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「暑さ寒さもお彼岸までっていうけど、
イヤー今日は、涼しいを通り越して、寒いくらいだよ」

「そうね、今日はちょっと肌寒いわね」

私とラブはいつもお風呂上がりに、
ベランダに出て、お話している。

話すのは主にラブで、私は聞いていることが多い。
笑顔で話すラブは、本当に楽しそうで、それを見る私も楽しくなる。


私がラビリンスにいた頃は、
こんな風に他人と話したことなんてなかった。
任務に必要な事以外で話すのは全て無駄、そう思っていた。

私自身この世界に来て、
ラブ達が他愛もないことを話しているのを見て、
こんな無駄ばかりならラビリンスに管理されるべき、とさえ思っていたのに。


ラビリンスを思い出したせいか、思考がだんだん暗いほうへと傾く。


私の一番怖いこと。

イースとして死んだ私は、
アカルンの力で生き返ったといっても、この命は仮初のもので、
何かの拍子にまた死んでしまうんじゃないかって。


ラビリンスでは寿命も管理されているという事を知ったラブが、
この世界では、不慮の事故や不治の病にでもならない限り、
あたし達の年齢で死ぬことはないんだよ、
と言ってくれたが、私は信じられない。






イースとして死を迎えたあの日。
雨は私の体温を奪っていった。

そのときできた体の奥の氷は、
いまでも私の体の奥底に潜み、
いまにも溶けだして私の全身を覆うんじゃないか。
そう思うと、体の芯から震えが来る。


震えている私に気付いたのか、

「もう部屋にもどろう」

そう言って、ラブが私の肩に手を回してくる。


あたたかい。
このぬくもりだけが、私を温めてくれるような気がして、離れたくない。

気がつくと、私はラブの手を押さえ、首を振っていた。


「ど、どうしたの?」

様子のおかしい私を心配して、ラブが顔を覗き込んでくる。

私はその問いには答えず、ラブの肩に頭を預ける。


「も・・・・・・、すこしこのままで・・・」

「う、うん・・・分かった」




しばらくそうしていたが、
やっぱり体が冷えてしまっていたのか、
クシュンとくしゃみがでてしまう。


「もう、寒いよ。なかに入ろう」
「うん」


そうは言っても、いつまで経っても顔を上げない私を心配したのか、
ラブは私の顔を自分の方へ向かせ、

「このままがいい?」
「うん」

私は小さく頷く。


「うーん、でもこのままじゃ寒いし」
と唸ったかと思うと、
「じゃあ、こうすれば暖かいよね」

私の両肩に腕を回し、ぎゅっと抱きしめてくる。


顔を上げラブの肩越しに見る月は、私達を見守ってくれている気がした。





3-746同じ刻を感じて
最終更新:2009年09月27日 08:13