避-151

ある日の夜。
自宅に帰ると、あゆみが出迎えてくれた。


「お帰りなさい、お父さん。お仕事お疲れ様。」

「ただいま、お母さん。」

「ねえお父さん、私たち3人から話があるの。後で来てくれる?」


いつになく、うれしそうな顔で話すあゆみ。
スーツから着替えてリビングルームに入る。
あゆみと共に、ラブとせっちゃんもくつろいでいた。
3人と向かい合って、ソファーに腰掛ける。


「それで話って何だい?」

「ねえ、お父さん。今度の休みにどこか行こうよ~。」

「お父さん。私からもお願い。」

「せっちゃんが本当にウチの家族になったんだから。いいでしょ、お父さん。」


今度の休みはゴルフの打ちっ放しに行こうと思ってたんだけど・・・。
まあ、こんなにせがまれたんじゃ断れないな。


「わかった、じゃあ今度の祝日に行こう。」

「やったー!楽しみだね、せつな!」

「本当に楽しみね。どこへ連れてってくれるのかしら?」

「それじゃお父さん、旅行のプラン決めといてね。」


えっ?こういうのは家族で話し合って決めるんじゃ・・・。
残業で帰りが遅いからそんな時間無いって?ハイハイ、分かりました。
明日、会社の部下におすすめのスポットを聞いてみるか。


