フランドール・スカーレット&バーサーカー ◆DIOmGZNoiw




 いつからか、気付いた時にはフランドール・スカーレットは施設に預けられていた。いったいなぜ、どうして自分が親の顔も知らず、他の子供たちと一緒くたに施設に預けられているのかは、わからない。記憶を辿ってみても、ある程度遡ったところで、ぼんやりとした膜に覆われたように思い出がかすみ始める。
 思い出そうとしても思い出せないというのは、実際には奇妙なことである筈なのに、フランはそれが奇妙だとも思わなかった。もしかしたら、自分には過去というものは存在しないのかもしれない。だが、仮にそうだとしても、それはそれで構わないとフランは思っていた。
 大切なのは、今だ。今が楽しければそれでいい。過去がなんであろうと、この先がどうなろうと、今を楽しめるのならば、それ以上に望むものなどなにもない。フランは、自分がそういう刹那的な性質を持った人間であることを理解していた。
 ならば、ほかの子供たちと同じように、一瞬の楽しさに身を委ねていれば、楽しい生活を送れるのではないか、と考えたこともあった。だけれども、結局、なにをしたところで、ほかの子供たちと同じように物事を楽しむことは、フランにはついぞできなかった。

 まず大前提として、フランには友達がいなかった。今を楽しもうにも、そもそも共に楽しむべき相手がいなかった。それが大きな問題だった。
 同年代の子供とおもちゃで遊ぼうとしたら、どういうわけかフランが触った時点でおもちゃは壊れるし、道具を使わない遊びに興じようとしても、なにゆえか、フランと遊んだ子供はどこかしら怪我をする。それでなくても、人とかかわっていると、なにかとイライラムズムズ、落ち着かない感情が込み上げてくる。その感情を上手く処理する術を知らないフランは、つい他人に怪我を負わせてしまうのだ。
 結局、フランが望むと望まないとにかかわらず、フランの周囲のものは壊れていく。人も、物も、友情も、なにもかも容易く壊れていく。それが最初からわかっているのに、好き好んでフランと付き合おうという子供などいるはずがない。フランと周囲の子供たちの間には大きな溝ができた。次第にフランの周囲には誰も寄り付かなくなった。
 それでも、この時点ではまだ、完全に他人を拒絶したいと願うほどでもなかった。しかし、たまに無理をして人とかかわろうとしたら、同年代の子供たちから持ち物を隠されたり、逆にフランのものが壊されたり、なにがしかの嫌がらせを受けるだけだった。フランは気が長い方ではないので、そんなことをされれば、当然報復に出ずにはいられない。一時の激情に身を任せ、暴力に訴え出る形である程度の仕返しをすることはあるが、そういうことをしたら、途端に施設の連中は眼の色を変える。たちの悪いことに、子供だけでなく、大人まで一緒になって、フランに憐憫の目を向ける。いじめられっ子がキレた、と、そういうものの見方をされる。そうすると、いよいよフランの気持ちは爆発しそうになる。得体の知れない感覚が体を内側から熱くして、なにもかも壊してしまいたくなるのだ。

 ――お願い、やめて! そんな目で私を見ないで!

 その爆発しそうな心の叫びを、しかしフランは決して外には出さない。なにも言わず、ただ自室へ帰る。
 所詮フランは手の付けられない問題児としか見られていないので、誰もフランの言葉に耳を傾けようとはしないことは明白だった。
 思うまま感情を曝け出そうが、清楚な乙女ぶってしおらしくしようが、結局どう足掻こうともフランが関与すれば壊れてしまうのだ。そして誰もいなくなる。それが嫌で、フランは自室に篭りがちになった。
 自室に篭もる時間が増えるにつれて、みなはフランをいないものとして扱うようになった。

 ――私は、ここにいるのに。

 ずっと、この場所にいたのに。誰も彼も、フランを最初からいないものとして扱おうとする。その方が、周囲にとっても都合がいいのだろう。仲間はずれをひとり作ることで、逆にフランの周囲の子供たちはより団結を深めることとなった。
 そういう様を眺めているのはフランとしても気分が悪いので、フランは自ら、人とかかわることそのものをやめようと考えた。それがいつ頃の出来事で、いつからそういう方針で物事を考えるようになったかは正確には思い出せないが、ともかくフランが誰ともかかわりたくないと思うようになってから、ずいぶんと時間が経った。
 今では、朝起きて、ほかの子供たちと一緒に朝食を摂ったら、フランは自室に篭ったきり、自らの意思では部屋を出なくなった。外に出るのは、あとは昼食と夕食の時だけだ。それが済んだら、眠る。能動的になにかをしようという気力は沸かなかった。
 人とかかわろうと、かかわるまいと、どちらにせよ孤独なら、なにもせずに自室に篭っていた方が幾分状況はいい。ドアの向こうから聞こえる嘲りから耳をふさいでしまえば、それでひとりの世界は守れる。その方が無駄な心労を抱え込まなくて済む分、フランにとっても気は楽だった。

 ――どうせ、私の魔法は壊すばかり。
 ――誰かに優しくする魔法なんて持ってないもの。
 ――だから、私がひとりぼっちなのは、仕方のないことなのよ。

 そう思えば、自分だけが特別な気でいられるので、後暗くはあるが、それでも笑っていられる。
 フランが引き篭もるようになってからも、誰も、フランを外に連れ出そうとはしなかった。
 まるでフランが外に出ないことが当たり前のことで、みながそれを認めているように。誰ひとりとしてフランを遊びに誘う者もいない。いよいよフランは食事にすら顔を出さなくなった。そうしていると、勝手に誰かがフランの部屋まで食事を持ってきてくれるので、非常に楽だった。
 こういう生活が、自分の性質には合っているのだと、散々除け者にされたフランは、遅ればせながらにしてようやく気付いた。不思議と、ずっと昔からそうしてきたことのように、フランにはその選択がしっくり来るように感じられた。

