その夢は霧に潰える◆iwVqxDO6jU
チャンスはつまりチャンスであって成功ではない。目に見えて、あからさまに有利な状況も、そうなるかもしれないというだけで、そうするための行動が伴わなければただ過ぎ去ってしまうシチュエーションでしかないのだ。
男にとって現在の状況は、まさしくあからさまな好機であった。
幼いころから魔術師としての修練を積まされた。日頃から両親との会話は魔術の学習に絞られ、学校にも通わせてもらえなかった。
羨ましいと思ったことは、もちろんある。外に出るたび自分たちと、ほかの家族を比べ、道を笑いあいながら歩く少年たちに思いを馳せたことはある。それでも男は魔術の勉学に努めた。
その結果が今なら、それは最高の見返りといえよう。続けた意味はあった、逆に、続けない意義は何もなかったのだと自信をもっていえよう。男の目の前には参加資格である白紙のトランプと、手首に浮かんだ三画の刺青がある。
自分は聖杯戦争への参加が許されたのだ。
男は今歓喜に打ち震えている。大の大人が涙さえ浮かべ、神への賛辞を述べさせている。
聖杯戦争は魔術師にとってなににも替えがたいステイタスであり――そこで勝利することこそ魔術師最大の栄誉となる。そこへの参加は立場と、運が必要だ。男は自分の実力が運を引き寄せたのだと思う。この機会は生かさなければならない。自分のやってきたことを無駄にしないためにも、無為に返さないためにも、男は勝たなければならない。
――と、次の瞬間けたたましい破砕音が男の部屋をぶち破る。目に涙をためたままその向きを見た男の首が、ぶつりと切断される。血は流れない。獲物をとった勝鬨の声も上がらない。馬が嘶き、首を切り落とした白銀色の斧が男の座っていたテーブルにこすれ、いやな音を立てる。
サーヴァント、バーサーカー。独立戦争期の赤い軍服に身を包み、今しがたの参事を起こしたこの首なしの兵士は、男のサーヴァントであった。
バーサーカーは乗っていた黒い馬から降りると、首のない――つまり両の目なしにどう周りを感じているのか、きょろきょろと部屋を見、小さな瓦礫に半分埋もれていた白紙のトランプを拾い上げる。そのまま自分のマスター、その死体には目もくれず馬を走らせ、近くの森の中へ消えて行ってしまった。
この首なし兵士、バーサーカーの伝説は、古く19世紀前期の作家、ワシントン・アーヴィングの短編に記述がみられる。
彼は首のない兵士。死を連ねた黒い馬に乗り、霧のかかった森に棲み着いた彼は、迷い込んだ獲物の首を虎視眈々と狙っている。
元は、独立戦争時、イギリス軍によって集められたへシアン(ヘッセン大公領に所属するドイツ人の傭兵のこと)だったといわれている。
彼は悪辣である。
彼は非道である。
略奪や裏切り、盗賊まがいの行動を繰り返し、最後は首を刎ねられたという、彼がどういった経緯で蘇ったのかは、誰にもわからない。しかし彼が森に棲みつき、人々の首を次々と刈っていったのは事実だ。彼は今この、偽物の町、スノーフィールドにおいても、同様の凶行を、繰り返そうとしている。
森に入り、霧が出た。
彼はまず、森の中にいる人々を殺して回る。
ここはスリーピー・ホロウ、彼の名もまた、スリーピー・ホロウ。首なし兵士の領域。
【クラス】バーサーカー
【真名】スリーピー・ホロウ(個人としては不明)
【出典】スリーピーホロウの伝説
【マスター】不在
【性別】男
【属性】混沌・悪
【身長・体重】194㎝・166㎏(鎧・武器も込み)
【ステータス】
筋力:B 耐久:A 敏捷:B 魔力:B 幸運:C 宝具:A+
【クラススキル】
狂化:D
見境なく人の首を刈り続けるにしては低いようだが、つまりバーサーカーが首を刈るのは狂気ではなく性格に問題があるということ。コミュニケーションをとることも不可能ではないが、首のない彼に筆談をお願いしても帰ってくるのは斧である。
騎乗:D
馬以外には乗れないが、馬に関しては一流である。
【所有スキル】
怪物:A
バーサーカーは一度死に、蘇った存在である。そのためかはわからないが、あらゆる攻撃にもバーサーカーは怯まず、その場にとどまり続けられる。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けてもしばらくは動き続け、適切な処置を行えば生き延びる。
嗜虐体質:C
自身の攻撃性にプラスをかけるスキル。同質の加虐体質と違い、こちらは敵を攻撃することに執心するのではなく、いたぶることに重きを置いている。
神性:D
怪物になってから付いたもの。
【宝具】
『火は灰に、灰は火に成らず(アウスブレネン・アイナー・アクスト)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1
バーサーカーは地獄から蘇った死者であり、首を刈る彼の姿は死神に例えられることがある。そのためかバーサーカーに付けられた傷は焼けたような跡を残し、サーヴァントであっても通常の方法(自然治癒や、魔術による治療)による回復を許さない。
『誘いの霧(スリーピー・ホロウ)』
ランク:B 種別:結界宝具 レンジ:- 最大補足:-
バーサーカーの発祥の地であり、活動域。バーサーカーの棲みついた森は四六始終に霧がかかり、対魔力の著しく低い一般人はこの霧を見ただけで軽く森に執着してしまう。
また、この霧はサーヴァントを現界させるに十分な魔力を有しており、そこにいるだけで魔力の回復につながる。マスターを殺したバーサーカーが現界できているのもそのため。
【wepon】
無銘:斧
無銘ではあるが、伝承がないというだけで死神の化身であるバーサーカーの斧は最硬度の頑強さを持つ。
無銘:銃
独立戦争期の銃。
小銃と拳銃を一丁ずつ持っている。
【人物背景】
独立戦争期にイギリスが集めたドイツ兵の一人であり、現地アメリカで悪逆の限りを尽くした男。最後は村人たちに捕まり、散々いたぶられた後に首を切り落とされ、死体は捨てられたといわれている。
それがなんの因果か首なしの兵士として蘇り、生前のうっ憤を晴らす勢いで人を殺し始めた。
行動が常軌を逸しているうえ、尋常ではない耐久力を持っているため、見かけはバーサーカーの王道を往っているが、実は人格がそれこそ尋常じゃないゴミというだけでそこまで狂っているわけではない、という性質の悪いサーヴァント。戦い方も馬による突撃を主体とした強引なものではあるが、理に適っており、単純な戦闘技能もある。
召喚したマスターはまず間違いなく殺されてしまうため、バーサーカーをどうしても使いたい場合は完全にスリーピー・ホロウ狙いで召喚し、間髪入れずに冷呪で縛り付けなければならない。しかしそうした場合、反ってバーサーカーの機嫌を損ねる。いつも自分を殺すための策を練られていることを忘れてはならない。
因みにこの投下で外からいきなり現れたのはまず喜んでいるさまを見てから殺そうと思ったため。
最終更新:2016年11月26日 12:16