利根川幸雄&キャスター ◆CKro7V0jEc



 それは、今日より一週間前の事……。



 事の主人公は、帝愛グループの幹部・利根川幸雄っ……!!



 彼の所属する帝愛グループは……

 巨大ビルが林立する大都会・東京の中……

 その一つをまるまる保有しているほどの大会社っ…………!


 あまり大きな声では言えないが……

 いわゆる、ブラック中のブラック……

 金融コンツェルンっ………………!


 多重債務者に違法な暴利で貸付を行い……貪り食い……

 骨の髄まで味わって……ゴミのように捨てるっ……!

 とどのつまり……それだけで大きくなった悪徳企業…………!

 それが……帝愛グループっ……!


 彼もまた、その世界の常識の中で……

 クズたちを人と思わぬハイエナとなっていたがっ……!

 彼もまた努力と才能で上り詰め……この座に就いたっ……!

 数千、数万人に一人の優秀な人材っ……! それが利根川っ……!





 そして、その日、利根川の身にその出来事が降りかかったのは……


 本社ビルの最上階…………!


 会長・兵頭和尊の部屋っ…………!!





 利根川は、その時……そこで、会長の前にっ……!

 立っていたっ……!

 圧倒的棒立ち……!

 数十人の黒服たちが集まる中……利根川と兵頭が向き合う……緊張……!

 利根川はただ、何もできず……

 まるで……カカシのように動かず……指示を待つ……!



(今日は一体何の用なんだ……!?
 立ったまま話が始まらず……十分っ……!
 まるで木偶の坊っ……! カカシっ……!)


 本来……ただ指示を待つだけの木偶の坊やカカシなど、利根川が最も忌み嫌うものっ……!

 しかし……

 どうする事も出来ないっ……!

 機嫌が悪そうな……今日の兵頭会長の前では…………!

 何も触れないのが……ベターっ…………!


(突然の呼び出し……! それ自体は、いつもの事……想定内……!
 会長には土日だろうが祝日だろうが……お構いなし…………!)


 そう、こうした呼び出し自体はいつもの事……

 利根川に休みはない……会長にはいつも不意に呼び出され……

 駆り出されるっ……!

 そのうえ、大概は……些末な用事……

 はっきり言って、どうでもいい用事ばかり…………

 数十日に一度の利根川の休暇を潰す……会長の暇つぶし………!


 だが、今日この時は……

 そんな愚痴を言いたくなるどうでもいい用事の時とは……

 根本的な何かが……

 違うっ……!




 ざわ……

   ざわ……




 利根川は薄々気づいていた……

 二人を囲む黒服たちの、サングラスの裏にあるのは…………



(なんだこの……)





 ――――いたたまれぬ表情っ…………!





 そう……

 これは、心ある人間たちによる……同情の視線っ…………!

 何の助けもしない……助けるどころか、加害者になる筈の兵頭側の男たちまでも……

 揃いも揃って……同情っ…………!

 誰でも気づくような……圧倒的空気の悪さっ…………!


(何かをした覚えがまるでないが……
 だからこそ恐ろしいっ…………!)


 しかも利根川に……心当たり……なしっ…………!

 ここ数日の会長の機嫌……全て良しっ…………!

 目立ったしくじりも……していないっ……!

 少なくとも良い報せではないのは確かっ……!!

 恐怖のカウントダウンっ…………!



「利根川よ」


 兵頭……ここに来て、突如口を開く…………!


 一同に緊張が走るっ…………!


 そして…………!


 告げるっ……!!



「お前、明日から帝愛スノーフィールド支部に転勤じゃ」



 転勤っ……!

 帝愛スノーフィールド支部への……転勤っ……!


「なっ…………!?」


 しかも明日っ……!

 急すぎる転勤っ……! 圧倒的準備不足っ……!

 そして何よりこれは……!



 ――――とどのつまり……左遷っ……!



 戦力外通告っ…………!

 突然の転勤っ……それは、遠まわしな戦力外通告っ……!

 しかし、やはり利根川に……心当たり…………なしっ!

 故障もなしっ……不祥事もなしっ……業績を下げたわけでもなしっ…………!



「まっ……待ってください……会長っ……!!」



 にも関わらず…………

 エースが突然の…………二軍、三軍落ちっ……………!



(スノーフィールド……どこだっ! それはっ……!
 だいたい、そんな支部があったのかっ…………!)



 聞いた事もない土地っ…………!

 これがパリやニューヨークならともかく……

 明らかな海外の地方都市……!


 まだ何も始まっていない……

 いや……これから始まる事すらないような……



 田舎っ……!

 仕事など……してもしなくても変わらないっ……圧倒的ド田舎っ……!

