紅い拳の◆uL1TgWrWZ.
スノーフィールド、夜のハイスクール……生徒もすべて下校し、いるのは巡回の警備員ぐらいかという場所。
だが、この学び舎に――この学び舎にある、ボクシング部の部室に、二人の男がいた。
一人は、青年である。
ハンチング帽をかぶり、皮のジャケットを着て、赤いスカーフを巻いた、少し古臭いファッションの男。
いかにも昭和の刑事とか、記者とか、探偵とか、そういった雰囲気を醸し出している。
その表情はあきれ顔。
視線の先にいるのは、高校生ぐらいの少年であった。
少年の方は、タンクトップを着てボクシンググローブをはめた、こちらもいかにもなボクシング少年。
その表情は、情けなくも涙を流し歯を食いしばっている。
二人の男は夜の学校で、明かりもつけずに佇んでいた。
「うぅ、チクショウ……!!」
「オイオイ、泣くなって坊主。男だろ?」
坊主、と呼ばれた少年がふらふらとサンドバッグの方へと歩き、寄りかかる。
彼の名は拳三四郎――――変身セット『仮面ボクサー』を装着し、世界征服ジムの野望を阻止した、英雄である。
英雄である。
ヘビー級世界王者おも打ち倒した、ボクシング界の救世主なのだが……
「これが……」
「これが?」
「これが泣かずにおられようかッ!?」
……彼は情けなく泣きわめき、青年の方を睨んだ。
「うおおおおおっ! おっ、俺は違うだろ……! そういうの……聖杯戦争とか!!!」
叫び、サンドバッグに拳を叩きこむ。
バシ、バシと小気味良い音が部屋に響き、それをかき消す音量で三四郎は叫んだ。
「確かに俺は願ったよ!!! もう戦いたくないって!!! だってもう十分じゃないか!!!
マーク・パイソンだぞ! ヘビー級世界王者のマーク・パイソンと戦って、三回ぐらい死にかけたんだぞ俺はッ!?
三回だぞ三回!! もういいだろ!! 勝ったんだから!!!
そもそも俺、フェザー級だし! 世界征服ジムも階級揃えてくれよ!! 試合組みにくいだろ! ミニフライ級とかさぁ!!」
打つべし、打つべし。
パンチの回転はグングン速くなり、呼応するように三四郎の叫びも熱を帯びていく。
否、逆である。
三四郎の叫び、怒り、嘆きに呼応して、パンチの回転が速くなっているのだ。
「なのになんでまた挑戦状とか出してくるかなぁ!?
エディも久美子ちゃんもノリノリだし!!
俺は久美子ちゃんとジーパンはいてショッピングに行ったりしたいだけなんだよ!!!!
わかってないんだよみんな!!! 痛いんだよ!! ボクシングは!!」
叫びの内容は恐ろしく情けないもので、しかも泣きながら叫んでいるものだから本当に情けない。
これでは、青年のあきれ顔も仕方のないことだろう。
それでも三四郎はひたすらにサンドバッグを打つ。
彼は生まれついてのボクサー。
怒りと嘆きの熱を放出する術は、これしか知らないのだ。
「だから願いを叶えてくれる聖杯戦争とかいうのは、そりゃあ一見よさそうに見える……見えるが……!」
ひと際強い一撃が、サンドバッグに叩き込まれる。
衝撃はジャリンと鎖を揺らし、三四郎は倒れ込むように、あるいは縋りつくように再びサンドバッグによりかかり……
「――――殺し合いなら意味ないじゃんッ!!!」
それは、魂の叫びであった。
ものすごく情けないが、理不尽に対する心からの憤りであった。
そう、彼が巻き込まれたのは聖杯戦争――――ただひとつの至天の玉座を目指し、参加者同士で殺しあう戦争。
願いを叶えられるのは、この偽りの世界から脱出できるのは、勝者ただ一人だけという電子の蠱毒。
「戦わないために殺し合いするって、おかしくないか?
なんかその……順序とか……そういうの!
本末転倒だろ……! どう考えても……! うぅっ……」
そのまま泣き崩れる三四郎に、青年は深くため息一つ。
それから、やっぱりあきれ顔で声をかけた。
「けどよ、坊主。
中々いいパンチ持ってるじゃねぇか。それでヘビー級王者倒したんだろ?
