金曜日、せつなは久しぶりに学校に行った。
本当は週明けから登校の予定だったけど、早く行きたいと言う本人の希望。
それに、週末ならもしまた疲れて体調を崩しても土日で休めばいいだろう、
と言うお母さんの判断からだった。
クラスはちょっとした騒ぎだった。
休み時間は色んな子が入れ替わり立ち替わり。
せつなが疲れないかとちょっと心配したけど、嬉しそうにクラスメイトと
お喋りしてる様子にホッとしたりも。
生真面目なせつなは、休みの間もちゃんと自習してたみたいで
授業の遅れなんかも問題ないみたい。
「せつなぁ、疲れてない?」
「平気よ。久しぶりにみんなに会えて楽しかった。」
「あんま無理しちゃダメだよー。」
「本当に平気だってば。」
帰り道、まだ少し興奮気味のせつな。
ニコニコと楽しげな笑顔にこっちも嬉しくなる。
また、こんな風に笑い合えるようになれた。
そして他愛のないお喋りに興じながらも、あたしの心はつい別の欲求が……。
(………もう、そろそろいいんじゃないかな……?)
学校に行き始めた。と、言う事はせつなは体調面ではほぼ回復したって事で。
体調が戻った、と言う事は、つまり……
(………もうそろそろ、ね……?)
夕飯時、今日一日の事を話しながらの団欒。
お父さんもお母さんも、すっかり元気を取り戻したせつなに安心したみたい。
弾む会話を耳の端で捕らえながらも 、あたしは気もそぞろ。
何度か頓珍漢な受け答えをしてしまったらしく、お母さんやせつなに
妙な顔をされてしまった。
(さて……、どうするか。)
夜、バスタイムも済ませ後は寝るだけ。
せつなが倒れて以来、せつなに添い寝するのが習慣になっていた。
腕枕したり、おでこにお休みのキスをしたり。
腕の中で安らかな寝息を立てるせつなを見て、自分も幸せな気分に浸れた。
(エッチするのが、すべてじゃないよね。)
安心しきったせつなの寝顔を眺めながら、今までの自分を反省した。
無理に体を繋がなくたって心が繋がっていれば、こんなにも満たされる。
でもまぁ、そんな清らかな気持ちは続くもんじゃないね………。
だって、大好きな人が腕の中にいるんだもん。
甘い髪の匂い。ぴったり密着した柔らかい体。至近距離で誘うように
少し開いた、ふっくらした唇。時々、寝言で「ラブぅ~……」なんて囁かれて、
ギュッと抱きつかれたりなんかして。
正直、何度理性が振り切られそうになったか……。
なまじ、ぴったりくっついてるもんだから一人で、その…ね?
いろいろイタして欲求不満を解消するワケにもいかず。
(そろそろ解禁……してもいいと思うんだよ。)
高鳴る胸を鎮めながら、ベランダからせつなの部屋へ。
せつなはラブの姿を認めると、微笑んでベッドを半分空けて待っている。
ラブが滑り込むと、せつなは嬉しそうに身を擦り寄せて来る。
(……ちょっと、がっつき過ぎかなぁ。)
無邪気な笑顔のせつなを抱き締めながら、ラブはちょっと反省する。
学校に行き始めた、その日の晩から待ってましたとばかりに、
手を出すのは……。
さすがにお行儀が悪いだろうか。
いやいや、でも十分お利口さんに我慢してたんだし。
あー……、でもなぁ。
「ねぇ……、ラブ?」
悶々と考え込んでいるラブを不信に思ったのか、せつなが上目遣いに
ラブを覗き込んでいた。
「あぁ…、ゴメン、何?」
「あのね、……私、今日学校に行ったでしょ?」
「うん、そだね。疲れなかった?」
「うん。それで、その……もう、元気だと思うの、私。
………だから、……その…」
「……?!」
俯き、目を伏せてもじもじするせつな。その顔は薄暗い部屋でも
はっきり分かるくらい赤くなっていて…。
(これって……。これってもしかして……!)
「………して…、欲しいな……。」
ボンっ!と音が聞こえるくらいに頭に血が昇った。
今のあたしの顔はせつなも比べ物にならないくらい真っ赤っ赤のはずだ。
今までの数え切れないくらい抱き合って来たけど、せつなの方から
こんな事を言ってきたのは初めてだ。
「…あの、嫌ならいいんだけど……。」
「イヤイヤイヤ!まさかまさか!」
あれ?ちょっと、せつな。何か涙ぐんでない?
