競-111

四つ葉町の中央に位置する公園。
ここは、町民の憩いの場として広く活用されている。
学校帰りの学生や、仕事中のサラリーマンが一休みしたり、
休日にはお弁当をもってちょっとしたハイキングに来る家族連れも来たりする。
いつもここに店を構えている評判のドーナツショップや、
中央の野外用ステージでダンスの練習に励む4人組みの少女、
はたまた、奇怪な行動と格好でうろついている筋肉質のイケメンなど
ちょっとした話題になっている人や施設もあり、何かと話題には事欠かない場所である。

その公園で、時刻は深夜。
一部の街灯を残して灯りは消え、人の姿も無く、闇と静寂に包まれたその場所に、
一際大きい破砕音が響く。

「ジングル・ベール!」

巨大な怪物が拳を振りぬく。
管理国家ラビリンスが生み出した、
人々に不幸をもたらす邪悪な怪物、ナケワメーケ。
そして、

「よーし、やってしまえ、ナケワメーケ!」

それを操るは巨漢の男、ラビリンス三幹部の一人、ウエスター。

ウエスターの命令で、ナケワメーケが放った拳が目標の場所に直撃する。
しかし、

「はっ」

その場所にいた者達は寸前でを後ろに飛び、それを避ける。

タッ

ステップも軽やかに、ナケワメーケと距離と取って着地。
そこにあるのは四人の少女の姿。

桃色の服の少女、キュアピーチ。
青色の服の少女、キュアベリー。
黄色の服の少女、キュアパイン。
赤色の服の少女、キュアパッション。
伝説の四人の戦士、プリキュア。

ここ、四つ葉町で何度ともなく繰り広げられて来た、
侵略者と守るもの達の戦いが、今日も始まっていた。



「ええい、何をしている、最初から全力で行かんか!」
「メリークリスマ~ス!」

ウエスターの声にうなずくナケワメーケ。
するとその姿―クリスマスに定番のもみの木のツリーの天辺の星の部分に目、
鉢植えの部分が2つに分かれて足となり、
右手の代わりにツリーの飾りとしてお馴染みのボール玉、
左手の代わりにベルが連結されているという、
毎度の事ながら、実にふざけた姿―に変化が起こる。
その体に幾重にも巻きつけられた電飾用のコードから、LEDのライトが一斉に起立する。

「……!みんな、飛んで!」

そのライトの下部に、チロチロと赤いものが明滅していること。
そして、それが向けられている先が自分達4人であること。
2つのことに真っ先に気づいたキュアベリーが警告を発する。

その声が終わるか終わらないかの内に

「イルミネーション!!」

シュバ!バババババババババッ!!

コードから離れたLEDライトの下部から一斉に点火された火が噴出し、
無数のミサイルとなってプリキュア達に向けて発射された。

「きゃあっ」

青、赤、黄、緑、白。
様々な色を持ち、ただのライトだった時の特性そのままに、
光を点滅させながら飛び来るミサイル群は、回避行動が遅れた空中の四人を直撃。
そのままの勢いで地面に叩きつける。

巻き起こる土煙。
そしてそれが晴れたところには、膝をついてうずくまる四人の姿があった。

「はっはっは!どうだ、ラビリンス特性クリスマスツリーの威力は!
 クリスマス商戦で混み合ってるト○ザらスで必死で掻き集めた飾りを
たっぷり盛り付けてあるからな!
 ……フッ、サウラーが手伝ってくれなかったから、
徹夜で飾りつけをする羽目になったんだけどな」

一瞬遠い目をして、今も部屋でのうのうと趣味の読書を
堪能しているであろう仲間のことを思うウエスター。
だが頭をブンブンと振って気持ちを切り替えると、ナケワメーケに改めて指示を出す。

「さあ、このままトドメだ。行け!」
「メリークリスマ~ス!」



対するプリキュア達。
ダメージは決して軽くないが、四人とも立ち上がる。

「大丈夫、みんな?」
「……なんとかね」
「……私も、大丈夫」
「でもあんな攻撃、何度も食らったらマズいわ……どうする、ピーチ?」

パッションの問いかけに、ピーチは思考する。
見たところ、あのナケワメーケは、目がついている一番上の星が、
顔にあたる箇所になっている。
あれが顔なら―いつかのお面ナケワメーケのように、
全方向を一度に見ることが出来ないなら……!

