街灯の上に立ち、腕組みをするウエスター。
思わぬ乱入者の出現に、身構えるパッション。
「ウエスター、どうしてここに?」
「フン、どうしたもこうしたもないだろう、我々ラビリンスがする事と言えば
FUKO集めしか無いだろうが!」
「FUKO集めって……」
先日の、占い館での戦いを思い出すパッション。
あの時、ノーザの手によってソレワターセと化したFUKOのゲージ。
それをグランドフィナーレによって浄化し、
プリキュア4人とシフォンの力を合わせる事で、中のFUKOも消滅させた。
今更FUKOを集めた所で、再びゲージを満たすには相当の時間を必要とする筈。
それなのに。
「……どして?」
首を傾げてみせるパッション。
「いや……どうしてって言われてもなあ」
「……ねえ、どして?」
「だからそう言われても……」
「……どして?」
「その……」
「……」
「あの……」
「……」
「……って言われた」
「?」
「……だあっ!だからノーザに!」
言いかけた所で急に辺りを見回すウエスター。
名前を呼んだ相手の気配が周囲に無いことを確認すると、胸を撫で下ろす。
「だから、ノーザ……さんに言われたんだ。
ソレワターセの肥料が足りないからFUKOを集めて来いって」
「ノーザに……」
「しかも必要な量を集めるまでは、部屋には入れないって……」
体の前で人差し指を突き合わせながら、肩を落とすウエスター。
「貴方も大変なのね」
「ああ、あの人最近容赦なくてなあ……って、何で裏切り者のお前に身の上話した上に
同情されなきゃいかんのだ!」
「……途中からは自分で勝手に話してたじゃない」
抗議をしてくるウエスターに対して、目を据わらせた視線を送るパッション。
その視線に耐えかねたウエスターが、頭を掻き毟りながら、吼える。
「うがーっ!と・に・か・く・だ!FUKO集めの手始めとして、そのケーキを頂く!
さあ覚悟しろイース!」
「……どして?」
再び、首を傾げてみせるパッション。
「いや……どうしてって言われても……って、同じパターンに二度も引っ掛かるか!
そのケーキでナケワメーケを生み出してやるのだ!」
「だから何でこのケーキなの?」
何せ世間は
クリスマスシーズンである。
わざわざプリキュアの持つケーキを狙わなくても、店先でも駅前の出店でも
ケーキなら余る程あるのだから。
それなのに、何で『この』ケーキなのか。
パッションの疑問ももっともな事である。
「決まってるだろう!
メビウス様の為に尽くしている俺達が寒空の下でFUKO集めをしてるってのに、
裏切り者のお前が、やれクリスマスだとケーキだと楽しい思いをしやがって……。
こんな理不尽な話があるかーーーーっ!ずるいぞーーーっ!」
「…………………………は?」
わけがわからない、ウエスターは一体何を言っているのか、と
目を瞬かせるパッション。
「だから、そのケーキをナケワメーケにして、お前を真っ先に不幸にしてやる!
そうすれば不公平じゃなくなる。いや、むしろ俺達はFUKOを溜めて部屋に戻れる!
どうだ!こういうことだ!」
両手を腰にあてて堂々と宣言するウエスター。
「……」
あまりに勝手かつ無茶苦茶な物言いに、一瞬目眩を覚えるパッション。
眉を寄せ、空いた手で額を押さえ込む。
「……帰っていい?」
「はあ?何を馬鹿な事を言って……っておい、何リンクルンを取り出してるんだ。
あ、こらっ、瞬間移動しようとするんじゃない!」
しかしパッションは、ウエスターを無視してそのままリンクルンにさし込んだ
アカルンを回そうとする。
「おーい、無視するな!待てよイース!……とうっ!」
慌てて街灯の上から飛び降りるウエスター。
そのままパッションの前に降り立つ。
「待てよ!待てって……あ、いや、待って……くれないかな?
いや本当に、FUKO溜めないと帰れないんだよ俺達!
