月光少女 佐倉ちゃん◆As6lpa2ikE
佐倉千代は隣のクラスの野崎梅太郎に恋する女子高生である。
無邪気で快活な、年相応の純粋な性格をした、小さな少女である。
要領はあまり良くなく、鈍臭くて失敗することもままある乙女である。
そんな彼女が、なんで『こんなもの』を召喚してしまったのか。
それを一番疑問に思っていたのは、佐倉千代本人であった。
「あぁ! 憎っくき一寸法師よ! おまえは何処にいる! 」
マスターである千代を気にもせず、彼女によって召喚されたバーサーカーは、周囲の木々を震わせるほどの大声で叫んでいた。
後ろに引いている牛車を含めてちょっとした一軒家ぐらいの大きさを誇る体格に、頭から生えた角。目から流れる血涙。顔を覆う蝶番の仮面――バーサーカーの姿は狂戦士の名に相応しく、パニック映画に出てくるモンスターじみたものであった。
今いる場所が人気のない森林地帯でなければ、すぐさま騒ぎになっていたであろう。
バーサーカーが千代の身長の倍以上はある巨大な金棒を怒りに任せてぶんぶんと振り回す度に、辺りに突風が舞い上がる。
その風の圧力や叫びの声圧だけで、小柄な千代は吹き飛ばされそうになった。
だが、すんでの所で脚を踏ん張り、何とか耐える。
千代は、なおも狂気に満ちた叫びを続けるバーサーカーを仰ぎ見、口を開いた。
「あっ、あの! バーサーカーさん!」
鯨の鼓膜さえ破りかねないバーサーカーの叫びに比べれば蟻の呟きに等しい程に小さい声で、千代はバーサーカーに呼び掛ける。
その頼りない声は奇跡的に耳元に届いたらしく、バーサーカーは金棒を振り回すのをピタリと止め、千代を見下ろし、地の底から響くような低い声で返事をした。
「どうした、マスター」
蝶番の仮面に開いた穴から覗くバーサーカーの目はあまりにも悍ましく、千代は思わず悲鳴を上げそうになる。
だが、ここで臆して黙るわけには行かない。
「ファイトよ、千代!」と、彼女は自分自身を鼓舞し、精一杯の大声を張り上げた。
「一つ、聞きたいことがあるんです!」
「聞きたい事とな? 何だ、言ってみろ」
「意外と話が通じる人なんだなあ」と思いつつ、千代は続けて口を開いた。
「バーサーカーさんに、この聖杯戦争で叶えたい願いはあるんですか?」
「あるとも」
一切の間のない即答であった。
「あの薄汚き一寸法師をこの金棒でめっためったに殴り潰したいという願いがな」
先ほどからの叫びからその願いは薄々予想できていたが、改めてハッキリと言われると、何とも恐ろしい願いである。
物語上の人物を殺せるかどうかはさておき(目の前にいる大鬼に比べれば、その程度の事はさて置ける)、要するに殺人の成就をバーサーカーは望んでいるのだ。
一寸法師と言えば、千代でも知っている程に有名な物語の主人公である。
そんな彼の何処を、バーサーカーは恨むのだろう。
「あいつはな――自分の出世の為に、『大切な米を姫が食った』という嘘っぱちを作り上げてまでして、姫様を陥れたのだ。その所為で、姫様はどれだけ辛い思いをしたか……!」
たしか、作中でその後姫様を襲ったのは他ならぬ鬼――つまりバーサーカー自身ではなかっただろうか……と、千代は思ったが、ここは黙っておく事にした。
バーサーカーから感じる、一寸法師への怒りは本物である。
「姫様の為にも、私はあいつを絶対に許さない! 姫様が味わった百倍の苦しみを与えてやろうぞ!!」
感極まったのか、バーサーカーは金棒を握る手に更に力をこめ、それを横薙ぎにブンと振った。
すると、その軌道の延長線上にあった、一本の大木――それが、金棒の直撃を受けていないにも関わらず、幹がくの字に折れ曲り、根元から浮いて、吹き飛んで行った。
別に、バーサーカーが念力の類を用いた訳ではない。単純に強大な力を持って金棒を振った結果、その余波に大木が負けただけだ。
吹き飛ばされた大木を受け止めた他の木々は、さながら爪楊枝のように易々と折れて行く。
最終的には、森林地帯の一角に巨人が地面を爪で抉ったかのような傷跡が出来上がった。
一連の出来事を目にした千代は、目を白黒させ、頭に付けたリボンが飛び上がりかねない程に魂消ている。
一方、ようやく落ち着いたバーサーカーは、フゥと息を吐き、金棒を握る手を緩めた。
「――ところでだ、マスター。そう言うお前の方は、如何なる願いを持っているのだ?」
「え? わっ、私!?」
「うむ。お前だって、何か願いがあったからこそ、この異国の地に呼ばれたのだろう? 違うのか?」
ふむ、真っ当な疑問だ。
そもそも、『こんなバーサーカーがどんなに恐ろしい願いを持っているのだろうか』という考えから、先に願いの有無を聞いたのは千代の方だ。それを聞き返されて、答えないわけには行かない、
千代に願いはない――と言えば嘘になる。
最初に述べた通り、彼女は恋する女子高生だ。その思いを成就させたいという願いはなくもない。
しかし。
「それを聖杯なんて言う便利アイテムで叶えるのはちょっと――」
