「ラブ・・・。」
私は部屋の壁を見つめ、そっとため息をついた。
壁向こうの部屋の主は、今頃深い眠りの中にいるのだろう。
時刻は午前1時。
町中が寝静まっている中で、私は何度となく繰り返した言葉を再び呟く。
「私は、ラブの友達なの・・・?」
本人に直接聞けば、彼女はきっとこう答えるだろう。
あたりまえじゃない。せつなは大事な親友だよ!と。
私がまだイースだった頃、私は彼女たちがうらやましかった。
お互いに信頼し、支えあえる友達が、仲間がいる事が。
そう自覚したのは、ラブの心に触れてから。
今まで敵だった私を受け入れ、友達だと言ってくれる彼女たちにはとても感謝している。
私にとって、美希もブッキーも大切な友達。
もちろんラブの事も。・・・でも。
「ラブにとって、私はただの友達なのよね・・・。」
友達。
ラブにとっては、美希も、ブッキーも、学校のクラスメートたちも。
自分と同じように大切な友達なのだ。
それは、当然の事だと思う。
彼女たちは私とラブが出会うずっと前から一緒にいて、ラブと同じ時間を過ごしてきた。
その輪の中に、私が入って来ただけ。
ラブのたくさんいる友達の中に、東せつなという存在が加わっただけの事なのだ。
それでもよかった。ラブの傍にいられれば。
一緒に暮らして、一緒にお買い物に行って、一緒にダンスの練習をして。
たくさんいるラブの友達の中で、私は誰よりもラブに近い場所にいる。
これ以上の幸せなんてない。
そう、思っていたのに。
友達、親友。
この家に来たばかりの時は、その響きがとても心地よかった。
いつからだろう。
彼女がその言葉を口にするたびに、胸が締め付けられる様に苦しくなったのは。
キュアパッション。幸せのプリキュア。
幸せを求める心が生み出したプリキュア。
「幸せを、求め続けるプリキュア・・・か。」
私は自嘲気味に笑う。何て強欲なのだろう。
私はきっと、現状に満足していないのだ。
自分の幸せを求め続ける。例え、周りの人間を不幸にしたとしても。
それでは、イースだった頃と何も変わりはしない。
私はもう、誰も不幸にしないと誓った。
皆の笑顔を守りたい、その気持ちに変わりはない。
だけど。
苦しい。胸が、張り裂けそう。
自分の気持ちを隠して、当たり障りのない言葉を並べて。
最近の妙に余所余所しい私を、ラブはどう思っているのだろうか。
ラブに近づけば近づく程、お互いの心が離れていく気がする。
でも、だめなの。あなたを見ていると、自分が抑えられなくなる。
私だけを見て欲しい。
私だけに話しかけて欲しい。
私だけに・・・触れて欲しい。
そう、叶わぬ想いが溢れ出しそうになる。
私は必死に隠してきた。心配する彼女に何でもないと告げて。
普段どうりに振舞う様、精一杯頑張ってきた。
でも、それももう限界かもしれない。
もう私は、私を抑えられる自信がない。
数時間前に起こった出来事が、私の理性を完全に打ち砕いてしまっていた。
「せつな~。お風呂空いたよ!」
「ええ、わかったわ。ラ・・・ぶっ!」
振り向いた私の目に飛び込んできたのは、バスタオル一枚巻いただけのラブの姿だった。
ほんのり上気した肌。しっとりと濡れた髪。
もぎたてフレッシュな彼女の裸体を隠しているのは、純白のバスタオル一枚だけ。
少しのぼせているのか、潤んだ瞳で私を見つめる彼女の目は、まるで私を誘っているかのように・・・ハッ!
「ラ、ラブ。何て格好してるのよ。」
いけないいけない!私は残った理性を必死にかき集め、目を逸らす事で彼女の姿を視界から隠す。
「いや~考え事してたらちょっとのぼせちゃって。しばらくこのままでいるよ。」
こ、このまま!?バスタオルラブのまま!?き、危険すぎるわ!!
「ね、せつな。お風呂に行く前に、あたしの部屋でちょっとお話しない?」
や、やめて!私の理性はもうゼロよ!
