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あたしはせつなが好き。友達としてじゃなく。
となれば、まずは想いを伝えること、だよね。

今日こそはせつなに告白しよう、そう朝日に誓う。
由美の後押しもあったしね。


あたしがキッチンにつくと、あたしの席にだけ朝食が。
せつなの姿は見えない。

「お母さん、せつなは?」
「せっちゃんなら、先に学校へ行ったわよ。何でもクラスの用事とかで」

「ふーん、そうなんだ」

えー、あたしは聞いてないんですけど。
それなら、昨日言って欲しかったんですけど。

あたしは不貞腐れながら、お母さんに返事する。

「大体ラブ、あなたは・・・・せっちゃんを見習って・・・・」

せつながいないからって、説教しなくてもいいじゃん。
あたしは退屈な国語の授業で習得した奥儀「馬耳東風」で、
お母さんの説教を、右へ左へと流した。

せつなが先に学校に行ってしまったのなら仕方ない。
あたしは一人で登校する。


見慣れた通学途中の道。
あたしの目の前を横切る黒い影。

あ、あれは。
あたしの意識は瞬時に戦闘モードへと切り替わる。

あれは、あたしの永遠のライバル。
あちらもこっちに気づいたようだ。

睨み合う二つの影。
どちらも微動だにしない。
一瞬の隙が勝敗を決する、というのは両者とも承知の上。


あたしは必殺のねこパンーチをお見舞いするにゃーー。
「いくにゃーー」
「にゃ、にゃー」

お互い、前に跳躍する。
すれ違いざまにパンチを繰り出し、着地。


あたしの鼻には引っかき傷、奴は無傷。
ま、負けた・・・。また負けたにゃー。
35戦32敗3引き分け。


あたしは傷心のまま、学校へ。



「ラブ、一体、何やっていたの?」
「いやー、あたしの永遠のライバルが」
「ライバル?」

せつながかばんの中から絆創膏を取り出し、あたしの鼻の先に貼ってくれる。

「ありがとう、せつな」

ブッキーなみの準備のよさ。
せつな、いいお嫁さんになれるよ。
できれば、桃園家に・・・って、うちに住んでいるんだった。

「ラブ、何したのか分からないけど、女の子は顔に気をつけなくちゃ」

いや、男の子にもてたいとか思わないけど、
せつなには嫌われたくないし、呆れられたくないかな。
でも、今絶対呆れているでしょ。やれやれって顔してるし。

授業開始のチャイムが鳴り、せつなはあたしから離れていった。



やっぱり、学校では人目があるし、告白するのは無理かな?でも放課後なら大丈夫かな?
だけど、今日はミユキさんのダンスレッスンがあるし、その帰り道でも・・・

「ラブ、おい、ラブ」
大輔の声がする。あたしは作戦中だって。
「おい、ラブ」
だから、大輔、あたしは今忙しいんだって。

「ラブ」
せつなの声が聞こえる。
あたしはパブロフの犬が如き条件反射的で、せつなの方を向くと、
せつなは前の方を指差している。

「桃園、答えられないのか」

ええー、先生があたしに問題を当ててたーーー!!

「ごめんなさい、分かりません」

あたしが言うと、教室中が爆笑の渦。
みんな、そこ笑うところ?
でも、あたしもわらっちゃお。あっはっは。

「誰か分かるやついるか?」

「はい」
せつなが手を挙げ、前へ出て行く。
あたしにはさっぱり分からない公式を、あっさり解いていくせつな。
さすが、せつな。惚れてまう・・・って、もう惚れていたんだった。


ようやく、長い授業が終わり、放課後に。
今日はミユキさんのダンスレッスンがあるから、せつなと一緒に・・。
と思うが、せつなはクラスメイトとおしゃべりをしたまま動かない。

「あの、せつな」
「あ、ラブ、ミユキさんと美希とブッキーによろしくね」
「よろしくねって、せつな、今日レッスン休むの?」

あたしの言葉を聞いて、せつなは不審そうな顔をする。

「だって、ラブ。昨日の夜、朝と放課後、クラス委員の手伝いがあるって言ったわよね?」

そういえば、そんなこと聞いた気もする。
でも、昨日の夜といえば、あたしはせつなにどう告白するか考えていて、
そんな重要な情報を聞き逃していたあたしって、一体。

あたしはがっくり肩を落としたまま、公園へと向かう。

「あ、でも、遅れるけど、行きますからってミユキさんにって、ラブ聞いてない」

というせつなの言葉は、あたしの耳には届かなかった・・・。




後から合流したせつなを加え、ミユキさんのダンスレッスンが再開する。

ダンスの途中、あたしとせつなの視線が合う。
あたしの視線を受け、にっこり微笑むせつな。
か、可愛い。し、幸せゲットだよ!!

「ラブちゃん、顔が変よ」
すかさず、ミユキさんの叱咤が。

「ラブちゃんの調子も悪いみたいだし、今日はここまで」
「ありがとうございました」

いつもなら、少しでも長くミユキさんのレッスンを受けたいと思うけど、今日は特別。

一緒に帰ろうと、せつなの方を見ると、ブッキーとなにやら話してる。
と思うと、せつながこっちにやって来て、

「ラブ、私はブッキーと図書館に本を返しに行くから、お夕飯、先食べてて。
それと、おじさまとおばさまに少し遅くなるけど、心配しないでって伝えて」

というなり、あたしの方も振り返らずブッキーの所へ。
なにやら、ブッキー嬉しそう?もしかして・・・

「ハイハイ、アタシ達は先帰りましょ」

あたしは美希たんに引きずられていく。


せつなーーー。待ってーーー。


あたしの心の大声は、誰にも届かないようだった・・・。







その頃のせつなと祈里は・・・


「せつなちゃん、いい顔してる」
「いい顔?」
「うん、何かふっきれたような感じ」

「ふっきれた・・・のかな?」

「せつなちゃん、自信の素を思い出して」
「ええ、今朝も精一杯、頑張ったわ。・・・・歯磨き」
「そうそう、その調子。せつなちゃんだったら大丈夫って、わたし信じてる」


といった会話が、せつなと祈里の間でなされていたとかいないとか。


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最終更新:2009年11月19日 22:16