 明らかにこれは……海外での出店ミスの尻ぬぐいっ……!



 幹部の待遇からは想像もできない格落ちっ……!



 圧倒的理不尽っ…………!!

 利根川、長年の苦労と努力がすべて…………





 泡っ…………!





 水の泡っ…………………………!












 一週間後…………!(つまり今日)



 ざわ……

   ざわ……



「ククク……」


 一週間……それはトネガワにとって充分すぎる時間……!

 抜け殻のクズでいられるのは……


 初日だけっ……!

 流石に一日……たった一日は……

 利根川も魂を失ったっ…………!!


 しかし……

 あとの日々は再び返り咲く為に使う……

 貴重な一日っ……!

 一日一日をきちんとこなす事で…………

 成果をあげるっ…………!

 そして再びっ……日本に戻る…………!!

 一日の使い方こそ……人生の勝敗を分かつものっ…………!

 利根川の一日は……勝者の使い方っ…………!!


「覚えたぞ……遂に全員っ……!! 間違いなくっ……!!」


 新天地における部下の名前も何とか覚えたっ……!

 ほとんどは日本人だが……中には外国人(※黒髪)もいるっ……!

 中には、名前は長すぎる為、全部完璧には覚えられない者もいたが……

 それも……「ほぼ」……覚えたっ……!

 ファーストネームさえ呼べれば充分っ……!

 愛称は……サエモンっ……! マックっ……! ニックっ……! ミックっ……!

 これは……利根川の中では……「覚えた」にカウントっ……!

 サイモン・“ジローサブロー”・サエモンサブローJr.などの複雑な名前もあったがっ……!

 こちらは完璧っ……!!



 そして……彼をはじめっ……

 全部で十二名っ……!

 実質的にそれが……帝愛スノーフィールド支部の全社員っ……!


「苦戦はしたが……はじめの一週間はまずっ……現地の部下との交流……!
 いくらアメリカが仕事を家庭に持ち込まない傾向があるといっても……多くは日本人っ……!」


 中には現地で生まれた社員もいるがっ……

 彼らも日本人社員に憧れて……宴会やパーティーを楽しむ陽気な性格っ……!

 ワークとライフを……直結させながらっ……どちらも楽しんでいるっ……!

 圧倒的ワークライフバランスっ…………!!





 そして、彼らの趣味はっ……!

 アメフト……!

 バスケ……!

 野球……!


(クククッ……)


 流石アメリカっ……!!

 趣味の種類も多種多様っ……! 個性派揃いっ…………!


 僅かに被っている趣味と言えば……

 アメフトをするのが好きな奴と……アメフトを見るのが好きな奴……

 バスケをするのが好きな奴と……バスケを見るのが好きな奴……

 野球をするのが好きな奴と……野球を見るのが好きな奴……


 それが各二人ずつ……似てるようだが……それも性格は陽気な奴と実直な奴に分かれている……!!

 それで充分っ……!! 日本よりは個性的っ……!!

 そのうえっ…………!


(一見紛らわしいが……しかしっ……!
 実際のところ……するのが好きな奴と見るのが好きな奴の違いは……どうでもいいっ……!!)


 そうっ……!!

 するのが好きな奴も、見るのが好きな奴も……

 趣味の話題ならば……



 ――――食らいつくっ…………!!



 とりあえず選手の名前を出せば……どちらもっ……!

 水を得た魚のように……話に入るっ……!

 そして……好みの話題で打ち解けられるっ……!

 これで社員とのコミュニケーションは完璧っ……趣味の話題で盛り上がる事が可能っ…………!


 完璧っ……!!

 海外の黒服も……一週間で完璧に掌握っ……!!



 利根川っ…………圧倒的暗記っ…………!!








 しかし……!!

 その日の夜…………!


「あ……ああっ……!」


 利根川は唐突に思い出すっ…………!

 ようやく左遷を受け入れ……新しい生活になれてきた今になって…………!

 この生活のおかしさへの……



 ――――圧倒的気付きっ…………!!



(何という事だっ……!)


 利根川も……これには頭を抱えるっ……!


「ワシの記憶にあるもの……すべては偽り……。
 左遷など……ただの夢っ…………!
 夢想の為に……一週間の無断欠勤っ…………! 穴埋め……不能っ……!!」


 利根川……全ての事実を知る…………!!

 左遷など偽り……

 利根川の脳を……超科学的な作用で操り……そう思い込ませただけ……

 とどのつまりっ……!!





 全てが……Fake(フェイク)っ…………!!!!!





 今日までの一週間……

 全てがFake…………!

 巻き返しの効かない……妄想に捉われた無駄な時間っ…………!!

 いずれにせよ、解雇は確実っ…………!

