4-49

「せつなぁっ!」

ノックもせずにドアをばーんと開けて、せつなの部屋に入ってきたラブ。

「ラブ?どうしたの?」
「ここに座って」
「え?どして?」
「いいからここに座って!!」

そういうラブはなんだかむくれ顔。
反論を許さないオーラを出しながらせつなのことを凝視している。

(私何か、ラブを怒らせるようなことしちゃったかしら)

一通り思いを巡らせてみるが、心当たりになるような事は、ない。

「もう……一体どうしたのよ」

そう言いながらも言うとおりにするせつな。
ラブはそのせつなの後ろに歩を進め、自分も座る。
その姿勢はせつなと丁度背中合わせの体育座り。

(え、この姿勢って……?)

これは最近、別の場所で、別の人と取ったことある姿勢と同じ。
それに思い立ったせつなに応えるように、ラブが声を上げる。

「あたしはここにいたいの!」

ああ、そういうことか、とせつなは思う。
だから、その言葉に返すべき言葉を口に出す。

「……どして?」

対するラブの言葉も、あの時と同じ。

「どうしても!!」
「……」
「……」
「……プッ」

先に沈黙を破ったのは、つい噴きだしてしまったせつな。

「……な、何よせつな、何がおかしいのっ?」
「クスクス、だってラブ、美希に嫉妬してるんだもの」
「しししし嫉妬?!何言ってんのよせつな!
 あたしが美希タンに嫉妬なんてするわけないじゃない!」
「じゃあなんで、こんなことしたの?」
「……う」

せつなの問いかけに、返答に困るラブ。

「いやーーーーっ、あたしが熱出して寝込んでる時に美希タンとせつな、
 こんな感じで凄く良い雰囲気だったって聞いてさー、
 これは是非あたしも体験してみたいなーって思って……」
「……」 
「……すみません、嫉妬してました」
「うん、素直でよろしい」



認めたラブの背中に、せつなはもたれかかる。
美希と違って身長差が無いからちょっと物足りないけど、これはこれで心地良い。

「でもまさか、ラブが嫉妬するなんて、思わなかったわ」
「あたしも思ってなかったよ。でも、私の知らないところで、美希タンとせつなが
 仲良くしてるって思ったら、なんだかよくわからない気持ちが私の中でいっぱいになって
 それであたし、ああ、嫉妬してるんだって、気づいちゃった」
「……」
「あたし、嫌な子だよね。
 美希タンもブッキーも大切な友達なのに、
 せつなと仲良くしているのは、あたし抜きでせつなと仲良くしているのだけは嫌なの。
 こんな嫌な子のラブさんじゃ、せつなにも嫌われちゃうってわかっているのに」
「嫌じゃないわ」
「え?」

せつなからの意外な返事に驚くラブ。
思わずせつなの方を向いたその顔に、背中合わせのままで
顔だけを向けて、せつなは続ける。

「私は、ラブに嫉妬されるの、嫌いじゃないと思う。
 ……ううん、嫌いじゃないわ」
「え?何で……」
「だってそれは、ラブが私の事を一番に思ってくれているってことでしょ?
 それって、すごく嬉しいことだわ、少なくとも、私にとっては」
「せつな……」
「それともこんなことを思ってる私は変なのかしら?」
「変じゃない、せつなは変じゃないよ!
 だってあたし、本当にせつなのこと一番大切に思ってるし……
 ……あ」
「ふふっ、ありがとう、嬉しいわ、ラブ」

そう言って悪戯っぽく微笑むせつな。
言わされた。
そのことに気づいたラブは耳まで真っ赤になり。

「や、やだ……あたしったら……」

そのまま自分の膝に顔をうずめてしまうのだった。

「……もう、恥ずかしいなあ、まだ顔が熱いし。
 せつながあんなに意地悪だとは思わなかったよ」

その後、ようやく顔を上げたラブはせつなに抗議する。

「そうね、ちょっとやりすぎたかも。ごめんなさい、ラブ」

素直に謝るせつな。
でも、とその後に付け加えて言葉を続ける。

「いつもラブに振り回されてるから、そのお返し、かな」
「……そっか」

せつなの言葉に怒るでもなく、素直に納得するラブ。

「ねえせつな、なんかせつな……変わった?」
「……うん、そうかも」

少なくとも、ラブの家に来たばかりのせつなだったら、
こんな風にラブをからかうような事は言わなかっただろう。
それが変わったのだとしたら。

「だとしたらそれは、ラブのおかげよ。
 ……あ、勿論ラブだけじゃなくて、美希やブッキーのおかげもあるけどね。
 もしかしたらラブの知らないところで、二人に変えられちゃってるのかもね。ふふ」
「あーっ!またそういうことを言う!
 今日のせつなは本当に意地悪だよっ!!」

そう言いながらも。ラブの表情は、笑顔。

「うふふ、ごめんなさい」

謝るせつなの表情も、また笑顔。
しばらく二人は、背中合わせの姿勢のままで笑いあうのだった。


4-76逆襲のせつな現る
最終更新:2009年09月23日 01:04