愛に病んだ獣たち◆GO82qGZUNE
むかしむかし、まだカワウソが泳ぎを知らなかったころ。
大きなお城がありました。空の向こうのずっと上、暗闇のなかに建つお城です。
ドグマという魔物がいるお城です。ドグマはお城に座って、空から人々を苦しめていました。
理由はわかりません。誰も知りません。それはドグマが生まれたときから悪い魔物だからだ、という人もいました。ドグマは神さまで人間をさばいているのだ、という人もいました。でも、本当のことは誰も知りません。
そんなドグマに、剣を向ける人がいました。
とても勇敢な若者です。お伴のスズメを連れて、魔法使いと絵描きの人を連れて。剣を片手に突き進む、彼らは勇気ある者たちでした。
戦士ダンキチはとても物知り。
癒者ドクオは力持ち。
絵描きのハンパーは魔法がとくい。
そして若者ロフトは誰よりも勇敢。
若者は正義の心でドグマの配下と魔物を倒しました。そしてついには、お空の向こうまで飛んでいってドグマもやっつけてしまったのです。
みんなは喜んで、国をあげて若者を祝福しました。みんなを苦しめるドグマを倒した若者は、みんなの恩人だったのです。
その後、若者は自分の故郷に帰ると、助けてくれた魔女の女の人と結婚し、末永く幸せに暮らしたそうな。
―――絵本『勇者のでんせつ』
世の教養ある人士がみな知っているように、この世界は四つの時代を経てきた。
神代の黄金時代、古帝国時代、魔王による暗黒時代、そして聖都サンピタラを中心とした諸国列強の時代である。
現代における平穏な王国の時代を築き上げるにあたり、その最たる立役者となった人物に関する逸話は枚挙に暇がない。
前時代、すなわちドグマと呼称される正体不明の魔王によって支配された暗黒時代。その閉塞を打破し、ドグマを討滅した勇士、すなわちロフトについてである。
現代においては伝説的な勇者として語られ、このフォイデルの街においても象徴的な扱いを受ける彼ではあるが、その半生は多くの謎に満ちている。
彼はドグマ討滅以後、すなわち新暦990年より没年までの間、世界の復興に尽力したが、ある一時だけ世界の表舞台から姿を消したのである。その期間は極めて短かったものの、そこで彼が何をしたのかということについては未だに詳細が明らかとはなっていない。
一説には、彼は自らの生まれ故郷の山村(後にフォイデルの街となる村である)に何かを隠し、生涯をかけて隠蔽したのだとも言われている。物であるのか、人であるのか。正体は掴めないが、彼ほどの人物が半生を投げ打ってでも隠さねばならないものがあるとすれば、そこに含まれる意味の重さは推察するに余りある。
また、近隣に存在するマドルーエ(魔女の街。ドグマ討伐に際し協力し、彼の妻もその地の出身)の協力があったともされているが、詳細は不明。しかしマドルーエは暗黒時代からロフトに協力していたという経緯があ■■■■■
(これ以上は劣化が激しく解読は不可能である)
―――フォイデルの街に遺された資料より。
▼ ▼ ▼
―――新暦1000年
その異形は、外見の醜悪さとは裏腹に、不可思議なほどに清廉な気配を保ったまま佇んでいた。
そこは塔であった。人気はない。石造りの冷たい空間にあって、その異形は言葉もなく静かに立っていた。
目の前には、男の姿があった。市井の只中にはない屈強な肉体と、精悍な顔つきに保障された、英雄めいた覇気を持つ男だった。
男は、名をロフトと言った。
ロフトは静かに、しかしその内に隠しきれない嚇怒の念を抱きながら、尋ねた。
「ラクスよ、調子はどうだ?」
「大丈夫よ、今はね」
答える声があった。男以外に人のいない空間において、しかしその場にはあり得ぬはずの、若く理知的な女性の声。
それは、ロフトの目の前に在る異形から発せられた声だった。
「まさか、ドグマの呪いで獣になるなんてね。
でも、意外と清明なきもち。自然の声が聴けるのだもの」
落ち着いた声だった。それは、己に課された運命すらも受け入れているとでも言うかのように。
それを前に、ロフトはただ、自らの無力を噛みしめるような顔をして。
「そうか……今度、ドクオのやつを連れてくるよ。あいつの回復魔法なら、あるいは……」
けれど、その異形を安心させるかのように。
ロフトは、ぎこちなく笑っていた。
―――新暦1001年
「旅の途中に寄ってみたが、噂通りだったな……」
男の影があった。それは、屈強なロフトとは別の、線の細い赤毛の男だった。