「よし、みんなで別々の方向から接近して、一斉に攻撃しよう!」
「「「了解!」」」

ピーチの提案に、皆が応じる。

「イルミネーション!」

再びナケワメーケからミサイルが発射される。

「やっ!」

四人はそれを空中高く飛ぶ事で回避。
そこで四手に別れ、ナケワメーケの四方に着地。

「みんな、いくよ!」

ピーチの掛け声に合わせて、一斉にナケワメーケの足元を目指す。

「ジ、ジングル?」

右に、左にと狙いを付けられないように動き回りながら、接近してくるプリキュア達、
四方同時のその動きに、ナケワメーケは戸惑い、対応が遅れる。

「今よっ!」

パッションの声に合わせて、一斉に攻撃を仕掛ける。



両足を広げ、充分踏ん張りの効く姿勢にするとその場で体を回転、
その勢いを乗せた肘を打ち込む―キュアピーチ。

地面を蹴り上げると空中に跳躍、ナケワメーケよりも高い位置に体を置くと、
そのまま自由落下する勢いのまま、敵に向かう。
途中で両膝を前に突き出し、より多い面積での打撃を叩き込む―キュアベリー。

そのまま地面を突貫、前傾姿勢に体を低く傾けると、
自らの体重全てを肩口に乗せて、全身を相手の足にぶち当てに行く―キュアパイン。

ベリーと同様に空中に跳躍、しかし膝を落とすのではなく、
空中で前方に回転しながら突き出した両足、正確に言えば、その踵を
同時に落とすような体勢を取る―キュアパッション。

四者四様の攻撃。
それぞれの長所とする特性を生かした同時攻撃が、ナケワメーケに炸裂する。

ゴスッ!ガッ!ドッ!ガガッ!

しかし。


「なっ!? これって……綿にモール?」

全ての攻撃は、電飾と同様にナケワメーケの体中を覆うように巻きついているモールと、
所々に雪をイメージして置かれている綿によって防がれていた。

「イルミネーション!」

バババババババババッ!!

再び発射されるミサイル。
至近距離にいた四人は、回避行動を取る間もなく直撃を食らう。

「きゃああああああああっ」

四方に飛ばされ、何度も地面に打ち付けられる四人。

「ふふん、馬鹿め!こう見えてクリスマスツリーは
攻めて良し、守って良しの超便利な代物なのだ。
 このナケワメーケに死角などないわ!」

ウエスターが勝ち誇る。



「このままじゃあ攻撃することが出来ないわ!」
「せめてあのミサイルをなんとかしないと……」
「くっ…………」

パイン、ベリーの言葉に歯噛みするピーチ。
一人、考え込んでいたパッションはキッと決意の表情。

「ピーチ、私に任せて?」
「パッション?!大丈夫なの?」
「ええ、上手くいくかはわからないけど、やってみる」

そう言うとパッションは、アカルンを呼び出す。
そして召還する……彼女の武器、幸せの力の具現化した形を

「歌え、幸せのラプソディ、パッションハープ!!」

「む、イースめ、何をする気だ?……ふん、ナケワメーケ、まずはあいつからだ!」
「ジングル・ベール!」

シュバ!シュバ!バババッ!!

パッションに向けられたミサイルが一斉に発射される。
しかしパッションはそれに動じることなく、ハープを奏で、叫ぶ。

「吹き荒れよ、幸せの嵐!プリキュア、ハピネスハリケーン!!」

その声と共に、彼女を中心に放たれる赤い光の奔流が文字通り嵐のように吹き荒れる。
そしてその中に飛び交う無数のハートが、飛来したミサイル種の砲弾に次々にぶつかると、
その場で次々に爆発させていく……!

