<せつなの部屋>
もうかれこれ20分ほど経っただろうか
私は今美希と電話で話をしている。
「ええ、そうなの10時に公園で待ち合わせをしているの。」
『嬉しそうな声しちゃって、せつなってば。よっぽど楽しみなのね。』
「あたりまえよ、その……き、気持ちを伝えてから初めてブッキーと二人で出かけるんですもの。
楽しみに決まってるじゃない。」
『そうよね二人にとっては初デートだものね。
……ところでさっきから気になってたんだけどブッキー?祈里じゃないの?』
「え、あぁ、その、二人っきりの時だけ呼ぶことにしてるの。」
『あたしやラブの前でもブッキー?』
「えっと、その。」
『ふ~ん。じゃあ、あたしもブッキーと二人っきりの時、祈里って呼んじゃおうかしら。』
「ダ、ダメ!」
いや、美希は幼馴染なんだし、ダメってことはないのだけれど…
『あら、どうして?』
笑いを含んだ声。
どうしてって言われても、わからない。
「……どうしても。」
それが精一杯の答え。
『ふふ。』
携帯から笑い声がもれてくる。
むっ。
……からかわれたのだと分かる。
「……。」
『せつな?』
「……。」
『もう…拗ねないの。』
「…拗ねてなんかないわ。」
『あ~はいはい、……でもなんていうか、ここまでの話を聞いてると、ごちそうさまって感じよね。』
「……ごちそうさま?美希何か食べてたの?」
『……。』
「美希?」
『はぁ。…いえ、なんでもないわ。それよりも明日はあたしが選んだ服着ていくのよね。』
「ええ。」
何か誤魔化された気がするけれど、まぁいいわ。
その後も暫く話を続けていた。
『でねそこのお店に…、ってもうこんな時間!』
そう言われ私も時計に目を遣る。いつもなら寝る準備をしている時間だ。
……一時間近く話をしていたようだ。
『ごめんね、せつな。随分長話しちゃったみたいで。』
「ううん、そんなことないわ。楽しかったもの。」
『そう、ならよかった。さぁ、明日寝坊したら大変だから、そろそろ終わりましょうか。』
「そうね、美希……色々ありがとう。」
『ふふ、どういたしまして。じゃあ、おやすみせつな。』
「ええ、おやすみなさい、美希。」
さて、寝ましょうか。
「早く明日にならないかしら。」
そう思いながら私は目を閉じた。
<公園周辺>
リンクルンで時間を確認する。9時25分、待ち合わせの時間までまだ30分以上もある。
楽しみ過ぎて早く目が覚めちゃった所為もあって早くに家を出た。
……ちょっと早過ぎる気もするけど、祈里を待たせるわけにわいかないものね。
いろいろ考えているうちに公園の入り口についた。
待ち合わせ場所に向かう。
…えっ、祈里?
待ち合わせ場所には、まだ来ていないだろうと思っていた祈里が立っていた。
「祈里。」
「せつなちゃん。」
「早いわね祈里。」
「せつなちゃんこそ。」
「もしかして待たせちゃった?」
待たせるわけにはいかないと思って早く来たのに…
「ううん、全然。さっき来たところだから。」
「そう、よかった。」
それを聞いて安心した。ほっと息をついた。
「ねぇ、せつなちゃん?」
「ん?」
「それってもしかして、この前電話で話してた…。」
祈里が指差したのはお母さんから貰った赤いブレスレットだ。
「ええ、お母さんに……あゆみお母さんに貰ったブレスレットよ。」
私はブレスレットを撫でる。
お母さん。
今日もいってらっしゃいと言って送り出してくれた。
祈里やラブ、美希とはまた違う、私の大切な人。
そのお母さんから貰った大事な大事なブレスレットだ。
「ふふ。」
祈里が笑っている。
「祈里?」
「あぁごめんなさい、ただすっごく嬉しそうな顔しててかわいいな~って思って。」
か、かわいい?
