Your wars ◆As6lpa2ikE
虹のように美しい尾を引きながら落ちていく二つに割れた彗星。
それを眺めながら、私は走り続ける。
止まっている暇はない。
あの片割れが隕石として落ちてくるまで、もうあまり時間がないのだから。
しかし、そんな緊急事態であるにも関わらず、私はある人物について必死に考えていた。
それが誰なのかを言い表すのは難しい。
私の思考を占める、朧げな、誰か。
輪郭の、はっきりしない、誰か。
――誰、誰。きみは誰?
まるで、目が覚めた後で、見ていた夢の登場人物を思い出そうとしているかのような。
忘れている誰かを思い出そうとしているかのような。
しかし、それでもその名前も分からない『誰か』は、大切な、忘れてはいけない人物であるかのような。
そんな感覚を、私は感じていた。
――君の、名前は?
走りながら考え事をしていたからだろうか。
足元への注意が疎かになっていた私は、アスファルトのくぼみに爪先がはまり、盛大に転んだ。
きゃ! と声をあげた時には、体全体で強かな衝撃を感じ、痛みが全身を走り回り、やがて視界が回る。
こんな時に気絶をしてしまうだなんて、なんてついていないのだろう――そんな事を考える間も無く、私の意識は途絶えた。
ただ。
意識を手放す寸前――体全体で感じた痛みの他にもう一つ、私の触覚は別の物を感知していた。
それは、倒れた拍子に私の右手が、地面に落ちていたカード状の何かに偶然触れた感覚。
無論。それが何かを知る事は、回る視界の中では不可能だった。
❇︎ ❇︎ ❇︎
目が覚めた時、私は見知らぬ屋上を見つめていた。
顔を横に倒す。見知らぬ壁があった。
と、同時に、窓から差し込んでいる日の光に壁が照らされている事を知る。
……日の光?
がばり! と上半身を起こし、そのまま立ち上がる。
室内の様子も、家具の種類から小物の配置まで全て同じく見覚えはない。
そもそも、今私が居るのは洋風の部屋だ。私がさっきまで寝ていたのも、慣れ親しんだ布団ではなく、白いベッドだった。
此処は、私の知らない部屋だ。
その事を確認しながら、私は時計を探す。
すぐに見つかった時計の針は、てっぺんを指していた。
一体、あれからどれだけの間気絶していたのだろうか、と考え、私が気絶していた間に起きたであろう事を想像し、ゾッとする。
――町は? 町のみんなは!?
血の気の引いた顔で、私は窓を開けた。
その瞬間、ぴゅう、と強い風が私を出迎える。
風に目を細めつつ、私は必死に前を見る。
しかし、外の景色を確認した瞬間、私の目は驚愕によって見開かれた。
何せ、窓の外には糸守町でなく、全く見知らぬ街の景色があったのだから。
まず最初に、入れ替わりが起きた事を疑った。
これまでの経験上、それを疑うのは当然だ。
しかし、洗面所の鏡を見る事で、その考えは捨てられた。
鏡の中に映る人物は、何処からどう見ても私そのものだった。
服装がいつのまにか寝間着に変わっている事以外に、不思議な点は見られない。
つまり、私は私のまま、この見知らぬ街にやって来たという事になる。
ついでに言うと、壁に掛けられたカレンダーを見た限り、此処の日付は私が気絶する前とは年単位で違っていた。
時間も、場所も違う街――そんな所に、やって来てしまった訳だ。
「そうや! これは夢なんよ、夢! だから、こうしてほっぺを抓れば――」
頰を抓る。痛い。すぐに手を離した。
どうやら、私が居るのは夢ではない現実らしい。
「気絶している間に全部終わって……此処は死後の世界?」
我ながら言っていてゾッとする予想を立て、顔が真っ青になった。
しかし、死後の世界にしてはどうも現実的な気がする。
それじゃあ結局、この現状はどう言う事なのか。
ソファに腰掛け、頭を抱えた。
ふと、その時。目の前の机の上に、カードが置かれている事に気が付いた。
近寄って、手に取ってみる。
「んん?」
それは、まるで、雪のように真っ白なカードだった。
スートやナンバーが印刷されていないものの、裏に印刷されている模様やサイズ的にトランプが一番近いだろう。
