「おい、イース!!」
かけられた声に、せつなは振り返る。廊下の端からこちらを見つめているのは、ウエスター。
「何か用?」
「何か用、ではない!! お前、途中で占いの仕事をすっぽかしただろう!!」
つかつかと足音も荒々しく近付きながら、ウエスターは怒気の混じった声で言う。
「おかげで俺とサウラーが、余計に相手をしなければならなくなったんだぞ!! だいたい、お前はだな――――」
カッ。
足元に突き刺さる赤のダイヤカードに、ウエスターは歩みを止める。
「何の真似だ、イース!!」
「私の部屋に近付くな」
冷たい声と言葉に、彼は顔をしかめる。が、せつなの瞳に宿った暗い光に、何も言えず。
「次で埋め合わせをするわ。それでいい?」
おざなりな台詞の向こうに見え隠れするのは、早く行って欲しい、という彼女の思い。反論しようとするが、それを
許さない雰囲気に、渋々ウエスターは引き下がることにする。だが、一つだけ気になったことがあって。
「イース。お前が持ってるの、それ、香炉か? 何するつもりだ?」
かけられた声に、部屋に入ろうとしていたせつなは肩越しにチラリと振り返り、そして。
「秘密よ」
そう答えて、扉を閉めた。
薄暗い、室内。
白のシーツを引いたベッドの上に横たわるのは、蒼の少女。
美しく、気高く、強く。整った顔立ちは、眠りに付いていてもどこか凛としている。
その顔が、悲痛に歪む様を想像して、せつなは。
妖しく胸を高鳴らせたのだった。
「ん......」
寝返りを打とうとして、だが体が動かず、苦しげに眉を揺らしながら美希は瞼を開ける。
「ようやくお目覚め?」
最初に目に入ったのは、椅子に座り、こちらを見つめてくる少女の姿。もはや邪悪な笑みを隠そうともしない彼女に、
美希は一気に意識が覚醒する。
「貴方――――!?」
起き上がろうとして、愕然とする。全く、体が動かない。
頭上に伸ばされた腕、広げられた脚。両の手首が、一つにされて縛られているのが判る。足首にも、ロープが
巻かれている。そしてそのどれもが、鉄製のベッドの柵へと繋がっていて。
緊縛されている。そのことに、ようやく美希は気付いた。
「いい格好よ、美希」
彼女の様を見て笑いながら、せつなはゆっくりと立ち上がる。そして両の掌を重ね合わせ、
「スイッチ・オーバー!!」
変身をする。黒のボンテージファッションに身を包んだ、イースの姿へと。
「――――っ!!」
油断したっ!! 美希は思い、臍を噛む。一体、どうして私はここに来てしまったんだろう。どうしてもっと早く、
気付けなかったんだろう。せつなが、あたし達の敵、イースだということに。
後悔もそこそこに、美希はイースを睨み付ける。動けなくとも、負けたわけではない、そう示す為に。
だがせつなは、彼女のその視線に、より一層と笑みを深くする。
「素敵ね、美希。その顔――――私が憎くて憎くて、仕方ないんでしょう?」
まるでそれがとても楽しいことのように、イースは嬉しそうに言う。言いながら、テーブルの上の香炉の蓋を開け、
その中に手をかざす。間を置かず、部屋の中に満ちる甘い香り。
「何よ、これ」
縛られたまま彼女の動きを見つめていた美希の問いかけに、イースはクツクツと喉で笑う。
「確か美希の趣味は、アロマだったわよね。なら、香りが人間の体にどんな影響を及ぼすかぐらい、判るでしょう?」
「アロマ――――?」
香り――――芳香成分は、人間の体に様々な反応を引き起こす。アロマテラピーはそれを用いて、心と体を癒す
為の技術だ。ストレス解消や心身のリラックス等の為に用いられることが多く、美希が普段、家で作っているのも、
それらがメインだ。
だが――――美希は、漂う香りに眉をひそめる。
こんな香り、あたし、知らない――――
思った、瞬間。
ドクン、と心臓が高鳴った。
「え?」
戸惑いの言葉を上げると同時に、全身が、まるで火を灯されたように熱くなる。鼓動を速める心臓、そこから
送り出される血液そのものが、熱を帯びたように全身を焼いていって。