「ちょっと?」
「ロマンが足りていないと言うか、愛がないと言うか……そんな経緯で野崎くんと付き合える事になっても、別に、嬉しくないなあって……」
「…………」
頰を掻きながら、千代はそう言った。
対して、バーサーカーは黙っている。
「何か変な事を言っちゃったかなあ?」と不安になる千代。
やがて、バーサーカーは先ほどまでの叫びが嘘かのように、小さく、低い声でポツリと呟いた。
「愛、か……」
「え?」
「いや、何でもない。気にするな」
そんな事を言われれば気になってしまうのが人の性なのだが、有無を言わせぬ鬼の態度に、千代はそれ以上の言及を行えなかった。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
三条の大臣の姫@月光条例
【属性】
混沌・狂
【ステータス】
筋力A+++++ 敏捷B 耐久B 魔力B 幸運A+ 宝具EX
【クラススキル】
狂化:―
このスキルは下記の保有スキル『月打』へと変化している。
【保有スキル】
鬼種の魔(偽):A
魔性を現すスキル。
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出等との混合スキル。
真性の鬼である証左。
しかし、バーサーカーは真性の鬼ではなく、憎悪のあまりに鬼と化した人間なので、このスキルには(偽)が付いている。
自己暗示:B
このスキルによって、バーサーカーは自分が鬼であると振舞っており、心身共に鬼と化している。
月打(ムーンストラック):E-
狂化、あるいは精神異常の類似スキル。
このスキルを持つ者は青い月の力によって性格や思想が負の方向に歪み、超常の力を得て、周囲に蹂躙と殺戮を撒き散らすようになる。
バーサーカーは月打の影響を直接受けている訳ではないので、このスキルのランクは低い。
その為、真摯な言葉で諭されれば、正気に戻るかもしれない。
復讐者:B
一寸法師への憎悪に狂うバーサーカーは、アヴェンジャークラスへの高い適正を持つ。
ルーラーに対して与えるダメージが増加し、己に与えられるダメージは怨讐の炎の薪となる。
被弾時に魔力を増加させる。
しかし、バーサーカー自身が自分が一寸法師に抱いている本当の思いを思い出した時、このスキルは失われる。
【宝具】
『金棒』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:100 最大捕捉:100(この場合のレンジと最大捕捉は、金棒を振るった際に生じる衝撃波を含めたもの)
昔話の中で鬼がよく持っている、鈍色で巨大な金棒。
しかしその正体は月打の影響を受け、『殴りたい』という願望が強化された金棒である。
それによって姫は操られ、鬼のバーサーカーと化している。
バーサーカーが持ち前の怪力をもって振るうことで、金棒は恐るべき質量破壊兵器と化す。
どれぐらいの威力かというと、数回地面を殴るだけで、その衝撃で巻き上げられた粉塵に太陽光が遮られ、かつて恐竜が絶滅したのと同じレベルの寒冷が地球に訪れるほど。たった数撃で地球全体を文字通りのスノーフィールドにしてしまう、剣呑な怪力と言えよう。
『打手の小槌』
ランク:EX 種別:対願望宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
振るだけでどんな願いでも叶う宝物。
聖杯で再現できるレベルを超えた代物であるので、持って来ることは出来なかった。
しかしこの名残か、バーサーカーの幸運ステータスは著しく高くなっている。
【サーヴァントとしての願い】
一寸法師への復讐
(殴りてえ、殴りてえ、殴りてえなあ!)
【人物背景】
おとぎ話『一寸法師』に出てくる姫が月打を受けた金棒に取り憑かれ、一寸法師への憎悪に狂う鬼と化した姿。
血の涙を流し、牛車を引き、自らの顔を蝶番の面で隠している。
ちなみに、後ろの牛車には誰も乗っていない。流石に、中身までは連れてくることが出来なかったようだ。
一方、月打を受けて姫を操っている金棒は、『殴りたい』という欲望が異常に増幅している。
【マスター】
佐倉千代@月刊少女野崎くん
【能力・技能】
ベタ塗りを始めとする、漫画家へのサポート技術。
聖杯戦争で役に立つわけがない。
【人物背景】
16歳。頭に付けた二つのリボンが愛らしい女子高生。
好きな男子である野崎くん(少女漫画家)に告白する際『ずっと(野崎くんの)ファンでした』と言ってしまい、彼の漫画のファンであると誤解され、アシスタントを任される事になった。
けどまぁ、合法的(?)に一緒に居られるので、悪い気はしていない様子。
物語中の役割上、ツッコミをする事が多いが、野崎くんが絡むと大ボケをかます事が多くなる。
【マスターとしての願い】
なし。恋は自分の手で叶える。
最終更新:2016年11月23日 18:55