噂、とは、このマドルーエの塔に魔物がいるというものだった。各地を渡り歩き旅行記を記す日々を送っていた男は、その噂を偶然耳にしたのだ。
男の名はハンパー。かつて、ロフトと共に旅をした仲間であった。
「あはは」
「笑いごとでは……いや、すまない」
力なく笑う異形に、ハンパーは一瞬我が事のように声を荒げかけ、しかし何かを察すると黙り込んだ。
それを見つめる異形は、悲しそうな、あるいは切なさそうな色を瞳に浮かべるのみであった。
「あなたが、本を書いているって夫から聞いたのだけど」
「ああ。ドグマとの戦いをもとにした冒険譚だ。完成したら是非読んでほしい」
「理性が残っていればね」
無言。
どちらも、何も言えなかった。それが冗談では済まないことを知っていたのだ。
「あ、そうだ。獣になった女、って興味ない?」
「君を売れってのかい?」
「貴重な体験じゃない?あなたの役に立つと思うわ。
それに最近、言葉を忘れがちだから。喋らないと」
「……」
幾ばくか、ハンパーは押し黙り。
「……分かった。是非、取材させてくれ」
―――新暦1005年
「言葉が失われていく? だったら読み聞かせをしようじゃないか」
ある日、ロフトは突然そんなことを言い出した。
きっかけはラクスが漏らした言葉だった。ラクスの抱く不安を、それがなんだと言わんばかりにロフトは笑い飛ばした。
「それ、ハンパーくんの言ってた本?」
「そうだ、あいつの文章は無駄に難解だが……」
苦笑したような響きを、ロフトは漏らして。
「まあ、読んでみるよ」
………。
……。
…。
「ふぅ、疲れた」
「とても素敵な冒険だったのね」
「ああ。今となってはいい思い出かもな」
語りつかれたといった風情のロフトが握るのは、かつて彼らが辿った冒険を記した本だった。
ドグマとの戦いの日々。それは辛く険しいものだったが、代わりに多くの実りがあったのだと、その本は語っていた。
そしてそれは、ロフトとて同じ思いであった。
「なあ、ラクスよ」
「なあに?」
ふと、語りかける声があって。
振り向いたラクスに、ただ柔らかく。
「お前は獣になった。だが……
それでもお前は、俺の妻だ」
―――ロフトは笑っていた。
―――新暦1032年
「ダアレ?」
「この写真に、見覚えはあるかい?」
「アー……ロフト! ロフト!」
年老いた男は、静かに。ただ静かに。何かを悟られまいとしながら、語りかけた。
「俺はあいつの祖父だよ。あいつは今、病気療養中でな……
代わりに俺が、あいつの言葉を伝えに来た」
「お前は獣になった」
「……だが」
「それでもお前は……俺の妻だ」
「以上が、あいつの伝言だ」
異形は、表情の伺えない顔のままだった。
「……ロフトニ アイタイ」
「いずれ会えるさ。どれだけ時間がかかっても、必ず」
「必ずだ」
―――ロフトは笑っていた。
―――新暦1040年
―――新暦1050年
―――新暦1060年
―――新暦……
………。
……。
…。
「ロフト コナイ」
「コナイ」
「ロフト」
「コナイ」
―――獣の遠吠えが、夜の塔に木霊した。
▼ ▼ ▼
21世紀というのは、当然の話ではあるがあらゆる文明が発展した時代である。
特にこのスノーフィールドが所属するアメリカ合衆国などは、その筆頭とも言うべき国だろう。文明の発展は人々の暮らしにも大きく寄与し、物質的な豊かさを広く民衆に分配する。
そういう意味で言えば、この時代は恵まれた時代と言い換えることもできるだろう。無論世に悲劇の種は尽きず、犯罪も日毎に起きてはいるが、少なくとも戦争をしていた時代や中世と比べればまるで天国にも思えてくる。
そんな、人々の心にある程度の余裕が生まれ、必然「必要に迫られて」悪事に手を染めるような連中も数を減らしたがために犯罪は減少傾向になりつつある街でも、しかし凶悪犯罪というものは横行していた。
例えば殺人。例えば誘拐。ライフルやショットガンの類であれば許可の必要もなく携帯でき、フルオートのマシンガンでさえ許可さえ取れば取得が可能なお国柄である。そういった物騒な事件には事欠かなかった。
犯罪都市のように日常茶飯事だ、とは言わないが、今さら信じられないとでも言うように口を手で覆うようなことでもない。市井の一般人ならともかく、そうした荒事に関わる警察官であれば、ある程度は場慣れしてくる程度にはありふれたものだった。
けれど。
(流石にこれは、なぁ……?)
