勲は全て我に在り◆uL1TgWrWZ
――――そこは、地獄だったのだろう。
繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し。
何度も何度も何度も何度も、同じことを繰り返す。
海から、あるいは工廠から現れた、自分と同じ顔と魂を持つ無邪気な少女に、自分は何ができたのだろう。
最初はまだいい。
深海棲艦相手に戦って、経験を積んで、強くなって。
それで、改造を受けて……そこから先が、問題なのだ。
装備を解体され、近代化改修の糧とされた?
それならまだ、幸せだ。
なにせ、命があるのだから。
軍艦としての誇りを汚されようと、十分に幸せと断言できる。
無限に酷使され、無限に使い捨てられていくことに比べ、それがどれだけ幸福なことだろう?
迫りくる数多の深海棲艦。
それは、地上を侵す海の怨霊。
軍艦の魂をその身に宿す我々艦娘でしか抗しえぬ相手。
ならば、戦うのは自分たちの仕事だ。
それはいい。
その果てに死ぬことも、仕方のないことだといえる。
だが――――だが。
無為に使い潰されることが、幸せだと言えるだろうか?
ありていに言えば、自分たちの司令官はクズだった。
艦娘を感情を持たない兵器と断じ、機械的に使い潰していく。
出撃、出撃、出撃、出撃。
一切の人格を考慮せず、一切の苦痛を考慮せず、一切の被害を考慮せず、ただ、ひたすらに。
あの時――あの、強大な深海凄艦が現れた時。
強力な回復能力によって鎮守府を苦しめたあの難敵。
その回復能力を阻むためには、断続的な攻撃が有効だと判明し……
――――――――ああ、もしも。
もしもその時に下された命令が“疲弊を無視した連続出撃”であったのなら、どれだけ幸福だったのだろう。
恐ろしく辛かっただろう。
死ぬ者もいただろう。
けれど、そうであったら良かったのだ。
まともに訓練も受けていない少女たちが、死ぬためだけに戦地に送り込まれることに比べれば。
まるで自分たちの記憶に刻まれた“あの戦争”の、末期のそれのように。
命を燃料にして無謀な出撃を強要されて死んでいったあの子たちに、自分は何ができたのだろう。
繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し。
何度も何度も何度も何度も、同じことを繰り返す。
自分と同じ顔、同じ魂を持つ少女たちが、現れては消えていく。
軍艦とはいえ幼い少女たちが、泣いたり笑ったりする少女たちが、戦火の中に消えていく。
それは勝利のために必要なことだったのかもしれない。
それでもなお、数多の命が、魂が消費されていくあの空間は。
ああ―――――――――なんて、地獄。
その絶望に、その絶望に抗おうという切なる願いに、この“白いトランプ”は呼応したのだろう。
如何なる願いをも叶える願望器。
戦いの果てに、それと掴むことができたのならば……いや、私は、勝ち取らなければならない。
名高き長良型軽巡洋艦二番艦、五十鈴の名にかけて。
かつてその背に乗せた、数多の英雄の名にかけて。
私は聖杯を勝ち取り、あの地獄を打破せねばならない――――――――――
◆ ◇ ◆
「おいガキ。茶ァまだか。遅ェぞ」
「……だから、私にはガキじゃなくて五十鈴って名前があるんだけど」
「ガキはガキだ。生言ってんじゃねぇ」
五十鈴は、ダン、とテーブルの上に叩きつけるようにお茶を置いた。
彼女と相対するのは、明るい金髪を刈りあげた軍服の男。
逞しい体に、袖なしのキャプテンコートを羽織り、顎を覆う鉄のマスクの隙間から煙草をくわえた大男。
男はつまらなさそうに湯呑を手に取り、口を付け……
「――――ブフッ、苦ェ! おいガキ、なんのつもりだテメェ!」
盛大に噴き出した。
五十鈴が出したのはいわゆる日本茶であり……初見の者にとっては、噴き出すのもやむない独特の苦さと渋みだ。
それを見た五十鈴は、ここぞとばかりに得意げな顔をした。
「あら、お口に合わなかったかしら?
見た目のわりに舌の方はオコサマなのね」
「なんだと……!?」
五十鈴としては意趣返しのつもりなのだろうが、男はそれに憤慨し、湯呑を地面に投げ捨てて勢いよく立ち上がった。
湯呑が砕ける音。男はそのままのしのしと五十鈴に詰め寄り――右手を五十鈴に突き付ける。
「っ!」
「調子に乗るなよ、ガキ……俺を誰だと思ってやがる」
――――その右手は、斧だった。
右手の代わりに、巨大な斧が腕に埋め込まれていた。
それこそは、彼の二つ名となった武勇の象徴。
「俺は海軍大佐、“斧手のモーガン”様だぞ……ッ!!」
彼の名は斧手のモーガン。
東の海(イーストブルー)にて暴政を敷いた、叩き上げの士官。
全てを腕っぷしで勝ち取ってきた、権力に憑りつかれた男。
「な、なによ。あなた、私を殺したらどうなるのか、わかってるの?」
気丈に返す五十鈴になおのこと気を悪くしたのか、モーガンは左手で五十鈴の胸倉を掴み、締め上げた。
剛腕で五十鈴の身体が持ち上げられ、足がじたばたと宙を蹴る。
「魔力供給の話か? くだらねェ!