そんなにぎゃあぎゃあ喚かなくても……」
「俺はボクサーだぞッ!?
サーヴァントって……宮本武蔵とか沖田総司とか……そういうすごく強い奴らなんだろう!?
ボクシングなど所詮は
ルールに守られた安全なスポーツ……!
だが向こうは殺し合いのプロ!
マ、マスターにも殺し屋とかいるかもしれないし! 戦ったら間違いなく……死ぬ!」
「うへ、なっさけねぇの……」
やれやれとぼやきながら、青年はサンドバッグの前まで歩いた。
そのまま腰を落とし、拳を腰だめに構え……
「まぁ、別にお前に戦えとは言わないよ。
戦うのは俺らサーヴァントの仕事。お前は殺されないように逃げ回ってりゃそれでいい」
「えっ、本当に!?」
「本当だぜ? なんせ……」
スパァン、と鋭い音が一つ。
ジャリン、と擦れる音が一つ。
ドパァン、と鈍い音が一つ。
「――俺らとお前らじゃ、このぐらい差がある」
それは、青年の拳を受けたサンドバッグが破け爆ぜ、中に詰まった砂を吐き出す音だった。
およそ人間の膂力ではありえない。
真実、青年は人間ではない。
それは彼が過去に偉業を成し遂げた英雄、サーヴァントであるということでもあるし……
「俺は、改造人間だからな」
――――彼が機械の血肉を持つ、改造人間だという意味でもあった。
「そ、そうか……じゃ、じゃあ俺は、戦わなくてもいいんだな!?」
「だからそう言ってるだろ?
そもそも人間がサーヴァントと戦うなんざ無理無理無理のカタツムリ。
他のマスターに襲われた時とかに、最低限自衛できてりゃ文句は言わないよ」
「おお……ライダー、実は話がわかる奴だったんだな……!」
「『実は』ってなんだ、『実は』って」
救いの神を見たような顔をする三四郎に、ライダーと呼ばれた青年は苦笑した。
戦わなくてもいいとわかった瞬間これである。
気持ちはわかるが、気持ちに正直というかなんというか。
「でもその代わり、戦争はこっちの好きにやらせてもらうぜ」
「えっ……というと、どんな……」
「どんなって言っても……死ぬ前と変わらねぇよ。
後輩は『正義の戦士』だなんて嘯いてたけどな。
俺は戦えない連中の代わりに……人の自由って奴のために戦うのさ。
俺の戦う理由はいつだって正義のためよ」
なんてこと無いように告げられたライダーの言葉。
その言葉を聞いて……三四郎は、胸に何か引っかかるものを感じた。
「それはつまり……みんなのために悪い奴と戦う、みたいな……」
「おう、それそれ」
「い、いやでも、この世界って、電脳世界なんだろ?
俺たちみたいな参加者以外はみんな人工知能とかいう奴で……
じゃあ別に助ける必要もないんじゃないか!?」
三四郎は必死だった。
それは泣きわめく自分の情けなさを取り繕おうとする必死さだった。
ライダーの高潔さを認めてしまえば、ひょっとして自分はものすごく情けない奴なのでは? という事実を認めざるを得ないためだ。
いや、間違いなく事実として情けないのだが、本人としてはそれを認めるわけにはいかないのである。
「坊主、お前……ほんとに情けねぇなぁ……」
「うっ!!」
そしてトドメを刺された。
いっそ思い切り怒られれば発奮できたのだが、しみじみと言われたせいで精神的なダメージが大きい。
「人工知能だろうがなんだろうが、助けてって叫ぶ声が嘘だと思うかよ?」
「ううっ!!?」
「心配しなくても、お前を見捨てたりはしねーよ。ただ、まぁ……」
大きくため息をついてから、ライダーは三四郎を見おろした。
三四郎はその顔を見ることができず、膝を折り地面に手をついていた。
なんだか無性につらかった。
「男だろ、お前。
もうちょっと気合入れとかねぇと、大事な時に後悔することになるぜ」
「う、うぉぉぉ……ッ!」
この時、三四郎の胸中では無数の思いがグルグルと渦を巻いていた。
いや、そりゃ俺だって困ってる人がいたら助けたいと思う! とか。
でも死にたくないし、仕方ないだろう!? とか。
チ、チキショウッ! 俺はいつだってそうだ! 俺はいつでも情けなく全てをあきらめてしまう……!! とか。
俺はくずだッ! で、でも、ライダーが戦ってくれるらしいし、俺は別にいいんじゃないか? とか。
そういった、自分の中の男の意地と情けない部分がせめぎあっていた。
ライダーはまた、あきれ顔でそれを見ていたが……
「おい、誰かいるのか? ここは立ち入り禁止だぞ!」
部室の外から、男性の声が聞こえてきた。巡回の警備員だろう。
