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新-893

 絶え間なく、陽光の差し込む場所だった。子供は、昼間が好きだったから。
 いたるところに、活気があった。子供は、賑やかな場所が好きだったから。
 辺り一面、緑溢れる場所だった。子供は、草原で遊ぶのが好きだったから。

“映しの鏡”は、捨てられたおもちゃの記憶を映し出し、鏡の世界(パワレルワールド)を作り上げる。
 幾多の想いが集って生まれたこの国は、ごった返した子供のおもちゃ箱のように、ハチャメチャだけど、楽しい場所へと発展していった。

 今、その国が終焉の刻を迎えようとしていた。
 一筋の光も差さず、微風すら吹かず、草木の一本すら生えない、死の荒野が広がっていく。
 映しの鏡が、おもちゃたちの絶望を映し出したのか。あるいは、おもちゃたちの憎しみが世界を侵食し始めたのか。

 想いを一つにして強大化した、怨嗟の塊のトイマジン。視界に収まらぬ程の巨体から繰り出される攻撃は、単純な打撃と言えども、災害に等しい破壊力を秘めていた。
 もはや、プリキュアの手にも負える相手ではなかった。いかな伝説の戦士と言えど、個人で持てる力には限界がある。
 残る術は、映しの鏡を破壊すること。そうすればこの国は崩壊し、異界の者は強制送還され、おもちゃたちは物言わぬガラクタに戻るはずだった。

 その最終手段とも言うべき切り札は、突如現れた謎の少女の手によって、化け物へと姿を変えられてしまった。
 もはや、兵隊の銃など通用するとは思えない。
 おもちゃの王様は、ウサピョンが押さえているトイマジンの正体、クマのヌイグルミへの銃撃を再開するように命令を下す。

 しかし、それすらも阻まれてしまう。
 トイマジンと向かい合うように立っていた白衣の少女は、次の瞬間には、ウサピョンとクマのヌイグルミの前へと転移したのだ。
 まるで――――銃口を阻むかのように。

 そして、あろうことか、ウサピョンの手を引き剥がし、クマのヌイグルミをトイマジンの本体へと戻してしまった。
 こうして、トイマジンの暴走を止める、全ての手段は失われてしまったのだった。






幸せの赤い翼――――おもちゃの国は秘密がいっぱい!?(よみがえる白き翼)――――』






 高度数百メートル。巨大化したトイマジンの頭上にいるウサピョンとクマのヌイグルミの元に、白衣の少女が舞い降りる。
 ウサピョンは、懸命に状況を把握しようと努める。
 この子の名前は知っている。東せつな。ラブの親友で、四番目のプリキュア、キュアパッション。
 ラビリンスの元幹部で、名前は、確か――――イース。
 ウサピョンより一足早く、クマのヌイグルミが反応する。

「また瞬間移動か……。ボクをどうするつもりだ?」
「あなたのことは後回しよ。ウサピョンを返してもらうわ」

「待って、あたしのことよりも、トイマジンを倒して! イースに戻ったって事は、そのつもりなんでしょ?」
「そうね。必要なら――――殺せるわ」

「むっ、無駄だぞ! ボクを倒しても、この中の誰かが次のトイマジンになるんだ」
「だから言ったはずよ。あなたのことは、後回しだって」
「やめて! ダメッ!」

 イースは、ウサピョンの腕をクマのヌイグルミから強引に引き剥がす。
 自由を取り戻したクマのヌイグルミは、飛び込むようにトイマジンの体内へと潜っていった。

「馬鹿め! 礼なんか言わないぞ、すぐに後悔させてやる」
「確かに、返してもらったわ」

 トイマジンの腕が、顔面に張り付いた虫を叩き潰すかのように振るわれる。
 しかし、イースには当たらない。赤い閃光の煌きと共に、元居た地表へと転移していた。

「いつまで逃げ続けられるか、やってみろ!」

「阻め! ナケワメーケ」
「ナーケワメーケ」

 トイマジンが、再びイースとウサピョンに襲いかかる。踏み潰そうと、大きく足を振り上げる。
 しかし、鏡の巨人、ナケワメーケがその間に割って入った。

「こんな小さな化け物で、ボクの相手が勤まると思うのか?」
「倒せるなら、好きにするがいい」

「ぐっ……」

 ナケワメーケの素体は、おもちゃの国を作り上げ、不思議な力でおもちゃに動ける力を授けた、“映しの鏡”そのものだった。
 例えるなら、自分の心臓を相手に握られているようなものだ。
 もっとも、ナケワメーケにもトイマジンに対抗できる手段はなく、しばし膠着状態が続いた。






