明日に向かって走れ!◆QBWmkX/RHQ


 不快感と困惑に苛まれ、何を考えるのもおっくうだったとする。そんなとき、初対面の少年が「叫ぶとすっきりするよ!」と勧めてくれたとしよう。それが真なる親切心から出た言葉だと、はっきりと理解できたとしたところで、はいそうですかと素直に従える人間がどれほどいるのだろうか、と彼は思うのだ。
(少し危ない子なのかな? やだ、怖……)
 無論気持ちはわかるのだ。彼自身とてどちらかといえば、少年と同じく気風のいい性格であるし、悩むよりは行動した方がマシだと身をもって知っている。腹の底から声を出すということがどれほど己を鼓舞するかなど、言うに及ばずというほどだ。鬨の声は耳にしたものを、自他の区別なくそれぞれ違う意味で震え上がらせる。つんざく砲声のただなかにあって、比せば弱弱しいはずの咆哮は、それでも確かな力を放つからだ。
 だが理解と同時、常に鉄火場へ身を置いていた経験から、戦場になりえる場所で大声を挙げることがどれほどの愚策であるか、という躊躇いがある。聖杯戦争の概要こそ『知ってしまった』が、やはり戦争というからには、この身一つで駆け抜けた『戦争』と同じものなのだろう。どうしたって、気楽に構えてはいられないのだ。あと常識に則って考えても、何もないところで突然叫びだしたらキ印の誹りは免れ得まい。不死身と謳われた彼であっても、そんな扱いは御免被るというものだ。
 先行き不安にもほどがある、と小さくため息をつくのに連動して、彼の顔面に走る無数の傷跡が歪んだその時である。
 崖に向かって心意気のすべてをあけっぴろげにしていた少年が、ひと仕事終えた、といった満足気な表情で振り向いた。

「もういいのかい? 決意表明は――ブラック君」
「ああ、とりあえずは、ね。お待たせ――杉元佐一さん」

 薄い笑いを浮かべる杉元に、帽子のつばをひょいと指で押し上げブラックは、やはりこちらも笑って応じた。
 マスターとサーヴァント。ポケモントレーナーと軍人。聖杯戦争、魔術師、令呪。
 まるで縁のなかった世界の二人は、ただひとつの共通点を以て、ここに主従として結びついたのだ。

≪明日に向かって走れ!≫

「それにしても驚いた。あれはどういう?」
「日課だよ。いや……日課だった、かな」
「ほぉ」
「思い出したからにはやらなくちゃ、っていうそれだけさ。お前たちを忘れてなんかないぞ、オレは絶対ポケモンリーグで優勝してやるぞ、ってね」
「夢の溢れる話だね……ポケモンか」

 少年の名前はブラックという。イッシュ地方、カノコタウン出身、ポケモンリーグ優勝を目指し、パートナーのポケモンたちと旅をする、いたって普通の少年だ。
 ――訂正をするのであれば、いたって普通の少年『だった』ということと、『この世界では』いたって普通の少年である、という二点に尽きる。

「ああ。……元気でやってるといいんだけど」
「言っちゃなんだが動物だろう? なら平気だろうさ、奴ら――」
「ああーッ!! ポケモンリーグもプラズマ団の連中も社長のこともやることいっぱいあるのにっ、ちくしょォォォォ!!」
「ひっ怖い」
「あ、ごめん」

 咳払いをして居住まいをただすのは杉元佐一。元陸軍人、日露戦争を生き抜き除隊後、北海道でとある事情から旅をする、いたって普通の青年だ。
 ……実に物騒な顔面の刀傷と、アイヌの埋蔵金を求め、その場所の地図が彫られた囚人たちの皮を剥いで集めている、という事情をのぞけば、だが。

「…………」
「…………」

 自己紹介は終わっている。これから共に戦うふたりとして絆を深めていくべきなのだろうとは思うが、あまりに世界観、そう、世界観が違うからと、どうにも立ち入ったことを話す気にはなれない。
 警戒癖も考え物だな。杉元は頭の隅で小さく考え、やれやれと首を振った。
 ぼけっとしていても始まらない。人は会話をしてつながる生き物なのだ。もはやその身は人ではないが、何、些末なことだ。いつのまにサーヴァントとやらになったのか、あの旅路がどうなったのか、それすらもさっぱりなのだ。夢にも似たこの世界で、足踏みする理由などない。
 ちらりとブラックを見ると、目があった。彼の顔が一瞬ひきつる。召喚後、初めてこの顔を見た彼の顔が恐怖に歪んだのを思い出し、くすり、と来た。怖かったのだろうなぁ。耳の違いはなくとも、ここまで異相ならばさもありなん、といったところだろう。
 ブラックが口を開いた。

「オレさ……やらなくちゃいけないことがあるんだ」
「そうかい」
「帰りたいんだ。でも、殺しもしたくない」
「難しい注文だな」

 電子の海に沈むか沈めるか、それしかない殺し合いだ。杉元の表情には笑いが張り付き、微動だにしない。
 冷酷さすら感じる固着したそれに、だが、ブラックは少しだけ顔を歪めるだけで、気丈に笑ってみせた。

「強欲なのさ、オレは。だから選ばれたのかも?」

 あのトランプに導かれるようにして触ってしまったのも思えば、とブラックはうつむきがちに繋げる。八個目のバッヂ、とやらを手にしたその時に、いつの間にかポケットに紛れ込んでいたというそれを触ったのを思い出した、とはすでに聞いた話であった。
 負けて、どうしようもなくなって、それでもあきらめずに進み続けて、転んで、這いつくばって、多くを失って、それでも掴んだバッヂは、夢の証だったのだという。