 本格的に部屋に篭もるようになってからというもの、フランに同情した施設の大人たちが、フランのためにぬいぐるみを持ってきてくれるようになった。幼稚な子供だましの慰めだとは思うが、与えられたぬいぐるみは、フランの憂さ晴らしには一役買ってくれた。気に入らないことがあったら、ぬいぐるみに当たればいい。そうすれば誰にも咎められることなく、憂さを晴らすことができる。
 あっという間に、フランによって壊されたぬいぐるみの数は、両手の指では数えられなくなった。
 どんなに可愛らしく、フランの好みの琴線に触れるぬいぐるみを与えられたとしても、飽きたら、腕とか、脚とか、頭とか、どこかしらが引きちぎられて、欠損してしまう。いつだって、まともに可愛がるのは最初だけだ。
 そうして飽きた頃に、人を見下すことしかできない大人たちが、フランを可哀想だとか宣って、次のぬいぐるみを持ってきてくれる。コンティニューされるたびに、フランはぬいぐるみを壊した。

 フランは自分自身の心の内に、どうしようもない破壊衝動が秘められていることに気付いた。

 なぜか壊れてしまうのではない。いつだって、フランが心のどこかでそう願うから、壊れてしまうのだ。
 人も、おもちゃも、人間関係も。なにもかもフラン自身がこの手で壊すことを望んでいたのだ、きっとそうだ。だから、ここに至るまでの出来事は、すべてフランの思惑通りなのだ。ざまあみろ。フランはそう思い込むことにした。
 悲劇のヒロインぶって傷付くよりも、自分自身が傷付ける側に回った方が、やはり気が楽だった。
 壊すことしか取り柄がないなら、とことん壊す側に回ってやればいい。気に入らないものは徹底的に破壊して、自分を除け者にする世界を破壊して、なにもかもブチ壊してやった方がきっと清々するに違いない。いつからかフランの頭の中の片隅には、そういう考えがこびり付くようになっていた。

 ――別に壊れてたっていいじゃない。
 ――またコンティニューすれば済む話だもの。

 きっとこんなことを考える自分は、もう壊れているのだと、フランは思うようになった。
 自室に篭ったまま、フランは日に日に、己の内側から沸き起こる破壊衝動の捌け口として、ぬいぐるみよりも適したものを探すようになった。最早ぬいぐるみでは足りなかった。布と綿の塊を壊し続ける行為には、飽きた。ひとりで考えこんで、いらいらした気持ちが抑えられなくなるたび、フランは、壁を凹ませたり、木製のベッドのフレームを叩き割ったりして、鬱憤を晴らした。
 日に日に壊し方のエスカレートしてゆくフランを見兼ねて、大人たちの間で、医者でも呼んだ方がいいのではないか、或いは、いっそ追い出してしまった方がいいのではないか、そういう声が上がりはじめたことも、フランは知っている。子供たちが噂しているのを聞いた。
 もう、誰もフランに声をかけてくれるものはいなくなった。
 フランは本当の意味でひとりぼっちになった。
 誰にも気を遣う必要がなくなった。

 ――私の魔法は、誰も寄せ付けない。
 ――だから、私が、最強なんだ!

 最初からこうしていればよかった。
 最初から人とかかわろうなんて思わなければよかった。
 ひとりぼっちの世界で、なにかに当たるように壊すだけの毎日でいい。
 もう何百年も長いこと、フランはそうやって生きてきたはずだ。慣れ親しんだ生活に戻るだけだ。

「あれっ」

 ふと、思い至った事実に、フランは首をかしげる。
 何百年も。そう考えたところで、フランはようやく、違和感に気付いた。
 今の自分の状況は、人としては絶望的である筈なのに、フランはこの状況に懐かしさすら覚えている。施設の子供たちとダラダラ生活していた頃には得られなかった現実感が、このひとりぼっちの世界にはある。
 不意に気付いた違和感が、フランの中で急速に肥大化する。
 こんなはずではない。これはなにか、おかしい。
 そも、フランの生活には、もっと楽しいことがあったのではないか。生活自体に決定的な変革はなくとも、最近は、以前と違ってなにか楽しいことがあったはずだ。と、そう思うものの、屋敷の中に引きこもる以外に、フランの日常を彩る出来事など、あっただろうか。

「ん?」

 再び違和感に襲われる。
 今、自分はいったい何処を指して「屋敷」と考えていたのか。
 なにかの記憶が、あと少しというところまで蘇りかけている。そこまで考えるようになって、ようやく、フランは己の置かれている状況の異常さに思い至った。
 そもそもの話、思い返してみれば、ここでの生活は色々と腑に落ちない点が多すぎる。過去に思いを巡らそうとしても、思い出せないことが多過ぎる。
 いくら五百年近い時を生きてきた吸血鬼だからといって、流石に健忘がひどすぎる。

「五百年……吸血、鬼」

 そしてフランは、今の生活を否定するにはあまりにも決定的すぎる事実に思い至った。
 ただ流されるままにこの施設で生きてきたフランが、はじめて能動的になにかを気にかけた瞬間だった。

 ある日の晩、消灯時間を過ぎたころ、フランは静かにベッドから抜け出した。
 己が机の引き出しの中に入っていたトランプの束を手に取る。みんなで一緒に遊ぶために、フランが用意して、机に入れておいたものだと思うが、いったいこれをどこで手に入れたのか、いつ引き出しに入れたのかは判然としない。そもそも遊ぶ相手がいないのに、いったいいつ、こんなものを用意したのかという疑問が残る。
 言い知れぬ焦燥と、ひとかけらの好奇心に突き動かされるように、フランは一枚一枚、トランプをめくっていく。
 半透明の膜で覆われて判然としなかった過去の記憶が、朧気に蘇ってゆく。

 トランプ。
 そうだ、フランは屋敷の中で、偶然見付けた奇妙な白紙のトランプを手に取って。

 ――ねえ、お姉さま、これなに。
 ――ああ、フラン。それは小槌の魔力が残ったトランプで…………

「お姉、さま……っ、お姉さま!?」

 朧気な会話の記憶が、瞬間的にフランの脳裏をよぎった。
 記憶の中で、お姉さま、と呼んでいた女の言葉の途中で、ノイズがかかったように記憶が不鮮明になった。フランの記憶に対して、誰かに、なんらかの仕掛けが施されている。
 疑念はいよいよ確信へと変わった。