この現代においてなお、こんなものを目にするなどとは思いもよらなかったと、スノーフィールドで官憲の職に就く男であるところのアルバート・ウィルソンは心の中で述懐した。
アルバートの目の前には、何か恍惚とした表情をしたまま倒れ死んでいる男の死体が、大の字になって横たわっているのだった。
ここ一週間ほど、スノーフィールドではある事件が横溢していた。「児童誘拐事件」。それが、スノーフィールドの巷を騒がせる事件の一つであった。
狙われるのは、決まって未成年の子供ばかり。そしてそのほとんどが、未就学なほどに幼い子供ばかりであるという点が、一連の事件に共通していた。
それだけならば、よくある―――と言うのもおかしな話だが―――誘拐事件でしかなかった。しかしこの一連の事件は、ある一点においてのみ、その異常性を際立たせる事実が存在していた。
あまりにも、数が多すぎたのだ。
この事件が最初に発生したのは一週間前。西部郊外に住まうエイミー・ホワイト(当時5歳)が、遊びにいったまま帰ってこないというのが発端だった。当初、警察はこれを単なる誘拐事件として扱ったが、しかしすぐさまその認識が間違いであったことを知ることになった。
その日、スノーフィールド警察署に二桁を優に越える失踪の通報が舞い込んだのだ。
尋常ならざる数だった。その全ては同じような児童の失踪・誘拐であり、その発生件数は日を追うごとに増加の一途を辿った。
これに応じない警察ではなく、即日大規模な捜査が開始された。そして予想外なことに、誘拐事件の犯人はその日のうちに逮捕されることになった。
警察が捕まえたのではない。一般市民による、誘拐現場を押さえての現行犯であった。
その犯人―――セドリック・ロペスという名の男は、警察署に連行されるにあたって自ら犯行を自供した。というよりも、そもそも警察官に対して隠すようなそぶりを見せなかったのだ。
彼の言動は異常だった。「子供を捧げる」「そうすれば返ってくる」「俺は聖なる献身を果たしている」という趣旨の言葉を、彼は繰り返し話していた。いや、話すというよりは単にうわ言を漏らしているだけで、彼は目の前の警察官のことを認識してすらいない様子であったと、担当の警察官は話す。
異常事態は更に続いた。取調室まで連行されたセドリックは、しかしその数時間後に突如として絶叫を迸らせ、大量の血反吐を吐いて倒れたのだ。すぐさま病院へと搬送したが彼は死亡、事件は被疑者死亡のまま送検されることと相成った。
と、思われた。しかし誘拐事件は、その数を減らすことがなかったのだ。
犯人と目されていたセドリックが死んだにも関わらず、誘拐事件は全く終息などしなかった。むしろ、その数を増やし続けさえしたのだ。
そしてセドリックの検死では、更に異常極まる事実が発覚した。
セドリックは、脳を破壊されていた。
大脳がズタズタとなり、それが原因で彼は死んでいたというのだ。しかもそれはセドリックの死亡時刻よりも更にずっと前、誘拐事件が発生し始めたあたりには既に「そうなって」いたという検死結果が報告された。
無論のこと、そんな状態では誘拐事件を起こすどころか、そもそも生きてさえいられまい。この事態をどう説明すればいいのか、検死官ですら言葉に迷うほどであった。
そして、犯人「たち」は毎日のように捕まった。
ある者は通りすがりの無関係な人間だった。ある者は被害児童の親類だった。ある者は警察内部から犯行に至った警察官だった。
それら、共通点が一切ない犯人たちが、次々と浮上しては逮捕されたのだ。そして彼らは一人の例外もなく、逮捕されてから数時間後には血を吐いて死亡した。
死因は「脳の破壊」。それだけが、年齢も性別も人種も職業もバラバラな犯人たちに共通する、ただ一つの項目だった。
「……ケリー巡査(Police)、こいつをどう思う?」
