ごくごく普通の、どこにでもあるような家庭だった。ほんのちょっとだけ裕福で、ほんのちょっとだけ敷地が広くて。
うんと優しいお父さんとお母さんの間に生まれた、ごくごく普通の女の子だった。
「お父さん、これは?」
「おまえが、ずっと欲しがっていたものだよ。開けてごらん」
それは、その子の五歳の誕生日のこと。
かねてより、おねだりしていたテディベアのヌイグルミを、お父さんが買ってきてくれたのだ。
テーブルの上には、五本のローソクが並んだ、大きなお誕生日ケーキ。そして、所狭しと並んだご馳走の数々。
そんなものには目もくれず、少女はもらったばかりのヌイグルミに夢中になった。
「テディベアちゃん? クマちゃんでいいよね! ずっと、お友達でいようね」
「大切にするのよ」
いつも一緒だった。雨で家の中にいる日も、お父さんとお母さんの帰りを待つ時間も、ヌイグルミと一緒なら苦にならなかった。
外でも一緒だった。晴れて公園で遊ぶ日も、お友だちと追いかけっこして遊ぶ時間も、ヌイグルミと一緒に手をつないで走った。
寝る時も一緒だった。お勉強する時も一緒だった。ずっと、こんな時間が続くと思っていた。
その時が、来るまでは――――
『
幸せの赤い翼――――おもちゃの国は秘密がいっぱい!?(古き友の呼び声)――――』
ラブ――――ラブ――――ラブ――――
ラブ――――ラブ――――
誰かの呼び声が聞こえたような気がして、ラブはキョロキョロと辺りを見渡す。
「えっ? 今、なにか言った?」
「どうしたの? ラブ」
「なにも聞こえないわ」
「わたしも、なにも聞こえなかったよ」
「寝ぼけとんとちゃうか? 昨日も夜更かししてたみたいやし」
「失礼ね~、昨日はお部屋のお片づけしてたから」
「普段から、ちゃんとしてないからそうなるのよ」
「いや~、それを言われると……」
明日、公園でフリーマーケットが開催されるらしい。張り紙を見た四人は、不用品を集めて出品することにした。
美希は迷わず山のように、祈里は慎重に見極めて、ラブは、迷った挙句に何も出せずに……。
それでも、しぶしぶ古着や古雑貨などをカバンに詰めていった。
「せつなの準備は進んでるの?」
「私は、不用品なんて持ってないもの。みんなのお手伝いをするつもりよ」
「そっか、せつなちゃんの持ち物は、どれも買ってもらったばかりよね」
「それに、古くなっても売ることなんてできないわ。だから、本当に使えなくなるまで新しい物もいらない」
「ええっ~、どんどん買ってもらって、全部大切にすればいいじゃない」
「そうして、ラブの部屋のクローゼットみたいにごちゃごちゃになるんでしょ? お断りよ」
「そういうラブちゃんも、あんまり新しいもの買わないね」
「それでも物がたまるのは、整理整頓ができてないからよ。整頓の前に整理。不用品を処分しなきゃ」
「だって、全部大切な物だから……。捨てるなんてできないよ」
「そのためのフリーマーケットでしょ? 帰ったら、ちゃんと、もう一度整理するのよ」
「はぁ~い」
出品場所の確認と打ち合わせを終えて、四人は一端家に帰ることにする。
「それじゃ、また後でね」
「夕方、ラブちゃん家に伺うね」
「うんっ! 待ってるね~」
「ラブ。夕方って、フリーマーケットは明日のはずじゃあ?」
「明日の朝は早いでしょ? それなら、せっかくだから今夜はパジャマパーティーやろうと思って」
「パジャマパーティー?」
「えへへ、後のお楽しみ。せつな、今夜は寝かさないよ?」
「ええっ? 一体なんのことなの」
「ふわぁ~あ、結局、今夜も夜更かしかいな。付き合うこっちがもたへんわ」
「ぱじゃま、ぱーてぃー、キュア~」
不思議そうなせつなの表情を横目に見ながら、ラブはメモ用紙を取り出す。
じゃがいも、たまねぎ、カレールウ、それに……。
せつなが横から覗き込む。
「お買い物して帰るのね。メニューはカレーライス? それにしても、ずいぶん量が多いのね」
「そうだよね、ニンジンくらいは減らしても……」
「ダメよ、ラブ。ちゃんと書いてある通りに買わなきゃ」
「それじゃ、あたしの分も食べてくれる?」
「それもダメ。同じだけ食べてもらうわよ」