「あ、汗かいちゃったから先にお風呂入るわね!ラブも早く服着ないと風邪をひくわよ!」
最後の力を振り絞り、よろよろとその場を去ろうとする私。
その腕を、ラブがつかむ。
「せつな、最近おかしいよ。何だかあたしを避けてるみたい。何か悩み事でもあるの?あたしじゃ力になれないのかな?」
そういって上目遣いに私を見上げてくるラブ。
私は死んだ。(主に理性が)
ラブの手首をつかみ、こちらに引き寄せる。
「せ、せつな?どうし・・・んっ、んう!」
そのまま唇を奪い、口内に舌を滑り込ませる。
「んっ!んんーー!!」
バスタオルの上から、柔らかな乳房をもみしだく。
少し小ぶりな彼女の胸が、私の手の中で形を変える。
歓喜に心が震える。
シャンプーの甘い香りにクラクラしながら、私はひたすらラブの唇を貪った。
もがくラブを逃がさないように、彼女の細い腰にしっかりと腕を回す。
唇を離すと、ゆっくりと彼女の首筋に舌を這わした。
ビクッと彼女の体が震える。ああ、何て愛らしいの。
「あ、せ、せつな・・・。どうして、急にこんな・・・。」
「急にじゃないわ。ずっと、ずっとこうしたかったの。」
「あ、あたしたち女の子同士だよ!?こんなの、おかしいよ!」
「そうかもしれない。でも、私はラブが好き。もう、自分の気持ちに嘘はつけないの。」
太ももを彼女の股の間に滑り込ませる。
「ラブがいけないのよ。こんなイケナイ格好で、私のことを挑発するんですもの。」
「そ、そんなつもりじゃ・・・あ!」
彼女の体を隠す、唯一の物体に手を掛ける。
ばさっとバスタオルが滑り落ち、彼女の裸体が私の目の前に晒された。
「キレイ・・・。ラブ、キレイ。」
そう言いながら、彼女の乳房に手を伸ばす。
「だ、だめだよ。こんなの・・・。あたしもせつなが好きだよ!でも。」
「【友達】として、だから?」
ハッとラブが私の顔を見つめる。
「私はいや。ただの友達でいるなんて、もう我慢出来ない。」
彼女のおしりを掴み、自分の方へと引き寄せる。
「ラブを、私だけのラブにしたい。ラブだけの・・・せつなになりたいの。」
彼女の秘肉が私の太ももでこすれ、ラブは声にならない声を上げる。
ラブの頬をそっと撫で、耳元で優しく囁いた。
「愛してるわ・・・ラブ。」
「せつな?どうしたの?せつな!」
ラブが私の肩を掴んで揺すっている。
はっとし、慌てて周りの状況を確認する。
どうやらいつの間にか、妄想の世界に入り込んでしまったようだ。
ラブはいつも通りだし、しっかりとバスタオルも巻かれている。
まだ、大丈夫。まだ、ラブに嫌われてはいない。よかった・・・。
ほっとすると同時に、またラブのバスタオル姿に釘付けになりそうになる。
「ご、ごめん!」 「あ、せつな!」
私は逃げるように風呂場へと駆け込んだ。
冷たいシャワーで頭を冷やす。もう、限界だった。
最近、思考の海へ沈み込んでしまう事が多くなった。
気が付けば、せつラブの百合百合な展開を考えてしまっている。
ラブの無防備な姿に理性が保たず、無意識に現実から逃げているのだと思う。
さっきみたいな事も、これが一度や二度ではない。
妄想と現実の境目がどんどん曖昧になってきていて、自分でもわけがわからなくなってくる。
このままじゃ、本当に・・・。
お風呂を上がると、ラブを避けるようにして部屋に閉じこもった。
私、どうしたらいいの?ラブ、苦しいの・・・。
彼女のバスタオル姿を思い浮かべながら、私は再び妄想の世界へと旅立っていった。
「はぁ~あ。」
あたしは本日何度目かの大きなため息をついた。
時刻は午前1時。タルトとシフォンはとっくに眠っている。
あたしもいつもなら夢の中なんだけど・・・。
「あ~あ。どうしたらいいんだろう。」
頭に浮かぶのはせつなのこと。
「最近、まともに顔も見てくれないんだよね・・・。」
枕に顔を押し付けながらそう呟く。
そう、せつなはあたしを避けている。鈍感なあたしでもわかるぐらい、あからさまに。
理由はわかっている。最近のあたしの態度だ。
「いきなり、積極的過ぎたのかなぁ。」
東せつな。あたしの友達。あたしにとって、誰よりも大切なひと。
初めて出会った時から惹かれていた。
物静かで神秘的な彼女に、どうしようもないくらい魅力を感じていた。
最初はそれが、女の子らしいせつなに対する憧れだと思っていた。
「まさか、自分と同じ女の子を好きになるなんて思わなかったな。」
そう、あたしはいつの間にか、せつなのことを好きになっていた。
ううん、せつなのことが好きだと自覚した、という方が正しい。
たぶん最初から、あたしはせつなのことが好きだったのだ。
友達としてではなく、一人の女の子として。
気が付いた時にはもうどうしようもなかった。
せつなをあたしだけのものにしたい。
あたしだけを見ていて欲しい。
あたしだけを、好きだと言って欲しい。
けど、そんな想いが叶うはずもなく。
あたしはせつなに対して必要以上に友達という言葉を強調することで、自分の気持ちを誤魔化してきた。
でも、やっぱり無理。自分の心を偽って、せつなと接するのはとても辛い。
だから決めたんだ。せつなに振り向いてもらえる様、努力しようって。
とは言っても、どうすれば好きになってもらえるかなんてわからなかった。
せつなが女の子のことを好きになるかどうかもわからないのに・・・。
もうすぐ新学期が始まる。そうすれば、せつなはあたしと同じ学校に通うことになる。
それはとっても嬉しいことだけど。学校には男の子もいっぱいいるわけで。
せつなが他の男の子のことを好きになっちゃったらどうしよう、とか。
せつなに憧れる後輩の女の子が告白してきちゃったらどうしよう、とか。
最近はそんなことばかり考えてしまって、学校が始まるのがとても怖い。
それまでにせつなに振り向いてもらわなくっちゃ!