だからここは相手してください!お願いしゃーす!」
言いながら両手を脇に揃えて直立不動になると、
頭を45度下げての懇願の姿勢。
「……」
困惑するパッション。
正直な所、今はあまり関わりたくは無い相手ではあるが、
このまま放っておいてどこか他の所でFUKOを集めるのを見逃すわけにもいかない。
どうしたものか、と目の前で何度も頭を上げては下げてを繰り返す
ウエスターの姿を見ながら思案していると、
「ナケワメーケ、我に仕えよ!」
今ここにいる二人以外の、第三者の声
それと共に風を切り、何かが飛来する音。
気が付いたパッションがそちらに振り向いた時にはその音の正体、
ナケワメーケのカードが手に抱えていたケーキの箱に付着していた。
そのカードの色は、目の前で頭を下げ続けているウエスターの使役する
ナケワメーケのものとは異なる、緑色。
だとしたら、これを投げた相手と言うのは。
「油断大敵だね、イース」
「サウラー……」
つい先程まで、まるで闇に融けていたかのように気配すら感じさせなかった第三者、
ウエスターとは対照的に細身の、銀色の長髪の男。
ラビリンス三幹部の一人、サウラーがその場に姿を現した。
「キャッ!」
それと同時に、パッションの持っていたケーキに付着したカードが煙を噴き上げる。
その勢いに、思わず箱を手放してしまうパッション。
しかし、その箱は地面に落ちる事なく、空中で静止する。
そして、噴き出される煙がその周囲を包み込んでいくに従って、
その中にあるケーキ箱だったシルエットが大きく、異形のものへと変わっていく。
やがて煙が晴れたとき、そこに出現する、巨大な姿。
「キャ~ラ~デ~コ~!」
白の生クリームで彩られたイチゴのホールケーキに
クリスマス用にそりに乗ったサンタクロースに、トナカイ、更にもみの木をあしらった
砂糖菓子がデコレーションされた巨大なクリスマスケーキ。
そこに四本の足を生やし、正面に赤く光る目を付けられた悪趣味な様態の怪物、
ナケワメーケの姿がそこにあった。
「ふはははは、作戦成功だな!どうだサウラー、俺の陽動は上手くいったろう」
自慢げに笑うウエスターに対して、サウラーは淡々とした口調で答える。
「僕はイースの気を引き付けてくれればいいって言っただけなんだけどね。
君があそこまで下手に出たのは想定外だったよ。
まあ、おかげでちょっと面白い見世物になったけどね」
目を閉じてクックッと笑う彼に対して、ムッとした顔を見せるウエスター。
「フ、フン!結果が良ければそれでいいのだ!
……で、どうだイース!これでケーキはこっちのものだ」
勝ち誇るウエスターを視界の外に置いて、パッションはサウラーに向き合う。
「まさか貴方までいるとは思わなかったわ。
FUKO集めに二人がかりとは随分と大袈裟なんじゃないの?」
「……おい」
敢えて挑発を込めた強い口調で言う。
幹部二人にナケワメーケ、圧倒的に不利な状況だが、
だからこそ弱気な表情は彼らには見せられないと、そう心に念じながら。
「プリキュアになっても相変わらず厳しいね、君は。まあ、確かに言う通りさ。
でも、僕としてもこの寒空に外をうろつくよりは、
部屋の中で本でも読んでいたいからね。
その為にウエスターに協力するのはやぶさかでは無いのさ」
「……もしもーし」
困ったものだ、とばかりに両手を広げて見せるサウラー。
本当にそう思っているのかどうか、相変わらず本心の見えないポーカーフェースのままで。
「さて、どうするんだい、イース?
