Ace HUMAN◆As6lpa2ikE


開発されて久しいスノーフィールドの街にはあらゆる地方、地域、国からの移民が多い。
街を歩けば多種多様な肌の人間が行き交っており、さながら人種のバーゲンセールであるかのようだ。
その事実はスノーフィールドの発展と寛容さを何よりも雄弁に物語っている。
しかし、だ。
そこにあるのは、良い点ばかりではない。
何せ、人が沢山集まるという事は、その分、悪い人間も集まるという事である。
中には悪いでは済まない極悪人が紛れ込んでいる事さえあるのだ。
その中でも代表的と言えるのは、やはりマフィアであろう。
彼らには黒い噂が絶えず、街の不安要素として常に存在し続けている。
そんな彼らを疎ましく思うスノーフィールド住人は決して少なくはない。
だが、ただの平凡な一市民である彼らに、マフィアへ文句を言える度胸はないのだ。
その事をこれ幸いとばかりに、私腹を肥やすべく、本日もマフィア社会の裏で活動しているのである――。
さて。
郊外近くに位置する、とある事務所。
ここはマフィアの活動拠点の一つであり、主に武器庫としての役割を担っていた。
銃や爆弾と物騒な物をたんまり仕舞い込んだ建物の玄関の両脇には、二人の男が立っている。金髪の男と、彼よりも幾分年の若い男。二人共マフィアの構成員であり、見張りを任されているのだろう。
彼らが暇そうな様子で、本日何本目かの煙草に火を付けた時、一人の男性が事務所前を訪れた。
ハンチング帽を頭に被ってバッグを背負い、ニコニコとした笑顔の特徴的な中年である。
見た所、これからピクニックにでも出かけるかのような出で立ちであり、マフィアの事務所に用があるとは思えない。
二人の見張りの内、金髪の方が前に出て、帽子の男に問うた。

「おい、オッさん。此処に何の用だ?」
「いやぁ、別に大した用じゃないんだけどね」

マフィアの男の凄んだ問い掛けに対し、帽子の男は困ったようにして後頭部を掻きつつ、「ははは」と笑って台詞の間を置いた。
そのおっとりとした雰囲気に、見張りの二人は「やっぱり来る所を間違えてるんじゃねぇのか?」と考える。
しかし、次に彼が放った台詞は予想外の答えであった。

「此処には武器があるんだろう? それを全部譲ってくれないかな?」
「はぁ?」

見張りの二人は揃って呆れたような声を出した。
だが、次の瞬間には彼らの顔は激高に赤く染まり、眉間に皺が寄った。
先程よりも一段低い声で、二人は帽子の男に語り掛ける。

「おいおい、巫山戯るなよオッさん。どうしてオレたちが見ず知らずのお前に武器を渡さなきゃいけないんだ」
「そもそも、何処でその情報を知りやがった。場合によっちゃあ、生きて返さねえぞ?」

一般人ならば聞くだけで失禁しかねない程に凄味のある脅し。
しかし、それを真正面から受けても、帽子の男は相変わらず困ったような表情をするばかりであった。
顎に手をやり、暫く黙した後、

「しょうがないなあ……」

と、言いつつ、帽子の男は背中に背負っていたバッグを下ろし、ジッパーを開いた。

銃声と共に、帽子の男の眉間を弾丸が貫いた。
金髪の男が懐から銃を素早く抜いて、発砲したのだ。
着弾の衝撃により、帽子の男は仰向けに倒れる。間違いなく即死だ。
ハンチング帽は彼の頭から離れ、風に乗り、遠くの方まで飛んで行った。

「おっ、おい!? 何も此処で撃ち殺さなくても……」

後ろに居た若い方の見張りが、慌てた様子で叫んだ。
いくら、此処が郊外の近くとは言え、付近には人が居る。警察でも呼ばれたら、面倒だ。
慌てる彼に対し、銃殺を終えたばかりの男は、冷や汗を掻きつつ、しかし落ち着いた口調で話す。

「馬ァ鹿。よく見てみろ」

金髪の男は未だ煙が棚引く銃口で、帽子の男、もとい中年の男の死体――バッグに半ば突っ込まれた手を指した。
あっ! と若い男は驚きの声を上げる。
バッグの中に入っていたのは、軍用ナイフであった。サイズこそ包丁程度の大きさであるものの、その鋭さからは危険性しか感じられないナイフである。