「どうして? トイマジンを倒せるチャンスだったのに。そのためだったら、あたしなんてどうなってもいいのに!」
「悪を倒せば、それでお終い。ラブがそう考えていたら、今頃、私はここには居られなかった」

「あっ、ごめんなさい。あたしはそんなつもりじゃ……」
「あなたがいなくなったら、ラブはこれから先、おもちゃを見るたびに悲しい思いをするわ。それにね……」

 自分もかつては、倒されるべき悪だった。言葉の意味を理解して、ウサピョンは申し訳なさそうにうつむく。
 イースは小さく微笑んで、緑色の小さなペンダントをウサピョンに見せた。

「私もね、大切なものを壊してしまったことがあるの。お願い、同じ思いをラブにはさせないであげて」
「でもっ! あたしはもう、ラブにとって……」
「そんなことないわ。ほらっ」

 ピーチ、ベリー、パインが駆け寄ってくる。ピーチはイースからウサピョンを受け取ると、涙を浮かべながら抱きしめた。

「ウサピョン! 無事だったんだね。ありがとう、せつな。本当にありがとう」
「ラブ、心配かけてごめんなさい……」
「相変わらず、この姿でも私はせつななのね」

「せつなはどんな姿でもせつなだよ。でも、どうして?」
「そうよ、急にビックリするじゃない」
「せつなちゃん、どうしたの?」

「話は後よ、ここは私にまかせて!」

 イースは王様の方に向き直り、口を開いた。

「王様、兵を退いてください。映しの鏡は私の手中にあります。最悪の場合は、私の手で砕きます」
「――――わかりました。もう、私に出来ることは無さそうです。信じてお任せします」

 王様がおもちゃの兵隊に命令を下し、銃口を下げさせる。大きく後退して、この戦いの結末を見届けることにした。
 そこでトイマジンが動いた。もう、おもちゃの王様など眼中にない。プリキュアとイースと決着を付けるのみ。
 ナケワメーケを両手で掴み、軽々と放り投げる。ピーチ、ベリー、パインが戦闘体制に入り、身構える。

「邪魔はさせないぞ! こんな木偶の坊で何ができる。ボクたちは、必ず復讐を遂げるんだ!」
「黙れ――――!!」

 イースがピーチたちの前に進み出る。激しい怒りの眼差しで、トイマジンを睨みつける。

「捨てられる、恐怖と絶望はよく知っているわ。だからこそ……」

「街を壊し、人々を傷付ける。私は、ずっとそれを繰り返してきた。その苦しみが、その後悔が、どれほどのものかわかる?
 あなたたちが傷付けようとしてるのは、子供たちだけじゃない。幸せだった思い出――――あなたたちの存在してきた意味そのものよ!」
「捨てられたんだぞ? ボクらに意味なんてあるものか! 思い出なんて苦しいだけだ。ボクらの望みは一つ、子供たちに同じ苦しみを味あわせてやることだけなんだ!!」

「そう。ならば、見てくるがいい。自分たちが壊そうとしている思い出を! そして、復讐が叶った世界の姿を!
 ナケワメーケ、嘆きと悲しみをもたらすモノよ! この者たちの望む未来を映し出せ!!」

「ナーケワメーケ、映るんです!」

 ナケワメーケが立ち上がり、駆け付ける。再びイースを守るように、トイマジンの正面に立ちはだかる。
 長方形の鏡で作られた胴体に、トイマジンの全身を映し出した。

「なんだ、これは? 前が、前が見えない!」
「そうだ。これから見るのは、過去と、そして、お前たちが望んでいる未来」

 トイマジンの体全体が赤い光に包まれる。まるで本物の山のように、一切の動きを停止して立ち尽くした。
 同時に、ナケワメーケの鏡に、次々におもちゃたちの姿が映し出された。

