
 が、その間は意識を失っているために自分が戦っていると気付けない。
 その癖美人に弱い女好きで、泣きわめきながら結婚してくれとせがんだりする。どうしようもない男。
 しかし、その性根は極めて優しい。
 心理を聞き取る才能を持っていてもなお、人を信じて騙されてしまうお人よし。
 女に騙されて借金を背負っていたところを、師に拾われて剣士として育てられた。
 育ててくれた師に報いるためにも立派な剣士になりたい……のだが、やはりどうしても臆病なのであった。
 それでも、誰かを助けるため、守るために立ち向かう勇気は(少しだけ)持ち合わせている。

【参戦時期】
 原作34話より、蜘蛛の鬼を倒し力を使い果たした直後。

【令呪の形・位置】
 右手の甲に雷鳴のごとき三画。

【聖杯にかける願い】
 炭治郎たちの下へ帰る。

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最終更新:2017年01月31日 19:00