「ええっ~」
二人は、買い物をするために商店街へと急いだ。
大きな荷物を抱えた美希と祈里が、ラブの家の玄関の扉を叩く。
手持ち無沙汰だったせつなが、真っ先に駆け寄ってドアを開けて出迎えた。
「いらっしゃい、美希、ブッキー」
「美希たん、ブッキー、待ってたよ~」
「ありがとう、お邪魔します。おじさん、おばさん、ラブ、せつな」
「今夜一晩、よろしくお願いします」
「どうぞ、ゆっくりしていってね」
ラブの部屋に着いた美希と祈里は、タルトを押入れの中に閉じ込めて、すぐにカバンからパジャマを取り出して着替えていく。
突然服を脱ぎだして、下着姿になる美希と祈里に、せつなは驚いて目をパチクリさせる。
ラブに事情の説明を求めようとして、ラブも脱いでいることに気が付いた。
「ちょっと、一体なに? 食事も済んでないし、お風呂もまだよ、どういうことなの?」
「いいから、せつなも着替えて。パジャマパーティーなんだから、まずはそこから始めなきゃ!」
一足先に着替え終わったラブが、せつなの部屋にパジャマを取りに行く。
「嫌よ! 私は自分の部屋で着替えるわ。ちょっと、脱がさないでったら!」
「観念しなさ~い、これもコミニュケーションのうちよ」
「わたしたちは、小さい頃からで慣れっこだから」
ラブが戻ってきた時には、下着姿で涙を浮かべて睨んでるせつなと、すっかり着替え終わって苦笑している美希と祈里の姿があった。
「衣服ってのはね、気持ちに影響を与えるの。確かにちょっとだらしないけど、落ち着けるのよね」
「心も身体もリラックスして、ゆったりと時間が流れるのよ」
「フンだ。そんなんで、誤魔化されないんだから!」
「まあまあ、せつな。ふざけっこは仲良しのしるしだよ」
それから、トランプ遊びをした。神経衰弱に、ばば抜き、そして、ポーカー。どれもせつなが圧倒的に強く、罰ゲームで美希と祈里がひどい目にあったのは言うまでもない。
このトランプは、唯一、せつながラビリンスから持ち出したものだった。
「そろそろ夕ご飯の支度しなきゃ。今夜はカレーだよ」
「オーケー、何でも手伝うわ」
「わたし、自信ない……」
「美希は料理するのね?」
「その意外そうな口調は何よ? アタシは調理も得意なんだから」
「完璧って口にしないところが、ポイントよね」
「言ったわね! こうなったら料理勝負よ、せつな」
「受けて立つわ。ラブ以外には負けないんだから!」
「ちょっと、二人とも仲良くしようよ~」
「大丈夫だよ、ブッキー。さあ行こう!」
調理が始まる。ラブは鮮やかな手付きで野菜の皮をむいて、牛肉の下処理に取りかかる。
ジャガイモとニンジンをカットするせつなと、タマネギを刻む美希の包丁裁き対決は……食材選びの時点で決着がついていた。
「いっただきま~す!」
『いただきます』
祈里が遠慮がちに小声で祈りを捧げた後、みんなで夕ご飯をいただいた。
祈里は軽く、美希はもっと軽く、せつなはしっかりと。ラブは、盛り付けは普通だったが……。
「おかわり~」
「ちょっと、ラブ。食べすぎよ?」
「平気、平気。この後、枕投げで運動するんだから」
「どれほど投げる気なのよ……」
「でも、せつなも思ったより食べるのね」
「ラブがこうだもの。つい、つられてたくさん食べちゃうの」
「あっ~! せつなったら、あたしのせいにするんだ?」
「ラブちゃんって、楽しい時ほどたくさん食べるのよね」
「なるほど、せつなと暮らすのがよっぽど楽しいわけね」
「もう、からかわないで!」
賑やかな食事が終わり、それぞれが後片付けに取りかかった時、突如異変は起こった。
バラエティの放送中だったテレビ番組が、臨時ニュースに差し替えられる。
現在、街中から子供たちの玩具が消失する怪現象が起こっています。原因はまだわかっておりません。
販売店からも、各家庭からも、例外なく消えているらしく――――
ただ今、新しい情報が入りました。この現象は、世界各地で起こっている模様です。
また、詳しいことが判り次第――――
ラブ、美希、祈里、せつなの表情が変わる。怪現象、それは即ち、ラビリンスの襲撃を意味していた。