「嘆き、喚くがいい。その先にある、本当の心を見つけるまで」






「前が、前が見えない……。ん? 遠くに光が見える。これは――――鏡?」

 暗闇の中に光る、ただ一つのもの。どこかで見たことのある鏡。シンプルな長方形の姿見。
 鏡の持つ本来の意味は、覗き込んだ者の真実の姿を見せること。
 鏡に映る自分の姿は、小さくて茶色いクマの人形。テディベアと呼ばれるヌイグルミだった。

「そうだ、思い出したぞ。ボクは捨てられて、燃やされたクマのヌイグルミ。子供たちに復讐を誓ったトイマジンだ!」

 鏡が輝き、暗い景色がたちまち明るい光に照らし出される。
 そこは、昔、馴染んだ家のリビングルームだった。友達だった女の子と、その両親が楽しげに笑っている。
 父親が、大きな包みを少女に手渡す。中身はよく知ってる。自分自身だ。
 でも、どうして? 自分ならここにいるのに?

「お父さん、これは?」
「おまえが、ずっと欲しがっていたものだよ。開けてごらん」

「テディベアちゃん? クマちゃんでいいよね! ずっと、お友達でいようね」
「大切にするのよ」

 少女は頷き、愛しそうにヌイグルミを抱きしめる。
 スカートのポケットから、大切にしていたお気に入りのハンカチを取り出す。折り畳んで、スカーフのようにヌイグルミに巻いた。

「お近づきのしるしよ。うん、思った通り。青いハンカチがよく似合うわ」

 誰も、自分の姿に気が付いていないようだった。試しにテーブルに触れてみたが、抵抗もなくすり抜けた。
 ここでは、自分は幽霊のようなものなのだろう。
 いや、実際に炎に焼かれて身体を失ったのだから、正真正銘の幽霊で間違いない。
 首に巻かれていたスカーフも、その時に失ってしまった。
 残っていたら、破り捨ててやりたかったのに。

(騙されるな! これはアイツがボクたちに見せているまやかしの映像だ。子供たちは、大事にしているフリをしてるだけなんだ)

 いつも一緒だった。雨で家の中にいる日も、お父さんとお母さんの帰りを待つ時間も、少女はヌイグルミを片時も離さなかった。
 外でも一緒だった。晴れて公園で遊ぶ日も、お友だちと追いかけっこして遊ぶ時間も、少女はヌイグルミと手をつないで走った。
 寝る時も一緒だった。お勉強する時も一緒だった。ずっと、こんな時間が続くと思っていた。

 その時が、来るまでは――――

 走馬灯のように、懐かしい思い出が映し出されていく。

(その手には乗るものか!)

 心は動かなかった。楽しかった思い出に流されようとするたびに、炎の熱さを思い出す。あの時の悔しさを思い出す。
 幸せだった記憶を、胸に一つ一つ刻み込んで、トイマジンは憎しみを募らせる。
 過去の映像を見せて戦意を削ごうとする作戦だろうが、そうはいかない。
 これが終わって戻ったら、油断しているアイツを一息に踏み潰してやる。そう決意しながら。

 いつも笑顔を絶やさなかった少女が、やがて悲しい顔をするようになった。
 両親の都合による引越し。慣れ親しんだ家を処分して、仲の良かった友達と別れ別れになって。
 前より立派なお家も、少女の慰めにはならなかった。忙しい両親は遅くまで帰って来ず、広い部屋は孤独を浮き彫りにする。
 馴染めない土地、馴染めない言葉使い、馴染めない学校とクラスメイト。

 悲しい時も、心細い時も一緒だった。少女はヌイグルミに語りかけ、時に慰めてもらい、時に勇気をもらった。

 そして、ついにその日がやってきた。
 来年から中学生になるのに、ヌイグルミなんて子供っぽい。一緒に遊ぶだなんて気持ち悪い。
 しきりにからからわれて、少女の心が揺らぐ。新しい人間の友達と、古いおもちゃでしかない自分。天秤にかけられているのを感じる。
 そして、少女は人間の友達を選んだ。

「いいわよ。どうせ、捨てるつもりだったんだから」

 少女の手によって、焼却炉の蓋が閉じられる。捨てないでと懸命に叫ぶが、決して声は届かない。
 暗闇の中で、一人ゴミに混じって取り残される。そして、知る。今、この瞬間から、自分もゴミになったのだと。
 新聞紙を丸めて作った筒に、火が点けられる。
 苦しみも、恐怖も、ほんの一瞬だった。
 最初にマフラーに火が移り、すぐに本体に燃え広がる。布と綿でできたヌイグルミは、他のどのゴミよりもよく燃えた。

