皆と別れた後、私はひとり公園に戻ってきた。
いつもなら別れたら直ぐに家に帰るのに、今日はそんな気になれなかった。
たぶん今日のことが原因だろう。
「あなたなら……あなただから一人でも大丈夫。」
ラブちゃんのことを信頼しているせつなちゃん。
「美希はそういう子よ。」
美希ちゃんのことを理解しているせつなちゃん。
せつなちゃんにとって信頼し理解できる相手が出来たことは良いことだ。
ましてや相手は私の親友達だ。嬉しくないはずがない。
そう…嬉しくないはずがない、嬉しいはずなのに…
「……っ」
せつなちゃんがラブちゃんと美希ちゃんに言った言葉…。
思い出すだけで、胸が締め付けられる。
どうしてかなんてわかってる。
それは…私がせつなちゃんのことを好きだから。
もちろんラブちゃんと美希ちゃんも好き。
でも…二人とは違うの…。
「はぁ……。」
胸が苦しいよ…せつなちゃん。
がさっ。
「?」
何かの音が聞こえ私は顔をあげた。そして驚いた。
「えっ……。」
そこには今まさに考えていた人物であったせつなちゃんが立っていたからだ。
「せ、せ、せつなちゃん」
どうしてせつなちゃんがここに?
だってさっきラブちゃん達と一緒に帰ったはずじゃあ。
「ど、どうしてせつなちゃんがここに?ラブちゃん達は?」
「ラブ達には先に帰ってもらったわ。」
せつなちゃんがこちらに近づいてくる。
「えっ、どうして?」
「あなたに話したいことがあったから。」
「私に?」
「そう、あなたに」
そう言うとせつなちゃんはベンチに座っていた私の隣に腰を下ろした。
「はいこれ」
ん?なんだろう?
せつなちゃんが私に何かを手渡した。
パインジュースだ。
「ありがとう、せつなちゃん。」
「…好きなの」
どきっ……。
「えっ、あ、私もこのジュース好きだよ、おいしいよね」
びっくりした。急に好きって言うから。
「……はぁ…そうよね、やっぱりこんなんじゃダメ…よね。」
?
せつなちゃんがぼそぼそと何かを言っている。ダメ?何のことだろう?
「何がダメなの?」
「ううん、なんでもない。」
そう言ってせつなちゃんはパインジュースを飲み始めた。
まあいいか。せっかくなので私もジュースに手をつける。
「いただきます。」
ゴクゴク……おいしい。
それにしても、いったい私に話したいことってなんだろう?
「ねぇ、せつなちゃ『今日は大変な一日だったわね。』
私が話す前に急にせつなちゃんが話し始めた。
「うん、そうだね…。」
ホントに今日は大変だった。
「一時はどうなることかと思ったけど、
シフォンちゃんもラブちゃんの子守唄のおかげで
どこにも行かなかったし、
クローバボックスも美希ちゃんがちゃんと見つけてくれたものね。
2人なら大丈夫だって、私、信じてた。」
「そうね」
「やっぱりラブちゃんと美希ちゃんは凄いよね。」
「えぇ、ラブも美希も凄いわね。」
そうして暫くラブちゃんと美希ちゃんの話題が続いた。
ラブちゃんと美希ちゃんの話をするせつなちゃん。
大好きなんだなって伝わってくる。
私もラブちゃんや美希ちゃんのことは大好きだから嬉しい。
でもやっぱり
「……っ」
やっぱり苦しいよ。
本当は言ってしまいたい、ラブちゃんや美希ちゃんだけじゃなくて、私のことも見て。
ううん、私だけを見て!!って。
でも言えるわけない、こんな身勝手な思いをせつなちゃんに押し付けるわけにはいかないから。
でも…ずっと今のままの状態でいるのも、もう限界。
私はどうしたらいいんだろう。
「それでねブッキー」
「……」
「ブッキー?」
「……」
「ブッキー!!」
「えっ?」
いつの間にか私は黙りこんでしまっていたようだ。せつなちゃんが心配そうに私を見ていた。
「どしたの?」
「ご、ごめんなさい。ボーっとしちゃって。」
「なんでもないの。」
私は笑って誤魔化そうとした。
「……嘘ね」
でも相手はせつなちゃんだ。誤魔化せるはずがなかった。
「ねぇ、ブッキー。」
「…何?せつなちゃん?」
「なんでもないなんて、そんな顔して言われても説得力ないわよ。」
せつなちゃんの手が私の左頬に伸びてきた。
「どうしてそんなに悲しそうな…いいえ、苦しそうな顔をしているの?そんな顔にさせたくて、
ブッキーと話をしたかったわけじゃないのよ。」
せつなちゃんの手の温もりに
優しい声に泣きそうになる。
あぁもう限界だ。
「せつなちゃん。あのね。」
「うん。」
「私…私ね…」
言っちゃダメ、もう一人の私が必死に止める。
でももう止まらない。
「せつなちゃんのことが……好き…なの。」
「わたしも…ブッキーのこと…好きよ。」
「…ありがとう、せつなちゃん。」
でも違うのせつなちゃん、あなたの好きとは違うの…
「でも、せつなちゃんが言ってる好きって友達としての好きでしょ。」
「私の好きとせつなちゃんの好きは意味が違うよ。」
「ブッキ『こんなこと言って、迷惑だって、身勝手だってわかってるの。』
「でも…でも…」
「…友達としてじゃなく一人の女の子として、せつなちゃんのことが好きなのっ。」
涙が出てきた。
泣くつもりなんてなかった。これじゃあもっとせつなちゃんを困らせるだけだ。
でも涙は止まらない。
私はそれ以上話すことができず、ただ顔を伏せ泣くばかりだった。
ふと、右頬に温もりを感じた。
「…祈里。」
顔を上げた。いや上げさせられた。
「人の話は最後まで聞くものよ。」
「私はあなたが好きだって言ったわよね。」
「でもそれは!」
それは私の好きとは違う、もう一度そう言おうとした。
でも言えなかった。せつなちゃんが指で私の唇を塞いだからだ。
「もうっ」
せつなちゃんが笑った。
「最後まで聞いてって言ってるのに。」
その声はとても優しい。
「私の好きとあなたの好きとは違うといっていたけれど…」
せつなちゃんの顔が近づいてくる。
私との距離がだんだんと狭くなる、そして…。
「…私の好きってこういうことよ。」
そう耳元で囁かれた次の瞬間
唇に柔らかいものが触れた。
せつなちゃんの顔が離れていく。
「…。」
そっと自分の唇をなぞる。
「……。」
せつなちゃん今
私の…
私の唇に…。
唇に…。
「い…り」
「…のり」
「…ハァ……祈里!!」
「えっ、あ、はい!」
あまりの出来ごとに私は混乱していたようだ。
くすくす、せつなちゃんが笑ってる。
「ラブも美希も好きよ。でもこんなことしたいと思うのはあなただけ。」
そしてせつなちゃんは続けてこう言った。
「ねぇ、これはあなたの好きと同じではないのかしら?」
終
最終更新:2009年12月26日 20:27