わからないのは、世界各地で起こっているということ。これまで、ラビリンスの攻撃による被害は、街の外に及んだことはなかった。
「ともかく、様子を見に行こう!」
『ええ!!!』
四人は、パジャマに上着だけを羽織って飛び出した。
家の外は、酷い有様だった。
家庭のおもちゃ。外で遊んでいる子のおもちゃ。喫茶店のマスコットや、キッズルームのおもちゃ。もちろん、玩具屋さんの商品も根こそぎ消えていた。
街は、消えたおもちゃを探す人々、警察や玩具屋さんに事情を問い詰める人々、泣き喚く子供たちなどで溢れ返っていた。
建物が壊されることを思えば、それほど深刻な事態とは言えないだろう。しかし、これまでの襲撃とは比較にならないほど被害が広範囲に及んでいた。
何より、全ての子供たちから笑顔が失われるのだ。それは、大人たちの気持ちにも影響を与えて……。
街全体が、暗い雰囲気に包まれようとしていた。
「あなたも、おもちゃを無くしてしまったの?」
「ひっく、だいじな……だったのに。お父さんから……。わあぁーん!」
とりわけ悲しそうにしている小さな男の子に、せつなが近づいてそっと声をかける。
その子はついに堪えきれなくなり、堰を切ったように泣き出した。
「そうなの……。単身赴任で遠くに行ってしまった、お父さんからの贈り物だったのね」
「ひどいっ。こんなこと、許せない!」
「子供たちから、不幸を集めるなんて……」
「心配しないで、私が――――。ううん、プリキュアが、必ず取り戻してくれるから」
せつなの力強い言葉に励まされたのか、その子もようやく泣き止んだ。
とは言え、今回は肝心のナケワメーケの姿が見当たらない。これだけ被害が広範囲だと、居場所の絞込みすらできない。
男の子を家まで送り届けた後、ひとまず帰って対策を立てることにした。
せつなはラブの部屋に戻ると、ためらわずにパジャマを脱ぎ捨て、昼間の服に着替えた。明るい部屋に、雪のように白く美しい肢体が舞う。
先ほど、恥ずかしがっていたのは何だったのかと思うくらい、周りの視線を気にする様子もない。
ラブ、美希、祈里は、顔を見合わせてから、同じように着替えた。
「これだけ広範囲に、一度に働きかける特殊能力……。サウラーのナケワメーケに違いないわ」
「でも、今頃どうして? もう、不幸のエネルギーは必要ないんじゃなかったの?」
「そのはずよ。奴らの目的も、シフォンの奪取に絞られていたもの」
「理由なんてどうだっていいよ! とにかく、早く倒して取り戻さないと!」
「いや、それなんやけどな。どうもラビリンスの仕業やなさそうなんや……」
「どういうこと?」
「よう見てみ? あいつらがやったんなら、クローバーボックスが光るはずやろ」
「確かに、沈黙したままね」
クローバーボックスは、シフォンの危険を知らせる能力を持つ。もしラビリンスの力が働いているなら、その発現地点まで映し出すはずだった。
「でも、ラビリンスじゃないなら、一体誰がこんなことを?」
ラブ――――ラブ――――ラブ――――
ラブ――――ラブ――――
「ちょっと今、大事な話してるから待っててね。って! また、聞こえたよ!?」
「今のは、アタシも聞こえたわ」
「怖い。まさか、お化けなんじゃ?」
「みんな落ち着いて。確か、そこのクローゼットの中からよ」
「不思議な声……。初めて聞くはずなのに、なんだか懐かしいような」
「ラブ、気をつけて!」
「おともらち、よんでる。キュア・キュア・プリップ~」
ラブが立ち上がり、声の主を確認しようとする。それより早く、シフォンが宙に浮き上がり、額から力を放った。
クローゼットに命中した光は、やがて内部に吸い込まれる。
そして、音もなく扉が開き、中から一体のヌイグルミが飛び出してきた。
ピンク色の、ウサギのヌイグルミ。それが、フワリと宙に浮き、ラブの名を呼ぶ。
かなり古いものらしく、また、かなり使い込んだものらしく、色あせ、ところどころ破れて、中の綿が飛び出してしまっていた。
「ウサピョン!」
「ウサピョンって?」
「あたしが小さい頃に、よく遊んでいたヌイグルミなの」
「ヌイグルミが、なんでしゃべってんねん!?」
「あなただって、しゃべるフェレットじゃない?」