 熱い――――
 熱い――――熱い――――
 熱い――――熱い――――熱い――――
 熱い――――熱い――――熱い――――熱い――――
 熱い――――熱い――――熱い――――熱い――――熱い――――

 そして――――憎い!
 信じていたのに! ずっとお友達だって、言ってくれたのに!
 あっさりと自分を捨てた、人間の子どもが憎かった。

(同じ目に、合わせてやる)

 最後に見た炎の色は、トイマジンの怒りの心そのものだった。

(もういいだろう! 早く元の場所に戻せ!)

 再び映像が移り変わる。
 パチパチと音がする。ゴオゴオと炎が唸り声を上げる。
 一軒の家が赤々と燃え上がる。漆黒の空を紅蓮に彩って、真っ黒な煙を噴き上げながら。

(違う? これはボクのいた焼却炉じゃない。民家? 新しいあの子の家だ!)

 炎から炎へ、いつの間にか室内に景色が移り変わっていた。
 一階からあがった火の手は、少女に避難する隙を与えない。瞬く間に燃え広がっていき、逃げ場のない二階へと少女を追いやった。
 窓から飛び降りるには、高さがありすぎた。無事に降りられたとしても、待ち構えたおもちゃの軍団に捕まるだけだ。
 火を放ったのはトイマジン。未来の、自分自身だった。

「燃えろ、燃えてしまえ。今度は、ボクたちが子供たちを捨てるんだ!」

 トイマジンは、歓喜に満ちたおぞましい表情で笑う。
 少女は、半狂乱になって泣き叫んだ。懸命に助けを求める。
 なぜ、こんなことになったのかわからなかった。街中が正体不明の敵に襲われて、命からがら自宅に戻ったら火をかけられた。
 お父さんは? お母さんはどうしたの? 先生は? クラスのみんなは無事なの? 警察でも、消防署でも誰でもいいから、早く助けに来て!

 少女の叫びは届かない。クマのヌイグルミの叫びが届かなかったように。
 フツ、フツ、と何かが胸にこみあげてくる。
 それは怒り。だが、その怒りは、少女に向けられたものではなかった。

(これが望み? これが、ボクのやりたかったことなのか?)

 ついに、部屋の中にまで炎が迫ってくる。煙に咽ながら、少女は机の下に潜り込んだ。
 カタン、と机の上の写真立てが落ちた。
 お父さんと、お母さんと、そして、クマちゃんの四人で撮った写真だった。

「そっか、今度はわたしの番なのね。ごめんね、クマちゃん」

 そう言って、少女は意識を失った。






 破壊は、街中の、いや、世界中の至る所で同時に行われた。
 抵抗も空しく、蹂躙されていく大人たち。泣き叫び、嘆き悲しむ子供たち。

 トイマジンを構成する一体一体、その全てのおもちゃが、鏡の中で、以前の持ち主の子供と再会していた。
 子供と一緒に過ごした、楽しい時間を追体験し、不条理な別れの苦しみを再び味わった。
 紛失や事故もあったが、大半は、飽きて捨てられたおもちゃたちだった。

 それらが復讐の牙を剥き、かつて一緒に遊んだ子供たちを傷付けていく。
 子供たちを笑顔に変えてきたおもちゃたちが、今度は子供たちを悲しみと絶望の表情に変えていく。
 大好きだった笑顔が、恐怖と苦痛に歪んでいく。それを見ているうちに、歓喜どころか、恍惚どころか、フツフツと怒りがこみあげてくる。

(おもちゃたちって誰のこと?)
(子供たちって、誰のことだ?)
(僕は、ここにいる僕だけで!)
(私の友達は、あの子だけよ!)