「っ、ツ」

 肘を机について、痛み出したこめかみをおさえる。微かな頭痛に次いで、フランの記憶を覆っていた薄い膜に切れ間でもできたように、そこから断片的な記憶が溢れ出してくる。
 フランと交流を持っていたやつらとの思い出が、次々と蘇ってくる。

 どこまでも瀟洒で、完璧な銀髪のメイド。
 図書館にこもりっきりの、紫髪の魔法使い。
 紅色の髪に、悪魔の翼を生やした使用人。
 いつも門前に立っている、中華風の門番。

 紅魔館に殴り込んで来た、紅白の巫女。
 人間の癖にフランと遊んでも壊れなかった白黒の魔法使い。

 そして――水色の髪に、薄い紅色のドレスを纏ったお姉さま。

 ぼんやりとしていた記憶が走馬灯のように駆け抜け、次第に朧気だった記憶が、フランの中で確かな輪郭を帯び始める。夢などではない。
 自分には確かに、こんなクソみたいな施設の家畜みたいなガキともとは違う、本物の家族がいたはずだ。
 そこまで思い出したところで、フランの持っていたトランプが、輝きを放った。思わず手放したトランプには、柄が描かれていない。白紙のトランプだ。
 白紙のトランプが放った輝きにフランの視界は突き刺すような白に覆い尽くされ、たまらず目を背ける。閉ざされた瞼の上からでも感じる強い輝きと、咲き乱れた烈風から顔を背けたまま、椅子を蹴倒して、数歩後退る。
 気付いた時には、フランを襲った光の奔流はすっかり鳴りを潜めていた。おそるおそる瞳を開けた時、フランの視界に真っ先に入ってきたのは、少女と見紛うばかりに整った顔立ちをした、ひとりの歳若い青年だった。
 頬を柔和に緩めた男は、尻もちをついたままのフランに手を差し伸べた。

「僕を呼んだのは、君?」
「別に……呼んでないけど。あんただれ」

 一瞬の狼狽。フランは男の手は取らず、警戒の眼差しを向け、誰何する。

「僕の名前は紅渡。サーヴァントだよ」
「サーヴァント」
「うん、使い魔みたいなものかな。覚えてない?」
「あ、ああ……いや、だんだん、思い出してきたわ」

 月の聖杯戦争。その概要が、徐々にフランの中に蘇る。
 どうして自分がここにいるのか。これからなにをしなければならないのか。
 必要な記憶から先に呼び起こされて、フランは早くも現状を理解しつつあった。

「そうか、私が、こいつのマスター」
「うん。マスター、君の名前を教えてくれる?」
「私は、フランドール・スカーレット。吸血鬼で……悪魔の、妹」

 思い出した自らの身の上を、未だぼんやりとした思考のまま付け足すように告げる。
 バーサーカーは、微かに瞠目した。名前よりも、吸血鬼である、という事実に驚いた様子だった。しかし、それも一瞬で、バーサーカーはすぐに納得したように頷き、微笑んだ。

「そっか。フランドールちゃん……それとも、マスターって呼んだほうがいい?」
「ううん、長いから、フランでいいよ。それに、マスターはなんだかよそよそしいわ」
「わかった。それじゃあ、これからよろしく、フランちゃん……で、いいのかな」
「いいよ。私のことをそう呼ぶやつは今のところ他にいないから、なんだか新鮮だわ」

 思い返すが、幻想郷にはフランをちゃん付けで呼んでくるやつはいなかったはずだ。いやそもそも知り合いがまず少なかったはずだ。なにしろフランは紅魔館に引き篭もっていたのだから。徐々にあらゆる記憶が取り戻されてゆく。
 記憶を完全に取り戻すころには、フランの腰からは、歪にひねくれた木の枝のような形をした翼が生えていた。枝からは、七色の宝石がぶらさげられている。寸前までなかった筈のものだけれども、今のフランには、この翼があってはじめて、自分が自分であるのだという実感が得られるのだと、そう思えてならなかった。
 そもそもフランは、人間ではない。今までどういうわけかこの施設の中で自分自身を人間だと思い込んでいたが、違う。フランは、バケモノだ。人に畏れられ、無条件に忌み嫌われる怪物だ。
 それを思えば、施設の連中の態度にも納得だった。ご丁寧に、そういう余計な部分だけ現実に忠実に再現してくれていたらしい。

「それ……さっき言ってた、悪魔としての翼?」
「そうよ。歪で滑稽な、壊れた悪魔の翼」
「そうかな……、僕は、綺麗だと思うけど」
「それ、煽ってんの」
「えっ」

 バーサーカーは、きょとんと、目を丸くしたまま押し黙った。
 こんな醜い翼を美しいなどと、果たして初対面の人間が本心で言うものだろうか。そう思うと同時に、沸き起こった苛立ちは、どうしようもない破壊衝動へと変換されてゆく。そうだ、なにかを壊さずにはいられない、それがフランドール・スカーレットという存在であった筈だ。
 ぐ、と拳を握り締める。それだけで、バーサーカーの背後に設置されていた机が、その形をひしゃげさせて、内側へ向かって圧縮されてゆく。内側へ、内側へと圧縮され、瞬く間に原型すらも留めぬ不格好なオブジェと化した机が、限界まで圧縮され、蹴鞠程度のサイズになったのち、ぱぁん、と音を立てて破裂した。後には、僅かな木片が残されているものの、机だったものの大部分は跡形も無く消し飛んでいた。
 それを見届けたところで、徐々に現実感が追い付いてくる。失っていた半身を取り戻したような充足感を得て、フランは喜悦の笑みを浮かべた。

「あはっ、そうそう、これよこれ。これが足りなかったの。いたいけな処女の女の子みたいに、純情ぶってぬいぐるみを壊すだけってんじゃあ物足りないわね。やっぱり私は、こうやってなにかを破壊しないとスッキリしないわ」

 今の今まで、こんなこじんまりとした施設で、いったいなにをくだらないままごとに興じていたのか。そういう考えが頭をよぎるが、一瞬遅れて、それはそれで、紅魔館に引き篭もっていた頃とさして変わらぬ生活を送っていたことに気付いて、ひとまず溜飲は下がった。
 急速に記憶を取り戻し、笑ったり、怒ったような顔をしたり、やけに表情の安定しないフランを心配したのだろう、バーサーカーがフランに一歩歩み寄った。

