(これでよし、と…。)
祈里は慎重にゼリーを型から外し、器に盛り付ける。
硝子の器には直径5センチ程の色とりどりの球形のゼリーが並んでいる。
いかにも女の子が喜びそうな可愛らしい見た目と裏腹に、
中身は殆んどが高アルコール度数のテキーラ。ネットで偶然レシピを見付けた。
度数の高いお酒に濃く甘い味を付けて、球形の氷を作る型に入れて、固める。
見た目の可愛らしさに騙されて口にすると…アルコールに慣れていない人は
数個でメロメロに酔い潰れて、ちょっとやそっとの刺激では目も覚めない、らしい。
一部では有名な大人のナンパアイテムだそうだ。
もうすぐせつなが家にやって来る。ひとりで。
少しくらいおかしい、と感じても生真面目なせつなの事だ。
手作りだと言えば残さず食べてくれるだろう。
(ごめんね。)
自分のしようとしてる事。とても現実とは思えない。
良心の呵責と罪悪感。でもそれ以上にゾクゾクするような興奮と高揚感。
でもこうでもしないと、あの人を手に入れる事はできない。
心は、とうに諦めた。だから、せめて体だけでも。どんな卑怯な手を使ってでも。
例えそれが、取り返しのつかないほどの傷を伴うものでも。
「お邪魔します。」
せつなちゃんは相変わらず堅苦しいくらい礼儀正しい。
玄関でお母さんに挨拶したんだから、わたしの部屋に入る時までいいのに。
「今日もラブちゃんは補習なの?」
「そうなの。小テストの結果が悪かったんですって。でもラブったら、
勉強嫌いなのにわざわざ勉強の時間増やすような事するの、どして?」
どうやら、一度で合格すれば余計な時間を使わずにすむのに、そうしないのが
不思議らしい。
皮肉ではなく本当にそう思ってるらしい表情に、少しラブちゃんに同情する。
そううまく行くもんじゃないのよ、せつなちゃん。
暫し他愛ないお喋りに興じる。しかし内心は気もそぞろだ。
「そうだ、おやつ食べない?初めて作ったヤツだから味の保証は出来ないけど。」
何気無いふうを装い、例のゼリーをせつなちゃんの前に置く。
不自然にならないように自分の前にも同じ物を。
ただし、わたしのは本当にただのゼリーだけど。
「これなあに?すごく綺麗ね。」
警戒心のない笑顔で問い掛けられ、少し胸の奥がチクっとする。
「えっとね、少しお酒の入ったゼリーなの。ちょっぴり大人の味?」
「へぇ、ブッキーは何でも器用に出来てすごいわね。」
一つ、スプーンで掬って口に運ぶ。少し、せつなちゃんは驚いた顔をする。
「んっ…、結構、お酒効いてるわね。」
そりゃあ、そうよ。殆んどテキーラなんだもん。
「ホント?ごめんなさい。苦手だったら残してね?」
「平気よ。ちょっとびっくりしただけ。すごく美味しい。」
せつなちゃんは続けて口に運ぶ。
こういう言い方をすれば、彼女は断れない。それを分かってて言うんだから、
ずるいな、わたし。
わたし達はお喋りしながらゆっくり食べる。わたしはもう食べ終わった。
せつなちゃんの器には、後一つと半分。
せつなちゃんの顔を見ると眼が熱っぽく潤み、頬が紅潮している。
会話の受け答えが緩慢になり、かみあわない。
かなり、効いてるみたいだ。
「せつなちゃん、まだ残ってるよ。」
食べさせあげる。そう言ってわたしはスプーンで残りを口に運ぶ。
「あーん、して。」
彼女は虚ろな眼で、素直に口を開く。つるり、とゼリーが滑り込む。
開いた唇から白い歯と、奥にピンクの舌がチラリと見えた。
それがなぜかすごくイヤらしく感じてイケナイものを見てしまったような気分になる。
程なく彼女はわたしのベッドにもたれるようにして、うとうとと船を漕ぎだす。
寝るなら、ちゃんと横にならなきゃ…彼女を気遣う素振りで手を貸し、
そっとベッドに横たえる。
もう、そんなわたしの声も届いていないようだ。
ベッドの感触に安心したのか、すぐに規則的な寝息が聞こえ始める。
それから五分、十分…聞こえるのは彼女の寝息と時計の音。
そして、外に聞こえてしまいそうなくらいの自分の鼓動。
肩を揺すり声をかける。
「……せつな…ちゃん…?」
