ある日の夜。
自宅に帰ると、あゆみが出迎えてくれた。
「お帰りなさい、お父さん。お仕事お疲れ様。」
「ただいま、お母さん。」
「ねえお父さん、私たち3人から話があるの。後で来てくれる?」
いつになく、うれしそうな顔で話すあゆみ。
スーツから着替えてリビングルームに入る。
あゆみと共に、ラブとせっちゃんもくつろいでいた。
3人と向かい合って、ソファーに腰掛ける。
「それで話って何だい?」
「ねえ、お父さん。今度の休みにどこか行こうよ~。」
「お父さん。私からもお願い。」
「せっちゃんが本当にウチの家族になったんだから。いいでしょ、お父さん。」
今度の休みはゴルフの打ちっ放しに行こうと思ってたんだけど・・・。
まあ、こんなにせがまれたんじゃ断れないな。
「わかった、じゃあ今度の祝日に行こう。」
「やったー!楽しみだね、せつな!」
「本当に楽しみね。どこへ連れてってくれるのかしら?」
「それじゃお父さん、旅行のプラン決めといてね。」
えっ?こういうのは家族で話し合って決めるんじゃ・・・。
残業で帰りが遅いからそんな時間無いって?ハイハイ、分かりました。
明日、会社の部下におすすめのスポットを聞いてみるか。
次の日。
家に帰ると、3人が出迎えてくれた。
「お帰りなさい。お父さん。」
「お父さん、お帰りなさい!ねえねえ、旅行の行き先決まった?」
「ああ、決まったよ。詳しい事は後で話すから。」
「ありがとう、お父さん。」
せっちゃんが僕の事を「お父さん」って呼んでくれる。
かれこれ何十回目だけど、いつ聴いてもうれしいなぁ。
「さ、早く上がって。ご飯できてるわよ。」
「おっ、すまんすまん。今行くから。」
食卓を4人で囲み、夕ご飯を取った。
食後、カバンから何枚もの紙を取り出す。
昼間に会社の部下に頼んでおいた、インターネットから得た行楽地の情報だ。
「それで、ここなんかいいと思うんだがどうだい?」
「紅葉が見られる湖ね。いいじゃない?」
「いいねー。せつなはどう?」
「お父さんが決めた所なら異論は無いわ。」
良かったー。
ありがとう、僕の有能な部下君よ。お土産を期待していてくれ。
「それなら決まりね。で、お父さん。」
「何だね、お母さん。」
「そこへはどうやって行こうかしら。電車?車?」
「そうだなー、車で行こうか。レンタカーを借りて僕が運転するよ。」
「えー意外!お酒好きなお父さんが旅行で飲まないなんて。」
「おい、ラブ。僕だって飲まずに我慢できるんだぞ、それに・・・。」
「それに・・・?」
「車ならせっちゃんと後ろの席で二人でいられるだろ。」
せっちゃんが顔を赤らめてうつむいている。
時々見せる、そんな表情も可愛いなー。
「お父さん!何鼻の下伸ばしてるのよ!」
「うわっ!ごめんごめん、お母さん。」
怒られた僕を見て、ラブとせっちゃんがクスクス笑っている。
ああ、これも家族の幸せなんだなぁ。
そして日帰り旅行の当日。
レンタカー屋へ車を取りに行き、自宅にあゆみたちを迎えに戻る。
「さあ、行くわよ。お父さん今日は運転お願いしますね。」
「うわー、あたしETCの付いた車に乗るの初めて!」
「へぇ、これがETCなの。確か高速料金がお得になるってやつでしょ。」
「そう、今日は休日だから特別割引。だから少しくらいは遠出できるんだよ。」
車を発進させ、自宅を出発した。
数十分後、高速道路のインターチェンジに入る。
会社の営業車で運転しているとはいえ、高速は久しぶりだ。
「そういえば、今日はフェレット・・・何て名前だっけ?」
「もう、お父さん。タルトでしょ!タルト!」
「ああ、すまんラブ・・・。で、タルトちゃんはどうしたんだい。」
「タルトはブッキーの所に預けたよ。」
「山吹さん家か。じゃあお土産買ってあげないとな。」
そういえば、いつもラブたちが持っているぬいぐるみも無いなあ。
まあ細かいことは気にしないで、運転運転っと。
「あちゃー。渋滞かー。」
「やっぱり休日だから行楽地へ行く車が多いのかしら。」
「せつなー、渋滞ってイヤじゃない?」
「私は構わないわ。ラブと一緒にいられるのなら。」