「フランちゃん、大丈夫? 記憶は全部思い出せた?」
「ええ、なんとなくね。これが聖杯戦争で、ぜぇんぶ壊して勝ち残れって、そういうお遊戯(ゲーム)だってことは」
「ん……フランちゃんは、最後のひとりになるまで勝ち残ることが望みなの?」
「はあ? 当たり前でしょ。でなきゃ負けて死ねっていうの。そんなの嫌よ、ごめんなさい。でもね、安心して。壊すのは慣れっこだから。なにもかも、ぜんぶ壊し尽くして、蹂躙してあげる。壊すことなら間違わないから、信じていいわよ」

 歌うようなフランの言葉を聞いて、バーサーカーが、どこか寂しそうに目を伏せた。
 フランは、とびきり愉しそうに笑っていた。この施設に預けられてからというもの、ついぞ見せたことのない、心からの笑みだった。


 スノーフィールド郊外の夜の静けさのなか、フランは歌う。夜の民家の屋根の上に登ったフランは、その縁に腰掛けて、放り投げた脚をぶらぶらと遊ばせながら、楽しげな歌を口ずさむ。
 一瞬、黄金の翼竜が空を舞うのが見えた。翼竜の翼に斬り裂かれ、身体を細切れにされたサーヴァントの霊基が、断末魔の叫びすら上げる間もなく、このスノーフィールドから消滅してゆく。それを確認したフランは、心地よさに身を任せて、頭を緩く左右に振りながら、声のトーンを上げる。とびきり悪質な悪戯を成功させた幼子のような歪な笑みをフランは浮かべていた。
 誰の目にも留まるよりも早く、黄金の翼竜がフランの元へと舞い戻った。フランの隣で、翼竜は人の形へとその姿を変える。黄金の鎧に、真紅の装甲。ステンドグラスを連想させる複眼から、その虹色が抜け落ちていく。仮面の大部分を締める巨大な複眼が完全な赤色に戻る頃には、黄金の鎧を身に纏ったバーサーカーは、己の自我を取り戻していた。一瞬困惑したように周囲を見渡して、バーサーカーは鎧を消失させた。黄金の輝きが霧散し、その姿は生身の人間のものへと戻る。
 歌うのをやめてバーサーカーに向き直ったフランは、にこりと相好を崩した。

「おかえり。そして誰もいなくなった?」
「フランちゃん、君は……、僕は、また」
「くはっ、なぁに辛気臭い顔してんのよ」

 別にはじめから気の利いた回答など期待してはいなかった。フランス人形さながらに整った顔立ちで、フランは尖った犬歯をむき出しにして失笑する。狂っていたとはいえ、自分で敵を壊したくせに。バーサーカーの顔を見ていると、笑わずにはいられなかった。
 元より狂戦士のクラスとして召喚されたバーサーカーは、その魔皇力の制御が困難で、常に暴走のリスクを孕んでいる。結果、怒りや悲しみ、感情の昂ぶりによって、バーサーカーの魔皇力は簡単に自我を振り切れて暴走し、飛翔態と呼ばれる翼竜に变化し、暴れ回る性質を持っていた。だけれども、フランにとって面白くないことに、バーサーカーはあまりにも優しすぎた。
 優しく温厚なバーサーカーは、常にフランのことを守るために戦う道を選ぶ。今回の対サーヴァント戦も、もとはといえばそうだった。せっかく好き放題にものを壊せる力があるのに、それを使うことを躊躇って、守るために戦う、などと生ぬるいことを宣われては、それこそ宝の持ち腐れだ。
 力を持ってしまったからには、開き直って、思うままに力をふるってしまえばいい。自分と同じように、壊し、嫌われるだけのバケモノになってしまえばいい。フランは、早速令呪を一角使用してバーサーカーに命じた。

 ――令呪を以って命じるわ。私が『狂え』といったなら、確実に狂いなさい。すべてを壊すまで!

 その結果が、これだ。バーサーカーは、フランに命令されれば、確実に自我を振りきって暴走するバケモノと化した。
 やはり、バケモノとはかくあるべきだ。

「おい、お前、いくら渡のマスターのだからって」
「いいよ、キバット」
「渡ッ、いいのかよ、好き勝手やらせたまんまで」

 最前までバーサーカーのベルトに取り付いていた蝙蝠は、フランに不服を申し立てるつもりでいたらしいが、バーサーカーがそれを制した。強い瞳で睨まれた蝙蝠は、不承不承ながら、わかったよ、と呟いて、何処かへと羽ばたいていった。

「僕はまた……誰かを、この手で、倒したんだね」

 質問の形式を取ってはいるが、バーサーカーは既にその答えを確信している。疑問というよりも、糾弾するような瞳を、バーサーカーはフランへと向けていた。
 にぃ、と。フランの口元が三日月状に歪んだ。あえて説明してやろう、と思った。

「ええそうよ! 私のバーサーカーがまたまた敵を壊したのね。やっぱり私のバーサーカーは最強だわ。もう何組目だっけかなぁ、うふふ、弱っちいのが相手じゃ、そろそろ飽きてきちゃったわね。だって、相手にもならないんだもの。ねえ、私のバーサーカー」

 バーサーカーは、なにを言うでもなく、目を伏せる。怒りよりも、悲しみの色が強かった。
 最前まで喜色満面だったフランの表情が、途端に棘のある苛立ち顔へと変わった。

「なに、その目は。私、そういう目で見られるの好きじゃないんだけど」
「確かに、バーサーカーとして呼ばれた僕には、君の代わりに戦う以外にできることなんてないのかもしれない……でもっ、本当に君はこんなことを望んでるの? こんな寂しいこと」
「あーぁ、つまんない。せっかく上機嫌でお歌を口ずさんでいたのに、気分が悪くなっちゃったわ。おうち帰ろっかな」