「どう思うと申しましても……これは、異常としか……」
「そう、だな。俺もそうとしか言えん」
傍の部下に問いかけたアルバートは、困惑と恐怖に塗れた声を聞いて、自身もまた同様の答えを返すしかなかった。
アルバートたち二人の目の前に倒れているのは、「犯人」の男だった。白昼堂々子供を攫おうとし、それを見た警邏中の二人が羽交い絞めにした瞬間、彼は血反吐をぶちまけて倒れたのだ。
二人が真に恐怖したのは、そんな凄惨な死に様ではなく、彼の死に顔であった。彼は常軌を逸した死に方をして、しかしその顔は恍惚とした「満面の笑み」だったのだ。血に塗れた体と地面にあって、その顔だけが不気味なほどに形を保って空を見上げていたのだ。
「……クソッ」
被害に遭った児童は、既に応援を受けた他の警察官によって保護され、その保護者と共に事情聴取に当たっている。しかし、彼らの口から有用な証言が得られるとは、二人は考えていなかった。
「一体どうなっていやがんだ、この街は……」
吐き捨てる言葉は、荒く。
アルバートは、まるでこの街そのものが異形と化してしまったようだと、そんな戯言にもならないことを、らしくもなく頭の中で思考したのだった。
▼ ▼ ▼
ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変っているのを発見した。
フランツ・カフカ『変身』
▼ ▼ ▼
そこは昏い場所だった。
スノーフィールド中央区より西に数キロ、そこには屏風のように広大な森林が広がっていた。
短い夏が近づく頃になると、瑞々しい新緑の色彩に覆い尽くされ、森の梢には野鳥の声が木霊し、色とりどりの鮮やかな花が強い風に吹かれような。そんな命溢れる森林が、その場所であった。
しかし、ここは今拭いきれない昏さに包まれていた。
「ああ、いざ奉れ!」
「ウェンディゴ、私はやりました! 私はやり遂げたのです!」
「返ってくる、これで全てが返ってくるんだ!」
森の奥深く、影となった洞窟の中。
そこに、多くの人間が存在した。大人と、子供であった。
大人たちは一様に恍惚とした笑みを浮かべ、何か尊いものを拝するかのように口々に賛美を謳っていた。そこには微塵の恐怖も、不安もなく。ただ幸福の感情だけが彼らの思考を支配しているようだった。
対して子供たちは、皆一様に恐怖の表情を浮かべていた。自分たちが今からどうなるのか、大人たちが一体どうなっているのか。それを、朧気ながら認識しているかのような。そんな様子であった。
子供たちは、その視線を洞窟の奥、更なる暗がりへと向けていた。
「GRRRRRRR……」
その暗がりは、例えて言うなら永く発掘されずにいた地下遺跡にも似ていた。
数百年のスパンで外気が流れ込まず、停滞して鬱屈した気配が澱んでいる。
その停滞と鬱屈は、まさしく死というものを象徴していた。
―――そこに、"そいつ"は存在した。
それは緑の異形だった。
ひどく歪んだ大猿に似た巨躯
石の天井に頭を擦りながら前進する肉体を覆う毛皮の色は、黒ずむ血に彩られた、緑。
口蓋から見える乱杭歯の数は大小で28。
人間の頭蓋程度なら、軽く砕ける。
腐った吐息を吹いて、それは笑う。
―――怪物。正真正銘の。これは人間ではない。
―――ウェンディゴと呼ばれたそれは、正しく北米大陸の雪山に住まうという伝説の猿の怪物そのままであった。
ウェンディゴの太く不格好な腕が、子供の一人を掴みあげる。
「ヒッ……」という、声にならない悲鳴。それを聞いてか聞かずか、ウェンディゴは子供を目の高さまで持ち上げて。
「Ahaaaaaaa……」
大きく、その口を開けた。
掴みあげられた子供が、恐怖に目を見開く。
生臭い吐息が顔にかかる。
息がかかるほどに、子供の顔は近くまで寄せられて。