 地位は剥奪確実っ…………!

 それで済めばいいもののっ…………

 最悪の場合があるっ…………!!

 利根川の頭に浮かぶ嫌な想像っ……! 最悪の想定っ……!

 何をされるか知れたものではないっ……!!

 会長の怒りにふれては……何をされるかっ…………!!





 しかし、その時っ……!!



 ――――利根川の部屋に電流走るっ…………!!







「――――貴様が私のマスターか」



 耳元で……聞いた事のない声っ……!

 利根川の傍からっ……!! かすれ切った老人の声っ…………!!

 一瞬、会長の声を疑うが……

 違うっ……!

 聞きなれた声ではないっ…………!

 もっとおぞましい声っ………………!!


 ならば誰だっ……!

 就寝間際の利根川のビジネスホテルに……忍び込んだ老人……!




 ざわ……

   ざわ……




「だ、誰だっ……貴様はっ……!
 何故、ワシの部屋にいるっ…………!!」


 利根川は見たっ……!

 そこにいるのは…………


「あっ……ああっ…………!」


 不気味な老人っ…………!!

 白いスーツの上に黒いマントを被った……薄毛の老人っ……!!

 その姿……まるで……



 ――――悪魔っ…………! 死神っ…………!



「クッ……!」


 利根川……ここで幻覚を疑うっ…………!

 信じられなくなるっ……

 自らの目がっ…………!

 目もっ……! 耳もっ……! 目と耳の両方が信じられないっ…………!!


「我が名は『キャスター』――又の名を、『死神博士』!」


 名乗るっ……死神がっ……死神をっ……!!

 この妖しい老人……死神のような老人……自ら……死神の名を名乗っているっ…………!!

 明らかな不法侵入者っ……!!

 しかし……あまりの事に利根川も動けずっ……!!

 死神の名に……異様な説得力を感じるっ……!!




「……聞くが良い、マスター。聖杯戦争の全てを……」


 そして……利根川は……

 突如寝台の前に現れたこの老人により……一方的に聞かされるっ…………!

 誰も聞いていないのにっ……



 聖杯戦争のルール説明っ……!!



 ――――開始っ…………!!






 そこで語られたのは……非現実的な話っ……!


 これまで主催してきたような…………

 クズどものデスゲームっ…………!!


 権力さえも意味のない……神の気まぐれっ…………!!

 それが聖杯戦争っ……!!

 彼の前に現れたのは……そのうち…………

 魔術師のサーヴァント……



 ――――キャスター…………!



 その他……同じような名前のやつらが……無数に存在する事実っ……!

 そしてそいつらと戦えという絵空事っ……!


(セイバー……アーチャー……キャスター……バーサーカー……あと三つ……!
 確かあと三つクラスがあったと話していたが……!)


 利根川、既に七つのクラスのうち、三つ……わからなくなりつつあるっ……!

 しかも……真名……マスター……宝具っ……サーヴァントっ……

 続けて明かされる複雑な設定っ……!


 ついていけないっ…………!

 世代的に……利根川も……



 ――――横文字は苦手っ…………!



 確かにここ数日、何故か……そう……おそらく……聖杯のお陰で……英語を普通に喋ってはいたが……

 もはや……中年の横文字の苦手意識は……深層レベル…………!

 心の底にまで根を張った……巨木っ……!

 横文字への……本質的嫌悪と拒絶……!

 既に全身を絡めとった根は……用語の理解に必要以上の時間をかけさせるっ……!

 たとえ英語の基礎が喋れるようになっても……改めて用語を出されると意味不明っ…………!!

 そのうえ、この男の言っている事が……そもそも意味不明っ……!

 興味もわかないっ……!!

 いくら利根川でもっ……聖杯戦争の話は…………

 結局のところ、半分も……わからないっ……!!

 メモなしにはっ…………!!




「――というわけだ、マスターよ」


 だが……気づけば利根川……全て聞き終えていたっ……!

 平日の深夜に……

 不法侵入した老人の妄言をフルで聞いていたっ…………!

 内容は頭に入ってこなかったが……終わるまで付き合ってしまったっ……!

 死神博士を自称する男のっ……変な妄言っ…………!



 はっきり言って、ここまで聞いた限りで見ると……

 この死神博士は……!



 とどのつまり、認知症のおじいちゃんっ………………!!



 しかし……話半分に聞いていたはずの利根川も……ここで気づく……!

 またも活かされる、利根川の気付き……!


(クッ……だが……)


 そう……

 記憶の話……スノーフィールドの異常性……令呪とトランプ……!

 実に辻褄が合っているっ…………!

 そのせいで、一概にこの男が妄言を言っているとも言えず……



 信じるべきか……信じないべきか……微妙なラインっ…………!