「ヤベッ。おい坊主、ズラかるぜ!」
「え、お、おう!」
ライダーに手を引かれ、窓から二人は逃亡する。
後姿は見られたかもしれないが、まぁ問題のない範囲だろう。
サンドバッグを一つダメにしてしまったのは、少し申し訳なくも思うが……
「……で、坊主。まだ燻ってるなら、ひとっぱしり行くか?」
「…………よし、行くかッ!」
◆ ◇ ◆
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」
「……威勢だけは十分なんだけどなぁ」
……夜の闇を切り裂くバイクが二台。
全てを吐き出すような叫びを上げながらバイクで爆走する三四郎を後ろから見守りつつ、ライダーはぼやいた。
ちなみにこの後三四郎が「まぁいっか」と妙な開き直りを見せることを、この時のライダーはまだ知らない。
愛車をぼんやりと走らせながら、ライダーは想いを馳せた。
かつて共に戦った、改造人間でもなんでもない親友に想いを馳せた。
「魂だけでも、か……」
この少年は、決して悪い人間ではないと思う。
ただ少し……勇気が足りないだけなのだ、と。
自分はこの少年に、勇気を示すことができるだろうか?
血塗れた悪魔でしかない自分に、それができるのだろうか?
「……それでもやらなきゃならないんだよな。滝、本郷……」
スノーフィールドの風は強く、冷たい。
だがその冷たい風が心地よかった。
真っ赤に燃える自分の中の悪魔を、鎮めてくれるような気がした。
「――――なぁに、やれるさ。俺は仮面ライダー2号、一文字隼人だからな!」
ライダーは愛車・新サイクロン号のエンジンを轟かせ、三四郎を抜き去った。
【CLASS】ライダー
【真名】一文字隼人@仮面ライダー(SPIRITS準拠)
【属性】中立・善
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運D 宝具C
【クラススキル】
騎乗:A
騎乗の才能。
幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
怪力:C
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
「変身」中はスキルのランクがアップする。
勇猛:A+
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
戦闘続行:C
不屈の闘志。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。
心眼(真):B
修行・激闘によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
【宝具】
『変身台風(タイフーン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
ライダーの「変身」に必要なベルト。
腰に巻くことで、風力を利用してエネルギーをエネルギーを生み出し、バッタの能力を持つ異形の怪人に変身する。
変身中、ライダーの筋力、耐久、敏捷のステータスをワンランクずつアップ。
さらに広角視野や暗視能力、超聴覚などの特殊能力を備える。
同型の怪人の中でも特に腕力に優れた、「仮面ライダー2号」と呼ばれるライダーの戦闘形態。
『打ち砕く旋風(サイクロンアタック)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:2~60 最大捕捉:20人
宝具『旋風は自由のために(サイクロン)』による突撃走法。
フロントカウルを微細に振動させながらの超速体当たり。
振動によって破壊力が向上している以外はただの体当たりでしかないが、
MAXスピード600キロから放たれるそれは大抵のものを破壊する。
【weapon】
『旋風は自由のために(サイクロン)』
ライダーの愛車。
最高時速500キロ、ブースターを使えば600キロにも及ぶスーパーバイク。
高速走行時にカウルからウィングを展開し、これを利用した滑空すら可能。
正式名称は「新サイクロン号」となる。
【人物背景】
悪の秘密結社ショッカーによって改造された、ロンドン生まれのカメラマン。
外交官だった父の職業柄海外を飛び回ることが多く、六ヵ国語に精通する。
さらには柔道六段、空手五段の達人であり、その身体能力を見込まれてショッカーに改造されてしまった。