今回はソレワターセでは無いけど、
君一人で相手をするにはちょっと荷が重いんじゃないかな?」
「あの~」
こちらの内心を見透かしたようなサウラーの言葉に、くっ、と歯噛みをするパッション。
「……いいえ、そんな事はないわ、私一人で充分よ!」
「……」
それでも、強気な姿勢は崩さない。
プリキュアである以上、人々を不幸にする存在に背を向けるわけにはいかないから。
それに、
(……みんなが、必ず来てくれるから)
仲間を信じているからこそ、ここは一人でも持ちこたえなければいけないと
強く決意するパッション。
そんな彼女の態度に、サウラーは楽しそうに笑う。
「そうかい、じゃあ精一杯頑張りたまえ、その強がりがいつま」
「うぉーーーーーい、お前ら、俺を無視するなっ!」
言いかけたところで、ウエスターが割り込んで来た。
先程から敢えて視界の外に置いていた存在の乱入に、
振り向くパッション、そしてサウラー。
「……あら、貴方まだいたの?」
「元々君の言い出した作戦だろう、さっさと始めたまえ」
「お前らなあ、なんでそういう時だけ息がぴったりなんだよ……」
立て続けに掛けられる情の篭っていない言葉に、ウエスターは俯いて肩を震わせる。
「ちくしょー!ナケワメーケ、やってしまえ!」
「キャ~ラ~デ~コ~!」
彼の号令と共に、本日二度目となる、侵略者と守るものの戦いが始まったのだった。
公園の中をナケワメーケの巨体が、跳ねる。
「キャラッ!」
高く跳躍したその体が空中で一端静止すると、四本の足を後ろに回しての降下姿勢に移行。
「デコッ!!」
落花地点として選んだ場所―キュアパッションへと自らの体を武器とした突貫を敢行する。
「はっ!」
その動きを事前に予測したパッションは、横跳びで右へと移動して攻撃をかわす
―その筈だったのだが。
「スペシャルデーッ!」
着地と同時に四足を折り曲げたナケワメーケが、足を伸ばすのと同時に
パッションと同じ方向に跳躍してくる。
足を伸縮させた勢いの分、速度を増したそれはパッションに追いつき―
彼女の体をいとも容易に跳ね飛ばした。
「うわあっ!」
巨大になったことで質量が増したからなのか、
それは元がケーキだったとは思えない程の衝撃となって、
パッションの体を地面に強烈に打ち付ける。
そのまま二度、三度と地面の上を跳ね、転がるパッション。
「……う」
ダメージにふらつきながらも何とか立ち上がろうとする。
しかし、そこに再び突進してくるナケワメーケの姿。
「キャラデコ~!」
今度は地面に対して垂直にその身を飛ばしてくる。
それに対してパッションが選んだのは、上。
「やっ!」
上方への跳躍で突撃をかわすことで、ナケワメーケを空中から見下ろす格好になる。
垂直に飛んできた相手だけに、この位置への急な方向転換は流石に出来ない筈だと。
そのまま空中で体勢を変え、キックを放とうとするパッションだったが。
「デコッ、デコッ、デコ~ッ!」
ナケワメーケの声と共に、そのボディであるケーキの上から打ち出されたものがあった。
「なっ……」
それは、デコレーションとして飾られていた砂糖菓子のサンタ、トナカイ、もみの木。
本体を離れたそれは、それぞれが単体の意思を持つかのように思い思いに空を駆け、
別々の軌道で、別々の方向からパッションに向かってくる。
「きゃあっ!」
攻撃の体勢に移ろうとしていた為に、回避行動が取れないパッションの体を
砂糖菓子のオブジェ達が一回、二回、三回と打ち据える。
「ぐっ!!」
攻撃によって崩れた体勢のまま、受身も取れずに地面に落下する。
そうして、倒れ付したパッションを見てウエスターが勝ち誇る。
「どうだイース、何も出来まい!さあ、このまま俺達の為にFUKOを献上するがいい!」
「……クッ」
両手を腰にあてて笑う彼の姿。
それを倒れた姿勢のまま、なんとか顔だけを動かして睨みつけるパッション。
(……覚悟はしていたけど、やはり、強い)
瞬発力に優れるパッションに対抗する為なのか、機動力に特化されている上に
相手の動きを殺す為の装備として、本体と無関係に動き回る
追撃型の飛び道具を持つナケワメーケ。
一対一では現状のままでも若干不利。
まだ傍観を決め込んでいるが、ウエスターとサウラーが介入してくれば
状況は更に悪くなるだろう。
(それでも……っ!)
プリキュアとして、キュアパッションとして
目の前の相手が人々を不幸にする存在である以上、立ち向かわなければいけない。
その思いで痛む体を鼓舞して、立ち上がるパッション。
「ほお、まだやるというのか。良かろう。行け、ナケワメーケ!」
身構えるパッションを見て薄く笑うと、
ナケワメーケに更なる攻撃の指示を出すウエスター。
「キャラデコ~!」
命令を受けたナケワメーケが再び動き出す。
今度の攻撃もパッションをめがけての突進。
それをまずは、横跳びの跳躍でかわすパッション。
「デコッ!!」
当然のように足を自在に動かし、追撃してくるナケワメーケ。
その巨体が再びパッションを跳ね飛ばそうとしたその瞬間、
彼女の体が赤く光り、そして消える。
「何っ!?」
突然姿を消したパッション。
目標を見失ったナケワメーケが急停止する中、
ウエスターは周囲を見回して彼女の姿を探し求める。
「どこだ、どこへ逃げた、イース!」
「逃げたりなんかしないわ……私はここよ!」
声のした方向―それが上からのものであると気付き、見上げる。
そこには街灯の上に立っているパッションの姿があった。
「な……いつの間に」
「リンクルンの力さ」
動揺するウエスターにサウラーが声を掛ける。
「彼女のリンクルン、いやピックルンだったか。それには瞬間移動の能力があるのさ。
それを使って攻撃を回避したということだろうね。
どうするんだい?これはちょっと面倒だよ?」
薄ら笑いを浮かべながら、からかうような口調で問いかけてくるサウラー。
それに対してウエスターは憮然とした表情を浮かべる。
「フン、ならば追いつくまで攻撃を続けるまでだ!行け!」
「デコ~ッ!!」
そして再び始まるナケワメーケの攻撃。
パッションに向かって突っ込み、彼女がかわそうものならその場で方向転換して追撃、
またはサンタやトナカイを飛ばし、一撃を当てようとする。
それに対して、走り、跳び、避けきれない時にはアカルンの力を借りることで
攻撃を全てかわしていくパッション。
「ええーい、ちょこまかと!ナケワメーケ、上だ!いや、今度は右だ!
