「せつな、最近、どうしてるのかな?」
ふぅ、と溜息混じりに放たれた親友の言葉に、美希は片眉を上げる。
「ホントに。やっぱり、占いのお仕事とか、忙しいのかしら?」
逆側からは、もう一人の親友が、やはり溜息と共に。
「二人とも、最近、せつなに会ってないの?」
何気ない風を装って尋ねると、ラブと祈里は同時に頷いて。
「電話では、時々、話すんだけどね。なかなか会えなくって」
「わたしも。メールは、ちょくちょく来るんだけど」
「......そう」
アンニュイな二人の表情を眺めながら、美希はテーブルの上のティーカップに視線を落とす。
感じるのは、安堵。彼女達の元に、せつなが現れていないのなら、それでいい。思っていると、携帯が鳴って。
「美希タン、電話、鳴ってるよ?」
「ん? ああ、多分、メールだから」
言いながら、リンクルンを取り出してメールを見る。
『五時に、館で』
書かれていたのは、ただそれだけ。
送り主の名前を登録していないから、メールアドレスが直接表示されている。恐らく、携帯を買った時から変えて
いないのだろう、アルファベットと数字がランダムに並んでいた。
それでも、美希にはこれが誰からか、わかっていた。もう何度、見たことだろうか。知らずその文字の羅列を
記憶してしまっていて。
いつものようにメールを消去してから、時計を見る。今は、四時半。これから行けば、間に合うだろう。
「ごめん。ちょっと、用事が出来ちゃった。また今度、ね」
「えー」
立ち上がって言う美希の言葉に、明らかにラブは不満そうな顔を見せた。彼女ほどあからさまではないが、祈里も
同じことを感じているようだ。
「最近、美希タン、付き合い悪くない?」
「そう? ダンスのレッスンは欠かさず出てるじゃない」
「そうだけどー」
ブーブーと唇を尖らせるラブを、まぁまぁ、となだめる祈里。二人が笑う、そんな優しい光景に、美希は思わず
笑ってしまう。
最近の二人は、また仲良くなってきてる。一時期の微妙な距離感が薄れているのは、そこにせつながいない
からだろう。
「は!! もしかして!!」
そんなことを考えていると、いきなりガタン、と立ち上がりながらこちらを見てくるラブに、美希はビックリして
目を瞬かせる。
「な、なに?」
「もしかして美希タン――――彼氏が出来たとか!?」
「えぇっ!! そうなのっ!?」
顔を寄せてくる二人の勢いに気圧されながら、美希は両手を顔の前でパタパタと振った。
「ないない、そんなんじゃないわよ」
「ホントにぃ?」
「ホントにぃ?」
息の合った二人の言葉に、思わず彼女は苦笑する。
「ホントに、そんなんじゃないわ――――それじゃ、あたし、行くわね」
まだ物足りなさそうな二人に別れを告げ、颯爽と歩き出す美希の背の向こうから、
「ねぇねぇブッキー、ホントだと思う?」
「うーん、どうだろう。美希ちゃん、モテるからね」
小鳥のさえずりのような明るい親友の声が聞こえてきて。
美希は、クスリ、と笑う。
そう。それでいい。
二人は、そのままでいて。
明るく、優しいままで。
やがて彼女は辿り着く。呼び出された場所に。
占いの館に。
館の中に入ると、美希は、待合室を通り抜けて館の裏へと回る。このところ毎日のように訪れているから、勝手は
知っている。途中、この家の残りの住人であるサウラーとウエスターに顔を合わせないように気を付けながら、
やがて美希は目指す部屋の前に辿り着いた。
一つ、深呼吸をしてから、ゆっくりと扉を開ける。
「来たわよ、せつな」
後ろ手で、音が出ないように気を付けながら扉を閉める。
薄暗い部屋の中、ベッドの上に座る少女が一人。せつな、いや――――イース。
彼女は、俯いたまま、身じろぎ一つしない。カーテンを閉め切っているせいか、その姿はぼんやりとした影にしか
見えない。
そしてイースは、何も言わない。訪れた美希の姿を見ようともしない。自分が呼び出したにも関わらず、だ。
彼女のそんな姿に、美希は眉を顰める。このところ、イースはいつもそんな感じだった。
目の下の隈は、日に日に深く、濃くなってきていた。その目には、ただ焦燥ばかりが溢れていて。
そして何より余裕の無さを感じるのは、抱かれている時だった。何かに追い詰められているかのように、ただ
