あたしとブッキーは二人で学校帰りに待ち合わせて、ドーナツカフェへとやって来ていた。
ラブとせつなは、宿題があるからって先に帰ってしまっていて。
「―――付き合い悪いんだから……あの二人」
「ふふ……しょうがないじゃない。それとも、美希ちゃん、わたしと二人きりは……イヤ?」
軽く拗ねたようなブッキーの声に、あたしは慌てて言い返す。
「い、イヤなワケないでしょ!分かってるくせに!」
その言葉にクスクスと笑うブッキー。
なにかちょっと悔しくなって、あたしは続ける。
「―――ママがまた旅行に行っちゃって、家に帰っても一人なのよ。だ、だからそんなのつまんないな、って
思って」
「はいはい。わたしで美希ちゃんのヒマつぶしの相手が務まればいいんだけど」
澄ました顔をして、ストローでアイスティーを飲むブッキー。
う……何よその見透かしたような言い方。
「大体、ラブとせつなの話でしょ!なにもクラスが一緒だからって、宿題まで揃って出る事ないわよ!」
「美希ちゃん、それは難クセって言うのよ?―――う~ん、そうねぇ。でもあの二人仲……いいから」
宿題が無くても来たかしら?と言って、何かを思い出したように、彼女は顔を赤くする。
あたしも、あの二人の事を言っているうちに、ある出来事を思い出して―――。
*
「あれ?せつなちゃん、なんでパーカー脱がないの?」
季節は夏。わたし達クローバーの四人は海へ合宿にやって来ていた。
練習の合間にミユキさんから許可をもらい、せっかく来てるんだし、って事で泳ぎに来たんだけど。
「―――なんでもないわ。私の事は気にしなくていいわよ、ブッキー」
せつなちゃんはそう言ってパラソルの下から出て来ようとしない。
?なんだろう?もしかしてカナヅチとかなのかな?
……でもせっかく来てるんだし、―――せつなちゃんの水着にも興味あるし……。
「―――パーカーくらい脱ごうよ!ね?」
「ちょっと!や、やめてってば!!ブッキー!!」
半ば強引に彼女のパーカーを脱がせるわたし。
するとその下から出てきたのは……。
「!!!」
「だから、だから脱ぎたくなかったのよ……」
目を丸くするわたしの前で、顔を真っ赤にしてフルフルと震えるせつなちゃん。
白いビキニを着た彼女の身体のあちこちには、行為の激しさを物語るように。
キスマークが点々と……。
「あ、ああ、そういうことだったんだ……」
逆に恥かしくなってしまい、顔を赤くして目を逸らすわたし。
「……ラブの―――――ラブのバカぁ!!」
まるで青春映画の1シーンのように、せつなちゃんは海へと向かって叫んだのだった。
*
季節は秋。あたし達はいつものように練習場でダンスレッスンをしていた。
一区切りついた所で休憩に入ると、用意していたタオルで身体を拭く。
「……秋とは言っても、やっぱり身体動かすと暑いわよね……」
そう呟いて、あたしはジャージの上着のジッパーを下ろす。
……はあ、やだ、汗でびっしょりじゃない。
「どうしたのラブ?上着脱がないの?」
あたし以外の二人も上着を脱いでいるっていうのに、ラブだけは何故か脱ごうとしない。
「ははは……お、お構いなく~。あ、あたしそれほど暑くないし」
そう言うラブの顔は汗で光っていて。
「?なんでウソつくのよ……いいから脱ぎなさいって!風邪引くわよ!!」
「ちょ!美希たん!い、いいってば!!」
気温自体は下がってるんだから、身体冷やしたら大変じゃない。
嫌がって逃げようとするラブの襟首を鷲づかみにして、無理矢理にジャージを剥ぎ取る。
「!!!!!」
「ふぇ~ん!!だからいいって言ったのに~!!」
真っ赤な顔でその場にへたり込むラブ。
その身体には、何かで縛られたような跡が赤く、くっきりと………。
「え、えーと……ま、まああんまり無茶な事はしないほうがいいわよ……」
引きつった顔で、ラブへと声をかけるあたし。
ううう、とラブは涙を浮かべたまま俯いて……。
「この間のお返しって、やりすぎだよ~!せつな~!!」
青く晴れた秋の空に、ラブの悲痛な叫びが響き渡った。
*
「……はあ。ラブとせつなにも困ったもんだわ。ホント」
わたしの前で、溜息をつく美希ちゃん。
二人の恋人ぶりというか、アツアツな感じには、いつもわたし達は当てられてばかりで。
「―――うん……でも、なんかちょっと羨ましい、よね?」
「え!?や、やめてよブッキー!あたしはもうちょっとこうオシャレというか、落ち着いた感じの方が好み
だわ」
伺うようなわたしの台詞に、彼女は焦って首を振る。
美希ちゃんって、そういうのがいいんだ。けど、わたしは―――。
「やっぱり、一緒に住んでる、っていうのが関係してるとは思うのよね……。二人っきりになる時間が多い
ワケだし……よ、夜とか………」
美希ちゃんは自分の想像に照れたのか、顔を真っ赤にしてオレンジジュースを口に運ぶ。
そんな彼女の様子が可笑しくて、クスッと笑うと、わたしはポケットの中から……。
「―――美希ちゃん、これなーんだ?」
「!ブ、ブッキー、それって家の鍵――――!?」
驚いて目を丸くする美希ちゃんの前で、わたしは彼女の家の鍵を軽く振って見せる。
「美希ちゃんのお母さんに頼まれたの。留守の間、女の子一人だと心配だから、って。だからね、美希ちゃん
――――――」
悪戯っぽく微笑むと、動揺している美希ちゃんに向かって、甘えた声でそっと囁く。
「今夜一晩、よろしくね?」
了
最終更新:2010年08月23日 23:52