 フランが背中の歪な形をした翼を羽ばたかせて、宙に浮かんだ。どうしてこんな形の翼で空を飛べるのかは、フラン自身にもわかっていない。ともかく今は、バーサーカーの言葉を聞くのが鬱陶しかった。
 空に浮いたまま屋根から離れ、バーサーカーに背を向ける。こいつを置き去りにしたまま飛び去って、仮住まいのあのクソみたいな施設に帰ろうかとも思ったが、その前に。ふと気になったことを、訪ねてみたいという気持ちが鎌首をもたげた。

「ねえ、バーサーカー。私の羽根が綺麗だって、あんた前に言ったよね」
「うん、言ったよ。宝石みたいで綺麗だな、って思ったから」
「あんたさあ、羽根っていうのがどういうものか、知ってるの」

 バーサーカーは、憮然とした面持ちで反論した。

「それくらい、知ってるよ。確かにフランちゃんの翼は普通とはちょっと違うけど、それでも僕は綺麗だと思ったから」
「はあ、変なの。こんなに歪で、醜い形をしているのに」

 フランは首だけを回して、バーサーカーに一瞥をくれた。

「それとも、あんたも私と同じ、醜いバケモノだからそう思うのかな」
「えっ」
「あんたっていい人ぶってるけど、狂って暴れ回る姿はとても人間とは思えないもの。壊すことしかできない、哀れなバケモノ。それがあんたよ。あんたの翼は、敵を斬り裂いて壊すことしかできないの、あはっ、私と同じね。バケモノの感性には、私の翼はお気に召しちゃったのかな?」

 悪戯っぽく笑って、フランは言葉のナイフを投げ付ける。バケモノ、と告げるたび、その言葉を強調して。
 問われたバーサーカーは、衝撃に打たれたような顔をして、固まった。一瞬遅れて、悲しそうに瞳を伏せる。
 その目が、気に食わななかった。どうしようもない苛立ちが込み上げてきた。

「そんな目で、私を見るな」

 苛立ちの対象は、バーサーカーだけではない。それ以上に、自分自身に対してだった。
 フランの言葉は、いつだって鋭く尖っていて、誰かの心を突き刺すことしかできない。

 言ってから、後悔する。

 そのたび、所詮、自分はなにかを壊すことしかできない哀れなバケモノなのだと痛感する。紅渡などというサーヴァントがあてがわれたことにも納得がいく。
 結局、いつだってフランはひとりぼっちだ。どう足掻いたところで、壊すこと以上は望めない。自己本位的な言葉と暴力でしか自己表現の術を持たない、えげつない魔法少女。それがフランドール・スカーレット。自覚していたはずだ。
 少しやさしくされたくらいで、人と関わろうとしたことがそもそも間違いだった。

「帰る」

 目頭がほのかに熱くなってきたところで、フランは再びバーサーカーに背を向けて、飛び立った。


 フランよりも半刻ほど遅れて、バーサーカーはフランの部屋へと辿り着いた。
 開けっ放しになっていた窓から侵入して、ベッドで眠っているフランに視線を落とす。窓に背中を向けて、肩まで布団に潜って、丸まって眠っている。
 バーサーカーは、フランを起こさぬよう、物音を立てぬよう気遣いながら、部屋の壁に背を寄り添わせ、そのままゆっくりと腰を下ろした。
 最前言われた言葉は、今もバーサーカーの心に残っている。だけれども、バーサーカー以上に、それを言ったフランのほうがつらいことを、バーサーカーは理解していた。

 この少女は、自分と同じだ。

 自分の殻に閉じ籠もって、外の世界に飛び出すことを極端に恐れている。どうしようもなくなった時、なにをしていいかわからずに、さらに自分の中に閉じ籠もって、心に鍵をかける。本当に心から、他者を突き放したいとか、なにもかも壊したいとか、そういうことを考えているわけではない。かつての自分を見ているようで、バーサーカーは、フランを放っておくことができなかった。

 両手で自らの膝を抱いたバーサーカーは、静かに瞼を落とした。サーヴァントになった以上、睡眠はもはや必要はないのだが、生前の名残でバーサーカーは時たまフランとともに眠る。
 そうしていると、夢を見るのだ。暗い地下室に閉じこめられた少女の夢を。本当は、誰かと話したい。誰かにそばに居てほしい。だけど、少女は望むと望むまいとにかかわらず、ありとあらゆるものを破壊してしまう。気持ちが昂ると、すぐにものに当たり散らして、見境なしに壊してしまうのだ。
 だから、少女は、姉によって地下室に閉じ込められた。少女自身も、他者とかかわることをやめた。
 誰かとかかわればそれだけで、気持ちがいらいらむずむずするから、というのも多分にあるが、本当に恐ろしいのは、その先に待ち受ける終幕だ。本当に大切なものは、ひとたび壊れてしまえば二度とコンティニューできないことを、少女は知っている。だから、壊したくない。壊したくないのに、気持ちを抑えきれない。瞬間的にでも「壊したい」と願ってしまう自分が、押し寄せる激情の波に逆らう術を持たない自分自身が、なにより恐ろしい。
 最近は、博麗の巫女や、白黒の魔法使いの影響で、少しずつ、少しずつ心を開き始めたようだが、それでもフランは、まだ外の世界に出ることを、こころのどこかで恐れている。

 今するべきは、少しずつ外に向き始めた彼女の心を、正しく導いてやることだ。
 かつて不器用だった紅渡を導いてくれた多くの人びとにバーサーカーは今も感謝している。父に、兄に、友に、師匠に、多くの仲間たちから受けた恩を、今度は渡が誰かに返す時がきた。
 バーサーカーは、いかにフランに冷たくあしらわれようとも、彼女とかかわることをやめようとはしない。生半可な気持ちでは、閉ざされた心の内側まで他人の声は届かない。渡が変われたのは、命を燃やし尽くして大切なことを伝えてくれた父や、自らの地位すら危ぶまれる状況で、それでも渡のために尽力してくれた師匠らのように、心から渡を思ってくれる人たちがいたからだ。
 それが、人と人との絆だ。
 その絆は、終わらないメロディのように、今も渡の心の中で響き続けている。この魂の絆を、渡は自分の代で終わらせたくはなかった。きっとこれから、沢山の友達を作って、沢山の苦難を乗り越えていくであろうフランの心にも、このメロディを伝えたい。それが、バーサーカーとして召喚された男の、心からの願いだった。
 今はまだ誰の声もフランには届かない。だが、いつかはきっと。