「何っ!?」

ここまで終始余裕を見せていたウエスターに動揺が走る。
そのまま赤き光の嵐は、そのままナケワメーケを直撃する。
するとそれは、ナケワメーケの体中を覆う電飾に付いたままのミサイルを
次々と爆発させる。
それだけでは無い。
ナケワメーケの全身を覆う無数の飾り。
先程プリキュア達の攻撃を無効化したモールや綿も含めて、
その全てがハピネスハリケーンの嵐の中に巻き込まれ、消えて行く。

「な、なんだとーーーーーーっ!!そんなバカなーーーーっ!」

ウエスターが叫ぶ。



プリキュア達の必殺技は全て、ナケワメーケを弱らせ、浄化する為のものである。
だからピーチ達三人のキュアスティックも合体技のグランドフィナーレも
全て物理的な破壊力を持っていない。
しかし、キュアパッションのハピネスハリケーンだけは、唯一の例外。
ハートの形をしたエネルギー体を無数に放つ、という物理的な効果を持つ技である。
まずはこれをぶつけることで、ナケワメーケのミサイルを無効化する。
そして、ハピネスハリケーンのもう一つの特性。
無数のハートを「吹き荒れさせる」嵐の如きエネルギーの奔流。
自然現象の「嵐」に近いこの技なら、
打撃では対処出来ない全身の飾りも吹き飛ばせる筈……。
パッションの賭けは、成功した。

「ゲ、ゲベロベーッ!」

そして嵐の後に残ったのは、全ての飾りを吹き飛ばされたナケワメーケの姿。

「今よ、ピーチ、ベリー、パイン!」
「「「OK!!!」」」

パッションの声に三人が応える。

「トリプルプリキュア、キーーーーーック!!!」

ドガガガガガガガガガガガッ!!

三人のプリキュアの力を合わせた必殺のキックが、
ナケワメーケの体に直撃する。

「ゲベマハーッ!」

バランスを崩したナケワメーケが倒れる。
これで後はとどめを刺せば終わり、プリキュアの四人の誰もがそう思った瞬間。

シュバッ!

点火の音。
たった一つ、残っていたLED―上手く木の枝に引っかかっていた為に、
ハピネスハリケーンの嵐の中にも吹き飛ばされずに残っていた一つが
ナケワメーケの巨体が倒れると共に、打ち出された。
そして、そのたった一つが飛んでいく先にあるものは……。

「パッション!」

ピーチが叫ぶ。
……そこにいたのは、ハピネスハリケーンを放った直後で、
まだ構えを解いていない姿勢のキュアパッションだった。



ドンッ!

「あっ……」

ミサイルが直撃する。
完全に不意を衝かれた形になったパッションは、受身を取る事も出来ず、
威力そのままで地面に激突する。

「ーーーーーーーーーくっ」

激痛が彼女の全身を襲う。
意識を総動員して、気を失うことだけは避けられたものの、体が全くいうことを聞かない。

「パッショーーーーーーーン!」

彼女の身を案じたピーチが駆けつける。
パインもとっさにそちらに向かおうとするが、それをベリーが制止する。

「パイン、パッションはピーチに任せて、私達はとどめを!」

またあの茎が再生しないとも限らないのた。
今のチャンスを無駄には出来ない。
パッションの事はピーチに任せて、あたし達はやるべきことをやらないと。
そうベリーは判断した。

「……うん、わかった」

それを理解したパインも応じる。
そして二人は、それぞれのピックルンを呼び出す。

「響け、希望のリズム!キュアスティック、ベリーソード!」
「癒せ、祈りのハーモニー!キュアスティック、パインフルート!」

希望の剣と祈りの笛、二つの武器が彼女達の手に舞い降りる。
奏でられる、必殺のメロディ。
そして叫ばれる、声。

「「悪いの悪いの飛んで行け!!」」
「プリキュア、エスポワールシャワー……フレーーーーーーッシュ!」
「プリキュア、ヒーリングプレアー……フレーーーーーーッシュ!」