そう焦って、せつなにあたしを意識してもらうように積極的に動いている。けど。
「ご、ごめん!」
そう言ってあたしの手を振り払った彼女の姿が思い浮かぶ。
つい数時間前の話だ。
作戦その44、お風呂上りのセクシーな姿でせつなのハートをメロメロよっ!は、
これ以上ないくらいの失敗に終わってしまった。
やっぱりあたしの体って魅力ないのかなぁ~。タハハ・・・。
最近せつなはじっと考え込むことが多くなった。
特にさっきみたいにあたしがアプローチをかけると、
急に物思いに耽るように顔を伏せ、謝罪の言葉を述べて逃げ出してしまう。
それが、堪らなく悲しい。
もしかしたら、せつなはあたしのやましい心を見抜いているのかもしれない。
それでもせつなはあたしを拒否しない。せつなは優しいから。あたしを拒否することができない。
その優しさに付け込んで、あたしは・・・。そんなの、最悪だ。
せつなに嫌われたくない。でも、もっとせつなに近づきたい。せつなにあたしを見て欲しい。
唯のわがままだよね、こんなの。
アハハと力なく笑う。あ、涙でてきた。
笑いながら泣くなんておかしいよね。はは。
「はぁ~あ。」
ホント、どうしたらいいんだろう。
せつな、会いたいよ。
隣の部屋にいるのに、心はずいぶん遠くに離れちゃった気がする。
初めてせつなが家に来た頃は、毎晩お互いの部屋を行き来してたのに・・・。
最近はあたしも妙に意識しちゃって、なかなかせつなの部屋に行く勇気が出てこない。
せつなもあたしを避けてるみたいだしさ・・・はぁ。
あぁ~。せつなぁ~。イチャイチャしたいよ~。
あたしの思考は、既に日課となっているラブせつの妄想へと突入していった。
「ラ、ラブ。私たち、女の子同士なのよ?」
「うん、知ってる。でも、あたしはせつなが好きだよ。」
「わ、私もよ。けど、いいの?私なんかで・・・。」
「せつなじゃなきゃだめなの。もう、自分の気持ちに嘘はつけない。」
「ラブ、嬉しい・・・。」
「せつな・・・。好き・・・。」
「あっ!ラブ!だ、だめよそんなところ。汚いわ。」
「せつなの体に、汚いところなんてないよ。」
「あ・・・だ、だめ。んっ!」
「せつな、とってもキレイだよ。」
「いやぁ。恥ずかしいから、あんまり見ないで・・・。」
「可愛いよ、せつな。大好き。」
「ラブ・・・私も、私もラブが好き。大好き。」
「せつな・・・。」
「ラブ・・・。」
にへへ~と顔がにやける。
枕に顔を埋めたまま、ゴロゴロと布団の上を転がった。
ああ~せつなは可愛いなぁ~。
さっきまで悩んでたのに、ラブせつパワーでなんだか元気が沸いてきた!
単純だな、あたしって。
よし!もう一度頑張ろ!
作戦その45、なんだか眠れないの。せつな・・・一緒に寝てもいい?で、せつなゲットだよ!
あたしは枕を小脇に抱え、タルトとシフォンを起こさないようにそっと部屋を抜け出した。
~END~
最終更新:2009年09月26日 12:27