せつなと体を重ねてから一週間が経った。あれからは一度も機会が無く、別々に寝ている。
何か避けられているようで悲しかった。
「ねえ、せつな、今夜なんだけど」
「ごっ、ごめんなさい。ブッキーに借りてる本、明日までに返さなきゃいけなくて」
毎日こんな感じ。幸せって言ってくれたのにな。もしかして本当に嫌われちゃったの……。
あんなことしなきゃ良かった。後悔に胸が締め付けられる。
この日、あたしは初めて「おやすみなさい」って言わなかった。
次の日からさらにおかしくなった。
学校に行くにも少し距離を離して歩いて。会話もあたりさわりのないものしかしなくて。
夕ご飯後に、せつなはあたしの部屋に遊びに来なくなった。
そんな日が三日続いた晩のことだった。
コンコン
「ラブ、起きてる?」
「せつな、こんな時間にどうしたの?」
もうじき日付の変わる時間、おとうさんたちもとっくに寝ているはず。
部屋の中に入れようとするあたしの手を取って、静かに首を振った。謝罪の言葉を口にする。
――ごめんなさい。
「ラブ……ごめんなさい。ごめんなさい。私、怖くなってきて、ずっとラブのこと避けていた
の」
精一杯の勇気を振り絞った告白であったのだろう。せつなの体は小刻みに震えていた。
悪いのはあたしなのに。酷いことをしたのに。
久しぶりの心の通った会話に、あたしの目頭も熱くなる。
「あたしこそ、ごめん、せつな。もう……もうしないから、嫌いにならないで」
――違うっ!
とっさに叫び、大きく首を振って否定した。
「違う、違うのラブ。嫌だったからじゃないの」
せつなは自分の震える肩を抱きながら話してくれた。
「悔しかった。私がラブを拒絶してしまったことが許せなかったの。また……また拒んじゃう
んじゃないかって思ったら、もう、怖くて――」
それは後悔。自分への失望。繰り返すことの恐怖。避けていたんじゃない、合わせる顔が無か
ったんだと。
せつなはあたしを嫌ったんじゃなかった。あたしの愛撫を拒んだ自分を嫌っていたんだ。
きっと真面目なせつなは、どんな目にあっても、あたしのすることなら全て受け入れる覚悟だ
ったんだろう。
ごめん、ごめん、せつな。謝りながらせつなを強く抱きしめた。柔らかい髪を優しく撫でた。
花束を抱えた時のような香りが鼻をくすぐる。
せつなの体の震えが、少しづつ収まってくるのが感じられた。
「怖くて逃げるのと拒むのとは違うよ。ごめんね、せつな。あたし、せつなの気持ち全然考え
てなかった」
あの時の気持ちを思い出す。せつなに喜びを教えてあげたかった。でも、それだけじゃない何
かに付き動かされた。
あれは、何だったんだろう。
「ね、せつな。今度はせつながやってみない? あたしに触れて、あたしを責めて、感じさせ
てみない?」
「私が――――ラブを?――――私に……できるかしら」
そう言って考え込んでしまう。
上手くできなくてもいいから、やってみよう。そう耳元で囁いた。
そしたらせつなも、きっとあの時のあたしの気持ちがわかると思うんだ。
せつなの真っ白な体があたしの上にかぶさってくる。そっと二の腕に触れただけでぞくっとし
た。
潤いがあって、そして信じられないくらいすべすべで滑らかな肌。うっとりして見つめる。
細くてしなやかな指があたしの頬を撫でた。柔らかくて弾力のある唇が近づいてくる。
強くも無く、弱くもない、絶妙な加減であたしの口を塞ぐ。
こぼれるせつなの吐息は、甘くて好い匂いがした。
少し、困ったような顔をしてあたしを見つめてくる。しばらく逡巡した後、躊躇いがちに舌を
差し入れてきた。
せつなの舌を軽く咥えるような形で味わう。
そっとあたしの口に差し入れて、戻して、また入れての繰り返し。この前と逆の状態。
これがまた、信じられないくらい気持ちよかった。
やめないで、やめないで、もっと続けて! 頭の中が溶けてしまいそうになるくらいの快感に
溺れる。
長く熱い口付けで、体中がすっかり敏感になっていた。耳元にせつなの熱い吐息がかかる。背
筋が震える。
「ひゃっ! あっ、んぅ」
細い舌が耳の中に挿入される。頭の中を直接舐められているような感覚が襲う。こんなに……
効くんだ。
せつなはまた舌の出し入れを繰り返した。
この前のあたしの動きを、そのまま順になぞる事にしてるみたいだ。
せつなの舌に翻弄されながら、あたしは耐え続けた。終わった頃には、すっかり疲れてぐった
りした。
せつなの指がお腹を撫で上げながら胸に伸びる。ぞくぞくするくすぐったさに悶えながら快感
を待つ。
胸に到達して、ゆっくり揉みあげてくる。
――――あれ、こんなもんなんだ?