 グレーゾーンっ……!!



「だ、だいたいは飲み込めた……。
 だが…………! くだらんっ……!」



 試すっ……! 警察に通報するよりは先にっ……!!

 この男と向き合い……試すっ!


 死神博士という男の正常性っ…………!

 どれだけ会話が通じる相手か……理路整然とした会話が望める相手なのかっ……!!

 これはある種の賭け……

 変質者ならば即座に通報っ…………!!


 利根川の認識としてはこれは……変質者寄りだが…………

 全く信じられないわけでもない……

 つまり……試すしかないっ…………!!

 試してから……下すしかないっ…………!!

 聖杯戦争への決断っ…………!!




「お前の言う事は……まるで……。
 絵空事っ……魔法っ……奇人の妄想っ…………!!
 認知症のじじいっ…………!! ただのホームレスの不法侵入者めがっ…………!!」


 挑発っ……!

 利根川の口から出たのは、目の前の老人への挑発っ…………!!

 いくら利根川といっても……この老人よりは年下っ……!

 そこでこんな口をきけば……間違いなく怒るっ…………!

 利根川でも……相手によっては怒るっ…………!!


 だが……

 そうしてすぐに怒る相手ほど……話は全く通じないっ…………!

 常識人は……こういう時…………冷静っ…………! まともな大人ならっ…………!!

 客観的に自分を見て……自分のおかしさに気づくはずっ……!

 そうでないなら……ただの老害っ……!

 怒った瞬間……容赦なく通報っ!!


「――フン。現実を見ようともしないか、つまらん男だ。無礼な口だけは達者と来ている」


 しかしキャスター……!

 意外にもこれをスルー……!

 挑発に乗らず……!!

 だが、利根川……更に試すっ…………!


「つまらん男だとっ……!? フン……! 
 それで結構だが、そう思うのなら……言葉だけでなく、提示をしろっ……!
 証拠っ……!! 論よりも……証拠をっ……!」

「……ならば訊こう。
 現実に、貴様はスノーフィールドの地に導かれ、元の記憶を改竄されていた。それから、異国の文化に馴染み、異国の言葉を喋り、平然と暮らしていた筈だ。
 気付いているはずだろう。それならば、今更非現実を認めるのは遅いくらいではないか?」


 ダメージっ……!

 利根川の胸にズサリと刺さる一言っ……!

 一応は正論っ……!

 利根川は自身の記憶の回復などを……他人に話した覚えもないっ……!

 相手がそれを知っている事が……何よりの非現実っ……!!

 しかし、まだ信じるわけにはいかず……!!


 更に進行っ…………!!

 試すっ……! 試すっ……! 試すっ……!




「確かにワシの記憶は、さっきまで別の事実を受け入れていたっ……! まるで洗脳でもされたかのように信じ込んでっ……!
 今は自分の地位が役割に過ぎない事も薄々気づいているっ……!
 しかし、それだけではまだ何とも言えない……グレーゾーンだっ……!」

「ならば、その令呪だ。その令呪こそ、我らが神秘の証……この私を唯一制御できる魔術となっている。
 直接腕に埋め込まれた紋章……それを以前に彫り込んだ記憶はあるのか? マスターよ」


 正論っ…………!

 非現実であるが……それより前の非現実を説明付ける正論っ…………!

 証拠は利根川の左手の甲っ……! そこに刻まれた『令呪』という名の模様っ……!

 明らかにそれは何かをかたどった刺青であり……利根川の記憶の覚醒と共に現れたサインっ……!

 それが手に浮かんだのは……僅か数分前っ……!

 それを彫り込むのは物理的に不可能っ…………! インポッシブル…………!


(蛇めっ……!)


 そして……その模様……まさしく蛇っ…………!!

 十匹の蛇が蠢いている奇妙な絵……!

 というか……言い換えるなら……

 まあ、イカの絵っ…………! とも言える……


 ともかくそれは……

 明らかに左手の甲に刻み込まれている……

 消せないタトゥー……!


 利根川も……ここで……

 明日からの社員への誤魔化しの手段を考えたくなるっ……! タトゥーをどう誤魔化すかっ……! 部下にからかわれないかっ……!


 しかし……今はその話は保留っ……!!

 キャスターに応対っ……! そちらに専念っ……!


「オーケー……! 確かにその通りだっ……!
 その事実は……認めようっ……! 目を……背けていても仕方ないっ…………!!
 ワシの身にとって奇妙な事は多いっ……!!」


 しかし……ここまで言っておきながら……


「だが、それと聖杯戦争とは関係がないっ……!!」


 まだ責めるっ……最後の責めっ……!

 試すっ……! 利根川はまだ……キャスターを試すっ…………!