「…………」
「手伝って、くれないか? 杉元さん」

 なんとなく、そこに自分を見た気がしたからだろうか。
 甘ちゃんなところではない。ひたむきに進もうとあがくその姿に、梅子の治療費を稼ごうと走り出した自身が重なってみえた、のかもしれない。
 子供なのに、とは思わなかった。杉元は殺しを厭わないことを語っておらず、ブラックも、自身が最も思い悩んでいる『やるべきこと』を隠しているように見受けられる。
 ふ、と、自然に笑いが漏れるのを感じた。

「……杉元さん? どこいくんだよ?」

 すれ違うようにして進む杉元。崖を背にしていたブラックの横を通り抜け、先ほどの彼と同じように、崖の淵ぎりぎりに立った。振り返らず、どこまでも広がる雄大な大地を前にしたままいう。

「叫ぶんだよ。すっきりするんだろ?」
「……っ、ああ、ああ!」

 弾んだ声と軽い足音が響き、自身の横に小柄な影が並ぶのを感じる。
 こうやるのさ、と、彼が先だって叫んだそれと同じ文言を飛ばすのを見て、杉元は息を吸い込んだ。

「金稼ぐぞッ!!」
「そうそう、そうやって腹の底から……えっ、お金?」
「なんかおかしいか? 生きるのに金が必要なのはどこだって変わらんだろ、ぽけもん? とやらがいようが、怖いオジサンたちと追っかけっこしてようが、聖杯戦争に身を投じようが。そうだろ?」

 杉本の頬は小さく笑みの形を作っている。顔面に深く残る傷跡が歪み、気の弱いものなら後ずさってもおかしくはないその相貌は、しかしブラックに正しく意思を伝える役目を果たしていた。
 何のために金を欲しているのか、そのために何をしているのか、今は詳しいことを話すつもりはないが、『夢』を追うというこの少年のまっすぐな姿は、彼にとって眩しいとして映るのだ。無下にする理由がどこにあるというのだ?
 虚を突かれ、ぽかんと口を開けていたブラックに、再び快活な笑みが舞い戻る。

「オレはポケモンリーグで優勝するぞォォォ!! 絶対絶対絶対優勝だァァァ!!」
「金稼ぐぞッ! 皮剥ぐぞッ!! 味噌は食べられるオソマだッ!!!」
「オレだって金も稼ぐゥゥゥ!!」
「腹減ったァッ!!」

「……杉本さん、オソマってなんだよ?」
「……聞かないでぇ?」

【出展】ゴールデンカムイ
【CLASS】バーサーカー
【真名】杉元佐一
【ステータス】
筋力B+ 耐久EX 敏捷C 魔力E 幸運B 宝具EX

【属性】
秩序・中庸

【クラス別スキル】
狂化:E
 パラメーターをランクアップさせる。ランクが非常に低く意思疎通は可能だが、そもそもの戦闘スタイルが狂気的な圧力を発するのに加え、踏み荒らされてはならないものが害された場合、彼は比類なき戦闘狂へ転じる。

【保有スキル】
戦闘続行:A
 不死身の杉元と呼ばれるほどの不死身ぶりがスキルとなったもの。致命傷と思われる傷を受けても、時間と魔力とうまい飯さえあれば回復する。

勇猛:B
 威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。

観察眼:A
 戦闘行動において、無類の観察力を発揮する。こと肉体同士の接触においては、筋肉の付き方、その奥の体幹の状態、意志の強さまで推し量ることを可能とする。

【宝具】
『不死身の杉元(カント・オロワ・ヤク・サク・ノ・アランケプ・シネプ・カ・イサム)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 「天から役目なしに降ろされた物はひとつもない」。日露戦争、刺青人皮争奪戦と、苛烈な殺し合いを駆け抜け、そして生き抜いた逸話が宝具として昇華された常時発動型の宝具。
 銃で撃たれ、剣で切り付けられ、熊に引き裂かれ、それでもなお立ち上がり、それどころか翌日には完治すらさせる馬鹿げた肉体と精神が形になったことで、規格外ともいえる生命力を発現させる。

【weapon】
『三十年式歩兵銃』
『短刀』

【人物背景】
 全身に傷跡を持つ元軍人。日露戦争を生き延び、そこで戦死した旧友の妻にして自身の昔の思い人、梅子の目に光を取り戻させるため、一攫千金を求めて北海道へ。
 そこで「アイヌの埋蔵金」とその場所を示した刺青人皮を巡る争いに巻き込まれ、男はさらに苛烈な戦いへと身を投じた。

【サーヴァントとしての願い】
 特になし。金がほしい、ぐらい?

【出展】ポケットモンスタースペシャル
【マスター】ブラック
【参加方法】
 ムシャがいなくなり、気づいた時には布団の中。うろんな頭で伸ばした手の先には、『白紙のトランプ』があった。

【人物背景】
 ポケモンリーグ優勝を目指す普通の男の子。イッシュ地方の命運を背負わされ困惑中。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 戦闘時の指揮能力は高い。が、相棒であるムシャーナがおらず、思考の整理に手間がかかることから、使えるものとはいいがたい。

【マスターとしての願い】
 帰らなきゃ。やらないといけないことが山積みだ。

【令呪】
 モンスターボールをあしらったもの。
 右手の甲に発言している。

【方針】
 とりあえずは行き当たりばったりで!

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最終更新:2017年02月04日 07:20