そんなこんなで高速道路から下りて、ようやく目的地の湖に到着した。
「さあ、着いたぞー。」
「わあ、紅葉がきれいだわー。」
「ホントきれいだね!せつなは紅葉見るの初めてだっけ?」
「ええ、自然って本当に素晴らしいわ。」
良い風景を眺めて家族の感想も得られて、ドライブの疲れも吹き飛ぶってもんだよ。
そんな感慨に浸る間もなく、ラブの大声が飛んできた。
「ねえー、お腹が空いたー!」
「はいはい、今お昼にするわね。お父さーん、場所さがしてきてちょうだーい!」
「えー、僕がかい?」
「そうよ。私たちはお弁当を運ぶから、あなたはそっちをお願いね。」
「・・・はーい。」
「私も一緒に行くわ。お弁当はお母さんとラブの2人で運べるでしょ。」
せっちゃん、えらいねぇ。やっぱりせっちゃんは僕の味方だね。
ほどなく、せっちゃんが辺りをキョロキョロ見回し始めた。
「あっちに空いている場所があるわ。」
せっちゃんが指差した方向へ歩くこと数分、1軒の東屋があったのでラブの携帯に電話を入れた。
しばらくすると、ラブとあゆみがお弁当などを抱えてやって来た。
「あらー、見晴らしがいいわねー。」
「ホント、お昼ご飯を食べるのに最高だね!」
「わはっ、せっちゃんがこの場所を見つけてくれたんだ。すごいなぁ。女のカンってやつかい?」
「ちょっと違うけど・・・。でもお役に立ててうれしいわ。」
東屋のテーブルにお弁当を広げる。
おにぎりにサンドイッチ、色々なおかずがたくさん詰まっていて美味しそうだ。
「これは誰が作ったんだい?」
「もちろん私よ。それに、ラブとせっちゃんも手伝ってくれたのよ。」
「へへっ。みんなで一緒に食べるお弁当だから、頑張っちゃった!」
「お母さんとラブと3人で作って、とても楽しかったわ。」
いただきまーす、とあいさつしてお弁当を食べ始めた。
相変わらずラブは勢いよく食べているなあ。
次は何を食べようか・・・コロッケがいいな。
「お父さん、そっちの円いのを食べてくれる?」
「おお、せっちゃん。分かった、いただくよ。」
せっちゃんが勧めた円形のコロッケに箸を伸ばす。
口に運び、ひと口かじると甘辛い味がした。
僕の得意料理の肉じゃがを使ったコロッケだった。
「うん、美味しいよ。せっちゃんが作ったのかい?」
コクリとうなずくせっちゃん。
料理の腕もラブに近づいてきたかな?
「ねえお父さん、あたしの作ったハンバーグも食べてよー。」
「おお、すまんすまん。どれどれ・・・」
ラブが作ったハンバーグも食べてみた。
ひき肉と一緒に、何かほかの食感がした。
箸で切ったハンバーグの断面を見ると、小さくダイスカットした野菜が入っていた。
ごぼう、れんこん、それにラブの苦手なにんじんも。
「ラブ、にんじんは苦手じゃなかったのか?」
「うん。少しずつだけど食べられるようになってきてるよ。」
「せつなだってピーマン食べられるように頑張っているから負けられない、っていうのもあるけどね。」
うんうん、そうやって好き嫌いを克服していくもんだね。
ってあれ・・・。お弁当がきれいさっぱり平らげられている。
「もう、お父さんったらゆっくり食べてるんだから。全部あたしが食べちゃったよ!」
「ごめんなさい、お父さん。私も止めようとしたんだけど、ラブが聞かなくて。」
「せっちゃんが謝ることないよ。どこかで何か買って食べるさ。」
「わはー!あたしも一緒に食べたい食べたい!」
「こらっ、ラブ!少しは遠慮しなさい。」
「・・・はーい、お母さん。」
食事も終わって、お茶を飲みながら家族と談笑した。
普段話せない仕事の事、近所の事、ラブとせっちゃんの学校の事、美希ちゃんや祈里ちゃんの事など・・・。
「そろそろお土産を買って帰るとするか。」
「そうね、遅くなると道も混むし日が暮れるのも早いからね。」
「せつな、おみやげ何買おっか。」
「ラブにまかせるわ。」
駐車場まで歩いて戻り、そこに併設されている物産センターでお土産を買うことにした。
2階建ての1階がお土産売り場で、2階には・・・
~後編につづく~
最終更新:2010年01月11日 16:10