「まだ認められない……ワシの異変と、貴様の妄言との……因果関係っ!
 それを証明する事は……インポッシブル……!! 不可能なはずだっ……!!」

「そうか。ならば――止むをえまい」



 ざわ……

   ざわ……



 瞬間っ……!

 異様な緊張っ……!!

 謎の静寂っ……!!

 心なしか……闇も深まるっ……!!


「見せてやろう。――――この死神博士の真の姿……」


 そしてっ…………!!


「あっ……ああっ……! ああああああっ…………!!」


 そこで利根川は見るっ……!



 ――――怪物っ……!!



 圧倒的っ……!! 圧倒的怪物っ…………!!

 それは死神博士のもう一つの姿っ…………!!

 醜悪な怪物っ…………死神博士の姿が一瞬にして変わるっ…………!!

 白い不気味な怪物へとっ…………!!

 この年にして……寝られないほどの恐怖っ……!!


「……信じたか? マスター」


 キャスター……ここで怪物の姿のまま詰め寄り……語りかけるっ……!!

 イカの怪物……イカデビルっ…………!!

 利根川……ここで後ずさるっ……!!


「“信じたな?” マスター」


 信じられないとしても、これが現実っ……!!

 これがリアルっ……!!

 利根川は確かに目にしたっ……!

 人間が怪物に「変身」する瞬間っ……!! 確かにその目でっ……!!


「し、信じたっ……!! 確かに信じたっ……!! だが……っ!」

「だが?」

「信じてきたリアルと、少し食い違うっ……!
 新しいリアル……すぐには受け入れられないっ…………!!」

「まだ信じないと言うのか」

「無論信じる……だが慣れないっ……!!
 たとえ魔術があるとして……怪物がいるとして……!
 そんなものはワシの数十年の人生に一日たりとも関わっていないからっ……!」

「ほう」

「もっと……魔術に近い事が目の前で起きた後や、兆候があったならばともかく……
 ワシは突如として知らされたっ……!
 刻むだろっ! 普通っ……! もっと……段階をっ……! 進化や発展をするならっ……!!」

「つまり、受け入れられるまでの時間が欲しいという事か。
 ……フン、それもまた良し。弱い者はいつまでも閉じこもればいい。
 貴様が生きてさえいれば、我々は勝手に勝利し、聖杯を得る。
 まあ、貴様も、聖杯に託す願いでも考えておくが良い」




 キャスター……ここで変身解除っ……!

 またも老人の姿に戻るっ……もはや驚きはなしっ……!

 既に見ているっ……利根川は、非現実を……

 そして受け入れているっ……!



 それよりも……

 利根川が気になったのは……

 キャスターの言葉っ……!



 弱い者っ……!!



 その言葉は……不意に利根川を奮起させるっ…………!


(クッ……このワシが言われっぱなしとは……)


 弱者扱いっ……! 関係的には……キャスターが下、利根川が上のはずっ……!

 にも関わらず、キャスター……いくらなんでも……

 横柄っ……!!

 このままでは……ナメられるっ……!

 いや……ナメられているっ……!!

 そのうえ、まごうことなき正論っ…………!! このままではただ少量の魔力を持つだけのタンクっ……!

 役立たずっ……!


(まずいっ……いくら化け物とはいえ……これではまるでっ……!
 クズどもと同じ扱いっ……! 閉じこもる弱者……非生産者っ……! つまりは……ひきこもりっ……!!)


 利根川っ……ここで語調を変えるっ…………!!

 そう……媚びないスタイルにっ…………!!

 あくまでも対等っ……公正っ……フェアっ…………!! そんな関係に持って行こうとするっ…………!!

 共に戦う仲間と見て……はっきりと告げるっ…………!!


「おい、キャスターと言ったなっ……!
 貴重な機会だが……ワシに欲しいものなどないっ……!」

「……何?」


 ここで利根川っ……!

 したり顔っ……!




「ワシからすれば……何かを欲するのはつまりっ……持たざるものっ…………!!
 たとえば、一千万円の富を得る為に……命を賭けなければならない連中と、積み重ねてきたこのワシとでは……
 天と地ほどの差があるっ……! 立場にっ……!!」

「……つまり、聖杯の願いなど要らぬという事か」

「無論っ……! 一時的にだけ命を張って……近道で何かを得ようなどという発想っ……!
 それそのものが愚の骨頂っ…………!! いらんっ……! 聖杯などっ……!
 むしろ、そんなものっ……クズの証っ…………!」

「なるほど。欲しいものは自分の手で得たいと言う訳か」


 キャスター……ここで些かの静止っ……!

 苛立っているっ……! 何かの目的を持つ者として……明らかにっ……!