「おやすみ、フランちゃん」

 届くかどうかすら分からない微かな声で、バーサーカーは呟いた。

「おやすみ、バーサーカー」

 背を向けたまま、フランがぽつりと言葉を返した。
 まだ起きていたのかと、瞠目する。フランはそれ以上なにも言わなかった。静かな寝息だけが聞こえてくる。
 なんとなく温かい気持ちになって、くすりと微笑んだバーサーカーは、再び静かに瞳を閉じた。













【出展】仮面ライダーキバ
【CLASS】バーサーカー
【真名】紅渡
【属性】秩序・善
【ステータス】
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力B+ 幸運B 宝具A+ 
(※宝具『光輝放つ真紅の皇帝』発動時のステータス)

筋力A+ 耐久A 敏捷A 魔力A 幸運B- 宝具A+ 
(※宝具『舞い上がれ、禁忌を越えた絆の翼』、及び狂化発動時のステータス)


【クラス別スキル】
狂化:B
 理性の大半を失うことで、ステータスに補正を得られる。
 混血種が身に纏う黄金のキバは、常に暴走のリスクを抱えている。
 感情が振り切れた時、バーサーカーは自我を失い、黄金の翼竜となって暴れ回る。

【保有スキル】
神秘殺し:B+
 ファンガイアやレジェンドルガといった魔族を葬ってきた逸話により得られたスキル。
 魔族・魔性といった性質を持つ敵と戦闘する場合、ステータスに補正が得られる。

皇帝特権:A+
 自らが新たなるキングであると主張し、一時的とはいえ玉座についた逸話からなる。
 本人が主張することで、本来持ち得ないスキル(カリスマ、軍略、等)を擬似的に獲得できる。

混血種:EX
 禁忌とされたファンガイアと人間のハーフで、伝説で語り継がれてきた存在。
 宝具『舞い上がれ、禁忌を越えた絆の翼』発動時にその真価を発揮し、全パラメータを向上させる。

魔皇の紋章:B
 ファンガイア・クイーンから受け継いだ、キングとしての資質。
 平時は取り立てて特別な効力は持たないが、宝具『光輝放つ真紅の皇帝』解放時ならば、鎧の力によって魔皇力で出来た巨大なキバの紋章を形作り、そのまま攻撃・拘束に転用することが可能となる。
 対魔力を持つ者ならば、キバの紋章による拘束力をある程度削減することは可能。同ランク以上の対魔力ならば判定次第で抜け出すことも可能だが、逆に言うと、同ランク以下の対魔力では、展開された紋章から完全に抜け出すことはまず不可能。


【宝具】
『光輝放つ真紅の皇帝(スーパーノヴァ・エンペラー)』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:1人
 本来ならばファンガイア王族のために造られた鎧、通称『黄金のキバ』。
 かつてレジェンドルガ族を滅ぼす際に、味方をも巻き込み多大な犠牲を出した『闇のキバ』の反省点を活かし、安全性を考慮して造られた鎧であり、通常時はその能力を封印されている。が、今回は予め封印を解除した状態で宝具として固定されており、マスターの命令で宝具を発動した時点で、自らの意思に関係なく戦う狂戦士として『黄金のキバ』を身に纏ってしまう。
 装着者の生命力(ライフエナジー)を吸い上げ力に変換することで、その能力を引き上げるという性質上、資格のない者がこの鎧を纏えばそのまま死に繋がると言われている。
 耐久面においては「核爆発の中心地にいても無傷」と謳われる通り、抜群の耐久性を誇る鎧だが、装着者の精神状態に左右される。よって、精神的に同様したり、相手に気圧される状況であれば耐久力は低下する。核爆発の中心地にいても無傷とは、あくまで最大防御力である。
 また、鎧そのものが限定的な「空想具現化」の性質を有しており、全身から魔皇力を放出することで、自身の力を最大限発揮できる環境に世界の状態を変化させることが可能。……ただし、真祖ほど万能というわけではなく、自由自在に能力に融通を利かせられるわけではない。
 具体的には、戦闘中、昼間であろうとも、自身の周囲の空間を擬似的に夜に塗り替える、というものである。
 暴走時は、元々は赤色の複眼に、ファンガイアを連想させる虹色のステンドグラスが浮かび上がる。


『生命喰らう幻想の魔皇剣(ウェイクアップ・ファイナル・ザンバット)』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:1~50 最大補足:1人
 本来はファンガイア・キングのために造られた、この世に存在する最も強力な剣を用いた宝具。剣自体の正式名称は『魔皇剣ザンバットソード』。
 その刀身は、巨大な魔皇石の結晶から削りとって造られたという逸話を持っており、剣自体がライフエナジーを持つものに対して過剰に反応し、それを「喰いにいく」性質を持つ。だが、バーサーカーの持つザンバットソードには、幻影怪物ザンバットバットが取り付いており、ザンバットバット自身が剣の性質を暴走の可能性とともに抑え込んでいるため、元来のザンバットソードほど「魂喰い」には特化していない。
 代わりに、ザンバットバットで刀身を研ぐたび、斬れ味の回復と、魔皇力の充填、及び制御が可能となっている。ウェイクアップフエッスルを吹くことで、魔皇力を最大まで刀身にチャージし、その状態で剣を研ぐことで、紅く輝く刃による一刀両断を発動することができる。
 また、剣が持ち主を選ぶため、この宝具のランクを越える資格を持つ者にしか扱えず、資格を持たぬ者が扱った場合、対象にこの宝具と同ランクの「狂化」を付与し、見境なく暴走させる。バーサーカーの場合は「皇帝特権:A+」によってこの剣を制御する。