次の日。
家に帰ると、3人が出迎えてくれた。


「お帰りなさい。お父さん。」

「お父さん、お帰りなさい!ねえねえ、旅行の行き先決まった?」

「ああ、決まったよ。詳しい事は後で話すから。」

「ありがとう、お父さん。」


せっちゃんが僕の事を「お父さん」って呼んでくれる。
かれこれ何十回目だけど、いつ聴いてもうれしいなぁ。


「さ、早く上がって。ご飯できてるわよ。」

「おっ、すまんすまん。今行くから。」


食卓を4人で囲み、夕ご飯を取った。
食後、カバンから何枚もの紙を取り出す。
昼間に会社の部下に頼んでおいた、インターネットから得た行楽地の情報だ。


「それで、ここなんかいいと思うんだがどうだい?」

「紅葉が見られる湖ね。いいじゃない?」

「いいねー。せつなはどう?」

「お父さんが決めた所なら異論は無いわ。」


良かったー。
ありがとう、僕の有能な部下君よ。お土産を期待していてくれ。


「それなら決まりね。で、お父さん。」

「何だね、お母さん。」

「そこへはどうやって行こうかしら。電車?車?」

「そうだなー、車で行こうか。レンタカーを借りて僕が運転するよ。」

「えー意外!お酒好きなお父さんが旅行で飲まないなんて。」

「おい、ラブ。僕だって飲まずに我慢できるんだぞ、それに・・・。」

「それに・・・?」

「車ならせっちゃんと後ろの席で二人でいられるだろ。」


せっちゃんが顔を赤らめてうつむいている。
時々見せる、そんな表情も可愛いなー。


「お父さん!何鼻の下伸ばしてるのよ!」

「うわっ!ごめんごめん、お母さん。」


怒られた僕を見て、ラブとせっちゃんがクスクス笑っている。
ああ、これも家族の幸せなんだなぁ。


そして日帰り旅行の当日。
レンタカー屋へ車を取りに行き、自宅にあゆみたちを迎えに戻る。


「さあ、行くわよ。お父さん今日は運転お願いしますね。」

「うわー、あたしETCの付いた車に乗るの初めて!」

「へぇ、これがETCなの。確か高速料金がお得になるってやつでしょ。」

「そう、今日は休日だから特別割引。だから少しくらいは遠出できるんだよ。」


車を発進させ、自宅を出発した。
数十分後、高速道路のインターチェンジに入る。
会社の営業車で運転しているとはいえ、高速は久しぶりだ。


「そういえば、今日はフェレット・・・何て名前だっけ?」

「もう、お父さん。タルトでしょ!タルト!」

「ああ、すまんラブ・・・。で、タルトちゃんはどうしたんだい。」

「タルトはブッキーの所に預けたよ。」

「山吹さん家か。じゃあお土産買ってあげないとな。」


そういえば、いつもラブたちが持っているぬいぐるみも無いなあ。
まあ細かいことは気にしないで、運転運転っと。


「あちゃー。渋滞かー。」

「やっぱり休日だから行楽地へ行く車が多いのかしら。」

「せつなー、渋滞ってイヤじゃない?」

「私は構わないわ。ラブと一緒にいられるのなら。」


そんなこんなで高速道路から下りて、ようやく目的地の湖に到着した。


「さあ、着いたぞー。」

「わあ、紅葉がきれいだわー。」

「ホントきれいだね!せつなは紅葉見るの初めてだっけ?」

「ええ、自然って本当に素晴らしいわ。」


良い風景を眺めて家族の感想も得られて、ドライブの疲れも吹き飛ぶってもんだよ。
そんな感慨に浸る間もなく、ラブの大声が飛んできた。


「ねえー、お腹が空いたー!」

「はいはい、今お昼にするわね。お父さーん、場所さがしてきてちょうだーい!」

「えー、僕がかい?」

「そうよ。私たちはお弁当を運ぶから、あなたはそっちをお願いね。」

「・・・はーい。」

「私も一緒に行くわ。お弁当はお母さんとラブの2人で運べるでしょ。」


せっちゃん、えらいねぇ。やっぱりせっちゃんは僕の味方だね。
ほどなく、せっちゃんが辺りをキョロキョロ見回し始めた。


「あっちに空いている場所があるわ。」


せっちゃんが指差した方向へ歩くこと数分、1軒の東屋があったのでラブの携帯に電話を入れた。
しばらくすると、ラブとあゆみがお弁当などを抱えてやって来た。


「あらー、見晴らしがいいわねー。」

「ホント、お昼ご飯を食べるのに最高だね!」

「わはっ、せっちゃんがこの場所を見つけてくれたんだ。すごいなぁ。女のカンってやつかい?」

「ちょっと違うけど・・・。でもお役に立ててうれしいわ。」


東屋のテーブルにお弁当を広げる。
おにぎりにサンドイッチ、色々なおかずがたくさん詰まっていて美味しそうだ。


「これは誰が作ったんだい?」

「もちろん私よ。それに、ラブとせっちゃんも手伝ってくれたのよ。」

「へへっ。みんなで一緒に食べるお弁当だから、頑張っちゃった!」

「お母さんとラブと3人で作って、とても楽しかったわ。」


いただきまーす、とあいさつしてお弁当を食べ始めた。
相変わらずラブは勢いよく食べているなあ。
次は何を食べようか・・・コロッケがいいな。


「お父さん、そっちの円いのを食べてくれる?」

「おお、せっちゃん。分かった、いただくよ。」


せっちゃんが勧めた円形のコロッケに箸を伸ばす。
口に運び、ひと口かじると甘辛い味がした。
僕の得意料理の肉じゃがを使ったコロッケだった。


「うん、美味しいよ。せっちゃんが作ったのかい?」


コクリとうなずくせっちゃん。
料理の腕もラブに近づいてきたかな?


「ねえお父さん、あたしの作ったハンバーグも食べてよー。」

「おお、すまんすまん。どれどれ・・・」


ラブが作ったハンバーグも食べてみた。
ひき肉と一緒に、何かほかの食感がした。
箸で切ったハンバーグの断面を見ると、小さくダイスカットした野菜が入っていた。
ごぼう、れんこん、それにラブの苦手なにんじんも。


「ラブ、にんじんは苦手じゃなかったのか?」

「うん。少しずつだけど食べられるようになってきてるよ。」
「せつなだってピーマン食べられるように頑張っているから負けられない、っていうのもあるけどね。」


うんうん、そうやって好き嫌いを克服していくもんだね。
ってあれ・・・。お弁当がきれいさっぱり平らげられている。


「もう、お父さんったらゆっくり食べてるんだから。全部あたしが食べちゃったよ!」

「ごめんなさい、お父さん。私も止めようとしたんだけど、ラブが聞かなくて。」

「せっちゃんが謝ることないよ。どこかで何か買って食べるさ。」

「わはー!あたしも一緒に食べたい食べたい!」

「こらっ、ラブ!少しは遠慮しなさい。」

「・・・はーい、お母さん。」


食事も終わって、お茶を飲みながら家族と談笑した。
普段話せない仕事の事、近所の事、ラブとせっちゃんの学校の事、美希ちゃんや祈里ちゃんの事など・・・。


「そろそろお土産を買って帰るとするか。」

「そうね、遅くなると道も混むし日が暮れるのも早いからね。」

「せつな、おみやげ何買おっか。」

「ラブにまかせるわ。」


駐車場まで歩いて戻り、そこに併設されている物産センターでお土産を買うことにした。
2階建ての1階がお土産売り場で、2階には・・・


~後編につづく~


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最終更新:2010年01月11日 16:10