せつな。
あたしね。
あなたのことが、好きだったのよ。
信じられない、って顔、してるわね。
ふふ。確かにそうだわ。
せつな、あたしにたくさん、ひどいことしてくれたものね。
あんなことや、こんなこと――――思いつくだけでも、両手じゃ収まりきれないわ。
もう、そんなに顔を強張らせないで。あたし、せつなを責めたいと思って呼んだんじゃないもの。
知っておいて欲しかったの。あたしの気持ちを。
これからせつなに話すことは、とってもひどいことだから。
あたしはこれから、せつなに懺悔する。
でもその前に、あたしはせつなを好きだったって知っておいて欲しかったの。
ふふ、言い訳じみてるわね。
好きだったから、愛してたから許される、なんて思ってないけどね。
なんのこと、って?
確かに、判らないかもね。
あの時のせつな、あたしのことなんて見てくれてなかったから。
ずっとずっと、ラブのことばっかりで。
覚えてる?
あたしのことをすごく乱暴に犯した日があったのを――――やだ、そんな赤くならないでよ。あたしが恥ずかしい
じゃない。
そう。あの日だったわ。
あたしが、気付いたのは。
せつながずっと、ラブのことばかりを考えてるのを見て、すごく悲しくなった。
目の前にいて、肌を触れ合わせているあたしのことよりも、せつなはラブのことが大切なんだ、って。
その時に、あたし、わかっちゃったの。
あたし、蒼乃美希は、東せつなのことが好きなんだって。
思い出した? もう、謝らなくていいわよ。仕方のないことだわ。
でもね。
あの時、せつな。すごく辛かったんでしょう?
ラブに好かれてることが、苦しかったんでしょう?
だって、そうよね。ラブの好きは、一直線だから。騙されてるのにも気付かない。けれどいつの間にか、騙してる方が
どんどん苦しくなる。こんな真っ直ぐな子を、騙してていいのか、って――――そんな風に思ってたんでしょ。だから
苦しかったのよね。
それに、せつなはラブに隠し事をしてたし――――ブッキーやあたしのことを。
やだ、そんなに落ち込まないでよ。
あれも、作戦だったんでしょう? イースはプリキュアと戦ってたんだから、しょうがないわ。
でもその作戦で、苦しんでたのはせつな自身だったのよね。
今のせつななら、わかるでしょ。
自分があの時に、何を求めていたか。
そう。
せつなは罰せられたがっていた。
ラブっていう、大切で大好きな人を騙して傷付けている自分を、罰して欲しがってた。
あの、ナキサケーベのカード。
あれはせつなの体を傷付けていた。
けれどその痛みは、癒しでもあったんじゃない? 体を傷付ければ、悪いことをしている自分が罰せられているように
思えるもんね。
でもね、せつな。
イースの体に傷が増えるたび、あたしがどれだけ悲しい想いをしてたかは、気付いてなかったでしょ?
そうね、あなたの前で、あたしは反抗的だった。絶対にあなたを許さない、憎んでる。いつもあなたにそう言ってたもの
ね。
うん、気付いた? せつながあたしの言葉に、救われてたってことに。あたしに、憎んでるって言われてる時、せつな、
すごく安心した顔をしてたのよ。多分、ホッとしてたのよね。
もしもあたしと同じ立場だったら、ラブはきっと信じないか、悪いことをやめさせようとしたでしょうね。ブッキーなら・・・
・・・悲しそうな顔をするだけかしら。けどそのどっちも、あの頃のせつなには辛いわよね。結局、自分を責めるのは自分
だけなんだから。
たとえ騙されていたとしても、人を責めないのは、二人のいいところ。
でも、許されることが、罰せられるより辛い事だってある。
せつなは、優しい子よ。
イースだった頃から、ね。
優しい心を押し殺して、悪いことをしてたあなた。
そんな時に、大好きな人に優しくされたら――――しかも、その人を騙してたら――――心がきしむのも当然だわ。
だからね、せつな。
あたしが憎んであげた。
せつなの、優しい心を守る為に。
なんて、ね。
本当は違う。違う――――かもしれない。
せつな、あなたはラブに優しくされるのを怖がるようになってから、ラブや祈里と会わなくなってったでしょう? あたし
とは、毎日のように会ってたのにね。
だから、かもしれない。
どんな形でも、せつな、あなたに求められることが嬉しかったの。