「え?ちょっ!何で泣いてんの?」
「……だって、嫌なのかなぁって……。」
「ちょっと待ってよ。何でそうなるの?嫌なワケないでしょ!」
「……ずっと、キスも……してくれなかったし。」
………脱力した。何でそうなるかな。
あのねぇ、せつな。出来るワケないでしょ。
キスなんかしたら我慢できなくなっちゃうに決まってる。
何のための禁欲生活なんだか。
あたしは、はあっ…と溜め息をついてせつなに覆い被さった。
「…ラ、ラブ?」
あたしがせつなの胸に顔を埋めると、せつながおずおずと頭を撫でてくる。
「もう、何のための我慢なんだか。せつなが寂しい思いしてたなら、
意味ないよ。」
あたしは顔を上げて、せつなの頬を両手で挟む。
「ずっと我慢してたの。ずっと、せつなに触りたくて仕方なかったんだよ?」
せつなが何か言いかけたのを、人差し指で止める。
何を言おうとしたか分かったから。
「ごめんなさい、は無しだよ。」
せつなが困ったように苦笑する。やっぱり、謝ろうとしてたんだ。
「だから、これからはちゃんと話そうね。」
悪い癖だ。相手の気持ちを確かめもしないまま、落ち込んだり傷付いたり。
言葉も気持ちも、出し惜しみして良いことなんてないのにね。
「……分かったわ。」
潤んだ瞳のまま、ようやくちょっと微笑んでくれた。
堪らなく、愛しい。
二度と、辛い思いなんてさせたくない。
「………抱くよ?」
パジャマの上から柔らかな膨らみをなぞる。
久しぶりに手のひらで感じる、せつなの乳房。
布越しに乳首を引っ掻くと、はあっ…とせつなが息の塊を吐き出す。
せつなはラブの首を抱き寄せ、キスを求める。
唇が触れ合った瞬間、ラブの中で今まで辛うじて押し留めてあった欲望が弾け、
溢れ出した。
(ああ……、ダメだ。ゴメン、せつな…)
吐息まで絡め取ろうとラブの舌が、せつなの舌を逃がすまいと追いかける。
パジャマのボタンを外すのももどかしく、思い切りに左右に引っ張る。
ボタンが幾つか弾け飛んだ。
下着ごとズボンを引き下ろし、足を開かせ、その間に自分の体を割り込ませる。
指の跡が付くほど強く乳房を揉みしだく。痛みにせつなが眉を寄せ、呻く。
外気に晒され、尖った乳首を人差し指で弾き、さらに硬くなったところを
摘まんで捻る。
「…!!やっ…!はぁあああ…!はっ…あ…」
思い切り開かせた腿の間に顔を埋め、濡れ始めた部分に吸い付く。
秘唇を抉じ開け、舌を捩じ込むとせつなは声にならない泣き声を上げ、
弓なりに背を反らした。
「はぁっ…、はあっ…、はあっ…あっ、あっ………あぁぁ!!」
舌で解した肉の入り口に指を沈めて行く。内壁の粘膜が指を包み込み、
奥へ誘うように蠢く。
痛々しいほどに赤く充血した蕾を硬く尖らせた舌先でくすぐると、
舌が触れる度にせつなの腰がびくびくと小刻みに跳ねた。
頭の上で、はっ、はっ、はっとせつなが細かく息を付くのが聞こえる。
矢継ぎ早な強い刺激に声をあげる事もできなくなっているのだろう。
限界まで膨れた蕾を強弱を付けて吸い、指で中を深く抉る。
「ーーー!!くぅっ…!んっ、んっ!」
せつなが体を硬直させ、ピンと伸ばした足先がきゅっと丸まる。
硬くシーツを掴んでいた手を開かせ、ラブは自分の指を絡ませる。
「……せつな………。」
虚ろな目で息を弾ませているせつなを、そっと抱き締める。
背中にせつなの腕が回されるのを感じる。
どうして、こんな風にしか出来ないんだろう。
優しく、するつもりだった。お姫様に傅くように。宝物を扱うように。
優しく、優しく綿毛のように愛撫して。
痛い思いも、苦しい思いもさせず、ただせつなが気持ちよくなれるように。
それなのに、せつなを欲しがる心を体が制御できない。
容赦のない、性急な愛撫。攻め立てるように貪る事しか出来なかった。
「ゴメン、……せつな…。」
「どして?……どして、謝るの?」
私、嬉しかったのに。
我を忘れて、ラブが求めてくれてる。自分を抑えられないくらいに。
「ラブ……優しかったわよ?」
「……そんなワケないよ…。」
「ホントに。……すごく、大切に抱いてくれた……。」
違うの?