「なんよこれ?」
先ほどまで、机の上に白紙のトランプは無かったはずだ。他に何も置かれていない机にこんな物が置かれていれば、すぐさま気付くはずだろう。
まず間違いなく、この不思議で奇妙なトランプは、今私が置かれている不可解な現状に関わっているはず――。
謎解きをする名探偵のように顎に手を当てて物思いに耽る私。
その時、右手の甲に、まるで針に刺されたかのような鋭い痛みが走った。
「いったぁ!」
思わずそう叫んで白紙のトランプを落とし、痛みの発生源に目を向ける。
私の右手の甲には、禍々しく赤黒い色をした刺青が浮かんでいた。
最早今日だけで何度目になるか分からない、非常識で非現実的な事態にいよいよ私は混乱しそうになる。
しかし、異常事態はこれだけでは終わらなかった。
私が足元に落としたトランプから、突如眩い光が放たれたのだ。
天井、壁、床、家具――室内の全てが、光によって真っ白に塗りつぶされる。
網膜を焼かんばかりに強い光に、私は思わず目を細めた。
続いて、何処からともなく風が吹き(此処は室内なのに!)、まだ結っていない私の髪はそれに踊らされる。
この現象を見て、私は魔法系の漫画とかでよく見られる召喚シーンを思い出した。
やがて、風と光るトランプは一点に集まり、小さなボールの形を取る。
小球はその場で暫く震えると、ベッドの側に置かれていた私のスマートフォンへと向かい、その画面に飛び込んで行った。
室内に、静寂が戻る。
「……え?」
あまりにもあっけない終わりに私はそう呟いた。
小球が飛び込んだスマートフォンに近づき、手に持つ。
あんな事があったにも関わらず、何処にもおかしい所は見られない。電源は普通に着くし、動作だって正常だ。
「なんやったんやろ?」
首を捻りつつ、スマートフォンを起動したついでに何か現状を解決するヒントは無いものかと、私は情報を探す。
まずは電話帳――誰の名前も登録されていない白紙だった。
通話履歴――同じく白紙だった。
まさか、さっき真っ白なボールが入った所為なのでは……?
不安に顔を暗くする私。
するとその時、見計らったかのようなタイミングで、スマートフォンが振動した。
落としそうになるも、何とか手に収め、画面を見る。
そこには、メッセージボックスが映っており、英語で何やら書かれていた。
――英語!?
面食らったが、しかし落ち着いて見てみると、スラスラと読めた。
それはもう、日本語を読むかのように。
私ってそんなに英語力あったかなぁ、と思いつつ読み進める。メッセージボックスには『通知が来ています』という内容のメッセージが書かれている事が分かった。
何やら不審だが、折角与えられた情報をここで無視するわけにはいかない。
暫く悩んだ後、私はメッセージボックスをタップした。
すると、画面は切り変わり、『OZ』というアプリケーションが起動した。
――OZ?
見覚えもなければ聞き覚えもなく、そもそもダウンロードした覚えもないアプリケーションの名前に、私は首を傾げる。
開いてみると、それはSNSだった。
しかし、その実態は私が知っている緑のアレやら青い鳥のソレやらとは違い、何だかSF映画で見るようなSNSである。
画面内では多種多様なアバターが飛び交い、ポリゴンで出来た建物が何軒も立っていた。
所謂電脳空間、という物だろう。
うわあ――と、思わず感嘆の息を漏らす。
それ程までに、画面内に広がる風景は近未来的だった。
しかし、感動ばかりしてはいられない。
来たという通知を確かめるべく、私は表示された通知欄を開いた――が、予想に反して、それは至極どうでもいい内容の広告が来たという物だった。
「まさかこれに、町へ戻る暗号が隠されている……とか?」
そう考え、私はスマートフォンに穴が開くほどの眼力で、広告を隅から隅まで読み込む。
メッセージボックス同様に、それも英語で書かれていたが、スラスラと読む事が出来た。だが、それらしい暗号は見られない。広告は単なる広告だった。
はあ、と落胆する。
――そういえば、いつのまにこんなアプリをダウンロードしてたんやろう?
