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日曜日の午後、クローバーのダンス練習の後。
私は一人、四つ葉町の図書館に来ていた。

もっとも、私が図書館に一人で来る前にラブと一悶着があって、
私と一緒に来たがるラブに、私が一人で図書館に行くかわりに、
夕御飯の買い物は一緒に行くことで、一応の決着をみたのだが。


ラブはというと最近、ミユキさんのダンスレッスンでも、叱られてばかり。
学校でも、うつらうつらとしていて、授業に身が入っていないのが分かる。


私は、私とラブの関係が、このままではいけないのかもしれないと思い始めていた。



誰かに相談する?


ラブに?
ラブのことをラブに相談できない。


美希や祈里に?
私達の関係を知られて、二人が離れていく危険は冒せない。
私は・・・まだしも、ラブは二人とは幼馴染で、親友だ。
彼女達がラブから離れて行くのを・・私は見ていられない。


学校の友達?
こんなこと相談できない。


おじさまやおばさま?
何か違う気がする。


私は誰にも相談できず、図書館で調べることしかできなかった。



私がラビリンスにいたころは、同性愛者なんて聞いたことがなかった。
任務に失敗した私が、寿命を短くさせられたように、
異端とされたものはみな密かに、メビウスの側近であるクラインあたりが、
処分していたのかもしれないが。


結局、私はどうしたいのだろう。
私に幸せを教えてくれたのは、まぎれもなくラブ。
その彼女を不幸にする訳にはいかない。

でも、このままこの関係を続けるとすれば、どこかで破綻する気がする。
だからといって、私は一度知ってしまったラブのぬくもりを、忘れることができるだろうか。
分からない。知らなければよかった。


私が考え込んでいると、後ろから私を呼ぶ声がする?


「せつなちゃん?」
後ろを振り向くと、ブッキー、山吹祈里が立っていた。



時間いい?と聞くブッキーに、ラブとの待ち合わせの時間はまだだから、と答える。

「じゃあ、公園に行こう」

しかし、いつもダンス練習している所ではなく、森の方へ。
どこに行くのだろう。
森に少し入ったところで、ブッキーが立ち止まる。


風に吹かれ、赤、黄、いろとりどりの葉っぱが舞う。


「ここ、わたし達が小さいときによく遊んだところなんだ。
もっと奥にはどんぐり王国もあるけどね」

と言って、地面に落ちた葉っぱを拾う。


「この葉っぱって、風に吹かれているとき綺麗よね。
けど、地面に落ちて人に踏まれると、汚くなる」

私の方を向き、微笑む。


「けど、無駄なんかじゃないの。
この葉っぱが地面の微生物の働きで栄養になって、来年の春には草木が芽吹くの」


「だからね、せつなちゃん、この世界には無駄なんてないと思うの」


いつもと変わらぬ祈里の微笑みに、泣きたくなって私は顔を伏せた。
それでも、私の目からは堪えきれない涙が。


「せ、せつなちゃん、どうしたの?」


ブッキーの慌てた声が聞こえる。
私は何でもない、と答えようとするが、
喉の奥に何か詰まったように、声が出てこない。


ただ、ラブと私の関係には春は来ない、未来がないのだ、と思った。




みんなが寝静まった深夜。


突然、私は目が覚めた。

はあ、はあ。
私の荒い息が暗い部屋にこだまする。

また、悪夢?


「せつな、こっちにおいで」

気がつくと、私はラブの部屋にいた。

今夜は新月。
ラブの顔は暗闇で見えない。
それでもどういう表情をしているかは分かる。


私がまだイースだったころ、プリキュアを倒すためコンサートに潜入した時、
ナキサケーベのカードで疲弊し倒れた私に、付き添ってくれたときのラブの笑顔。
全てを許すかのような、胸が苦しくなる程、私の大好きな、大好きなラブの笑顔。


火に自ら飛び込んでいく夜の虫のように、私はラブに近づいていく・・・。





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最終更新:2009年11月02日 21:44