惨剣槍鬼◆v1W2ZBJUFE
夜の森で行われた戦闘は熾烈だったが実に呆気なく終わった。
壮年のランサーと、そのマスターの少女の前に現れた敵影は一人、双剣を引っ提げ、喉に白い布を巻いたたセイバーのみ。
無言で襲い来るセイバーの剛烈な剣戟を何とかいなし、隙をついて宝具で斃した。
何故かセイバーは最後まで宝具を使おうとせず、消える間際自分達に何かを訴える様な眼をしていたのが気になるが、それはそれ。今は勝利を喜ぶべき時だろう。
セイバーはマスターの方へ向き直り─────咄嗟に少女を抱えて飛んだ。
同時、マスターのいた処を音を超える速度で奔った木槍が聳える大樹に突き立つ。
槍に引き裂かれた空気が悲鳴を上げ、大樹が激しく震動した。
「やれやれ、手間書けさせんなよ……コイツはハズレなんだろ」
少年の様な、少女の様な、鈴を転がす様な声。声に相応しく中性的な線の細い容姿に合わぬ、凶々しい殺気を周囲に撒き散らすその様はまさに狂犬。
「闘わないことには判りませぬ」
此方は漢と判る美声。声に含まれたものだけでも歴戦の大戦士と判別できる声。
然し、その身に纏った気配は純然たる虚無。お前達になど一欠片の関心も無いとその存在全てが告げている。
ランサーは疲弊した上に手の内まで知られた己では到底勝てぬと瞬時に悟った。
「マスター!!令呪を!今の俺ではどうしようもない!!!」
ランサーのマスターは只の一般人だったが、それなりに聡明で、何度か場数も踏んでいる。意図を察し、即座に令呪を離脱の為に用いる─────筈だった。
「─────え?」
惚けた声で返されランサーは一瞬我を失った。
「マスター!?何をやっ」
ランサーの隙を逃がさず一気に距離を零にする敵サーヴァント。その右手に握った紅槍の切っ先を真っ直ぐ喉に向けて。
─────ランサーか!!
相手が同じ槍兵ならば手筋はある程度読める。ランサーは繰り出される紅槍の切っ先を睨み付け─────切っ先が静止したままなのに気付く。
敵は右手に持った紅槍を殊更見せ付けてランサーの視線を誘い、その後紅槍を手放して、紅槍に釘付けになっているランサーの内懐に入り、
切っ先を握り込み左腕で隠していた黄槍を、左手に掴んでランサーの喉を貫こうとしていた。
─────!?
咄嗟に身を仰け反らせて致命の傷を躱し─────然し躱しきれずに喉を抉られた。
「其れで良いんだよ。お前の槍で付けられた傷は治らないんだから」
離れて見ている敵のマスターの声にランサーは戦慄する。傷自体も痛手だが、喉を抉られて声が出せなくなっている。此れでは宝具の真名開放が出来ない。
自分達の置かれた状況を把握して、令呪を使おうとした己がマスターが、敵サーヴァントに微笑まれただけで惚と立ち尽くすのをランサーは絶望とともに見つめた。
一時間後─────。
「で、どうだった?今日闘った奴等は?」
陵辱の後も生々しいランサーのマスターだった少女の死体と、子供と言って良い年齢の少年─────双剣を使うセイバーのマスター─────の死体を、
深く掘った穴にぞんざいに放り込んで埋めているランサーに、彼のマスターが話し掛けた。
「特に何も」
ランサーの返答は短い。今日闘った二人。喉を潰した上でマスターを痛めつけて令呪を使わせ、他のサーヴァントの実力を図る為の当て馬にしたセイバーにも、
当て馬により手の内を暴かれ、不意を付かれて宝具を封じられ、傍らでマスターが凌辱される事を止めることも出来ないまま、全身を穿たれて死んだランサーにも、
彼は何の感慨も持ってはいなかった。それ等を指示した己がマスターにさえも。
「だから言ったろう?一目で分かるって。闘う必要なんて無いんだよ。己の為の敵なんてのはさ、もう見た瞬間に理解できるもんなのさ」
「半信半疑でしたが、今宵漸く理解できました。感謝します」
ランサーの声に、今宵漸くの感情が篭った。
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─────数日前。
「貴様らは……そんなにも……
そんなにも勝ちたいか!? そうまでして聖杯が欲しいか!? この俺が……たったひとつ懐いた祈りさえ、 踏みにじって……貴様らはッ、何一つ恥じることもないのか!?