 そして……利根川……ここまで言ったところでっ…………!


「だが――いずれにせよっ……我々は運命共同体っ……!
 目的は違えど、必ず手を組まなければならない仲間だ……!」


 すかさず……



 ――――友情をアピールっ…………!



 言ってみるなら聖杯戦争も……

 二人三脚っ……!

 いがみ合い……息を合わせる事を放棄した瞬間っ……! 出し抜かれるっ……!

 他の組の奴らにっ……!! そして、後に待つのはクラスメイトからの顰蹙っ……!

 たとえペアの相手が遅くとも連帯責任っ……!! ペースと息を合せなかったお互いの責任っ…………!

 まずは取り入る事から始めるっ…………!!

 友情がないとしても……偽りの友情を築き合うくらい……

 容易っ…………!!



 ――――そしてっ……!!



「だからまず、キャスター……お前は……」





 えっ……!


 えっ…………!




 小さな声での復唱っ……! 

 利根川が一人で繰り返す……「えっ」という言葉の連続っ……!!

 そしてその言葉……それはっ……

 よく聞いてみるとっ…………!





 ――――言えっ…………!





 そう、利根川の言葉……それは……「言え」という要求っ……!


「名前を言えっ……!」

「何っ……?」


 そう……利根川が求めたのは……


「ワシは利根川幸雄だっ……!
 まずは……名前を教えろっ…………! 自己紹介だっ……!」


 自己紹介っ……!!


「名前だと?」

「たとえサーヴァントといえども……わきまえろ……TPO……!!
 命を託す相手の名前くらいっ……! きっちり知っておくっ……!!」

「……フン。呼ぶのに不便か。だが、さっき名乗った通りだ。
 私の事は、キャスター……あるいは、死神博士とでも呼べ」

「いや……そうじゃない……!
 お前の本当の名前っ……!
 キャスターだの……死神博士だのではなくっ……!!
 真名っ…………!!
 母親や父親から授かった……お前の本当の名前っ…………!!」


 利根川……これだけは譲らないっ……!!

 いくらキャスターに協力の意思がなくとも……

 運命共同体……! 命を預けるサーヴァント……!

 こいつが死んだら……利根川も死ぬっ……!!

 その名前を記号や役職しか知らないのは……不安だけが付きまとう……!!

 これにキャスターも……答えるっ!

 渋々ながら……口を開くっ…………!!







「――――イワン・タワノビッチだ。二度と言わんぞ」





 ここに来てまさかのロシア人名っ……!!

 北欧からのトラップ……

 何とかビッチっ…………!!


「イワン・タワノビッチ……!」


 だが、利根川……これをギリギリ覚えるっ……!

 辛うじて耐えるっ……!

 危うかったが……刻み込んだっ……!!

 イワン・タワノビッチという名前をっ……!!

 一発でっ……!!


「そうだ……それから……もう一つだけ……!
 マスターとしてお前に用があるっ……!」

「なんだ?」


 利根川……ここで手帳を構えるっ……!!

 パジャマ姿で……寝ようとしていた状態ながらっ……

 こんな時でも……ビジネスマンっ…………!!




「すまないが……ルールをもう一度言ってくれっ……!」


 手帳を持った利根川……ここで……まさかの……



 ――――仕切り直しっ……!!



 もう一度、さっき死神博士から聞いた話を聞くっ……!

 手帳とペンを構えてっ……!

 深夜にもう一度っ……寝る前に複雑な用語っ……!

 聞き逃しそうになった時には、その都度聞き直し……



 悪魔的に正確なメモっ……!

 すべて把握するっ…………!!

 基礎的な用語とルールっ……死神博士が知っている限りっ……!!


(危なかったな……!)


 ここで利根川知るっ……!

 根本的なルール……何もかもがっ…………!!

 半分ほどしかわかっていなかった事っ……!

 聞くは一時の恥……しかし……もし聞かなければ……



 命は無いっ………………!



 あのまま話を続けていれば……これでは始まる前から破綻っ……! 敗北っ……!

 銃の使い方も知らない……丸裸の兵士が戦場に立っているも同然っ…………!!

 危うかったっ……!!







 ――――利根川、九死に一生っ…………!