頬が赤くなる。息が荒くなる。胸元が熱くて、シャツのボタンを緩めたいと思う。
いや、軽く身じろぎする度に肌にこすれる服がくすぐったい。
脱ぎたい。全部、脱いでしまいたい。
熱にぼんやりとし始める頭で、美希はそんなことを考えていて。
「効いてきたみたいね」
冷笑に、美希はイースへと顔を向ける。
「この香りにはね、美希。催淫作用があるのよ」
「催......淫?」
ええ、そう。言いながらベッドに腰を下ろしたイースが、レザーの手袋をはめた指で、そっと首筋を撫でる。
「――――っ!!」
思わず、声が出そうになるのを、美希はなんとか我慢する。
ただそれだけのことなのに、全身に電撃が走ったかのよう。ゾクゾクとする。
「どう? すごく敏感になっているでしょう? 美希の体」
楽しそうに笑いながら、イースはベッドに上がり、彼女にのしかかった。
「随分と暑そうね、美希――――今、楽にしてあげるわ」
「やめ――――なさい」
シャツに手をかけるイースを止めようとするが、その声は弱々しく、そして震えていて。
一つ、二つと彼女がボタンを外していくのを、美希はただ見ていることしか出来ない。いや、体を揺さぶって
逃げようとするが、拘束されていては。
そして全てのボタンが外され、イースは彼女の前をはだける。白のシャツの中から現れたのは、それ以上に
白い体。だがその体は、今は上気していて、ほのかに赤みを帯びていて。
「ふふ。思ったとおり、綺麗な体ね、美希」
下着に包まれた胸を露にし、イースはその手でゆっくりとまさぐり始める。横になっても形の崩れない、張りの
ある彼女の膨らみが、黒の手袋の下で形を変えて。
「――――っ!! ――――っ!!」
美希は、声を、殺す。
胸から生れた刺激が、脳を焼く。下半身に集っていく。
彼女は認める。認めざるをえない。
これは――――快感だ。
「声、出したら? 別に我慢しなくてもいいのよ――――ここは、こんなに硬くなってるのに」
イースの唇が、胸の先の蕾に触れる。確かに硬くなっている乳首を、舌の先でつつかれ、弾かれる。その度に、
初めて味わう感覚が、美希の体を貫いて。
「――――強情ね」
それでも声を出さない彼女に業を煮やしたのか。
カリ
イースの歯が、硬くなった乳首を、甘く噛む。
「――――――――っ!!!!」
その瞬間に走った感覚に、美希は体をのけぞらせる。拘束された手首と足首に痛みが走るが、それを感じさせない
程の甘い刺激に、彼女は口を大きく広げ、息を吸い込む。
「軽くイッチャったのかしら」
喉で笑いながら、イースが胸を責め続ける。
乳首を摘み、弾き、転がし。
強弱を付けながら、乳房を揉み。
「――――っ!!」
翻弄される。
イースの指が、掌が、唇が、舌が流し込んでくる快楽に、頭が真っ白になる。
それでも――――それでも。
美希は、声をあげない。呼吸が荒くなっても、決して、声は。
「本当に、強情なのね」
不意にそう言うと、イースは胸から顔を上げる。美希の乳房は、彼女の唾液でその全てがまみれていて。
終わった――――と、美希は思わなかった。
ただ、戦慄するばかり。次に何が起こるか、わかっていたから。
「ならやっぱり――――こっちを」
言いながらイースは、手袋を脱ぎ捨て、美希のスカートに手をかける。
「どこまで耐えられるかしら?」
笑いながら言う彼女の眼を、美希は睨み付ける。その様子に、イースはなお笑みを深くして。
「楽しませてちょうだい、美希」
そして下着の上からゆっくりと、彼女の割れ目に指を這わせた。
「――――く、ぅっ!!」
上げそうになった甘い声を、彼女は押さえ込む。顔をそらし、痛い程に奥歯を噛み合わせて。
「ふふ。こんなにドロドロ」
イースの声を、聞くまでも無かった。自分の秘所が、自分の意思に反して、蜜を湛えていることぐらい、わかっていた。
それでも、
「ほら、見て、美希。少し触っただけなのに、こんなになってるのよ」
目を背けようとする彼女の前に、わざわざイースは自分の濡れた指を見せる。
悔しい――――っ!!