……と思ったら左、じゃなくてまた上かよ!」
攻撃してはかわされ、してはかわされという攻防が何度か繰り返される内に、
瞬間移動によってパッションの姿を見失う事が多くなったナケワメーケに対して、
ウエスターがその姿を見つけては指示を出す、というやり取りがされるようになっていた。
「お、そこだ、上!また上!今度は下!もう一回下!左!右!左!右!」
その指示も全く攻撃を出し続けるも、全く攻撃を当てることが出来ない。
あれだけ余裕を見せていたウエスターも、今は地団駄を踏みながら声を荒げている。
そうして彼をイラつかせて、冷静な状況判断が出来ないようにすること。
これが、パッションの第一の目的。
ここまでは上手くいった。そして―。
(よしっ、いくわよ……アカルン!)
パッションが仕掛ける。
何度目かの攻撃をかわした後で、ワープアウトした場所は、ウエスターの目の前。
「うおっ!」
突如目の前に出現したパッションの姿に驚き、声を上げるウエスター。
だがすぐに、これはチャンスとばかりにその太い両腕を彼女の肩の上に置き、押さえつける。
そのまま体を回し、ナケワメーケと向き合わせると笑みを浮かべて、叫ぶ。
「うはははは、これでもう逃げられまい!さあナケワメーケ、ここだ。
イースはここにいるぞ!」
「キャラデコ~!」
ウエスターの声に反応して、突進してくるナケワメーケ。
「よーし、散々手こずらせてくれたが、これで最後だ。覚悟しろイース!」
取り押さえたパッションの姿に、勝利を確信し、勝ち誇るウエスター。
「ウエスター……」
「?」
顔はナケワメーケの方を向いている為、パッションの今の表情は見えない。
だが、発せられた言葉の声色に、ウエスターは不可解なものを感じる。
何故こいつはこんなにも落ち着いているのかと。
そしてその疑問の答えはすぐに返ってきた。
「貴方がわかりやすい性格で良かったわ……本当に」
「なんだと?」
問いかけの言葉が終わるか終わらないかの内に、パッションの姿が赤い光に包まれる。
その姿が掻き消えるのと同時に、ウエスターの背後に生まれる同じ色の光の玉。
「えいっ!!」
ウエスターが背後に気配を感じた途端に、聞こえてきた声。
それがパッションのものだと理解する前に、背中から強い力で突き飛ばされる。
「おおおっ!」
咄嗟の事に対応できずに、前へと体をよろめかせるウエスター。
「おいこらっ!何するんだイース!」
踏み止まると、後ろを振り向いて抗議の声を上げる。
しかし、それにパッションは答える事はなく、ただ黙って右手を上げて前を指差す。
「んん?何だ?……前?」
ウエスターはもう一度振り向いて、パッションの指差す方向を見る。
そこには。
「ぬおーーーっ!」
目標に向けて絶賛突撃中の、こちらに迫りつつあるナケワメーケの姿があった。
「おいっ!ちょっと待て!いや止まれ!ストップ、ストーーーーップ!」
慌てて両手を激しく振り、止まるように指示を出すウエスター。
「デ……デコッ!」
対するナケワメーケも慌てて四本の足を体の前面に押し出し、制動を駆けようとする。
足の裏を地面と激しく擦り合わせ、周囲に土煙を巻き起こしながらも少しずつ減速していく。
そして、なんとかその巨体をウエスターの目の前で停止させることに成功する。
「…………………………………………」
なんとか跳ねられずに済んだウエスターは、その巨体を見上げて額の汗を拭う。
「あー危なかった。危うく俺が轢かれるとこだったぞ」
「……デコ~ッ」
ウエスターの言葉に、目尻を下げて同意するナケワメーケ。
お互いにホッと一息を付く。
そこに響き渡る、声。
「歌え、幸せのラプソディ、パッションハープ!!」
そして、この一瞬の隙こそがパッションの狙っていたもの。