―――その乱杭歯が、勢いよく閉じられた。
「あ、あぁああ……!」
パァンという硬質のものが弾けたような音をベースに、血と脳漿が飛び散る水音が洞窟内に反響した。
大人たちはそれを見るや、皆一様に歓喜の声をあげた。正気の沙汰ではなかった。そして事実、彼らは全員が狂人であった。ウェンディゴの力で頭脳を破壊されているのだ。
子供たちも、別の理由で正気ではいられなかった。気を失っている者など幸福ですらある。気絶もできなかった子供は、恐怖により発狂寸前に陥っていた。
この情景こそが、今スノーフィールドを襲っている児童誘拐事件の全貌であった。
クリッター・ウェンディゴは感化能力によって人の頭脳を破壊する。そしてその真っ新になった脳に、新たに命令を加えるのだ。
すなわち、己の捕食対象である「人間の子供を捕えてくる」という命令を。
ここにいる大人たちは、皆がそうしてウェンディゴの信奉者となった。その狂った視界に彼らが何を観ているのかは知れない。ある者は失ってしまった家族の名を呼んで、ある者は富や名声を口にして。ある者は定かならぬうわ言を口にして。
それらを与えられる契約を為したのだと、口々に呟いて。
彼らは解放されたのか、この異形に。その表情は晴れやかでさえあって。
だが。ああ、だが。それは虚構だ。赤い涎を滴らせて唸るウェンディゴからは、食欲と殺意以外の一切を感じ取れはしない。
感化によって洗脳された、これが末路であった。
「ロフト……」
そんな、血に塗れた狂宴のすぐ隣で。
"それ"はただ蹲っていた。片言の言葉を話し、けれど状況の一切を認識しないまま。
その目線の先にあるのは、一枚の紙切れ。
それは、古ぼけ擦り切れた写真であった。
そこに映っていたのは、ただ笑顔を浮かべる二人の男女。
彼らは―――
「……アイタイ」
理性も知性もなくなった彼女に、残されたたった一つの思い。
それは、ただ会いたいというものだった。それだけが、彼女に許された唯一の思考だった。
女は、怪物だった。
神の想念が神秘を孕み、その果てに生まれた怪物。
女は異形だった。
言葉と記憶を失って、人の形すら失った異形。
けれど。
けれど、それでも彼女は人だったのだ。今はこんなに変わり果ててしまったけれど、それでも女は人だった。
女は今も求めている。たった一つ残された記憶。そこに映る男の影を。
失った想いが大きすぎて、それを埋めることも目を逸らすこともできず。
泣き叫びながら必死に手を伸ばした哀れな女。
そんなものが、怪物でも異形でもあるはずもなかった。
霞みゆく記憶。最早それが何であったのかも分からぬ情景の中で。
ロフトは―――
笑って―――
【クラス】
バーサーカー
【真名】
クリッター・ウェンディゴ@赫炎のインガノック
【ステータス】
筋力A+ 耐久EX(E) 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具E
【属性】
混沌・狂
【クラススキル】
狂化:B
全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
【保有スキル】
物理無効:A+(C)
バーサーカーは弱点以外のあらゆる物理的影響を受けることはない。同ランクまでの攻撃を無効化し、ランク以上の攻撃もスキルランク分ダメージを削減する。
ウェンディゴの場合、弱点は太陽光及び炎熱。太陽の属性を持つ攻撃や火炎系の攻撃を受けた場合、ウェンディゴの耐久はEまで下降しダメージ削減を行うことができない。
また陽光下においてはスキルランクがCまで下降する。
クリッター・ボイス:C
恐慌の声。クリッターの声を聞いた者は精神が硬直し脳に死を植え付けられる。