屈辱的な扱いに、美希は拳を強く握る。
この香りと、イースの巧みな責めのせいで、体は反応している。してしまっている。
触れ合う肌から伝わる熱が、心地良い。胸を揉みしだかれるのも、気持ちいい。乳首に触れられるのは、快感だ。
最後に残された秘所には、割れ目を撫でられてしかいないから、もどかしい。
だから。
もっと、もっとして欲しい。
指を入れて、かき回して。激しく動かして。気持ち良くして。快感をちょうだい。
体は、そう叫ぶ。もっと淫らになって、嬌声を上げればいい。何もかも忘れて、快楽に溺れればいいと。
だがそれでも、美希は強く、目の前の少女を睨み付ける。
いくら体が乱されても、心が。
彼女に触れられることを、望んでなどいないから。
だから決して、声を出したりはしない。
感じていることなど、認めはしない。
「かき出してあげるわ。中からね」
そんな彼女の様をよそに、イースは、美希のはいた白の下着をずらし、指を差し込む。
クチュリ
湿った音と共に、美希は自分の体の中に、自分以外のものが入ってきたことを感じる。
クチュリクチュリクチュリ
イースが、手を動かし始める。中の壁をこするように、指を曲げながら、ゆっくりと出し入れされ。
「すごいわよ、美希。もうグチョグチョ。お尻にまで伝わって、パンツだけじゃなくて、スカートまで汚してるわ」
イースは手を動かしながら、美希に顔を寄せる。
「もっともっと、汚してあげる――――美希をね」
言葉が終わると同時に、唇が美希の首筋に触れた。それだけで終わるわけはなく、舌が這いずりまわる。まるで
生き物のように。
首筋から、耳へ。両の耳を存分に味わった後、再び首筋へ。そしてそのまま、胸元へ。やがて乳首に辿り着き、
吸いながら、ねぶる。
その間も、イースの手は休まず、秘所を責め続けていた。淫らな音は徐々に激しくなり、親指は美希のクリトリスを
こね、短い爪で中の襞を引っかかれて。
グチュグチュグチュグチュグチュ
その淫らな音が、段々と遠くなる。芳香が脳を焼く。閉じた瞼の闇の先に、白い光が見える。チカチカと光っている。
段々と、体が絶頂に向かっていることを、美希は感じ取る。知らず荒くなった息に、イースは自分も興奮しきった
声で言う。
「イキなさい、美希。私が――――イカせてあげる!!」
「――――――――っ!!」
その声と同時に、美希の体が跳ねる。何度も、何度も、暴れるように。ギシッギシッとベッドがきしみ、彼女を拘束
していた鉄の柵がグラグラと揺れる。
激しい、衝撃。初めての感覚に、美希は翻弄される。クラクラとなる。
それでも。
彼女は、唇を強く噛んで、噛み続けて。
決して声を出さなかった。
それが美希に出来る、ただ一つの抵抗だったから。
「このこと、ラブと祈里にバラされたくなかったら――――わかるわよね?」
果てて、荒い息を吐く美希の耳元で、イースが囁いてくる。それにきっ、と眼差しを強くして、彼女は答えた。
「貴方って――――本当に、最低ね」
「ありがとう。褒め言葉と受け取っておくわ」
クツクツと笑う彼女を睨みつけた後、目をそらして美希は言う。
「わかったわ――――好きにすればいいでしょ」
けどね、と彼女は続ける。
「もしも貴方が、ナケワメーケを連れて現れたら、あたしはプリキュアとして戦うわ――――貴方だってまだ、二人に
知られたくはないでしょ。せつながイースだ、ってことに」
ラブも祈里も、せつは=イースだとはまだ気付いていない。気付いていないからこそ、二人はせつなに抱かれて
いるのだろうし、イースがナケワメーケを引き連れて現れても、躊躇無く闘えるのだろう。
もしも、彼女達がせつなの正体を知ったら。一体、どうなってしまうだろう。美希には、わからない。わからないから
こそ、怖い。
だからこそ、彼女は取引を申し出る。自分の体を材料として。
「ええ、いいわ」
あっさりと、イースは美希の言葉に頷く。
彼女とて、これでプリキュアを抑えられたとは思っていない。三人のうち、誰か一人でも残っているようでは、ダメ
なのだ。全員を、全員の心と体を掌握しなければ。
ラブと祈里はともかく、目の前の少女は、まだ心が折れていない。彼女を抑えられれば、もはやプリキュアなど。
もっとも、そんなこと、美希は気付いているのだろうとイースは思う。気付いているからこそ、こんな取引を持ちかけて
きたのだろう、と。
だから彼女は、淫靡に笑う。
「これから貴方、蒼乃美希の体は、私の自由にさせてもらう。私の命令に逆らわないことを誓いなさい」
「......誓うわ」
呻くように、美希が言った途端、彼女の体を縛っていた拘束が解ける。
が、安堵する間も無く、再びのしかかられて。
「――――!? また!?」
「私に逆らわない約束でしょう?」
自らも服を脱ぎ捨て、上半身裸になった彼女が、美希の体に覆いかぶさってくる。
「たっぷり、可愛がってあげる――――そう、たっぷりと、ね」
クスクスと笑いながら放たれた言葉と、自分の体をまさぐってくる彼女の手に、美希は。
深い絶望に襲われながら、それでも、と。
それでも希望は捨てない。決してあたしは、心を折ったりはしない。大切な仲間の為に。
そう心に決めたのだった。
最終更新:2010年03月07日 16:35