【CLASS】

キャスター

【真名】

死神博士(イワン・タワノビッチ)@仮面ライダー

【パラメーター】

通常
 筋力E+ 耐久E+ 敏捷E 魔力A 幸運C 宝具A

宝具発動
 筋力A 耐久B 敏捷D 魔力C 幸運C 宝具A

【属性】

混沌・悪 

【クラススキル】

陣地作成:B
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げるスキル。
 死神博士は、『工房』の代わりに、地下・洞窟・空きビル等に『アジト』を作り出す事が出来る。
 これによって、魔力と科学を駆使した道具は勿論の事、『改造人間』までも作り出す。

道具作成:A
 魔力を帯びた器具を作成する為のスキル。
 死神博士は、魔力と科学力を併せ持ち、道具だけでなく、『改造人間』を作り上げる。

【保有スキル】

秘密結社:B
 実質的には、アサシンのクラスが持っている「気配遮断」のスキルと同様。
 秘密結社の一員としての性質により、完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
 ただし宝具を用いた交戦中は、その例外にあたる。

外科手術:D
 マスター及び自己の治療が可能。

改造人間:B
 自身の肉体を科学と魔術により再構成し、人知を超えた怪物へと変化するスキル。
 このスキルによって神秘性が少し失われているが、キャスターはその分を他のスキルで補填している。

神出鬼没:B
 幻影の如くあらゆる場所に現れる性質。
 作戦に必要な場所には即座に現れる事が出来る瞬間移動能力を持つ。
 ただし、当初の想定外の場合(発見された基地から逃げる場合など)は、このスキルが正常に作用しない場合がある。



【宝具】

『世界征服を企む悪の秘密結社(ショッカー)』
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:1~全世界 最大捕捉:1~全人類

 彼が大幹部として多くを従える大軍団、秘密結社ショッカーという組織力そのもの。
 そして、この宝具はキャスターが召喚されてから、キャスターの消滅の瞬間まで常時発動している。
 キャスターが場に存在する限り、聖杯戦争のフィールドには常人の数倍の戦闘力を持つ『戦闘員』たちが蟻の群れのように湧いている。
 この戦闘員たちは、『偵察を行う者』、『陣地を守る者』、『キャスターに代わり他のサーヴァントとの戦闘を行う者』、『キャスターに代わり道具作成を行う者』など数々の班に分かれ、キャスターの命令を最優先した上で、キャスターに利を成す行動を考えながら自立する。
 いわば、この戦闘員たちこそが使い魔に近い存在となっている(ちなみに、戦闘員を出現させる「作成」には少量の魔力を要するものの、以降は彼らが「科学兵器」として自立していく為、彼らが活動する事でキャスターやマスターの魔力消費が起こる事はない)。
 また、戦闘員は意識的に『改造人間』たる素質を持つNPCやマスターを識別した後、誘拐・拉致した上で、『アジト』内で改造し、戦闘員よりも強力な戦闘力や特殊能力を持つ『改造人間』『怪人』に変える事が出来る。こうして改造されたNPCやマスターは、作成の最終工程で洗脳を受け、キャスターの宝具の影響下で忠実な僕となっていく。
 この改造人間たちも戦闘員同様、作成には魔力負担がかかるものの、一度改造を終えた後は改造人間たちが科学製品として動く為、以降の魔力消費は(強化などを行う場合を除いて)なくなる。
 ただし、これは短期で作った改造人間ほど実力に乏しく、サーヴァントと互角程度に渡り合える改造人間を作るには、最低一日以上の時間をかける必要があるだろう(並行して何体もの改造人間を作成する事自体は可能である)。
 これらの効果により、NPCを巻き込んで、徐々に大軍団を築き上げ、聖杯戦争の場に悪の秘密結社ショッカーを再現するのが、キャスターの絶対の宝具である。

『流星降らす白貌の悪魔(イカデビル)』
ランク:A 種別:対己宝具 レンジ:自身のみ 最大捕捉:-

 キャスターが持つ改造人間としての在り様。
 この宝具を開放し、イカデビルへと変身した時、死神博士は上記のパラメーターを上昇させ、直接戦闘でサーヴァントと渡り合えるだけの力を一時的に得る事が可能。
 イカデビルはイカの能力を持つ改造人間であり、頭部の隕石誘導装置で隕石を自由に操って地表へ落下させる能力を有している。その為、「流星怪人」の異名を持っている。
 また、宿敵の得意技であるキックを封じて返す「キック殺し」も得意としており、それ故にライダーキックが効かないなど、キック技を得意とする相手にはほぼ無敵でいられる可能性も高い。
 他にも、触手を鞭のように用い、口からは墨を吐くなどの攻撃が出来る強力な改造人間である。
 ただし、頭部の隕石誘導装置が弱点となっており、過去の死もこの弱点を看破された事にが死因となっている。