でも、せつな、あなたは壊れていった。
体だけじゃなくて、心まで傷付けて。
あたしをいたぶりながら、せつな、あなたはあたしを見てなかった。
ラブのことだけを、想ってたよね。
否定しないで。わかるの。わかっちゃうのよ。肌を重ねあってるから、ね。
それにね。一度だけ。
せつな、呼んだんだよ。
あたしのことを、ラブ、って。
悲しかったし、悔しかった。
あたしはラブの代わりでしかないんだ、って。
ラブに会いたい、会って愛し合いたいって願ってるくせに、それが許されないと思って、動けないせつな。そんなせつな
の鬱憤が、あたしに向けられてるだけだったんだよね。
ごめんね。責めるつもりない、なんて言ったのに、あたし、せつなを責めてる。
いいんだよ、頭なんか下げないで。
ごめんね。ごめん。
でもね、やっぱりせつなの心と体は、限界だった。
あの日――――トリニティのライブの日。
せつな、倒れたよね。皆には、日射病か何かだと思われてたみたいだったけれど――――あたしは、それが違うって
感じてた。あのせつなが――――夜のベッドの上で、あれだけ激しいせつなが、こんな簡単に倒れるわけないって。
フフ、真っ赤になって、せつなったら可愛い。
ごめん、ごめん。茶化すつもりはなかったの。
うん。それでね。
せつながあたしの前で倒れた時、ナキサケーベのカードが見えたのよ。
最後の一枚だった。
ああ、って思ったわ。
これを最後にしようと思ってるんだ、って。
どんな結果であれ、せつなは、最後の戦いをあたしたちに仕掛ける為に来たんだ、って。
その瞬間からかな。
あたし、わからなくなった。
自分がどうしたらいいか。
せつなに、どうして欲しいか。
ラブに、ね。言おうかとも、思ったの。
せつながイースなのよ、って。
でも、出来なかった。
怖かったのよ――――何かは、わからないけれど。
そして、あたしたちは戦った。
イースと。ううん。
せつなと。
ラブは、言ったわ。
『あの子、苦しんでる』
って。
それを聞いた時、あたし、何も言えなかった。ただ、思ったの。
あ、わかるんだ、って。
せつながイースだって、気付いてなくても、ラブは――――
もしかしたら少し、嫉妬してたのかもね。まだ、その時は。
それから。
ラブは、せつな――――じゃなくて、イースを止めようとした。
あたしは――――何も出来なかった。
抱き合ってる二人を見て、あたし、思ったの。
入り込めないな、って。
嫉妬も、浮かばなかったわ。完璧に、見せ付けられたんですもの。
ラブと、せつなの絆、ってのをね。
せつなが、自分の正体を明かした時。
女の勘なのかしらね。
覚悟を決めたんだ、って伝わってきた。
もしかしたら、一番――――そう、その時までは、一番、あたしがせつなの側にいたから――――だから、わかった
のかもしれないわね。
それでも、せつなから、電話で話を聞かされた時は、驚いたわ。
だって、せつな、自分の寿命が今日までだ、なんて言うんですもの。
覚えてる? せつな。あたしが何て言ったか。
そう。
どうしたい? って聞いたのよね。
せつなは、こう答えた。
ラブに会いたい。ラブと戦って――――
その先を言わなかったけれど、あたし、わかっちゃったわ。完璧にね。
死ぬ気、だったんでしょ。
ラブの手にかかって。
せつな、知らなかったでしょうけれど、その時のラブ、ふさぎこんでたのよ。
そりゃそうよね。大好きな人が敵だったんですもの。
ベッドから出てこないで、うなだれてたわ。
でもね。
あたしも、せつなのことが好きだった。
せつながラブを好きでも、せつなのことが好きだった。
ひどいことされたのに、って思う。嫌な思い出しか無い筈なのに、って。
でもね。
せつなは、あたしにひどいことをしながら、いつだって助けを求めてた。
一番、苦しんでたのは、せつなだった。
その姿を見たから、かな。
あたし、せつなに惹かれてた。
だから、せつなが望むようにしてあげたかった。
好きだから。
あたし、必死だった。
せつなに残されたのは、今日、一日だけ。
絶対に、せつなにラブを会わせてあげたかった。
そして、望みを――――ラブの腕の中で死ぬっていう、せつなの望みをかなえてあげたかった。
あたしが心を鬼に出来たのは、ラブの為でも、ブッキーの為でもない。