悲しくなるくらい、綺麗なせつなの笑顔。
どうして、せつなはこんなにも綺麗でいられるんだろう。
幾つもの闇を潜り抜けて来たせつな。その度に、曇りが研がれ、
複雑な光を孕んで輝きを増してきた。
「これでお仕舞い?」
いたずらっぽく、せつなが見詰める。
「ラブは、まだ足りないんじゃないの?」
「……そんな事言って。知らないよ?」
泣いても、止めないからね?
ラブもパジャマを脱ぎ捨て、再び、お互いの体に手を伸ばす。
素肌に直接感じる温もり。体の芯が熱く蕩け出す。
もう、せつなのくれる温もり以外に何も考えたくなかった。
せつなの片足を抱え、お互いの秘肉を重ねる。
ちゅく…と濡れた音を立てて、秘唇が吸い付き合う。
快感が脊髄を駆け昇り、全身に広がる。
ラブは取り憑かれたように夢中で腰を振る。
蜜の絡んだ突起が擦れ合う度に、突き抜けるような快楽に全身が
さざ波立つ。
寄せては返す波のように、体の隅々まで満ちた快感が、また繋がった部分に集まってくる。
「せつなっ……せつな…せつな…、せつな…ぁ…」
「…ラブ……ラブっ……ラブ………」
うわ言のように、お互いの名前を繰り返す。
それ以外の言葉を忘れてしまったかのように。
もう、どちらがどちらの体かも分からない。
絡み合い、もつれ合い、それなのに決して一つには溶け合えない。
どちらが何度、絶頂を迎えたかも分からない。
意識が遠のき、片方が与える刺激で目覚め、また飽く事のない
快感の波に飲み込まれてゆく。
溶け合えいないもどかしさが哀しくて、ひたすらすべてを忘れて睦み合う。
(……きりがない…。)
どれほど求め合っても、波が引くとまた次が欲しくなる。
もっと、もっと、もっと……。
やがて、意識が白濁し、ぬるま湯に浸されるように、眠りに引き込まれて行った。
窓から差し込む薄青い光で、夜明けが近いと知れた。
全身にせつなの温もりを感じる。
体を絡め合ったまま、同時に意識を失ったのだろう。
「……ラブ……。」
薄く目を開け、せつなが額を寄せる。
ラブは唇に軽く口付けてから、少し体を離す。
せつなの体に残る、おびただしい愛撫とも言えない蹂躙の痕。
キスマークだけでなく、強く掴んだ指の跡が痣になり、所々噛み痕すら
残っている。
「……痛かった…よね?」
痣や歯形に指を這わせながら、ラブは自己嫌悪に陥りそうになる。
いくら容赦しないと言っても、やり過ぎだ。
「平気よ?私だっていっぱい付けたし。」
確かに、ラブの体にも花弁を散らしたようにキスマークが踊っている。
「せつなの、平気よ、はアテになんないからなぁ。」
せつなの頭を抱きかかえると、首筋にクスクスと笑う吐息がかかる。
「ね………、せつな。……本当に、あたしでいいの?」
せつなのたった一人の恋人。
手を繋ぎ、共に歩く。抱き合い、その唇に触れる事が許される。
ズルい聞き方だ。
ラブがいいの。ラブじゃなきゃ嫌。そう言って欲しいのが見え見えだ。
言ったそばから恥ずかしくなり、抱き締める腕に力が籠る。
せつなは答えてくれない。
少し不安に襲われ、ラブはせつなを覗き込む。
心の奥底まで、見透かすような瞳。せつなにじっと見詰められ、ラブは微かにたじろぐ。
せつなはラブの手を取り、ゆっくり体を起こし、ラブの手のひらを
自分の左胸に導いた。
「しっかり、掴んで。」
手のひらに、脈打つせつなの鼓動。
「あなたのものよ。」
ラブはせつなの心臓を握り込むように、乳房を掴む。
ラブも同じく、せつなの手を自分の左胸に押し当てる。
そのまま、唇を重ねる。
触れ合うだけの、長い長い口付け。
「……誓いのキス、みたいだね。」
永遠の愛を誓う、神聖な儀式。
時は流れる。人は変わる。それが分からないほど、二人は幼くはない。
けど、それでもまだ、永遠を信じられる。
信じたいと思っている。
病める時も。
健やかなる時も。
死が二人を別つまで………。
青い薄闇から、白く光り始めた朝日の中。
神様にではない。
お互いの手のひらの中、強く脈打つ命に、
そう、誓った。
最終更新:2009年11月11日 22:00