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競-389

いつもの公園、カオルちゃんのドーナツ屋さんのパラソルとテーブル。
ここでチョコを交換しあうのが、ここ数年続いてる決まりごとだった。

「はい。美希たん、ブッキー、これ、あたしから」

「私からも。美希、ブッキー、いつもありがとう」

ラブのチョコもハートを形取ったものだっだ。
グミに、刻んだマシュマロ、ドライフルーツ。
様々なトッピングが色鮮やかで、黒って感じはしない。

「ありがとう。ラブ、せつな」

「ありがとう。ラブちゃんせつなちゃん。
 でもラブちゃんとせつなちゃんは?」

美希はせつなからもらったチョコを見て、戸惑った。
少し小さいと思う。サイズに不満があるわけじゃない。
でも、包装もブッキーと色違いだけど同じもので……。

「あ、うん、せつなとは一緒に住んでるし、家で渡しちゃったんだ。
 ちゃんと食べてね、せつな!」

「あんな大きなもの食べられないわよ。
 もう、私まで大きいの用意しなくちゃいけなくなったじゃない!」

せつなの声が遠い所から聞こえるような気がする。
待ち望んだ日、期待したものを確かに手に取っているのに。

「へぇ、ラブちゃんとせつなちゃんのは大きいのね」

「せつなには今年からしか渡せないからね、今までの分も気持ち込めてね」

目の前が暗くなっていく。
体から力が抜けていく。
帰りたい、何も考えたくない。

「込めるのは気持ちだけでいいわよ、私を太らせる気?」

「大丈夫だよ、あたしも食べるから」

小突きあって、笑いあって、見つめあって。
何のことはない、いつも見ている光景じゃないか。
なのに、どうしてこんなに胸が痛いんだろう。

「ラブはいくら食べても太らないじゃない!」

そう言えば、ラブはダイエットって口にしたことが無いような気がする。
ひどく、どうでもいいと思いながらぼんやり考えた。


「ラブちゃん、美希ちゃん、せつなちゃん。わたしからはこれ」

ブッキーが巾着の包みに入ったチョコを配っていく。

「わっは~かっわいい~」

「凄いわ、ブッキー。ひとつひとつ全部違う動物なのね」

「うん、型も自分で作ったのよ。
 あれ、美希ちゃん?」


呼ばれた?
誰が?
慌てて思考を取り戻す。

「あ、え? ううん。ありがとうブッキー。とても可愛いわ、完璧ね」

開けもせずにそう言った。
訝しがる視線が痛い。

「美希ちゃんは?」

バックを開けようとして、思いとどまった。
せつなのチョコは本命だ。
他の二人の分と全然違う。

「……アタシは……うっかり忘れてきちゃって。
 後で家まで持っていくわ。ごめん」

馬鹿だ、舞い上がって、何も見えなくなってて。
仮にアタシが先だったとして、どんな顔して渡すつもりだったんだろう。

「美希たんが忘れるとか珍しいね、明日とかでもいいよ」

「うん、気にしないでね、美希ちゃん」

「ちゃんと持っていくから、ごめん」

視線を地面に落とした。
どんな表情をしてるか自信が無かった。

「美希、なにか疲れてる? 大丈夫なの」

「うん、ごめん。アタシは一度帰るわね」

疲れてなんていない。
でも体に力が入らない。

早く――早く――――

早く帰りたかった。


「何やってるんだろう。アタシ。
 一人で浮かれてこんな本命チョコ用意して。
 最近ちょっと親しくなれたからってその気になって。
 ラブに敵うわけない。そんなのわかってるのに」

バレンタインなんて無ければいいのに。
一度意識してしまったら、もう止まらない。

今まで気にならなかった、ラブがせつなを見つめる目。
せつなのラブに見せる甘えた仕草。

ラブにだけ見せる、怒ったりからかったりする態度。

チクチク胸に突き刺さる。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。


こんな風に考えるアタシは全然完璧じゃない。

せつなの分の友チョコ買いに行こう。
そして無かったことにするんだ。
元々、叶うはずの無い想い。

アタシはみんなに頼られてるんだ。しっかりしなきゃ。

心配なんてかけちゃいけない。
嫉妬なんてしちゃいけない。
アタシは平気、完璧なんだから。

でも涙が止まらない。見られなくて良かった。






「こんばんわ、ごめんね、ラブ、せつな」

泣いて脹れた目を戻すのに、時間がかかってしまった。
ラブの家でも夕飯の支度の匂いが漂ってきている。

「いらっしゃい、美希たん」

「いらっしゃい、美希」

こんな時間にごめんなさい、そう謝りながらバックを開いた。

「これ、アタシのチョコ、遅くなって本当にごめん」

なんとか笑顔を作って渡すことが出来た。日頃の練習の成果だ。

「明日でも良かったのにね、ありがとう美希たん」

「ありがとう、美希」

少し上がっていく? との誘いを丁重に断る。

「じゃあ、遅いからアタシはこれで」

今は、ラブとせつなが並んで立っているのを見てるだけで辛かった。
早く、早く、帰りたい。


「まって! 美希たん」

「えっ?」

ラブの声に再び振り向いた。
いつになく強い口調だ。

「せつな、アタシは食事の用意あるから、美希たんを送ってくれないかな」

「え!いいけど、おかあさんが作ってるんじゃ?」

せつながびっくりした表情をしている。
ラブの思いつき? でもどうして。

「手伝いたくなっちゃって、お願いね」

ラブが、せつなに視線で合図を送ったように見えた。

「ええ、わかったわ。行きましょう、美希」

冗談じゃないと思った。
今、せつなと二人きりになんてなりたくない。
何を言ってしまうかわからない。

「アタシは大丈夫よ、帰りのせつなこそ一人になるし」

「美希、忘れたの? 私に勝てる人はちょっと居ないわよ」

夜も遅いしね、とせつなに続けられて断れなくなった。


「幸せ、ゲットしなよ。美希たん」
ラブは並んで歩く二人を見てそっと呟いた。

そして、心の中で続ける。自分に言い聞かせるように。

あたしとせつなは友達だけじゃなくて家族だもん。
それはずっと変わらないから、だからチャンスをあげる。
あたしが一番欲しいのはせつなの幸せだから。
だけど、せつなを悲しませたりしたら、あたしは本気になるからね。



競-395
最終更新:2010年02月14日 12:38