ナケワメーケとウエスター、両方の動きが止まったこの一瞬の間に
パッションハープを呼び出す。
「しまったっ!」
ウエスターがそれに気付いた時にはもう遅かった。
そのままパッションはハープを頭上に掲げ、言葉を続ける。
「吹き荒れよ、幸せの嵐!」
「いいのかい、そんな事をして」
咎めるように語り掛けてくる、声。
それが戦闘が始まってから特に手出しもせず、
傍観に徹していたサウラーからのものであると気付いたパッションは、彼の方に向き合う。
「何を言っているの?」
「別に。ただ聞いてみたかっただけさ。
大切なケーキにハピネスハリケーンを使ってもいいのか、と」
「!」
愉快そうにクックッと笑うサウラー。
彼が言いたい事をパッションは理解する。
ハピネスハリケーンを放つ事で、ナケワメーケは確実に倒せるだろう。
だが、その際に与えたダメージは、カード憑依前の元の物体にも確実に残る。
それは、かつて同じものを扱っていたパッションなら良く知っていること。
まして、ケーキのような脆い物にハピネスハリケーンによって発生する
ハート形のエネルギー体を大量にぶつければどうなるか。
(みんなの為に買ってきたケーキが、ダメになってしまう)
パッションの動きが止まる。
ハープを掲げたまま、続く動作をためらうように俯く。
そして、この一瞬の隙に今度はウエスターが付け込んだ。
「よしっ、今だ!!」
「デコッ、デコッ、デコ~ッ!」
ナケワメーケの声と共に、サンタ、トナカイ、もみの木が打ち出される。
パッションがそれに気付いた時には、やはり遅かった。
縦横に動き回るそれらが、彼女に襲い掛かる。
「あああーーーーーっ!」
前後左右、あらゆる方向から、何度も何度も体に打ちかかるそれらに
翻弄されるパッション。
「くうっ……」
ダメージによろめき、そのはずみで右手に持っていたハープを落としてしまう。
「あっ……」
それを拾おうと思わず前かがみになって手を伸ばしてしまう。
その無防備になった体に、更に打撃を加える三つの砂糖菓子。
「うう……」
重なるダメージに、遂にパッションの膝が崩れ落ちる。
その背中に追い討ちとばかりに、サンタの砂糖菓子が突っ込んで行き―。
「……」
打ち据える音と共に、パッションは頭から地面に倒れこんだ。
「よーし、やったぞ!!」
パッションが動かなくなった事を見て取ったウエスターは右手を握りガッツポーズ。
「サウラー、お前のおかげで助かった。すまん」
そしてサウラーの方に向かうと、感謝の言葉を述べる。
しかし、言われたサウラーは別に興味が無いといった風情で答える。
「……君がもうちょっとしっかりしてくれれば、僕が余計な事をせずに済んだんだけどね」
「お前なあ……こういう時くらい普通に受け取っとけよ」
サウラーの物言いに、呆れた顔をするウエスター。
「まあいい、まずはこちらを片付けるとしようか、ナケワメーケ、トドメだ!」
「キャラデコ~!」
ウエスターの本日何度目かになる号令の下、
ナケワメーケはパッション目掛けての突進を開始する。
「……クッ」
パッションの目にもその光景は映っている。
だが、酷くダメージを受けた体が、動く事を拒否している。
なんとか立ち上がって、避けないと。そう思っても指一本動かせない。
そうしている間にも迫り来るナケワメーケの姿。
それが視界の中で段々大きさを増していくにつれて、パッションの顔に浮かぶ表情は―。
「っ!」
それでも、決して諦めないという毅然とした意思。
しかし、そんな彼女の決意も虚しく。
「スペシャルデーッ!」
ナケワメーケの巨体と衝突したキュアパッションの体が、宙に跳ね飛んだ。
<続く>
最終更新:2010年01月31日 01:00