「ちゃうわ! わいは、可愛い可愛い妖精さんや!」
「はいはい、とにかく今はこの子の話を聞きましょう」
美希の言葉に頷いて、ヌイグルミは、今度はしっかりと話しだす。
「おもちゃや人形たちはね、本当に心の通ったお友達となら、お話ができるのよ」
心が通えば、おもちゃだって会話ができる。だから、自分はみんなのことを全部知っているのだと。
もっとも、これほど自然に話せるのは、シフォンの手助けによるものらしい。
「それで、あなたはどうして無事なの?」
「街のおもちゃは、みんな消えてしまったのよ」
「それは、トイマジンと呼ばれるヤツの仕業よ。なぜか、あたしにはその力が届かなかったの」
「なるほど。シフォンか、クローバーボックスの力で守られていたのね」
ヌイグルミ、ウサピョンの話によると、この世界からおもちゃが消えたのは、おもちゃの国に住むトイマジンと呼ばれる者の仕業らしい。
おもちゃの国は、役目を終えたおもちゃが集まって生まれた場所なんだとか。本来は、新しいおもちゃや、大事にされているおもちゃが連れて行かれることはない。
トイマジンはその禁を破り、世界制服の手始めとして、子供たちから全てのおもちゃを奪ったのだ。
「お願い、あたしと一緒におもちゃの国に来て! トイマジンの野望を止められるのは、プリキュアだけなの」
「わかった。あたし、行くよ。だって、ウサピョンは友達だもの。友達を助けるのは当たり前でしょ」
「ちょっと、ラブ! いきなり異世界に飛び込むなんて無茶よ!」
「落ち着いて、ラブちゃん。その国のこと、相手のこと、何もわかってないのよ?」
「行きましょう。ラブ、美希、ブッキー」
「せつなっ!」
「せつなちゃん?」
「この街の子供たちが、泣いている。戦う理由なんて、それだけで十分よ」
せつなの瞳が、闘志で燃え上がる。静かな口調に、返って怒りの深さがうかがえる。震える拳を開いて、リンクルンを取り出した。
美希と祈里も、頷いて立ち上がる。止めたところで、せつなは一人ででも行くだろう。何より、困ってる人々を助けたい気持ちは同じだった。
「行こう! 約束したものね。プリキュアが、必ずおもちゃを取り返すって」
「そうね、覚悟を決めましょう!」
「取り戻そう、わたしたちの手で」
「ウサピョン、おもちゃの国を強くイメージして」
「うん、まかせて」
「おもちゃの国へ!」
アカルンの輝きと共に、四人と一匹と二体は、時空の壁を越えて飛び立った。
おもちゃの国に到着した一行の前に、大きな門が立ちはだかる。建物の外周は高い壁で覆われており、他に出入り口はなさそうだった。
よく見ると、プラスチックのブロックで出来ており、規模の大きさに比べて、威圧感はまったくと言っていいほどなかった。
早速、守衛に問い詰められたものの、ウサピョンが用意していた精密なパスポートにより、事も無く入国が許された。
「ここが――――おもちゃの国?」
「わはっ、なんだかすっごく楽しそう!」
「どこも、とっても可愛い!」
「キュア~」
積み木とブロックで作られた建物には、大小様々な動物のオブジェが飾られている。
床はジグゾーパズルで出来ており、路面にはモノレールやミニカーなどが、縦横無尽に走り回る。
和洋、今昔、ごったまぜの人形やロボットが、自在に街を闊歩する。
どこまでも自由で、奔放で、はちゃめちゃで――――
それは、まるで子供のおもちゃ部屋のようでもあった。
「遊びに来たんじゃないのよ、ラブ。ここはもう、敵の手の内と考えていいわ」
「ごめん、そうだった」
「しかし、なんや、リアリティのない国やなあ」
「タルトがそれを言う?」
「そうよ、お菓子の国の王子のクセに、偏見はよくないわ」
「そんなことまで知っとるんかいな……」
ウサピョンにやり込められるタルトの様子を笑いながらも、せつなは周囲に対する警戒を高めていった。
異世界に慣れているせつなには、この世界に対してもみんなほどの驚きはない。
噴水広場にたどり着いたところで、ウサピョンに向き直る。
「こうしていても始まらないわ。トイマジンというのはどこにいるの?」
「それが、あたしにもよくわからないの」