そんなもんは、街のカス共から巻き上げればいいだけのことよ!」
「なっ、この……!」
「いいか! 世の中称号が全てだ! 海軍大佐である俺に逆らう奴は一人として生かしておかねェ!」
そのまま、斧手が振り上げられる。
いかに艦娘とて、その一撃を喰らえば死は免れないだろう。
無念か、憤怒か、五十鈴は声を絞り上げた。
「ふざけないで……! なら私は長良型軽巡洋艦二番艦、五十鈴よ!」
「あァ?」
「私の歴代艦長には、後に海軍中将になった山口多聞提督も、元帥海軍大将になった山本五十六提督だっていたわ!
たかが海軍大佐がなんだって言うのよ!
あなたなんか井の中の蛙、お山の大将ってとこね!
精々無駄死にしなさい! あなたなんかに、聖杯が取れるはずないんだから!」
「………………」
一気にまくし立てる五十鈴を、モーガンは静かに睨み。
「……フン」
「きゃっ!」
鼻を鳴らし、無造作に投げ捨てた。
モーガンは尻餅をつく五十鈴を一顧だにせず、緩慢な動作で椅子に戻っていく。
助かったのか。
五十鈴は半ば呆然とその背中を見つめ……被りを振った。
――――この男のクラスはバーサーカー。
その行動は、いちいち気まぐれでしかないのだろう。
「おい」
モーガンが、振り向かぬままに声をかけた。
「……なによ」
警戒し、睨みつけながら、五十鈴は返答する。
「……言っておくが、次はねェ。
俺は海軍大佐、斧手のモーガンだ。
お前より偉い俺はお前より優れているし、お前よりも絶対的に正しい。
俺はテメェがマスターだとは認めねぇ」
それは警告であり、宣言であった。
自分はお前の指示に従うつもりは無いし、むしろお前が自分に従えという、そういう命令。
「だが……テメェの指揮取ってたヤツがみんな偉くなったってことなら、その幸運を利用してやる。
俺は海軍大佐斧手のモーガン――聖杯を腕っぷしで勝ち取り、世界を支配する男だからな」
それだけ告げて、モーガンは椅子に座った。
紫煙をくゆらせ、振り向きもしない。
どうしようもないその暴君ぶりに、五十鈴は内心で歯噛みしつつ、決意した。
利用するのはこちらの方だ。
私はお前を利用して、聖杯を勝ち取り、艦娘が戦わなくてもいい世界を作る。
「――いいわ、提督。そういうことなら、あなたに従ってあげる」
「フン……茶と湯呑、片付けとけよ」
――――私は、あの地獄を打ち砕くのだ。
なんとしてでも。
絶対に。
必ず。
【CLASS】バーサーカー
【真名】モーガン@ONE PIECE
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力A+ 耐久B 敏捷D 魔力E 幸運A+ 宝具D
【クラススキル】
狂化:D
理性と引き換えに、筋力と耐久のステータスをランクアップさせる。
バーサーカーは理性を失っていない……が、野心と支配欲に呑み込まれている。
そのため言語能力は残っているが、行動に理性のブレーキが効きづらい。
【保有スキル】
戦闘続行:E
瀕死の重傷でも戦意が衰えず、生き延びやすい。
仕切り直し:B
戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。
カリスマ:C
支配階級としての威圧を示す。
自らの宝具の影響下にある者に対しては、効果がワンランクアップする。
【宝具】
『斧手の支配立像(キャプテン・ザ・アックスハンド)』
ランク:D 種別:結界宝具 レンジ:1~40 最大補足:500人
バーサーカーが生前作らせた巨大なバーサーカーの石像。
野心と幸運と腕っぷしによって海軍大佐まで登りつめたバーサーカーの権力の象徴。
設置することで、レンジ内にいる者を権力によって支配する絶対権力領域。
支配下においた者からの魔力・物品の強制徴収、恐怖による強制命令、配下の召喚など、その効果は多岐に渡る。
なお、この宝具はサーヴァント及びサーヴァントとラインで繋がったマスターには効果が薄い。
これはサーヴァント自体が持つ存在強度が高く、支配下に置くのが困難であるためである。
それでも精神異常耐性スキルを所有するか、バーサーカーより高い地位の人物でない場合、「威圧」のバッドステータスを受けるが。
なお、バーサーカーの地位は感覚的には地方領主程度のものである。
【weapon】
『斧手』
バーサーカーの二つ名にもなった右腕。
肘から先に埋め込まれた巨大な斧。
