【前回のお話=前スレ667~672】
ラブとせつなは、中学校の職場体験学習で幼稚園にやって来た。
彼女らはお絵かきの時間で、園児と同じ課題「自分のヒーロー・ヒロイン」の絵に取り組む。
お互いの姿を描き絆を深めた二人だったが、ラブが企図した熱い抱擁を先生に阻止されてしまう。
しかし、それが結果的に笑いを取り園児たちの心をつかんだのであった。
教室の前方にあるホワイトボードには、先程私とラブが描いた絵が貼られている。
私は教卓の向かって右側に用意された椅子に座って、園児たちの発表を待っている。
ラブは同じく左側に座って、みんなに笑顔を振りまいている。
「さあ、今からみなさんの描いた絵を発表します。1人ずつ絵を持って前へ出てきて下さい。」
「ラブさんとせつなさんは、絵の評価とホワイトボードへの掲示をお願いね。」
私は先生の許しを得て席を立ち、ラブのそばに歩み寄り小声で話した。
――ラブ、評価って何をすればいいの?
――ん~、こういう時はとりあえず褒めておけばいいよ。わからない事があったらあたしが何とかするから。
席に戻ると、園児たちの描いた絵の発表が始まった。
男の子はテレビの特撮ヒーローやアニメの登場人物、スポーツ選手を描いた子が多く、
女の子はテーマパークのお姫様や動物のキャラクター、芸能人を描く傾向が見られた。
そんな中・・・
「はい次の人ー。キミは誰を描いてくれたかな?」
その男の子の絵にはサングラスをしたエプロン姿の男性が描かれていた。
これはもしや・・・
「ねえ、ボク。それって公園のドーナツ屋のカオルちゃん?」
「うん、そうだよ。おじちゃんのドーナツおいしいし、おはなしもおもしろいからボクだいすき!」
「へー、カオルちゃんってこんな小さい子からも支持されてるんだ。やるねぇ~。」
まあ、ある意味カオルちゃんも「ヒーロー」なんだけど。
ジェフリー王子の家出事件で、その勇姿を見ることができた私たちって運がいいのかも。
「次はあなたね。さあ、絵をみんなに見せてね。」
今度は女の子が全員に絵を披露した。
その絵には、青く長い髪の少女が描かれている。
「ラブ、これって美希じゃ・・・。」
「うん、間違いないよ。美希たんだよ、きっと!」
「ねえ、お嬢ちゃん。この女の子は美希た・・・いや、蒼乃美希ちゃんだよね?」
「はい、そうでーす。あたし、みきちゃんみたいなキレイなおんなのこになりたいでーす。」
幼児向けの雑誌にも登場しているのか、美希の知名度は園児たちにも高いようだ。
それより何より地元四つ葉町の“アイドル”ですものね、美希は。
「今の言葉、美希が聞いたらきっと喜ぶわ。」
「うん、美希たんにあこがれてる子がいるのはイイことだよね。」
「素敵な絵をありがとう、あなたならキレイになれるわ。」
「うん!ありがとう、おねえちゃん。」
ホワイトボードは園児たちの描いた絵で大部分が埋まってきた。
残る発表者は廊下側の後ろの席にいる、女の子4人のみとなった。
「せんせー!」
その女の子たちのうちの1人が手を挙げた。
「なあに。どうしたの?言ってごらん。」
「あたしたち4にんでいっしょに、はっぴょうしてもいーですか?」
「ん・・・まあ、いいわよ。いらっしゃい。」
先生に質問した子をはじめ、女の子4人が前にやって来た。
一体何をするのかしら・・・?
「それじゃみんな、みせるよ!」
「いっせーのー、せっ!」
4人は一斉に絵を公開した。
そこには、それぞれピンク・青・黄色・赤の衣装に身を包んだ少女が描かれていた。
「せつな、すごいよ!プリキュアだよ。それも4人全員!」
「ラブ、ちょっと・・・」
私はラブを呼び寄せ、口に手を当ててささやいた。
――この子たち、どしてプリキュアの資料持ってるのよ?
――そりゃ、プリキュアが現れてから半年以上過ぎてるから、雑誌やネットとかには載るでしょ。
――ピーチたちはともかく、私はパッションになってからまだ2ヶ月よ。何か早過ぎない?
――さあ、それだけせつなが、パッションが人気あるんじゃないの~?
「おねえちゃんたち、なにおはなししてるの?」
「ううん、何でもない。プリキュア上手く描けているよね、せつな。」
「ええ、この子たちに応援してもらえて、プリキュアも励みになると思うわ。」
絵の発表タイムも終わり、園児たちは教室内や園庭で思い思いに遊び始めた。
ラブと私はホワイトボードに貼られた絵を外している。
ラブは先生に、美希とプリキュアが描かれた絵をカラーコピーしてほしいとお願いしていた。
先生は記念にどうぞ、と快くOKしてくれた。
「お土産ゲットだよ」と喜ぶラブを見て、私も幸せな気持ちになった。
「ラブさん、せつなさん、午前の予定はこれまでよ。後片付けご苦労様。」
「いえいえ、とんでもないです。午後もよろしくお願いします!」
「幼稚園ってこんなに楽しい所なんですね。午後も精一杯がんばります。」
「さあ、そろそろお昼ご飯の時間よ。私は子供たちを呼んでくるから、あなたたちも準備してね。」
「はーい、先生!!」
「まあ、ラブったらご飯が食べられると聞いて、一段と元気になっちゃって。」
「もうっ、せつな。早く行くよ!」
ラブは私の手を引っ張り、手洗い場へ連れていく。
手を洗って教室に戻ると、園児たちも遊びを終えて、昼食の準備を始めていた。
みんなで食べるお昼ご飯、楽しみだわ。
~つづく~
最終更新:2009年10月11日 23:12