 トイマジンの一部に組み込まれたおもちゃたちが、自らの意思に目覚める。

(お願い! この子にだけは手を出さないで!)
(やめて! 私は、こんなことを望んでいないわ!)
(僕もだ! 捨てられたのは悲しいけど、あの子の泣いてる姿は見たくない!)
(俺もだ! こんな世界はまっぴらだ! あいつには、ずっとやんちゃで居てほしいんだ)

「僕たちが」「私たちが」「俺たちが」「あたしたちが」

『居なくなった後でも!!!!』






 外ではイースが厳しい表情で、ナケワメーケをコントロールしつつ、トイマジンの様子を見守っていた。
 すぐ側では、ピーチ、ベリー、パインが連れ添って、鏡に見入っている。
 恐らくは、以前、サウラーがラブを過去の世界に閉じ込めたのと、同じ方法を使ったのだろう。

「なんだか、おもちゃたちが泣いているみたい」
「大丈夫? せつな」
「これは最後の賭けよ。もし、トイマジンがこの後も戦いを続けるようなら、私は――――」
「鏡を、ナケワメーケごと砕くのね?」

「ええ。私は、何があってもあの世界を守るって、誓ったのだから……」
「見て! トイマジンが動くわ」

 トイマジンは大きく咆哮を上げて、全身を震わせた。
 バラッ、バラッ、と、その巨躯から何かが剥がれ落ちていく。
 それは憎しみの心を失った、おもちゃたちだった。雪だるまの雪が解けていくように、徐々に身体を小さくしていく。
 イースは、一歩前に出て問いかける。

「望む未来は、見れたの?」
「もう――――いい。何もかも、終わったんだ。初めから、終わっていたんだ」

 先ほどとは、打って変わって穏やかな声で、トイマジンは話す。

「やっとわかった。子供の裏切りで捨てられたわけじゃない。子供に与えてもらった幸せな時間が、終わっただけなんだ」
「――――そうね」

「お願いがあるんだ、映しの鏡を砕いてくれないか? もう、ボクたちの幸せは終わったんだ。あそこより他に行きたい場所も、やりたいこともない。
 だってボクたちは、おもちゃは、子供たちのことが、誰よりも好きなんだから」

「――――戻れ! ナケワメーケ」

 イースの命を受け、ナケワメーケは額の宝玉を外す。赤いダイヤに戻って地面に落ちる。
 体も、ぐんぐん縮んでゆき、元の長方形の鏡の姿を取り戻す。

「後は任せたわ、ラブ」
「うん。あたしの心、子供たちの心、トイマジンに届けてみせる!」

 見ててね。そう言って、ピーチはウサピョンをもう一度抱きしめる。
 リンクルンを取り出し、愛の妖精、ピルンを召還する。


“届け! 愛のメロディー! キュアスティック、ピーチロッド!”


 出現したアーティファクトを、滑らせるように奏でる。キュアスティックの鍵盤から、聖なる旋律が鳴り響く。


“悪いの、悪いの、飛んで行け! プリキュア!”


 そう、飛んで行け! 悲しい記憶も、辛い思いも、飛んで行け。
 そして、取り戻そうよ。優しい気持ち。あたたかい気持ち。嬉しくて、楽しくて、幸せな毎日を。


“ラブ・サンシャイン”


 優しい想いを力に変える。凝縮されたエネルギーが、解放を求めて先端に集う。
 巨大なハートの形をした愛の結晶が、おもちゃの幸せを願うピーチの心が、聖なる光となってトイマジンに打ち込まれる。

 崩壊寸前とは言え、強大なトイマジンに対する攻撃としては、あまりにも脆弱な一撃だった。
 本来ならば、かすり傷一つ付けられないだろう。
 だけど、凍てついた氷土を柔らかな陽光が溶かすように、その光は優しくトイマジンを癒していく。

「違う! 違う! 違うよっ! なにも終わってなんかいないの。
 確かに、あたしはウサピョンを忘れてた。だけど、もう、あたしにはウサピョンが必要なくなっただなんて思わない!
 ううん、必要とか、不要とか、そんなんじゃない。あたしとウサピョンは友達なの。友達は、いくつになっても、この先どんなに大切なものが増えても、ずっと友達だから。
 みんなにも、きっと見つかるよ! ずっと一緒にいられる、そんなお友達がきっと見つかるから。だからあきらめないで!
 あたしも伝えていくから。この先ずっとウサピョンと仲良くして、おもちゃは子供が大好きなんだって、本当の友達になれるんだって伝えていくから。
 お願い、感じて! これがおもちゃを愛する、子供たちの気持ち。想いよ! 届け!!」


“フレ――――ッシュ!!”


 おもちゃと真の友情を結んだ人間。ピーチの、ラブの愛情が、トイマジン全体を包み込んだ。



新-900
最終更新:2012年01月29日 13:10