いつもの公園、カオルちゃんのドーナツ屋さんのパラソルとテーブル。
ここでチョコを交換しあうのが、ここ数年続いてる決まりごとだった。
「はい。美希たん、ブッキー、これ、あたしから」
「私からも。美希、ブッキー、いつもありがとう」
ラブのチョコもハートを形取ったものだっだ。
グミに、刻んだマシュマロ、ドライフルーツ。
様々なトッピングが色鮮やかで、黒って感じはしない。
「ありがとう。ラブ、せつな」
「ありがとう。ラブちゃんせつなちゃん。
でもラブちゃんとせつなちゃんは?」
美希はせつなからもらったチョコを見て、戸惑った。
少し小さいと思う。サイズに不満があるわけじゃない。
でも、包装もブッキーと色違いだけど同じもので……。
「あ、うん、せつなとは一緒に住んでるし、家で渡しちゃったんだ。
ちゃんと食べてね、せつな!」
「あんな大きなもの食べられないわよ。
もう、私まで大きいの用意しなくちゃいけなくなったじゃない!」
せつなの声が遠い所から聞こえるような気がする。
待ち望んだ日、期待したものを確かに手に取っているのに。
「へぇ、ラブちゃんとせつなちゃんのは大きいのね」
「せつなには今年からしか渡せないからね、今までの分も気持ち込めてね」
目の前が暗くなっていく。
体から力が抜けていく。
帰りたい、何も考えたくない。
「込めるのは気持ちだけでいいわよ、私を太らせる気?」
「大丈夫だよ、あたしも食べるから」
小突きあって、笑いあって、見つめあって。
何のことはない、いつも見ている光景じゃないか。
なのに、どうしてこんなに胸が痛いんだろう。
「ラブはいくら食べても太らないじゃない!」
そう言えば、ラブはダイエットって口にしたことが無いような気がする。
ひどく、どうでもいいと思いながらぼんやり考えた。
「ラブちゃん、美希ちゃん、せつなちゃん。わたしからはこれ」
ブッキーが巾着の包みに入ったチョコを配っていく。
「わっは~かっわいい~」
「凄いわ、ブッキー。ひとつひとつ全部違う動物なのね」
「うん、型も自分で作ったのよ。
あれ、美希ちゃん?」
呼ばれた?
誰が?
慌てて思考を取り戻す。
「あ、え? ううん。ありがとうブッキー。とても可愛いわ、完璧ね」
開けもせずにそう言った。
訝しがる視線が痛い。
「美希ちゃんは?」
バックを開けようとして、思いとどまった。
せつなのチョコは本命だ。
他の二人の分と全然違う。
「……アタシは……うっかり忘れてきちゃって。
後で家まで持っていくわ。ごめん」
馬鹿だ、舞い上がって、何も見えなくなってて。
仮にアタシが先だったとして、どんな顔して渡すつもりだったんだろう。
「美希たんが忘れるとか珍しいね、明日とかでもいいよ」
「うん、気にしないでね、美希ちゃん」
「ちゃんと持っていくから、ごめん」
視線を地面に落とした。
どんな表情をしてるか自信が無かった。
「美希、なにか疲れてる? 大丈夫なの」
「うん、ごめん。アタシは一度帰るわね」
疲れてなんていない。
でも体に力が入らない。
早く――早く――――
早く帰りたかった。
「何やってるんだろう。アタシ。
一人で浮かれてこんな本命チョコ用意して。
最近ちょっと親しくなれたからってその気になって。
ラブに敵うわけない。そんなのわかってるのに」
バレンタインなんて無ければいいのに。
一度意識してしまったら、もう止まらない。
今まで気にならなかった、ラブがせつなを見つめる目。
せつなのラブに見せる甘えた仕草。
ラブにだけ見せる、怒ったりからかったりする態度。
チクチク胸に突き刺さる。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
こんな風に考えるアタシは全然完璧じゃない。
せつなの分の友チョコ買いに行こう。
そして無かったことにするんだ。
元々、叶うはずの無い想い。
アタシはみんなに頼られてるんだ。しっかりしなきゃ。
心配なんてかけちゃいけない。
嫉妬なんてしちゃいけない。
アタシは平気、完璧なんだから。
でも涙が止まらない。見られなくて良かった。
「こんばんわ、ごめんね、ラブ、せつな」
泣いて脹れた目を戻すのに、時間がかかってしまった。
ラブの家でも夕飯の支度の匂いが漂ってきている。
「いらっしゃい、美希たん」
「いらっしゃい、美希」
こんな時間にごめんなさい、そう謝りながらバックを開いた。
「これ、アタシのチョコ、遅くなって本当にごめん」
なんとか笑顔を作って渡すことが出来た。日頃の練習の成果だ。
「明日でも良かったのにね、ありがとう美希たん」
「ありがとう、美希」
少し上がっていく? との誘いを丁重に断る。
「じゃあ、遅いからアタシはこれで」
今は、ラブとせつなが並んで立っているのを見てるだけで辛かった。
早く、早く、帰りたい。
「まって! 美希たん」
「えっ?」
ラブの声に再び振り向いた。
いつになく強い口調だ。
「せつな、アタシは食事の用意あるから、美希たんを送ってくれないかな」
「え!いいけど、おかあさんが作ってるんじゃ?」
せつながびっくりした表情をしている。
ラブの思いつき? でもどうして。
「手伝いたくなっちゃって、お願いね」
ラブが、せつなに視線で合図を送ったように見えた。
「ええ、わかったわ。行きましょう、美希」
冗談じゃないと思った。
今、せつなと二人きりになんてなりたくない。
何を言ってしまうかわからない。
「アタシは大丈夫よ、帰りのせつなこそ一人になるし」
「美希、忘れたの? 私に勝てる人はちょっと居ないわよ」
夜も遅いしね、とせつなに続けられて断れなくなった。
「幸せ、ゲットしなよ。美希たん」
ラブは並んで歩く二人を見てそっと呟いた。
そして、心の中で続ける。自分に言い聞かせるように。
あたしとせつなは友達だけじゃなくて家族だもん。
それはずっと変わらないから、だからチャンスをあげる。
あたしが一番欲しいのはせつなの幸せだから。
だけど、せつなを悲しませたりしたら、あたしは本気になるからね。
最終更新:2010年02月14日 12:38