赦さん……断じて貴様らを赦さんッ! 名利に憑かれ、騎士の誇りを貶めた亡者ども……その夢を我が血で穢すがいい! 聖杯に呪いあれ! その願望に災いあれ! いつか地獄の釜に落ちながら、この─────の怒りを思い出せ!」
消え去る前に怨嗟を叫び、その場に居た全員に呪詛を残して。英雄は徐々に
消滅していった。
只々無念だった。忠義は届かず、誇りは踏み躙られ、騎士道は穢され、最後に残った敵手との純粋な闘争の刹那も奸計の一つだった。
只々無念だった。生前に砕かれたものは再度砕かれ、得た筈の好敵手は己を腹中で嘲笑っていた。
只々無念だった。
ああ、けれども─────あの騎士王との闘争は心が躍った。己の力と技の全てを賭けて戦うことができた。願わくば、またあの様な時を得たい。
あの様な奸物とではなく、何の因果も応酬も奸計も利害もなく、只々良き敵と死力を尽くして戦いたい。
そう、消えゆく最後に思った時─────宙を舞う白いものが風に吹かれて、彼に触れた。
人骨踏みしめ怨念喰らい
這いずり進み血を啜る
悩ましきかな我が武道
全てを賭して宿縁の相手と鎬を削りました。実は仕組まれていました茶番でした。
こんな巫山戯た話が有ったらどうする?
─────結論。仕組んだ奴をブッ殺す。
「お前はそう思わなかったのか」
呆れた様な、それでいて何処か面白そうな口調で聞いたのは、白いワイシャツと黒い長ズボンを身に纏い、ワイシャツの上から女物の朱い小袖を羽織った白い肌の男。
格好に相応しく肌は白く、容貌は中性的で、声は鈴を転がす様。
以前の彼ならば言葉を交わすも汚らわしいと思ったろうが、今の彼は何の感慨を抱くこともなく淡々と答えた。
「もう…疲れました。それに、あの様な奸計を用いる浅ましき者共…いずれにせよ共食いの果てに死に絶えましょう」
「そっか」
彼の新たな主の反応は只それだけ、彼の答えに肯定の念も否定の意も込めはせず、只応えただけ。その無関心さは今の彼には心落ち着くものだった。
「で、お前は何も考えずに殺し合いが出来る相手を探してこんな処に来たと?俺を巻き込んで?」
主の声に怒りが篭る。彼は困ったことになったと思った。主は元々『白紙のトランプ』に触れていない。触れたのは己であり、主はまずサーヴァントが先に在り、その後でマスターが用意されるという変則的な形で此処にいるのだ。
怒りを抱くのは理解できる。当然だと思う。
だが、ここで死ぬのは死に切れない。奇跡に縋って踏み躙られ、無念の中で得た機会を失いたくない。
主が女ならこの黒子に物を言わせるのだが─────そこまで考えて彼は笑った。
己がこの黒子を積極的に使うことを考える。そんな事を考える日が来るなど思ってもいなかったから。
「然り」
短く、極短く彼は応える。もし主が己を自害させようというのなら、この双槍を以って主を殺す。その決意を全身にひっそりと、気づかれぬ様に張り巡らす。
「その為なら何だってやるか?」
「必要と有れば」
彼の主が興味深げに彼を見る。
「主を斬り、友に憎まれ、己を愛した女を死地に蹴り込んでも悔いは無いか」
「その様なもの既に無き身なれば、悔いなど生まれる筈がございません」
「生死も勝敗もどうでも良いか?」
「此の身に有るは只一つ。好敵手との死力を尽くした一戦を望む想いのみ。左様なものは狗の餌にでもすれば宜しい」
どうだかなあ。呟いて彼の主は天井を見上げる。
「まあ…お前に何が有ったのかは知らないけど。不幸な奴だよな、お前」
「は……」
驚いて主を見つめる。穢らわしいと、厭わしいと、そう言われると思っていたのに、不幸?