軽く頬を叩いてみても全く反応しない。
眼が、自然と規則正しい寝息を立てる唇に吸い寄せられる。
(…おいしそう……)
ペロリ、と唇を嘗め、ちゅっと音を立てて吸い付く。甘いゼリーの味。
鼻をアルコールの匂いが掠め、自分まで酔ったような気分になる。
制服のネクタイをほどき、シャツのボタンを外して行く。
白い肌が露になり、年に似合わぬ豊かな胸が現れる。
背中に手を回し、ブラのホックを外す。
無理に手を差し込んだせいで、せつなは身動ぎ、軽く呻いて寝返りをうつ。
その隙に半袖シャツの腕からブラの肩紐を外し、ブラを完全に脱がせる。
(綺麗……)
再びせつなを仰向けにして、ゆっくりと乳房を手のひらで包み込む。
柔らかい、それなのに力を入れると指が押し返されそうな弾力のある感触に
祈里は陶然とする。
(気持ちいい……せつなちゃんの胸。)
最初は乳房を撫で回すように、次第に力を加えゆっくりと揉みしだく。
先端が徐々に尖り、ぷつりと手のひらに当たる。
「……ん…んん…、ふぅ…」
吐息に微かに声が混じる。乳首が擦れる度、息が上がってくる。
(殆んど意識ないはずなのに…。)
明らかに感じてるらしい反応に祈里の愛撫が大胆になってくる。
可愛い桃色の乳首は摘まんで捏ねると、だんだん色づき弾けそうなくらい
張り詰めてくる。
唇で挟み、舌でくすぐり、軽く甘噛みする。
「んあ…、はぁっ…あっ…んっ…んぅ…」
祈里の舌が、指が動く度にせつなは切な気な吐息を漏らし、身を捩る。
(…本当に、眠ってるの…?)
反応の良さについ、そんな事を考えてしまう。
でも意識があったら抵抗しないはずないのに。
胸元に顔を埋めたまま、そろそろと太ももを撫で、下着に手を潜りこませる。
秘裂を指でなぞると、そこはもう、蕩けるように熱い。
中指が軽い抵抗を受けながら呑み込まれる。
待ち兼ねたように蜜が溢れ、肉が絡み付いてくる。
くちゅくちゅと卑猥な音を立てて熱く狭い肉の中を探る。
こんなにされても起きないのか…、胸元から顔を上げ、せつなの様子を窺う。
せつなはきつく眼を閉じたまま微かに眉を寄せ、下腹部の感覚に集中している…
ように見える。
指を入れたまま、性器の上にある突起を摘まんでみる。
せつなの体がビクンと跳ね、中がきゅうっと締まる。
「…あっ、あっ、あっ…はっ…あんっ…ああっ」
小刻みに体が震え、ひときわ声が高くなってくる。
普段の低く、落ち着いた声とは違う、鼻に掛かった甘えた声音。
確かに同じ声のはずなのに。
ビクッと大きくせつなの体が震え、力が抜ける。
(もしかして、イッちゃった…?)
荒い息遣いで胸を喘がせているせつなに口付ける。少し迷って
軽く舌でせつなの歯を抉じ開ける。
せつなの方から舌を絡めてくる。それに応えるよう、強く祈里も舌を絡める。
ただただ、嬉しかった。自分の拙い愛撫でせつなが達し、口付けに応えてくれる。
「……ラ…ブ、んんっ…ラブぅ…」
心臓を冷たい手で鷲掴みにされた気がした。思わず体が強張る。
せつなはそんな事にも気付かない風に、祈里の背中に腕を回し
愛し気に抱き締める。
(…なんだ…、ラブちゃんと間違えてるんだ。)
道理で抵抗しないわけだ。愛しい恋人の愛撫なら、逆らう理由なんてない。
せつながうっすらと眼を開けそうになる。祈里は慌てて、手のひらで
せつなの瞼を覆う。
「……せつな…可愛い。大好き…」
そう、耳元で囁く。
「いい子ね…、お休み……。」
せつなは安心したかのように、また静かな寝息をたて始める。
(これから……どうしようか……?)
祈里はせつなが目を覚ました後の反応を想像する。
自分を抱いていたのがラブではなかったと分かったら……。
信頼していたはずの親友が、自分を騙して犯したのだと知ったら。
(…このくらいで、壊れたりしないよね?せつなちゃんは強いもの。)
祈里は椅子に腰掛け、せつなを見下ろす。
わざと着衣は乱したままにしておく。
(…早く、起きないかな…。)
祈里はゆっくりと微笑みを浮かべる。これからの事を思い浮かべながら。
最終更新:2010年01月11日 15:34