「まさか……こいつ、コレで――」
「オレたちを襲う……いや。殺すつもりだったんだろうな」

煙草を投げ捨てつつ、金髪の男は中年の男の死体に近づく。

「刃物一つで、銃火器をたんまり持ったマフィアに喧嘩を売ろうしたとは、随分クレージーな野郎だぜ。――おい、運ぶぞ」

そう言って、金髪の男は若い男に向かって、招き寄せるようなジェスチャーを取った。
先程も言った通り、現在彼らの居る場所が郊外とは言え、いつ『銃声が聞こえた』という通報を受けた警察がやって来るか分からない。ならば、さっさと死体を処理しておくべきだ。
呼ばれた男は中年の男の死体に近づいた。

「何処に運ぶんだ?」
「どうせ此処は森に近いんだ。そこに埋める事にしよう」

そんな会話をしつつ、金髪の男は中年の男の上半身を、若い男は男性の下半身を抱えるようとした。
と、その時。
あり得ないことが起きた。

「えっ」

中年の男の上半身を持ち上げようとした男の喉が、貫かれた。
何によって?――軍用ナイフによって。
誰の手によって?――死んだはずの中年男性によって。
喉仏に走った激痛に、思わず身を身を引く金髪の男。
若い男も、ワンテンポ遅れて事態の異常性に気付き、同じく身を引いた。
彼らの手から離れた中年の男の身体は地面に落ち、強かな着地音を響かせた。

「痛いなあ」

声がした。他ならぬ、中年の男の声だ。
先程死んだはずの彼は、背中を摩りつつ起き上がる。
――馬鹿な。確実に頭を撃ち抜いたはずなんだぞ?
クエスチョンマークが、金髪の男の脳内を巡る。
喉から血をダラダラを流しながら顔を蒼白に染める彼を見て、中年の男は死ぬ前と同じ様な笑みを浮かべながら「あちゃー」と呟いた後、

「不意打ち失敗かあ。私もまだまだ甘いねぇ」

と言った。
ビキリ――と、金髪の男の血管が、怒りによって音を立てる。

「ゲホッ! てめぇ、ぶっ殺す!」

喉から湧いた血を吐き捨てた後、銃を構え、先程と同じくトリガーを引く。
今度は一発では終わらせない。弾が切れるまで撃ち続けた。
だが――それでも中年の男は死ななかった。
頭に、胸に、腹に、身体の何処を撃っても、死ぬどころか怯みすらしない。
彼は弾丸を受けながら、金髪の男に近づき、ナイフを横薙ぎに振るった。
先程の不意打ちとは違い、力を込めた一閃――金髪の男の首は、胴体から離れた。
力を失った男の手から、銃が落ち、それに覆い被さるようにして身体が倒れる。

彼の死体に中年の男は近づき、死体の下敷きになった銃を引っ張り出した。

「全弾使っちゃってるねぇ……勿体無い。予備の弾は……」

そう言って、中年の男は死体のスーツのポケットを漁る。
そんな彼の喉元を、鉛色の物体が走り抜けた――にも関わらず、平然と振り返る。
そこには、熱湯を浴びせられたかのように顔を真っ赤にしたもう一人の見張りが居た。

「よくも……よくも、俺の仲間を殺りやがったな!」

そう叫んで、彼は改めて引き金を引く。

「あー、待って待って。待つんだ。それ以上撃つのはやめなさい。弾が無駄になっちゃうから」

両の手の平を立てて、制止のポーズを取る中年の男。
だが、既に半狂乱状態に陥って居た見張りは、意味不明な叫びと共に、銃弾を何度も撃ち放った。
それでも、まだ、中年の男は死なない。
弾丸の雨を浴びながらずんずんと突き進み、先程と同じように首を斬り落とした。

「あー、もう、言ったじゃないか」

最早確認するまでもなく、若い男の銃の中身が空である事を知る中年の男は、取り敢えずそれを拾って、金髪の男の銃と一緒にポケットへと仕舞い込んだ。

「どうやら予備の弾は持ってないようだね。まあ、彼らは見張りで本来撃つ機会はそんなにないから、必要ないんだろうけど」

そうボヤきつつ、中年の男は項垂れる。

「なんだ今の銃声は!?」「襲撃か!?」

事務所の中の騒ぎ声が、中年の男の耳元に届いた。
あれだけ何発も銃声が鳴ったのだ、気付かれない訳がない。
事務所の中からマフィアたちが、大挙をなしてやって来るのも時間の問題だろう。