「だってそうだろう?それだけの思いを抱きながら、その思いをブツける相手がいない。これは立派に不幸なことだと思うぜ」
感慨深げに言う主に彼はふと閃いた事を口にする。
「マスター…貴方には」
「ああ、居るぞ」
主に始めて熱が宿る。それまで灰の様に熱を感じさせなかったものが、熱せられた石の様に熱を感じさせる。
「俺はそいつと闘う、闘わなきゃならねえ」
短く強く断言する。
「運命だの宿縁だのそんなシロモノに踊らされてなんかいねえ。己(オレ)が己(オレである以上。彼奴が彼奴である以上。己(オレ)達はどうあろうと闘う。俺たちの意志で」
その間に入り込むものは、鬼であろうと仏であろうと過去の英雄だろうが聖杯だろうが斬り散らす。
言外にそう言ってのけた己の主を彼は呆然と見上げた。
「だけど今はお前に付き合ってやる。他人とは思えないしな……それに、己(オレ)の剣は未だ出来ていない」
─────こんなんじゃ、彼奴の剣を破れない。
あの魔剣─────。戦機。力。速さ。剣理。術技。
そういった闘いに勝利する為に必要な要素を一切排し、只々敵を斬り殺す為の機構。
あの魔剣に対する為の剣は未だ無い。あの魔剣を破る為の剣は未だ無い。
これでは彼奴とは闘えぬ。
「幸い、此処では闘う相手に困らないし、伝説にもなった英雄様の業(ワザ)も見れそうだしな。剣の工夫のついでにお前の相手探しに付き合ってやるよ」
「かたじけない」
彼は恭しく頭を垂れる。生前から待ち望んだ己の思いを正しく汲み取ってくれる主に胸が熱くなった。
「けどな─────」
主の言葉が更に続く。
「己(オレ)は絶対に生きて彼奴の前に立たなきゃならねえ。だから、いざとなったらお前を見捨てる。それでも良いか?」
「私もそのつもりです」
忠義が己に何を齎した?騎士道?誰よりも忠実であらねばならぬ者が誰よりも卑劣に踏み躙った。
最早その様なモノを後生大事に崇め奉るのは既に止めた。今は只、己の想いに従うのみ。
いまの彼はアルスターの英雄、フィアナ騎士団の一、ディルムッド・オディナであってディルムッド・オディナでは無い。
いまの彼は、嘗て奉じた全てに最早価値を見出せぬ、只々己の為の敵との間に己の為の闘争を望む戦鬼。
「私も必要とあれば貴方を見捨てます」
主は唇の端を釣り上げて笑った。
「じゃあ、サッサとゴミを払いに行くか」
英雄と剣鬼。本来ならば剣鬼は犬と唾棄したであろう。英雄は穢らわしいと断じたであろう。
決して交わらぬ二つの道は、此処に交わり血花を咲かす。
【クラス】
ランサー
【真名】
ディルムッド・オディナ@Fate/Zero
【ステータス】
筋力: B 耐久: C 敏捷:A+ 幸運: E 魔力:D 宝具:B
【属性】
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
愛の黒子:C
魔力を帯びた黒子による異性への誘惑。対魔力スキルで回避可能。
騎士の武略:B
力において及ばずとも、戦いの流れを把握し、相手のミスを誘発させる戦闘法。
自己強化ではなく相手の判定ミスを誘うスキル。一瞬の勝機に賭ける冷静な観察力。
ランク以下の心眼(真)を無効化し、宗和の心得を2ランク下げる。
また、カウンターが成功しやすくなる。
【宝具】
破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:2~4 最大捕捉:1人
由来:ディルムッドが養父であるドルイドのアンガスより贈られた紅槍ゲイ・ジャルグ。
紅の長槍。刃が触れた対象の魔力的効果を打ち消す。基本的には、魔術的防御を無効化させるための能力を持った宝具。
セイバーの鎧のように魔力で編まれた防具や、魔術やあるいはバーサーカーの宝具「騎士は徒手にて死せず」のような魔術的な強化・能力付加を受けた武具からその魔力的効果を奪い、物理的な防御力のみの状態にする。
打ち消される魔力の対象は防具に限った話ではないが、「刃の触れた部分だけ」「刃の触れている間だけ」効果を発揮するため、防御的な使い方には向かない。また、過去に交わされた契約や呪い、既に完了した魔術の効果を覆すことはできない(魔術は無効化できるが、その魔術が残した結果までは無効化できない)。
「宝具殺しの宝具」と呼ばれる槍だが、この破魔の効果単独で宝具の初期化はできない。あくまで「刃の触れている間だけ」効果を打ち消す。作中、セイバーと切り結んでも「風王結界」はその瞬間だけ僅かにほどけるのみであるし、キャスターの「螺湮城教本」を傷つけて海魔の大群を消し去った時も、表紙を切り裂かれた宝具は時間を置かず再生している。
