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「それでは皆さん、明日から2日間の職場体験学習で地域の方々との交流を深め、
働く事の大切さを学んできて下さい。今日はこれまで!」


私が中学校に通い始めてから二週間が過ぎた。
クラスのみんなは相変わらず私に優しく接してくれているし、授業にも大分慣れた。
先生の言葉の通り、私たち2年生全員は、職場体験学習という学校行事に参加する。
ラブや他のクラスメイトは夏休み前に体験先と活動内容を決めていたけれど、
転入したばかりの私は、先生の計らいでラブと同じ体験先である幼稚園へ行かせてもらえることになった。


「せつな、明日は幼稚園だねー!しかもあたしと二人だけで一緒の組だからすっごく楽しみだよ!」

「ええ、そうさせてくれた先生に感謝するわ。ところでラブ。私、お願いがあるんだけど。」

「ん?何、せつな。」

「私、幼稚園がどういう所かよく分からないの。ラブは幼稚園に行ってたんでしょ?」

「うん、まあ・・・。でも小さい頃の事なんで、ほとんど忘れちゃった。タハハ・・・」

「そうなの・・・?残念だわ。」

「あ、ウチに帰れば何かあるかも・・・。さ、早く帰ろっ、せつな。」

「ええ。・・・って、待ってよーラブぅ~」


小走りで教室から出て行ったラブにようやく追いつき、下校を始めた。
家に着くと、今日はパートが休みのお母さんが出迎えてくれた。


「お母さーん、ただいまー!」

「ただいま、お母さん。」

「あら、お帰り。今日は二人共早かったのね。」

「うん。あのね、明日せつなと幼稚園に職場体験学習に行くんだけど・・・」

「私、幼稚園に行ってなかったのでどんな所か知りたいの。」

「ああ、それならラブの卒園アルバムがあるわよ。」

「そつえん・・・アルバム・・・?」

「そう、幼稚園での思い出が詰まった写真がいっぱいのアルバムよ。」

「わはーっ!それなら早く見よっ?ね、せつな?」

「え、ええ。お母さん、そのアルバムを見せて下さい。」

お母さんが持ってきてくれた卒園アルバムをラブの部屋へ持ち込み、テーブルの上に置いた。
【平成○年度 クローバー幼稚園 卒園アルバム】と書かれた表紙を開くと、園児の集合写真が現れた。


「せつな、これは入園式の時の写真だよ。これがあたしで、こっちが美希たん。ブッキーはこの子で・・・」

「ふふ、みんな可愛かったのね。あ、もちろん今のラブたちも可愛いよ。」


「これは動物園に遠足に行った時の写真。ブッキーったら動物の事になると、普段とは別人のようにイキイキしてたわ。」

「さすがは獣医さんの娘ってとこかしら。」


「これはお遊戯会の写真だね。この時は美希たんが主役だったよ。」

「美希のことだから演技も完璧にこなしたんでしょうね。」


写真を見たことで思い出がよみがえってきたのか、ラブは次々と当時の話を私にしてくれた。
私には分からない事も多かったが、ラブは一つ一つきちんと説明をしてくれた。
そんな中、アルバムも半分を過ぎたあたりでラブがページを開いた瞬間、私は彼女の表情のちょっとした変化を見逃さなかった。

(あ、これは・・・・・・)

ラブはめくろうとしたページをすぐに戻してしまった。

「何、どしたの?ラブ。」

「いや、何でもない。・・・せつな、そろそろ夕ご飯の時間だから続きは後でね。」

「嘘よ。ラブ、どして隠すの?私に見られたくない物があるっていうの?」

「え、えーっと・・・。」

「そんなの、写真を撮ってくれた人やアルバムを作ってくれた人に失礼じゃない?」

「で、でも・・・。」

「あっそう。それなら美希やブッキーの家でアルバムを見せてもらうわ。ラブは見せてくれなかったってね。」


少しキツい言葉になってしまったけど、どうやらラブも観念したようだ。

「そ、そんなぁ~。わかったよ、せつな。見せるわよ。見せればいいんでしょ!」

「よろしい。さあ、ページをめくってもらおうかしら。」

「その代わり、絶対に笑わないでよ!絶対にだよ!」

ラブは再びアルバムに指を当て、そっとページを一枚めくった。
開かれたそのページには、上半身が裸の園児たちが色とりどりの絵の具を塗りたくっている姿が写し出されていた。


「ラブ、これは何なの?」

「これは、ボディペインティングっていう遊びで・・・」

「どして隠そうとしたの、ラブ?」

「え・・・だって裸だし、絵の具でベタベタだし、恥ずかしいよ~」

「そんな事ないわ。恥ずかしくなかったんでしょ、その時は。」

「ええ、まあ・・・。」

「だったらいいじゃない。ここに写っているみんな、いい顔してるわ。」

「そ、そうだね!何かはじけてるっていうか・・・ねえ、これ見て。」

ラブが指で示した一枚の写真には、絵の具まみれの3人の女の子が写っていた。

「これは・・・ラブたち?」

「うん!真ん中でピースしているのがあたし。左が美希たん。」

「美希、この時からモデルさんポーズしてたのね。」

「で、右がブッキー。親指を口にくわえて上目づかいなんて、今見たらクッハー!って感じだよ。」

「しかも、3人それぞれピンク、青、黄色の絵の具をおもに塗られているところが面白いわね。」

「あはー、言えてる!この時の色が今のプリキュアの色になった・・・ってのは考えすぎかな?」

「まあ、ラブったら。フフフ・・・」

「あははは・・・」



「ラブー、せつなちゃーん、ごはんよー。」


階下でお母さんが呼んでいる。アルバムを閉じてラブと一緒に食卓へ向かった。
夕ご飯の席で、ラブの幼稚園時代のことをお母さんに聞くことができた。
ラブは「やめてよー」とか色々言っていたけど、きっと全てがいい思い出だったんだろう。
気が付くともう入浴の時間だ。ラブに先にお風呂に入ってもらい、続いて私が入浴を済ませた。


「ラブ、お待たせ。アルバムの続きを見ましょう。」

「ごめん、せつな。今日はもう遅いからまた今度ね。」

「そうね、寝坊して中学生の私たちが幼稚園に遅刻じゃ格好悪いものね。」

「せつな、おやすみ。明日がんばろうね!」

「ええ、精一杯がんばるわ。おやすみ、ラブ。」


ラブと合図を交わした後、私は自分の部屋に入り、ベッドに横になった。
明日は今まで知らなかった幼稚園が、初めて会う園児たちや先生方が私を待っている。
そう思うと楽しみと不安が交錯してしまって寝られなくなるので、深呼吸をして気分を落ち着かせた。
今度は眠れそうだ。おやすみなさい・・・。


~つづく~


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最終更新:2009年10月10日 07:43