『舞い上がれ、禁忌を越えた絆の翼(リレイション・ウィル・ネバーエンド)』
ランク:A+ 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:1人
 バーサーカーの最終宝具にして、その能力の真価を発揮する巨大な蝙蝠(翼竜)形態。通称『エンペラーバット』、または『飛翔態』。
 膨大な魔力を持っているものの、その制御が不安定で、いつ暴走してもおかしくない「混血種」のみが変身可能とされる禁忌の形態。バーサーカーの場合は、本来ならばファンガイアの王にもなれるほどであろう膨大な魔力を、体内で暴走させてこの形態に変身する。
 高速で空を跳び、巨大な翼はあらゆるものを斬り裂く刃となる。口から放たれる極太の熱光線は、ファンガイアを一瞬で粉砕するほどの威力を誇る。
 また、キャッスルドランと合体することで巨大なエンペラーキバへと変身し、仮面ライダーアークを月まで蹴り飛ばした必殺技も逸話としては確認されているが、今回はキャッスルドランの召喚自体が不可能であるため、上記の合体能力は発動不可能。

 人を想う絆の力によって発現した宝具である。
 狂化状態において最も手の付けられない暴走状態に陥りやすいのはこの形態であるが、同時に、最も他人との絆を意識し、自我を発露させやすい性質を持つのもこの形態である。
 バーサーカーは、狂化を施されてなお、守るべき対象の危機には、過敏に反応する。

【weapon】
『キバットバットⅢ世』
 バーサーカーの体内を循環する魔皇力を活性化させ、その身に『黄金のキバ』を纏わせる蝙蝠型モンスター。体内に『黄金のキバ』を内包している。変身時にどこからともなく現れて、バーサーカーをキバへと変身させる。
 なお、今回は純粋に『黄金のキバ』としての逸話のみを対象として現界したバーサーカーであるため、キャッスルドラン・ブロンブースター・マシンキバーなどの各種サポートは受けられない。

『タツロット』
 キバを本来の姿であるエンペラーフォームへとファイナルウェイクアップさせる小竜。キバットと同じく、変身時には何処からともなく現れる。

『魔獣剣ガルルセイバー』
 ウルフェン族の生き残り、ガルルが変じた刀。月の満ち欠けによって威力が変動し、満月に近いほど威力を増す。
 ガルルフエッスルで武器を召喚し、タツロットによってフィーバー技を発動する。

『魔海銃バッシャーマグナム』
 マーマン族の生き残り、バッシャーが変じた銃。大気中の水分を弾丸として撃ち出す。連射や自動追尾弾の発射も可能。
 バッシャーフエッスルで武器を召喚し、タツロットによってフィーバー技を発動する。

『魔鉄鎚ドッガハンマー』
 フランケン族の生き残り、ドッガが変じたハンマー。ハンマーに備えられたトゥルーアイは、敵の動きを封じたり、透明になった敵を見つけ出すことができる。
 ドッガフエッスルで武器を召喚し、タツロットによってフィーバー技を発動する。

【SKILL】
『エンペラームーンブレイク』
 ウェイクアップフエッスルを吹くことで発動できる、エンペラーキバの必殺キック。
 脚から魔皇力で生成された死神のデスサイズを思わせる翼が出現し、絶大な威力を誇るキックと同時に、翼による攻撃を同時に叩き込む。翼が何度も敵を穿つパターンや、翼だけが肥大化し、巨大な鎌となって相手を斬り裂くパターンなど、状況によって使い分けが可能。

『ファイナルザンバット斬』
 ザンバットソードに魔皇力充填し、紅く光り輝く刃で敵を斬り裂く必殺技。
 状況に応じて、紅い魔皇力を斬撃のエネルギー状にして発射するなど、自由度が高い。ザンバットバットで剣を研磨し、紅く光り輝かせた刃から技を放つ、というプロセスを必要とする技は、すべてこの技である。

『ブラッディストライク』
 飛翔態に変身した状態で、キバが口から放つ極大の魔皇力光線。
 その威力は絶大で、ククルカンなどの大型の召喚獣をも一撃で粉砕するほどの威力を誇る。

【人物背景】
 ファンガイアのクイーンである真夜と、人間の男である紅音也との間に生まれた、禁忌とされる人妖のハーフ。

 誰にも心をひらかず、自らの部屋に閉じ籠もっては、外界とは一切のかかわりを断って生きてきた。渡は、自分自身を「この世アレルギー」だと思い込んでいたのだ。
 渡が屋敷の外へ出るのは、ファンガイアが誰かを傷付けようとしている時のみ。ファンガイアによって、無辜なる誰かの命が奪われようとする時、父が遺したヴァイオリン・ブラッディローズがけたたましくその弦を響かせるのだ。
 父の魂に導かれるまま、渡はわけもわからず、ただ自分の使命としてファンガイアと戦い続けてきた。その過程で、渡は数多くの仲間たちと出会い、何度もぶつかり合い、何度も自身の中の壁に閉じこもり、それでもそのたび成長を遂げて、自分自身と向き合えるようになっていった。

 そして、渡は恋をした。
 相手は当代のファンガイア・クイーン、深央である。
 しかし、自分は王族のみが扱えるキバの鎧を身に纏い、同族を屠り歩くファンガイアの裏切り者。一方で、自らの恋敵、クイーンの婚約者にして当代のキング・登太牙が、渡にとって、幼き日の唯一の親友で、唯一、血を分けた兄であったことが発覚する。
 ファンガイアの裏切り人のため戦う渡と、ファンガイアのキングにして、愛すべき兄、太牙。そして、ファンガイアの裏切り者を処刑する使命を負ったクイーン、深央。

 泥沼の三角関係のなか、変化は突然訪れた。
 ついに決戦を余儀なくされた渡と太牙の激突のさなか、深央が間に割って入ったのである。渡のエンペラームーンブレイクが、深央の身体を砕く。愛する者を、渡はこの手で、殺してしまったのだ。

 絶望した渡は、キャッスルドランの力で過去へ戻り、父である紅音也と、母である真夜が出会わぬように画策する。ふたりが出会わなければ、自分が生まれることはない。未来が変われば、深央が死ぬことはなくなる。自分なんて消えてなくなればいいと、心の底から渡はそう願い、過去へ戻った。
 だが、どんな方法を用いても、紅音也の愛情を原動力とするパワーを押し曲げることはできなかった。紆余曲折あって、自身が親子の関係であると悟った音也から、人は前に進むものだ、と諭される。悲しみを乗り越え、前へ進んだ時、彼女はそこにいる。
 たとえ自分が死ぬ未来であったとしても、「渡に生きてほしい」と願う深央の心を知った時、渡はもう一度、生きる決意を胸にいだいた。