期待したほどの快楽は訪れなかった。じわっと広がる心地よさはあるけれど。
『あっ!!』
その指がついに乳首に触れた、そこから垂直に頭と足首に向けて電流が走る。
生まれて初めて感じる強烈な刺激。
突然訪れる激しい快楽。
自分でする時の数倍の感覚が襲い掛かる。
せつなも気がついたのだろう。左の乳首を軽く咥えて上下に動いてきた。指が繊細に右の乳首
を刺激する。
「ん~~っっ――つぅ――くぅ」
胸を中心に苦しさにも似た快楽が広がる。あたしの目に涙が浮かぶ。頭を振るたびに飛び散っ
ていく。
――せつな、もう、そのくらいにして……。
こんな部分的な快楽じゃいくら気持ちよくてもイケない。辛い、切ない気持ちのほうが強かっ
た。
荒れる呼吸を整えて、やっとせつなの顔を見上げた。心配そうな表情であたしを見つめている。
「ごめんなさい、ラブ。加減がわからなくて。大丈夫?」
「大丈夫だよ、やさしくしてくれてるよ。ありがとう、せつな」
せつなの潤んだ瞳の中に確かな情熱があった。呼吸も心なしか荒れている。あたしの時と同じ
だ。
じゃ、いくわね。軽く微笑んでから、せつなはあたしのお腹にキスをした。
「わはっ、きゃはっ、ちょっ、せつな、まって、くっくっくっ、あはは、やだやだっ!」
せつなの唇が、舌が、あたしのおへそやわき腹にかけてくすぐるように這い回る。柔らかく、
優しく、労るように、味わうように。
あまりにもくすぐったくて、気持ちよくて、気が狂いそうになる。
これは、あたしはやってない。せつなの独創だ。
嬉しいような、悔しいような、変な気持ちになる。
「ラブ、いいわね?」
せつなの表情が真剣なものに変わる。しなやかな指が膝の辺りに添えられる。
あの時のせつなのように、枕にしがみついて訪れる快楽に耐える準備をした。
意を決したせつなの指が、ふとももから性器目指して撫で上げる。
――ゾゾゾゾゾ――
背筋が震える。まだ秘部に到達もしていないのに反応して蜜が溢れ出す。
「っぅぅ――――」
体をよじって手の動きから逃げようとしてしまう。しかし、容赦なく愛撫の手は割れ目に届き
刺激した。
「あっ、きゃ、わっ、つぅ、んん~~」
――ツプリ
せつなの指があたしの中に挿入された。
「ぃやぁっ!」
体が意志に関係なく大きく跳ねる。ぞっとするほどの感覚、次に来る波に備えて体に力を入れ
る。
しかし、次はやってこなかった。
「大丈夫? ラブ」
心配そうな、優しい声で話しかけてくる。ほっとしたような、でも、残念な気持ちのほうが強
かった。
荒い息、震える声を抑えて言葉を返した。早く、早く続きが欲しい。
「平気だよ、せつな。恥ずかしいけどイク感覚見ていて欲しいんだ。続けて、大丈夫だから」
――ニュル、クチョ、チュプ
「くぅ、んん、うぅ~~」
再び再開される秘部への愛撫。そして、せつなの指がその上のほう、女の子の核に触れる。
『あぁっ!!』
――ビクッ
「あっ、あっ、ああっ。あ、あ、あ、あ」
十分に備えていたのに、体が跳ね回る。せつなの指がその周囲をめくる。そして小さく露出し
たところで、直接軽くつまんだ。人差し指で軽く円を書くようにこすりあげる。
――ビクッ、ビクビク、ビクン、ビクン
「んんっ~~~~~~」
もはや、声にもならない。苦痛をともなう激しい快楽。