こうして改造人間となってしまった一文字だが、どうにか脳改造手術前に救出される。
彼を助けたのは本郷猛――先んじてショッカーに改造され、同じく脳改造前に脱出して悪と戦い続ける「仮面ライダー」だった。
ショッカーを追ってヨーロッパへと向かう本郷に代わり、一文字は「仮面ライダー2号」として日本で戦うことを決意。
そうしてショッカー、ゲルショッカー、デストロンなどの悪の組織と戦い続けた。
彼は改造人間仮面ライダー2号。
人間の自由のために戦う戦士である。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯はいらない。人間の自由のために戦う。
【マスター】
拳三四郎@仮面ボクサー
【能力・技能】
持ち前のボクシングの技術に加え、特殊な仮面とグローブによる特殊能力を保有する。
・透視能力のあるX線アイ。
・100メートル四方の音を聞くことのできる、ボクサー・イヤー。
・敵が、どこに逃げのびようとも居場所を察知することができる額のセンサー(ピンチになると、色が変わる)。
〇ボクサーパンチ
内側に物を張り付けることができる特殊グローブを利用した必殺パンチ。
右手のグローブに左手のグローブの掌を貼り付け、右のストレートと共に左手をパンチと垂直に引く。
するとコマの要領で強力なコークスクリュー・パンチが放てる……という技。
〇n年パンチ(消費する寿命によって名称が変わる。五年パンチ、三十年パンチなど)
ある科学者によってマスクに追加された能力。
エネルギー・マウスピースをひと噛みするごとに1年分の寿命がパンチ力へと変換される。
すなわち寿命を犠牲にして放つ必殺の一撃……なのだが、実は真っ赤なウソ。
寿命云々は、才能はあるが意志薄弱な三四郎に全力を出させるための演出に過ぎない。
三四郎は既にこの嘘を知っているため、現在は(たぶん)使えない技。
一応、現在は改造によって「他人の寿命を消費できるようにした」と開発者は言っているが……
……間違いなく嘘なので、やはり現在は(たぶん)使えない技。
ただし、要するに全力のパンチでしかないため、『その気』になった三四郎ならば同等の一撃を放てるはずである。
【weapon】
『変身セット』
ヘッドギア型のマスクと粘着グローブ、エネルギー・マウスピースからなる変身セット。
これを装備することで、三四郎は「仮面ボクサー」へと変身する。
グローブは内側が粘着性なので、バイクにも乗れる。
ヘッドギア型マスクも、乗車用ヘルメットとして警察庁の許可が取ってある。
『バイク』
何の変哲もないごく普通のバイク。
仮面ボクサーの主な移動手段である。
【ロール】
ボクシング部主将の高校生。
【人物背景】
私立鈴具高等学校ボクシング部主将を務めるボクシング少年。
父は日本プロボクシングコミッショナー……なのだが、
世界制覇を目論む「世界征服ジム」に父は拉致・洗脳され、彼らが擁する「怪人ボクサー」を認可してしまう。
三四郎はなんとか父を正気に戻すも、世界征服ジムの刺客クモボクサーによって父が殺害されてしまい、
唯一手元に残った「仮面ボクサー」の変身セットを装着して父の無念を晴らす決意をする。
そうして続くカマキリボクサー、コブラボクサー、ブロンドボクサー、食虫植物ボクサーを撃破。
最後に現れた最強の敵、ゴッドボクサー(正体はヘビー級王者マーク・パイソン。ちなみに三四郎はフェザー級)。
敗北、死闘、敗北、決意、そして死闘とドラマの果てに、ゴッドボクサーを三十年パンチで打ち倒し、全ての変身セットを回収した。
熱血漢だが非常に意志薄弱。
ヘタレでビビりだが口先だけは男らしい。反面とても調子に乗りやすく、勢いだけで生きているような男。
とにかく非常に諦めが早く、中々実力を発揮できないが、その潜在能力はヘビー級王者をも一撃で打ち倒すほどである。
今回は原作最終回直後から参戦。
全ての変身セットを回収した後も戦いの運命から抜け出せない、悲しい男である。
【令呪の形・位置】
右手の甲にヘッドギアのような仮面の形。
【聖杯にかける願い】
戦いから逃れたい。
少なくとももう死ぬような戦いとかしたくない。
【方針】
死にたくない。戦いたくない。
……が、良くも悪くもその場の勢いに流されやすいため、この方針は容易に転換し得る。
最終更新:2016年12月28日 01:57