「なにやら大ごとになってきたですね」

その時、中年の男と二つの死体しかない空間に影が降りた。
それは、学者帽を被り、白衣を肩にかけた、可愛らしい少女であった。
マフィアの事務所前は勿論、死体の転がるこの場所に、全くもって似合わない少女である。

「何なら、私が手伝いますです?」
「いや、いいよ。ここは私がやる」

少女からの提案に、中年の男は実に楽しそうな笑顔を浮かべながら返事をした。
どうやら、これからマフィアと交える一戦が楽しみらしい。
彼の返答に、学者帽の少女は不思議そうな顔をする。

「ここまで来て今更という感じがするですけど……何でマスターはマフィアから武器を奪おうと思ったんです?」

中年の男に向けて少女は問い、続けて補足の言葉を継ぎ足した。

「いや、これは別に、『武器なんか奪わなくても、私がマスターの武器になるです!』とかいう奉仕精神から来た疑問ではなくてですね。あくまで効率の問題です。
私だったら銃よりもよっぽど強い火力を素手で出せますし、そもそも、武器なんてその気になれば私の『魔法』でいくらでも作り出せるんですよ。この前、見せたですよね?」
「確かに、そうだねぇ」

中年の男は、少女の言う『魔法』を思い出す。
あれさえ使えば、わざわざマフィアに襲撃を仕掛けずとも、彼は銃や爆弾、どころか最新鋭の化学兵器さえ手に入れられるだろう。
しかし――、

「けど、アレは、君の『魔法』から作られた、『魔法少女』用の『魔法』の武器だろう?
その威力はそれこそ『魔法』のように高いんだろうけど、その分反動も大きいはずだ。
私みたいな『亜人』だと、『魔法』の銃を一発撃つだけで、肩が脱臼しかねない。
人間が作った人間用の武器が、私には丁度良いんだよ。だから、私は彼ら(マフィア)から武器を奪うのさ」
「……成る程、そういう理由ですか」

少女は腕を組み、納得したような表情をした。
中年の男の台詞はそれでは終わらず、「それに」と続く。

「今から彼ら(マフィア)と交える一戦は、私にとって、この世界でのSTAGE1だからね。誰の手も借りずに、自分一人でクリアしたくなるのは仕方のない事だろう? 私は戦う事が好きなんだ」
「そういう物ですかねー……」

かつて仕事仲間とチームプレイをしていた少女はこの答えには納得せず、かと言って否定もしないまま、そのように相槌を打った。

「今は戦えなくてフラストレーションが溜まっているかもしれなくて申し訳ないけど、あともうちょっとだけ我慢してね。
多分、サーヴァントと戦う事になったら、流石に君を頼ると思うから」

返答をそのように〆た中年の男は改めてナイフを構え、事務所に向かって行く。
だが、数歩進んだ時。何かを思い出した様子で、少女の方を再度振り向いた。

「そうだった、そうだった。アサシンちゃん、君に頼みたい事が一つあるんだけど良いかい?」
「私に出来る事ならなんなりと」
「帽子を作ってくれるかな?」
「帽子ぃ?」

マフィアとの衝突前の緊迫したシチュエーションで何を頼まれるのかと思っていた少女は、予想外の答えに対し、普段の理知的な態度から大幅に外れたリアクションを取ってしまった。

「さっき撃たれた拍子に何処かに飛んで行っちゃったみたいでねえ。……作れるかい?」
「そりゃまあ、出来ますですけど」

少女はそう言って、その辺に落ちていた――森の方から転がって来たのであろう――枯れ枝を何本か拾い、それらを碁盤の目のように交差させた。

「格子を帽子に」

少女がそう呟くと同時に、格子状に組み合わさっていた枯れ枝は、ハンチング帽へと変化していた。
これこそが少女の『魔法』の効果である。

「何度見ても便利な『魔法』だね」

感心したかのようにそう言いつつ、中年の男は少女から帽子を受け取って、それを頭に被せた。

「よし」

気合のスイッチが入ったようである。
今度こそ彼は迷いない足取りで、事務所の中からぞろぞろと湧いて出て来ているマフィアたちの方へと向かって行く。
一瞬、多勢に無勢な彼の身を案じた少女であったが、「不死身の人間にそんな心配はするだけ無駄ですね」と自分自身を鼻で笑った。
外に出て来たマフィアたちを皆殺しにし、そのまま事務所へと入って行った中年の男が、武器が詰め込まれた鞄を両脇に抱えて帰って来たのは、これから数分後の事であった。