今更ながらに、そのような疑問を抱く。
通知欄を閉じると、そこには私のアバターが映っていた。
半月のようなギザ歯が特徴な、どう見ても可愛くないアバターである。
いくらダウンロードした覚えがないとは言え、私のアバターがなんでこんなに不細工なんだろうか。
どうでもいい事にテンションが更に下がりながら、私はアプリケーションを閉じた。
いっその事このまま『OZ』をアンインストールしようかと思ったが、すんでの所で思い止まる。
いくらダウンロードした覚えがなく、不気味だとは言え、曲がりなりにもSNSだ。きっと、元の場所へ戻る役に立つ時が来るだろう。
結局、私は『OZ』をアンインストールする事なくスマートフォンの電源を切り、ベッドに倒れこんだ。
横になりつつ、目覚めてから起きた出来事を整理する。
- 知らない場所に居た。
- 白いトランプが現れた。
- 右手に刺青が浮かんだ。
- 光と風と出したトランプが、ボールになってスマートフォンに飛び込んだ。
- 英語が出来るようになった。
- スマートフォンに知らないアプリケーションがダウンロードされていた。
どれ一つ理解できない。
むしろ、整理した事で分かりにくさが増している気がする。
不思議の国のアリスも裸足で逃げ出すほどの不思議ぶりだ。
あまりの分からなさに、このまま枕に顔を埋め、おいおいと泣きたい気分だったが、そうも行かない。
私は意を決して、立ち上がり、服を着替える事にした。
まずは、現地調査(フィールドワーク)だ。
この場所が何処なのか、そもそも日本なのか――英語の件から察するに、その可能性は低い――を知りたい。
クローゼットの中にあった服に袖を通し、髪をいつも通りの結い方で結び、スマートフォンとその他諸々をバッグに詰めて玄関に向かい、靴を履く。
どうか、此処が死後の世界じゃありませんように――そのように祈りながら、私はドアノブを捻った。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
ラブマシーン@サマーウォーズ
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
筋力E~A+++ 耐久E~A+++ 敏捷E~A+++ 魔力E 幸運B 宝具EX
【クラススキル】
狂化:EX
バーサーカーは狂ってなどいない。
しかし、バーサーカーにプログラミングされた知識欲は、人間から見れば狂気としか言いようがない。
電脳存在であるバーサーカーと意思疎通をするのは、何らかの情報を餌として提示した交渉以外では不可能である。
【保有スキル】
陣地侵略:E~A++++
ハッキングAIとしての侵略能力。
成長に応じて、このスキルのランクは上がって行く。
単独行動:A+
マスターによる魔力供給が途絶えても現界が可能。
作成者の手元を離れて好き勝手暴れ周り、世界を混乱に叩き落としたエピソードによって獲得したスキル。
しかし、実体化する際はマスターによる魔力のバックアップが必要となる。
【宝具】
『人工知能・愛慾機関(ラブマシーン)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
バーサーカーの存在そのもの。
かつてネットワーク上の仮想世界『OZ』で猛威を奮ったバーサーカーと、此度の聖杯戦争の舞台にも『OZ』が存在した事が噛み合った結果生まれた宝具。
『OZ』の中を自由に移動するバーサーカーはアバターたちを吸収し、彼らから情報や能力を得れば得るほど成長し、強くなっていく。
成長に応じて、肉体ステータスと陣地侵略スキルのランクは上昇する。
『OZ』に居るバーサーカーを物理攻撃や魔術攻撃を持って倒す事は不可能。
だが、プログラミング技術に著しく秀でた者であれば、神秘を持たない一般人であってもバーサーカーを打倒できる可能性は十分にある。
また、聖杯戦争の舞台がムーンセンの『電脳空間』内に再現された偽りのスノーフィールドという事もあり、スノーフィールドのエリア内に実体を持って出現する事が出来るが、その場合多大な量の魔力を消費する事になり、その上サーヴァントからの物理・魔術的攻撃でダメージを受ける事になるというデメリットが生じる。
『終結は天空より降り落ちる(ジ・エンド・オブ・サマーウォーズ)』
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:1エリア 最大捕捉:999
かつてバーサーカーが騒動を起こし、消去された際に行った最後の悪足掻き――気象衛星『あらわし』の軌道操作の逸話が宝具に昇華されたもの。
サーヴァントとなった今では、消滅した後に発動する。
バーサーカーを消滅に追い込んだ人物が居る場所に向けて、再現された気象衛星『あらわし』を投下する。
その落下の威力は、1エリア丸々に剣呑な被害を及ぼすほど。
【背景】
陣内侘助によって開発された、知識欲を持つAI。
独特のアルゴリズムによるループを続けて成長する。
現在はマスターである宮水三葉のアカウントを乗っ取っている。
【聖杯にかける願い】
この世全ての知識。
【マスター】
宮水三葉@君の名は。
【能力・技能】
特になし。
【人物背景】
田舎に住む女子高生。家は神社をやっており、そこの巫女を務めている。
田舎の不便な生活や実家の神社、父親との不和に嫌気がさしており、東京での華やかな生活に憧れている。
そんな彼女がある日目を覚ますと、東京に住む男子高校生・立花瀧になっていた。一方、瀧は三葉の身体に。
変な夢だと思いながら一日を過ごした彼女たちであるが、周囲の反応やその後も度々生じた入れ替わりによって、現実にいる誰かと入れ替わっているのだと気づく。
その後も続いた入れ替わり生活を、スマートフォンのメモを通してのやりとりで何とかこなしていた彼らは、次第にだんだん打ち解けていった。
しかし――
【マスターとしての願い】
聖杯戦争を認識していないので不明(おそらくは、町を救う事を願うだろう)
最終更新:2016年11月26日 12:20