「…っ。」
顔が熱くなる。
「ふふ、かわいい。」
「…もう、祈里ったら。」
私の反応に満足したのか
「さて…それじゃあちょっと早いけど行きましょうか、せつなちゃん。」
そう言って祈里は歩きだした。
「そうね。」
そう言って私も祈里の隣に並ぶ。
「今日は遊園地って所に行くのよね。雑誌やテレビでは見たけど実際に行くのは初めてよ。」
遊園地はもちろんだけど、祈里と一緒だもの。
「すごく楽しみ。」
「せつなちゃん、一緒にめーいっぱい楽しもうね。」
「ええ。」
<遊園地>
「へぇ~凄い人ね。」
私は人の多さに驚いてしまった。雑誌やテレビから情報を得て予想していたとはいえ
実際に見るとやはり凄い。
「休日だからね。」
ぎゅっ。
祈里が手を握ってきた。
「祈里?」
「嫌?」
今日の祈里はなんだか積極的だわ。
「…いいえ、そんなことないわ。」
でもそんな祈里もわるくない。
ぎゅっ。
「楽しみましょうね。」
私はそう言って祈里の手を握り返した。
最初は祈里のリクエストでメリーゴーランドに乗った。
次は私のリクエストでお化け屋敷へ。
その後も交代でリクエストしていって
ゴーカート、ティーカップ、バイキングに乗った。
「次はせつなちゃんの番だよ、どこに行く?」
祈里が尋ねてくる。
「そうねぇ」
どこに行こうか、そう思案していた私の目に留まったのは
「…祈里、私あれに乗ってみたいわ。」
「どれ?」
「あれ。」
私はそれを指差した。
「ジェットコースター?」
「ええ。」
ガタンガタン。
ジェットコースター、ラブから話は聞いていたけれどこれは楽しみだ。
どんどん目線が高くなる、一番前だから尚更それがよくわかる。
この遊園地で一番高いのかしら、そう思いあたりを見回す。ここからだと遊園地全体がよく見える。
少し遠いところにもジェットコースターがあった…がこちらの方が明らかに高いようだ。
ふと、祈里に目を遣る。
ぎゅっと目を瞑っている。
ラブや美希から3人でジェットコースターに乗ったと聞いていたので平気かと思っていたのだけれど…。
ガタンガタン。
「祈里。」
私は祈里に声をかけ手を差し出した。
これで少しでも安心してくれたらいいんだけど…。
ぎゅっ
祈里は私が差し出した手をつかんだ。
私は大丈夫という気持ちを込めてしっかりと握り返した。
ガタンガタン、ガタッ。
ガタ、ガタガタ、ガタガタガタガタ、ゴォォォォォォォ――――――――。
――――――――
「大丈夫、祈里?」
少しふらついていた祈里に声をかける。
「大丈夫だよ。せつなちゃん。」
顔をみると本当に大丈夫そうだったので、次に行くことにした。
「そう、ならいいんだけど。じゃあ次はどこに行きましょうか?」
「せつなちゃん、わたしここに行きたい。」
祈里が指差した場所それは……。
『動物ふれあい広場』
「ほら見て見てせつなちゃん、かわいい~。」
子犬を抱えて祈里が満面の笑みでこちらに話しかけてきた。
「ねえ祈里、その子達はなんて名前の犬なの?」
私は子犬の頭をなでながら尋ねる。
「えっと、この子はウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアっていうの。
それからあそこにいるのがチワワ、ラブラドール、ダックスフント、ポメラニアン、パピヨン、それから――――」
ふふ夢中になってるわ、祈里らしい。
それにしても動物と触れ合っている祈里姿を見ていると自然と頬が緩む。
あ、そうだわ。私はリンクルンを取り出した。そして…
パシャッ。
「わっ、びっくりした。」
「あっ、ごめんなさい。祈里すっごく良い顔してたから、つい。」
「ついって……」
祈里はそう言いつつ、それ以上は何も言わずまた暫く動物たちと戯れていた。
私は改めて思う。祈里といるこの穏やかな空間がたまらなく好きなのだ……と。
最終更新:2010年01月11日 16:48