【クラス】
アサシン

【真名】
物知りみっちゃん@魔法少女育成計画ACES

【属性】
中立・中庸

【ステータス】
筋力B 耐久D 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具D

【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。
しかし、攻撃時に気配遮断のランクは下がる。

【保有スキル】
魔法少女:A
魔法少女である。ランクが高いほど高水準の魔法少女となる。
魔法少女は人間離れした戦闘能力と視覚聴覚を得、排泄や食事などの新陳代謝行為を一切行わなくて良くなる。
また、疲労の蓄積する速度が人間よりも遥かに遅く、長期の不眠不休にも耐えられるスタミナと常人離れしたメンタルを持つ。
更に、固有の魔法を一つ使える。
アサシンの場合それは宝具となる。
そしてアサシンは魔法少女の状態で呼び出されているため、このスキルの発動は阻害できない。

心眼(真):B
プロフェッショナルの魔法少女として数多の修羅場をくぐったことで得た洞察力。
窮地において、戦況から活路を見出す戦闘論理。

【宝具】
『手にした物を別の物に変えられるよ』
ランク:E~A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

手にした物の名称を一文字だけ別の文字に入れ替え、違う物に変換できる魔法。
対象物を手に持った状態で「~を~に」と唱えることで発動する。
これによって新たに生み出された物は、物体それぞれに応じたランクの宝具並みの神秘を有する。
呼称は限定されておらず、連続しても仕様できる為、本人の知識と発想、機転次第で臨機応変に武器や道具を作り出せる魔法である。

【weapon】
なし。
「無手の兇手」である彼女は、何も持たずに戦場に出向き、何も持たずに戦場から帰る。

【人物背景】
学者風のビジュアルをした魔法少女。
しかし、その見た目に反し、実際はバリバリの戦闘員である。
魔法の国の人事部門に属しており、ある魔法少女の元で、表に出せないような後ろ暗い仕事を担当している。
理知的な常識人であり、決して極悪人というわけでなく、けれども善人というわけではない。与えられた仕事をキッチリこなし、起きた出来事をキッチリ報告する真のプロフェッショナルである。

【マスター】
サミュエル・T・オーウェン(佐藤)@亜人

【weapon】
多数の銃火器、刃物類

【能力・技能】
  • 近接戦、銃撃戦における卓越した戦闘センス。
SATを相手に、彼は殆ど一人で勝利を収めた。

  • 亜人
何があっても絶対に死なない。
例え身体を細切れの挽肉にされようとも、それから瞬時に復活できる。
唯一の弱点は麻酔銃であり、これを打たれると行動不能に陥る――が、佐藤は麻酔銃を打たれた瞬間に自殺(リセット)する事でこの弱点をほぼ克服している。
また、一部の亜人はIBMという一般人には不可視の黒い幽霊(ジョジョのスタンドのようなもの)を出す事が出来、当然彼はその一部の亜人に該当する。

【人物背景】
ハンチング帽が特徴の中年男性。
ニコニコとした親しみやすい表情が印象的だが、その実中身は凶悪にして狂暴。
他者に対する共感能力が決定的に欠如しており、他人を傷つける事に一切の抵抗がない。
アメリカ海兵隊でベトナム戦争を経験した後、その最中に起こした不祥事で軍を除名。
その後、日本において実験動物として扱われていた亜人を救い、亜人から人間への革命と称してテロ行為を行うようになる。
しかし、それは建前のような物であり、実際の所、彼は人が死に、自分も身の危険に晒される状況を楽しんでいる部分が大きい。
言うならば、佐藤は単なる戦闘狂なのである。

【マスターとしての願い】
戦いを楽しむ。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年12月07日 21:23