 そして、最強にして最悪のファンガイア、過去のキングとの決戦へ。
 自らの命を燃やし尽くす覚悟で、紅音也は闇のキバへと変身する。自分の死すら厭わずに、真夜を、渡を、愛するものを守るために必死に戦う音也の姿を見て、命を受け取る、という意味を真に理解した渡は、強敵キングを撃破し、現代へと戻る。

 最後の決戦の相手は、当代のファンガイア・キング、登太牙である。
 しかし既に渡には、太牙と殺し合う気はなかった。太牙がビショップに命を狙われていることを知った渡は、太牙を守るため、ファンガイア・キングの名を名乗り、ビショップの標的を自分へと向けさせる。
 深央を殺した本当の下手人がビショップであったことも発覚し、再び心を通い合わせた太牙とともに、蘇った最強のキング・バットファンガイアとの決戦へ挑む。
 これを撃破した渡は、太牙とともに、ついに長年実現出来なかったファンガイアと人間の共存への道を歩みだしたのだ。

 当初は一歩を踏み出す勇気が足りず、うじうじとひとり悩んでいた渡だが、数多くの仲間たちと出会い、変わっていった。
 仮面ライダーキバのテーマは、受け継がれる絆。父から受け取った命を、渡は次の誰かにリレーするために戦う。

 また、ファンガイアと人間の混血児であるため、能力の制御が難しく、絶えず暴走の危険性を孕んでいるのも、エンペラーキバの特徴である。王族の血を引いているだけに、膨大な魔力を持った渡は、常に暴走と隣合わせというリスクを課せられた形態をも駆使して戦ってきた。実際、幾度か暴走している。
 今回の召喚では、その特性を全面に引き出されている。

【サーヴァントとしての願い】
 フランの心に、渡の心に流れる音楽を伝える。
 自分とよく似た彼女を放ってはおけない。守りたい。
 きっと彼女はそれを拒むだろうが、それでも。

【基本戦術、方針、運用法】
 基本的にバーサーカーは『光輝放つ真紅の皇帝』を用いて、マスターであるフランを守るために戦う。が、フラン自身が快楽優先であるため、小手先の策や、戦略・戦術といったものは存在せず、尚且つフランの令呪の影響で、暴走を命じられればバーサーカーはすぐさま狂化してしまう。狂化したバーサーカーは、己の体内を循環する魔皇力を制御しきれず、高確率で飛翔態へと変化し暴れ回る。
 そのため膨大な魔力消費がネックになるのだろうが、フラン自身が反則的な身体能力を持った吸血鬼であるため、魔力の捻出自体は苦ではない。が、魂喰いを行うほどの知恵もなく、後先考えず感情に任せて戦うスタイルのため、日頃から抱いている苛立ちを思うままぶつける戦闘スタイルで戦い続ければ、魔力の枯渇は十分に予想される。
 戦闘においては、戦略・戦術を上手く組み立てて、フランを誘導できる他のマスターが必要不可欠と思われるが、フランの性格上、誰かと組むこと自体が困難であると思われる。バーサーカーが代わりに立って交渉する必要があるが、しかし彼は彼であまり口が達者な方ではない。
 戦闘能力は絶大で、運用するための魔力も潤沢ではあるものの、あまりにも行き当たりばったりすぎるスタンスが致命的となりうるのが、この吸血鬼コンビの特徴である。



【出展】東方Project
【マスター】フランドール・スカーレット
【参加方法】
 姉、レミリアの自室で見付けた白紙のトランプ。
 それは、天邪鬼異変によって小槌の魔力を与えられたトランプであった。なにも知らぬフランは、なにも知らぬまま聖杯戦争に巻き込まれた。

【人物背景】
 明るい金髪をサイドテールに結わえた、七色の宝石持つ翼の吸血鬼。

 紅魔館の主にして吸血鬼であるレミリア・スカーレットの妹で、495年ほど生きている魔法少女。
 そもそもフランドール本人が少々気が触れており、情緒不安定なため、その危険過ぎる能力を懸念して、長らく閉じ込められていたので、実に、人生のほぼすべてを地下室で過ごしている。
 基本的にあまり正面切って怒ったりはしないらしいが、それ以前に常にどこかおかしいので、他人にはよくわからない。

 だが、姉が起こした異変の影響で、霊夢や魔理沙たちと関わりを持ったことで、現在は少し外の世界にも興味はあるようである。が、未だに紅魔館の外へ出たことはない。少なくとも地下室生活からは脱却したようである。

【能力・技能】
『ありとあらゆるものを破壊する能力』
 その名の通り、対象が物ならば問答無用で破壊できる能力である。
 原理としては、全ての者には「目」という最も緊張している部分があり、そこに力を加えるとあっけなく破壊できる、というものであるが、フランドールはその「目」を自分の掌の中に移動させることができ、拳を握りしめることで「目」を通して対象を破壊することができる。その力を以て隕石を破壊したこともある。

 また、種族・吸血鬼としての力も絶大で、数多くの新顔が頭角を現し続けている昨今においても、未だに幻想郷のパワーバランスの一角を担っている。
 その本質は、目にも留まらぬスピード、岩をも砕くパワー、思い通りに悪魔を使役できる莫大な魔力といった反則的な身体能力にあらわれており、純粋なパワーならば姉・レミリアをも凌ぐ。

【マスターとしての願い】
 遊ぶ。聖杯戦争だろうがなんだろうが、楽しむだけである。

【令呪】
 左手の甲に、キバの紋章と同じものが刻まれている。
 上段の王冠で一画。右の翼で二画。左の翼で三画。
 すでに上段の王冠は消費されており、残り二確である。

【ロール】
 施設に預けられた子供。おそらく預けられた理由は性格に難ありゆえ。
 施設内でのポジションはいじめられっ子だが、同時に周囲からは気が触れた危ない子供扱いされている。

【方針】
 思うまま暴れまわる。
 それで楽しめるなら一番。







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最終更新:2017年01月02日 02:15