やめて!やめないで!どうして欲しいのかわからない。一点に集束された快楽は、おかしくな
ると同時に、飛びそうになる意識を目覚めさせる。
イクことも叶わない。鮮明な意識の中で送り込まれる快楽と苦悶。ただただじっと耐える。
自分でならここまで感じない。そして、ここでもイケる。
イクとは快楽の波に乗って絶頂に上り詰めること。心と体の準備に刺激を合せて、一番良い時
に波に乗る。
しかし、せつなの、人の指の刺激は自分に合せてはくれない。自分のリズムにない動きで数倍
の刺激が与えられる。イキかけたら緩み、気を抜いたら快楽が襲い掛かる。
特に、せつなの場合は快楽と苦悶の区別が付かないのだろう。昂ぶるたびに休みが入れられる。
想像を絶する快楽とお預けの繰り返しに気が狂いそうになる。
「せ……せつな。指、ここに、奥まで、お、お願ぃ」
せつなの指が第二間接まで潜ったところで手を掴む。これ以上はあたしも入れたことが無い。
「そっ、そこっ。そこをゆっくり触って」
Gスポットと呼ばれる場所。せつなは、少しザラつく感覚を指先で敏感に捉えて、柔らかく指
を動かした。
淫核とは違う、性器全体を同時に愛撫されているような、広い範囲の快楽がラブの全身を満た
していく。
「うぅ、ううぅ……いぃ、せつなぁ、くぅ、くぅぅ、いく、いく、くぅぅ――――」
せつなの首にしがみつく。意識が真っ白になり、光に包まれ、やがて静かな暗闇に堕ちる。
しがみついたまま全身が震える。腰がビクンビクンと意志に反して痙攣する。
膣の入り口がぎゅっと締まり、緩み、また締まる。その都度、せつなの指を締め付ける。
それが数回繰り返された。
イッたことは何度もある。でも……これは――――。
体中の何もかもが言うことを聞かない。言葉に出来ない満足感と疲労感。充実した幸せな気持
ちに包まれる。
今まで一人で感じてきた快楽は何だったのかと思う。
「ラブ、大丈夫? しっかりして! ごめんなさい、私よくわからなくて……」
びっくりして、硬直していたせつなが我に返った。泣きそうな顔であたしに抱きついてきて揺
する。
「大丈夫だよ、せつな。これがイクってことなの。驚いたよね。凄く気持ちよくて、満たされ
た状態なの」
余韻の残る体がせつなの温もりを求めた。抱き寄せてせつなの胸に顔を埋めた。髪をそっと撫
でてくれる指の動きが気持ちいい。
「ね、せつなはどう感じた?」
「よくわからないの。ドキドキして、緊張して。でもなんだか、わくわくして嬉しくもあった
わ」
自分の指で、口で、ラブが動く。喘ぐ。悶える。跳ねる。
体を、感覚を共有してるような、繋がって一つになったような、不思議な感覚。
「そう、これが体を重ねるってことなのね」
「そうだね。本当は、一緒にイケたらもっと凄いと思うんだ」
「一緒に?」
「うん、そういうやり方もあるらしいよ。調べておくね」
あたしはせつなにもう一度キスをした。
クールダウン、今夜はここまで。もう怖がらせたりはしない。焦る必要も無い。
そう自分に言い聞かせる。
「ラブ、私も頑張る。今、ラブが感じたものを知りたい。一緒に感じたいわ」
「うん、今度はせつなの番だよ。ううん、一緒に感じよう。きっとこれも幸せの一つだから」
だから一緒にゲットしようね、せつな。
最終更新:2010年04月09日 21:05