魔術を使わないものにはただの槍だが、サーヴァント同士の戦いに魔術的なものを使わないことはまずなく、派手さはないが実に有用な宝具。
必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:2~3 最大捕捉:1人
由来:ディルムッドが妖精王マナマーン・マック・リールより贈られた黄槍ゲイ・ボウ。
黄の短槍。治癒不能の傷を負わせる。通常のディスペルは不可能で、この槍で付けられた傷は槍を破壊するか、ディルムッドが死なない限り癒えることがない。
いかなる治癒や再生でも回復できない仕組みは、この槍が与えるダメージは最大HPの上限そのものを削減するため。それ故に回復や再生をしても「傷を負った状態が全快状態」であるため、それ以上治らない。
短期決戦であるとただの槍だが、同一の相手と長期に渡って複数回戦うことを前提に考えると、じわじわと、しかし確実に効いてくるボディブローのようなもので、対象がサーヴァントでなければ、時間経過による出血死などのより致命的な効果が期待できる。
「破魔の紅薔薇」同様、派手さには欠けるが、非常に使い勝手のいい宝具。なお、使い手である彼はこの槍で傷つくことはない。
【weapon】
破魔の紅薔薇と必滅の黄薔薇と愛の黒子
【人物背景】
敬意と友誼を抱いた騎士王と、槍を捧げた主に裏切られて自害させられた英雄。
その心には奉じた騎士道は既に無く、彼を動かすものは嘗ての英雄の残滓である。
今の彼は己の為の敵と己の為の闘争を望む戦鬼である。
要するに本編で精神的にフルボッコされた後のディルムッド
【方針】
己の為の敵を見定め死力を尽くして闘う。それ以外の障害は手段を選ばず排除。
【聖杯にかける願い】
この聖杯戦争で己の為の敵と出逢えなければ、別の異なる聖杯戦争へと参戦する。
【マスター】
武田赤音@刃鳴散らす
22歳 身長161cm 体重54kg(シナリオライター設定)
【能力・技能】
兵法綾瀬刈流中伝印可
指(サシ)の構えと呼ばれる剣を肩に担ぐ構えから繰り出される振り下ろしは、
脱力を旨とする刈流の術理により神速の斬撃と、剣尖に全体重を乗せることを可能とする。赤音の斬撃とは神速で54kgの物体が激突するに等しい。
体格に恵まれぬ赤音が作中屈指の剛剣を振るえるのはこの為。
他に先天的な性質として『即応能力』を持つ。
予想外の事態に対し、思考とや感情と肉体の行動を脳で完全に切り離し、 肉体の反射神経のみで最適の行動を最速で為す異才である。
「考える前に行動する」「己が無のまま勝利する」を地でいく異才。
結果として剣聖まがいの行動ができるが、単にその結果が似るだけであって、
その攻撃的にすぎる性状故に、剣聖の無念無想の境地に達する事は未来永劫にない。
その即応能力と鍛練から、後に“我流魔剣”【鍔眼返し】に開眼するが、現在は未だ開眼してはいない。
集団戦闘の指揮を一応はこなせる。一応は。
【weapon】
かぜ:
銘・藤原一輪光秋。二尺三寸三分の日本刀。軽捷さを宗としている為に堅牢さという点では心許ない。
【ロール】
地元の金持ちのヒモ
【人物背景】
宿敵である伊烏義阿との決着を望むだけの剣鬼。
人間性の全てが蒸発し、嘗ての残滓だけで動く身となっても、剣への想いだけは変らず残っている。
恐ろしく口が悪く、本人は普通に話している。真面目に謝っているつもりなのに喧嘩を売っている様にしか聞こえない。
念願かなった後は負ければ死ぬだけ、勝てばやることやったんで死ぬだけと割り切っている。
戦場における女の取り扱いは“戦利品”というものであって、どう扱おうが己の自由と割り切っている。
【令呪の形・位置】
右手の甲にツバメの形
【聖杯にかける願い】
無い。杯なんぞに頼らずとも己は伊烏義阿と闘うのだから
【方針】
当面は己の剣を作る。ついでにランサーの相手を探してやる。外れは殺す。
女がいれば戦利品として好きに扱う
【参戦時期】
一輪から“かぜ”を受け取った直後。
【運用】
基本的にはマスター狙い。必滅の黄薔薇を用い、一撃離脱を繰り返して敵を削っていく。この時には宝具を使用出来なくさせる為に出来るだけ喉を潰しにいく。
愛の黒子を利用する事で、女性がマスターの陣営を利用しやすいのでこれを最大限利用する。
マスターは魔力を持たないので魔力を得る手段を早期に見つけると後々楽だろう。
最終更新:2016年12月05日 11:06