ベリーソードから放たれる青いスペード型の光と、
パインフルートから放たれる黄色のダイヤ形の光。
二つの光がナケワメーケに向けて飛んでいく。



「クソっ」

それを見たウエスターは、舌打ちして飛び去る。
後に残ったナケワメーケに、光が連続で激突。
青と黄色が混ざり、緑色になった光の中に拘束する。

「「はああああああああっ!!」」
「シュワ~シュワ~」

光の中で浄化されるナケワメーケ。
邪悪の象徴である黄色の菱形のカードが消え去ると、
後に残ったのは黒こげのクリスマスツリーのみ。

「くそっ……このツリー、結構高かったのになあ……」

それを見届けると、ガックリと肩を落として去っていくウエスター。
侵略者と守るもの達の戦いは、今日も守るもの達―プリキュアの勝利に終わったのだった。



「パッション!大丈夫?」

戦いを終えて、パッションの元に駆け寄るベリーとパイン。
ピーチの肩を借りて立ち上がったパッションはええ、と笑みを作り。

「大丈夫……直撃だったけど、もうそんなに痛くはないわ」
「そう、よかった……」

その言葉にホッと胸を撫で下ろすパイン。

「本当に大丈夫、せつな?ぶつかった所怪我してない?」

そう言って、先程ミサイルが当たった箇所に手を当てるピーチ。
心配のあまりなのか、戦闘が終わって緊張感が抜けたからなのか、
パッションの本名で呼んでしまっている。
そんな彼女の仕草に、パッションはくすっと微笑み、こちらも敢えて本当の名前で答える。

「大丈夫よラブ、本当に心配性なんだから。
 ラブの手がすっごく暖かいから、痛いのなんて飛んでっちゃったわ」
「せ、せつなぁーーーーーーーーーーーーーっ!」

感極まってパッションに抱きつこうとするピーチ。

「はいはい、そこまで、いちゃいちゃするのは帰ってからにしなさい」

それを首根っこを捕まえるようにして、ベリーが制止する。



「えーー、何するのよ美希タン」
「あのね……今何時だと思ってるの」

そう言ってベリーが公園内に設置された時計を指差す。
時計が示す時間は、午前三時。

「うわぁ……もうこんな時間なのかぁ……ふぁぁぁ」

今の時間を自覚した途端に、ピーチの口から大あくびが漏れる。

「そういう事、夜更かしは美容の大敵、さっさと引き上げるわよ。
 ……で、せつな、悪いけどアカルンでアタシとブッキーを送って貰える?」
「ええ、いいわよ、美希」

最早すっかり緊張感が抜けた為なのか、プリキュアの姿のままで、
互いを本名で呼び合う四人。

「じゃあラブ、二人を送っていくから、ここでちょっと待っててね」
「うん……待ってるよ。それじゃ二人とも、おやすみ~」

ベリーとパイン―美希と祈里に、眠そうな顔でひらひらと手を振りながら、
分かれの挨拶をするピーチ―ラブ。
そんな彼女の姿を見ながら、パッション―せつなはアカルンを起動させる。

「……あ、待って!」

そのまま赤い光が広がり、三人を飲み込もうする前に、ピーチが慌てて声を掛けた。

「ラブちゃん、どうしたの?」
「いや~、改めて言うことじゃないんだけど、二人とも、明日はお願いね?」
「あ、家族合同のクリスマスパーティの事ね、
大丈夫、私達はお昼の12時にラブちゃん家に集合でしょ?」
「そうそう!」
「全く、そんなに念を押さなくても、忘れたりはしないわよ。
 ……それよりラブ、貴方自身が12時までにちゃんと起きなさいよ」
「あたし、そんなに信用無い?」

ベリーの言葉にショックを受けたような表情を見せるピーチ。




「大丈夫よ美希、私がいるから。精一杯頑張って起こしてみるわ」
「せつな?起こしてみるわって……それって、ダメだったら?」
「その時は、知らないわ」
「せつな~」

またしてもパッションに、今度は泣きつこうとするピーチ。

「はいはい、だからいちゃいちゃするのは帰ってからにしなさいって言ったでしょ」

今度はピーチの額に手を当てて、押し戻すようにベリーが制止する。

「あはは……きりがないから、今度こそお開きにしないと」

様子を見守っていたパインの言葉で、三人の動きが止まる。

「あ、そうだね……こんなことしてたらキリがないや」
「全く、誰のせいだと思ってるの……それじゃせつな、改めてお願い」
「ええ」
「それじゃあラブちゃん、また明日ね」
「うん、おやすみ、美希タン、ブッキー」

ピーチの言葉と共に、再び赤い光が広がり、
三人を包み込んで―消える。

そして一人残されたピーチは、ふと空を見上げる。
明日―正確にはもう今日はクリスマスイブ。
せつなを入れて四人での、初めてのクリスマスパーティの日。
どんな楽しいパーティになるだろう。
そんな期待を込めて、ピーチ―ラブは夜空に叫んだ。

「よーし!クリスマスパーティで、幸せ、ゲットだよ!」


<続く>


競-165
最終更新:2010年01月17日 22:46