「だったら、その辺の人に聞いてみればいいよ!」
「そうね」
「果たして、人と言えるかは微妙だと思うけど……」
街の住人たちは、皆、陽気で、声をかけたら親切に応対してくれた。
一緒に遊ぼうと誘う者、探し物があるなら手伝うと名乗り出る者、色々だった。しかし――――
「アタシたちが探しているのは、トイマジンというの。何か知ってるなら」
「知らない! 知ってても教えるものかっ! もう、構わないでくれ」
「ソンナモノハ、コノマチニハ、イナイ。デテイケ! デテイケ!」
「聞こえない。わたしには質問の意味がわからない。さようなら~」
「みんな、どうしちゃったんだろう? 名前を聞いただけで逃げ出すなんて……」
「ラビリンスにおけるメビウスのように、絶対的な存在なのかもしれないわ」
「あっ、あっちにおまわりさんがいるよ、聞いてみよう!」
「待って! ブッキー」
祈里は、犬のおまわりさんの人形に話しかける。
動物の姿に安心したのか、警戒心も持たずに、単調直入にトイマジンについて質問する。
人懐っこいダックスフンドの表情が、たちまち険しいものとなる。
ワン! ワン! ワン! と、立て続けに吠えると、首に掛けていた笛を思いっきり吹き鳴らした。
それを合図にして、周囲のおもちゃたちが一斉にその場を逃げ出した。
「誰も……いなくなっちゃった」
「ワンちゃんも逃げちゃったね」
「違う――――もう、既に囲まれてるわ」
ザッ、ザッ、ザッ
規則正しい足音が、遠くから聞こえてくる。
その数は徐々に増えていき、その音は徐々に大きくなっていき――――
やがて姿を現す、無数の人形の群れ。
それは、きらびやかな赤い軍服を着て、黒くて長い毛皮の帽子を被る者。
ピカピカと輝く鉄砲や剣を持ち、颯爽と行進する衛兵たち。
おもちゃの兵隊と呼ばれる、この国の軍隊だった
百を超える銃口が、一斉にせつなたちに向けられる。
「はは……じょ、冗談よ、ね?」
「おもちゃのピストルだから、当たっても痛くないとか?」
口を開いた美希と祈里の間を狙って、兵士の一人が威嚇射撃を放つ。
轟音とともに、後ろの噴水の壁が一部砕け散る。
顔色を変えて、せつな以外の全員が両手を挙げる。
帽子に飾りをつけた、隊長らしき者がせつなたちに投降を呼びかける。
「お前たち、一体どこから来た? 街の治安を乱したからには、ただではすまさんぞ」
「治安を乱したって……、あたしたちはトイマジンの居場所を聞いただけだよ!」
「――――反抗の意思とみなす」
隊長の手が垂直に振り上げられ、そして、降ろされる。それを合図に、一斉に銃口がラブに向って火を噴く。
ドン! ドン! ドン!
「きゃっ!」
「危ないっ!」
せつながラブに飛びついて、とっさに弾丸から身をかわす。
「ラブっ!」
「ラブちゃん! せつなちゃん!」
「よくも……、やってくれたわね」
美希と祈里が二人を庇って前に出る。それを押しのけるようにして、怒りの形相のせつながリンクルンを構える。
美希と祈里も、頷いて、それぞれ変身の体勢をとった。
「あくまで刃向かうというのならば、もう容赦せぬぞ」
「容赦なんて、初めからしてないクセにっ!」
「待って!!」
隊長に向って、ウサピョンが抗議する。いよいよ一触即発のムードが漂う中、ラブの声が響く。
「おもちゃの兵隊さんたち、あたしたちをどうするつもりなの? それだけ聞かせて」
「素直に従うなら、おもちゃ城の地下牢に投獄する。処分は、国王様がお決めになる」
「わかった。抵抗しないから、乱暴なことはしないで」
ラブは前に進み出て両手を上げる。それに合わせて、兵隊たちも銃口を降ろした。
「ラブ、このまま捕まっちゃうつもり?」
「何をされるかわからないよ?」
「この数相手じゃ、ウサピョンたちまで守り切る自信がないの。それに、国王様と会えるなら、何かわかるかもしれないでしょ?」
「そうね、いざとなったら変身して逃げ出せばいいわ」
「ついて来い」
幸いにも、拘束するつもりはないようだった。
おもちゃの兵隊に囲まれて、せつなたちは連行される。
おもちゃの国の中央にそびえ立つ、おもちゃのお城に向って。
最終更新:2011年11月27日 22:39