ウェンディゴの声を聞いた者は判定を行い、失敗した場合において高い精神ダメージを受ける。同ランク以上の精神耐性で防御可能。そうでなくとも強い精神力を持った者は素で耐えうる場合がある。
精神感応:C
催眠の能力。思念により人間の頭脳を破壊し、自らの手下とする。
ウェンディゴは狂化の影響を受けてはいるが、ことこの能力に関しては多角的な使用が可能となっており、「自分の下に子供を連れてこさせる」以外にもある程度は自由に命令を聞かせられるようである。
無辜の怪物:A
過去や在り方をねじ曲げられ伝えられた怪物。能力、姿が変貌してしまう。
……。
何かをひとつ歪めただけで。
41の■■は、荒ぶるクリッターとなった。
クリッターの生み出す恐怖は、41の■■■■■■■■の感じた恐怖は、人々を苦しめ続けた。
そして人々は完全に記憶を失う。恐怖に上書きされて。
彼らが何であったのか、それを知る者は今や存在しない。
【宝具】
『死塊の黒爪』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:10
ウェンディゴの備える爪、そしてそこに纏わりつく「死の現象を発現する粘液」。
この宝具による攻撃を受けた場合、対象に判定を与え、失敗した場合には爪による物理ダメージの他に死の粘液による致死ダメージを付加する。
ただしこの宝具による即死ダメージは概念的なものではなくあくまで物理的なものであるため、攻撃自体を防がれた場合には発動しない。
【weapon】
爪
【人物背景】
《無限霧》により外界と隔絶された異形都市インガノックに蔓延る、41の大型異形の一体。生物ではなく「災害」や「現象」として扱われる。
人間の子供を捕食する習性を持ち、かつて下層の20%の子供がウェンディゴによって食い殺されたとか。自分では出歩かず、洗脳によって従えた人間によって獲物を運ばせる。
かつてはウェンディゴを崇拝する生贄教団なるものまで存在したが、過去に《街路の騎士》の活躍によって壊滅している。
【サーヴァントとしての願い】
■■■■
【マスター】
ラクス@アリスの標本箱
【マスターとしての願い】
ロフトとの再会。ただし彼女は現在意識が混濁している。
【weapon】
鉤爪
【能力・技能】
野生の羆と比較しても尚剣呑な鉤爪と膂力を持つ。
また魔女という出自、及び神性の欠片との融合からか多量の魔力を有し、炎のブレスや凍結系の攻撃魔術を行使できる。
【人物背景】
魔女の血筋に連なる者が住まうマドルーエの街に暮らす女性「だったもの」。
魔女の血が薄くなってしまった当代の女性の中では屈指の強い力を持ち、基本的な魔術以外にも予知の能力を身に着けていた彼女は、ドグマを討滅する勇士たるロフトの出現を事前に予期しており、予知通りマドルーエの街を訪れたロフトに手を貸すことになる。
その後、彼らの行くべき場所を指し示し、バックアップに回った。ドグマ討滅以後はロフトに求婚され、結婚。一人の男児を成す。
しかし「ドグマの箱庭」より十年後、実は未だ存命だったドグマの手により体内にドグマの種子を埋め込まれ、その身は生きながらにして獣となる。
当初こそ元の理性と知性を保っていたが、時間を経るごとに徐々に言葉と記憶を失っていく。そしてロフトの死を契機に完全に発狂。名実共に獣と成り果ててしまった。
ドグマの箱庭から400年後の世界である「アリスの標本箱」でも存命しており、マドルーエの塔に封じられながらもマドルーエの子孫たちを食らいながらその血肉で自らの肉体を編んでいたことが発覚する。
参戦時期はドグマの箱庭終了後、ロフトと死に別れた直後。
【方針】
ウェンディゴはほぼ完全にラクスの制御下から離れているため、NPCの子供を攫って食い殺すという所業を繰り返し続けている。
最終更新:2016年12月05日 11:27