激しいばかりの愛撫。最初に美希を犯した時のような笑みは、彼女には見られない。ただ狂ったように、責め
立てるばかり。
ふと、美希はテーブルの上に目をやる。そこにあるのは、一枚のカード。閉じた瞳が描かれたそれは、千切られた
部分が三つあるところから、元は四つの瞳があったのだろうと想像される。
そして美希は、それが何かをうっすらと察していた。
最近のイースが、プリキュアに差し向ける敵、ナキサケーベ。それを産み出しているのが、このカードなのだろう。
彼女に余裕が無くなってきたのは、ナキサケーベを呼び出すようになってからだ。
イースとしてプリキュアの前に現れる時も、ここで美希を抱く時も、追い詰められているかのような顔しか見せない。
そして、肉体的にも、疲労しているのだろう。彼女への責めは相変わらず苛烈だが、以前程には長くはなかった。
昨日など、美希よりも先に、彼女が眠ってしまって。
一体、何があったのだろう、彼女に。
――――なに、考えてるのよ。
美希は心の中で、自分を戒める。どうしてあたしが、せつなの――――イースのことを案じなきゃいけないのよ。
軽く唇を噛んで、美希はイースに近付いていく。
「イース......」
声をかけた瞬間。
強く腕を掴まれる。
え、と思う間もなく、油断していた美希はベッドに引き込まれ、そのまま上にのしかかられる。
「な――――」
声を上げようとした彼女のシャツを掴み、イースは力任せに両に開く。ちぎれ飛ぶボタン、あらわになるブラ。
「ちょっ!? やめなさ――――」
「うるさいっ!!」
今までに無い乱暴な扱いに、さすがに抵抗をしようとする美希だったが、一喝されて、ビクッと体を震わせる。
逆らうことを許さないその雰囲気に、美希は思わず慄いてしまって。
何も言わぬまま、取り付かれたようにイースは彼女の服をはいでいく。そして、隠すものの何も無くなった美希の
体に、彼女はむしゃぶりつく。胸を揉み、乳首に吸い付き、舌を這わせ。
だがその全ては、あまりに唐突で、あまりに激しすぎた。だから、快感など、覚えるはずもなく。
こんなことは、初めてだった。
確かに、最初から激しく扱われたことが無いわけではない。だがそんな時でも、イースは美希の体に快楽を注ぎ
込もうとしていた。しかし今日は、何も感じなかった。ただ、痛みだけ。
「い、た――――」
せつなの手が、美希の秘所に潜り込み、指を激しく動かし始める。が、そんな扱いをされていては濡れている
はずもない。そんなことに構わず動く彼女の強引さに、美希は悲鳴を上げる。
それでもイースは、手を止めようとはしない。
「やめ、て」
あまりの苦痛に我慢できず、美希は顔をしかめながら、イースの体と手を振り払おうとする。
だが。
「うるさい――――」
先程とは打って変わって、静かな声。
だがそれは震えていて。強張っていて。
「......イース?」
「うるさいうるさいうるさい」
嫌々と幼児が駄々をこねるように、イースは首を目いっぱい横に振る。振りながら、叫ぶ。
呆気に取られながら、美希は彼女を見つめる。気が付けば、イースが彼女を責める手は止まっていた。
「うるさいうるさいうるさいうるさい――――うるさいっ!!」
何も音がしないにも関わらず、美希の胸に顔を埋めながら叫んでいたイースが、不意に顔を上げる。その顔に、
美希は思わず、息を飲んだ。
泣いているように、見えた。
唇は震え。瞳は揺らぎ。眉の端が落ちていて。
涙こそ、流れていなかったけれど。
彼女は確かに、泣いているように、見えた。
「――――――――」
声をかけようとして、戸惑う。一体、何を言えばいいのだろうか。
彼女は、敵なのだ。
その敵に、どうして手を差し伸べなければ――――助けようとしなければならないのか。
「教えろ、美希!!」
そんな彼女の葛藤に気付かないまま、イースは美希に顔を近づけて、叫ぶように問いかける。
「どうしてあいつは――――ラブは!! あんな風に、私を信じて、疑わない!?」
あ――――
美希は、目を見開く。大きく、見開く。
その問いかけを聞いた瞬間、美希の心に訪れたのは、まぎれもない――――
最終更新:2010年03月07日 16:27