せつな。あなたの為だった。
ラブが逃げ出した時は焦ったけれど、でも、館に向かったって聞いて、ホッとしたわ。
多分、あなた達二人なら、きっと出会えると思ってたから。運命で結ばれてるもの。
それからのあたしに出来るのは、何も知らないブッキーを引き離すことだけ。
ま、あんまりうまくいかずに、結局、合流しちゃったけれどね。
変身は、はなからするつもりは無かったわよ。ラブなら絶対に、自分だけで、って言うと思ってたから。
けれど、想像通りってわけでもなかったわ。
ホントのことを言うとね。
ラブが、イースと戦うなんて、思ってなかったの。
たとえば、イースの攻撃をただ防御するだけだとか、反撃しないとか――――そんな風になってる、って思ってた。
けれど、ラブは。
イースと、戦ってた。ちゃんと、向き合って。
殴る拳の方が、痛い筈なのにね。
だって、大好きな人と戦ってるんですもの。
泣きながら、戦うラブを見て。
泣きながら、戦うせつなを見て。
それから、せつなが本音を――――ずっと一緒にいたあたしには、一度も聞かせてくれたことのない本音を、口に
して。
わかってたはずなのに、悲しくなった。
せつながラブのこと、大好きなんだって。
失恋ね。
結局、あなたは、ラブの手にかかるという望みを叶えることはなかった。
ただ、思いの丈をぶつけながら、戦って。
ラブはそれを、受け止めて。
せつな、戦いが終わった時、すごく満足した顔してたわよ。
そうね。今までの色んな重荷が、肩から落ちたみたいな。
あたしね。
それを見て、良かった、って思ったの。
死ぬ前に、満たされることが出来てって。
けどね。
あなたが――――イースが、死んだ時。
あたし、世界の終わりが来たみたいな気がした。
覚悟ぐらい、あたしだってしてた。
今日、せつなが――――あたしの好きな人が、この世からいなくなるんだって。
だから、せつなに満たされて欲しくて、心を鬼にしたりもした。
せつなの大好きな、ラブに見られながら、って。
でも。
あの瞬間。
せつなが、死んだ瞬間。
何もかもが凍りついたわ。
後悔、なんて言葉が甘っちょろいものに感じられるぐらいにね。
あたしはせつなに生きてて欲しかった!!
せつなが満たされて、それで満足したまま死ねるなら、それでいいって思ってた!!
でも、全然違ったわ!!
どんな形でも――――せつながあたしのこと、好きじゃなくても。ラブのことを好きでも。
なんでもいいから!!
せつなに生きてて欲しかった!!
バカだ、って思ったわ。
あたしがすべきことは、せつなが死なないようにすることだったのに。
こんな時に、いい子ぶっちゃって、あたし。
ラブがもし同じ立場だったらきっと、せつなが死なないように、駆け回ってたでしょうね。
もしかしたら、ラビリンスに殴りこんでたかも。うーん、言ってて、ホントにしそうだって思えるわ。
多分、その違いが、せつながラブを選んだ理由なのよね。
一つだけ、自信を持って言えることがあるわ。
ラブ、悲しんでたわ。ブッキーも、落ち込んでた。
けどあの時、せつなと一緒に死のうと思ったのは、あたしだけ。絶対に。
だから、本当に良かった。
せつなが、キュアパッションとして、生まれ変わって。
そうでなかったら、多分、あたし――――
それからは、目まぐるしかったわね。
せつなが、キュアパッションになるって決意したり。
ラブが、自分の家にせつなを招くって言い出したり。
色々あったから、こうして二人きりで会うのって、本当に久しぶりよね。
前は、せつなじゃなくて、イースだったものね、せつな。
随分、長く話しちゃったわね。
ごめんなさい、ついつい、ね。
さ、どう思う? せつな。
あなたの前にいるあたし、蒼乃美希は。
せつなのことが大好きで。
でも、せつなの死を望んだ女なのよ。
そんなあたしのこと、せつなはどう思う?
長い、長い美希の独白。
聞き終えた時には、熱い紅茶はすっかりと冷めていた。
絡み付く、彼女の視線。
美希は、笑っている。ほのかに、微かに。
けれど彼女が持つカップは、小刻みに震えていて。
怖がっている。それが、せつなに伝わる。
私が何を言うか、わからずに、怖がってる。
せつなは、一つ、小さく深呼吸をして、言った。
「美希。私は――――」
最終更新:2010年03月07日 16:15