岩や鉄でも問題なく両断するだけの切れ味を誇る。
『海兵隊』
宝具によって召喚される海兵隊。
数はせいぜい数十人程度であり、雑兵に過ぎないが、恐怖によって支配しているため極めて忠実。
バーサーカーに死ねと言われれば、震えながら頭を撃ち抜いて死ぬだろう。
【人物背景】
東の海、海軍第153支部の大佐であり、同支部の最高権力者。
支部本拠地シェルズタウンを恐怖によって支配した暴君。通称は斧手のモーガン。
自分の意に従わない者は例え女子供や部下であっても容赦なく処刑し、貢物を強要した。
元々は野心を持ちつつも誇り高い海兵だったが、賞金首の海賊「百計のクロ」に敗れ、
催眠術によって「百計のクロを捕まえた」と思い込まされたまま偽の身代わりを連れて凱旋。
その功績と腕っぷしを認められて少佐となり、出世の道をひた走ったという。
しかし、ある日ドラ息子ヘルメッポに楯突いた「海賊狩りのゾロ」を捕らえることとなり、
そこに現れた海賊「麦わらのルフィ」と敵対する羽目になり……敗北し、暴君の座から引きずり降ろされた。
元部下によって捕らえられたモーガンは死刑判決を下され、本部に送検される運びとなったが、
土壇場で中将ガープを切り付け、息子ヘルメッポを人質にして逃亡。
ヘルメッポは途中で開放されたものの、モーガン自身はそのまま海上を逃げ延び……その後の消息は、不明である。
【サーヴァントとしての願い】
腕っぷしで聖杯を勝ち取り、全てを支配する。
【マスター】
五十鈴@艦隊これくしょん
【能力・技能】
艦娘として、艤装に依存した戦闘能力を保有する。
艤装を身に着けている間は水上移動が可能。
【weapon】
『12.7cm連装高角砲』
五十鈴の主武装。ただし分類は副砲。
対空高角砲であり、空中の敵に対して高い効果を発揮する。
『21号対空電探』
五十鈴に搭載された電探。
いわゆるレーダーであり、これにより五十鈴は高い索敵能力を保有する。
『61cm四連装(酸素)魚雷』
五十鈴に搭載された魚雷。
現状の五十鈴にとって最高火力となる強力な武器ではあるが、原則水上でなければ使えない。
【ロール】
女学生。
【人物背景】
長良型軽巡洋艦の二番艦。
海軍史に輝く数多の名士をその背に乗せた、浮かぶ海軍殿堂……の、魂と記憶をその身に宿した少女。
自信に溢れ、軍艦らしい好戦性を持つ、艦娘の一人。
……なのだが、彼女はひとつ忌むべき宿業を背負っている。
改造が容易であること、改造時に優秀な装備を持っていること、近代化改修の餌として優秀なこと……
…………この辺りの事情が重なり、ゲーム『艦隊これくしょん』では、
「レベルを12まで上げて改造した五十鈴から装備を剥ぎ、近代化改修に使う」というテクニックが存在した。
俗に「十二鈴牧場」と呼ばれるテクニックであり、人によっては忌み嫌うこともあるプレイである。
この五十鈴は、その「十二鈴牧場」や「捨て艦」などが横行する、いわゆる「ブラック鎮守府」からの参戦。
艦娘を感情を持たない兵器として扱う鎮守府の出身であり、他の艦娘共々酷使されていた。
彼女は「最初の五十鈴」。自分と同じ顔・同じ魂を持つ少女が使い捨てられていく地獄から抜け出すため、聖杯を求める。
【令呪の形・位置】
右手の甲に錨とカモメの意匠で三画。
【聖杯にかける願い】
全ての艦娘が戦わなくてもいい世界。
【方針】
聖杯を勝ち取る。
……できれば、犠牲を抑えて。
【基本戦術、方針、運用法】
バーサーカー、マスター共に戦闘力に優れた主従。
ただしバーサーカーには大技が無く、マスターも得意な戦場が限られる上、突出して強いというわけでは無い。
戦争の勝利には宝具『斧手の支配立像(キャプテン・ザ・アックスハンド)』による地盤固めが不可欠となるだろう。
魔力徴収や海兵隊の召喚が行える、そこそこに便利な宝具だが、問題は神秘の隠匿。
恐怖によって支配された市民は神秘について他所に漏らすことは無いが、効果範囲によっては神秘の漏洩に繋がる危険性がある。
一応、魔力・物品の徴収は「なんとなく体がだるい」「なぜか急に疲れた」「いつの間にか物がない」などの形になるため、
穏当に地力を蓄えるだけなら問題は少ない。
とはいえ、石像自体が巨大なので目立ってしまうのだが……立て直しが得意なのは幸いか。
主従の関係も良好とは言えず、総じて「どこに陣取るか」にかかっている陣営。
最終更新:2016年12月28日 01:54