【weapon】

『無銘・鞭(改造)』
 たびたび使っている鞭。1000ボルトの電流を放つ。

『無銘・鎌(改造)』
 たびたび使っている大きな鎌。

【人物背景】

 悪の秘密結社ショッカーの大幹部の一人であり、マッドサイエンティスト。
 当初はスイス支部にて活動していたが、後に日本支部の二代目大幹部としてショッカーを指揮した。
 彼は卓越した科学力を持つ博士であり、同時にオカルトの魔術(催眠術・西洋占星術など)にも精通している、まさに現代の魔術師と呼べる男であった。
 また、自らの身体を改造済であり、その真の姿は烏賊を模した改造人間・イカデビルという名を持つ。
 しばらくショッカー日本支部を地獄大使と交代で指揮していたが、最後は仮面ライダー本郷猛を前にイカデビルとして敗れ死亡。

 尚、本編では特に明かされていないが、本名は「イワン・タワノビッチ」であり、日本人の父とロシア人の母を持つハーフ。
 幼少時から訪れる場所には必ずと言っていいほど死人が出たため、「死神」の異名が付いた。
 更に、学生時代には「ギャラクシーにおける死に方と変身」という論文で博士号を取得したため、「死神博士」の通称を持つこととなった。
 彼の当初の目的は「病弱な妹・ナターシャの延命」、その死後においては「ナターシャの蘇生」にあった。
 その愛情がショッカー幹部としての狂気の引き金となっているらしい……。



【サーヴァントとしての願い】

 不明。
 ただし、おそらく、願いはある。

【基本戦術、方針、運用法】

 キャスターは、現在までに百人規模の戦闘員と、これらを従わせる数名の改造人間を作り出している。
 これらの戦闘員、改造人間は英霊としての気配は持たないので、上手に使えば他のサーヴァントを探し、攻撃する偵察要員として使う事が出来る。
 一応、秘密結社である為、神秘性の秘匿は得意であり、本人を戦わせて魔力を悪戯に消費するよりは、作成時に魔力を消費した後は自律行動し続ける『改造人間』をひたすら作り続けた方が賢明。
 また、マスターを改造する事自体もできなくはないので、キャスターと意見が対立してきた場合は、改造手術をされてしまう可能性も否めない。
 マスターはそれに気を付けるべし。



【マスター】

利根川幸雄@中間管理録トネガワ

【マスターとしての願い】

 帰還する事。
 ただし、相手によっては犠牲にしても良し。
 また、サーヴァントや協力者との摩擦が起きない距離感も保ちながら聖杯戦争を生還したい。

【weapon】

 特になし

【能力・技能】

 圧倒的優秀。圧倒的成功者。頭も良く回り、大企業である帝愛グループの幹部になれるほどの器。
 Eカードなどのギャンブルも得意で、本編ではカイジと直接Eカードで対戦しているほか、過去にも重要な勝負に勝ってきた経緯がある。
 ボーリングのスコアは192点。ムーンウォークなどが出来る。超大盛なカツ丼を平らげた事も。
 あと、神戸牛や年代モノのワインなどを部下に奮発しているなど、財力においてはほぼ不自由なし。

【人物背景】

 帝愛グループの幹部で、ナンバーツー。
 出典のスピンオフ版では、中間管理職としての悲哀がフィーチャーされており、会長である兵頭の機嫌を伺ったり、ライバルの黒崎との出世争いをしていたり、部下の面倒を見たりと苦労人でもある。
 そんな感じで、本編『賭博黙示録カイジ』における冷徹な帝愛役員としての顔に比べると、かなり温和で部下想いな側面を見せている。
 彼の場合は、元々の才能にも恵まれ、努力など耐え忍んで出世・躍進したという経緯もあり、プライドは高い。ただし、部下には優しく、時に冗談を言う姿も見せる。
 また、そんな高いプライドがゆえ、多重債務者や無職などを「クズ」を見下しており、人間扱いしていない為、本編やスピンオフでも帝愛のダークなゲームを主催する立場にある。
 尤も、元部下であった海老谷という男がマルチ商法から足を洗った時には安堵しているなど、身内であればクズにも優しいところはある模様。
 自然な笑顔ができない。

【方針】

 聖杯などいらん。短期間で富を得ようという発想自体がもはや弱者。
 既に欲する必要がないほど「持っている」人間の利根川に、聖杯に託す願いなどなし。

 つまるところ……脱出したいっ……!
 早く協力者を探してっ……こんなところからっ…………!

【備考】

 ロールは帝愛スノーフィールド支部長。

 支部にいる部下は全部で十二名。いずれもほぼオリキャラなNPC。
 サイモン・“ジローサブロー”・サエモンサブローJr.、ニック、マック、ミックなど。そのほかは全員日本人。
 陽気な性格と実直な性格がそれぞれ六人おり、その六人はいずれもアメフト、バスケ、野球をするか見るかが好きな人間の六種類のタイプに分かれている。
 十二人それぞれ個性が分かれている超個性派な社員たちである。

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最終更新:2017年01月27日 02:59