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タン。タン。タン。タン。タン。


小気味良い音が桃園家のキッチンに響き渡る。
牛ロース。豚と鳥のもも。しいたけ。たまねぎ。
冷蔵庫の余りものを上手にチョイスしてひき肉をこしらえる。

「ラブ。このくらいでいいのかしら?」
「うん、バッチリ! 後はパン粉と卵黄を混ぜてこねるの」

ラブはキャベツの芯をくり抜いて細かく刻み、ケチャップ、醤油と混ぜて特性のソースを作っ
ている。
おかあさんが特売で春キャベツを買ってきた。刻んでサラダにして今夜はハンバーグ! と言
うラブの提案は、この前したばかりだからとあっさり却下された。
それでロールキャベツを作ることになったのだ。

お揃いのエプロンをつけて、仲睦まじく調理を進めていく。
二人とも真剣。交わす言葉は質問と指示くらい。だけど、互いに見つめあって、微笑みかけて。
娘達の嬉しそうな表情に、あゆみと圭太郎の顔もゆるみっぱなしだ。

「もう、いいの?」
「春キャベツを使う場合はね、煮詰めすぎないようにするのがコツなんだよ」

ハンバーグが得意なラブの、自慢のレパートリーの一つだ。美味しそうな香りが食卓いっぱい
に広がる。
ラブが食器を並べて、せつなが可愛らしく盛り付けていく。
おとうさんとおかあさんのグラスに白ワインを注いで完成だ。



「「「「いただきま~す」」」」

「美味しいわ。ラブ、せっちゃん」
「本当だ。春キャベツが甘くていいなあ」

「ほとんどラブの言う通りにしただけよ」
「せつなの手際は凄いんだよ」

途切れない会話。花が咲いたような明るい食卓。
せつなが突然帰って来てから一週間が過ぎようとしていた。幸せを学びたい。そう言った少女
は、たちまち桃園家や周囲の人々を笑顔と幸せでいっぱいにしていった。


「ブロッコリーの茎も、こうして煮ると美味しいなあ」
「人参も美味しいわぁ~。一緒に余り物を煮込むなんて考えたわね」

ぎくっ! ラブがよそ見をして誤魔化そうとする。

「ら~ぶぅ、に ん じ ん。食べないとね!
私も昨日はピーマンの炒め物全部たべたんだから」

「あ、ははは。その~せつな。お願い、食べて……」
「だ~め! はい、あーん」

「いや……その」
「あーん」

せつなにじっと見つめられる。せつなの口もあーんと開いてるなあと思いつつ、ラブは観念し
て口を開いた。

「おいひいです」

泣き出しそうなラブの顔を見て、全員が吹き出した。



「せっちゃん。学校はどう? 少し時間が開いちゃったけど、授業とかついていけてる?」

あゆみが心配して声をかける。
食事が終わり、みんなに紅茶を入れながらせつなが答える。

「大丈夫よおかあさん。ちゃんとわかるわ」
「せつなったら凄いんだよ。間違えたとこなんて見たことないし。
スポーツも相変わらず何でも出来るし。クラスでも物凄い人気なんだから!」

頭脳明晰。スポーツ万能。容姿端麗。控えめで礼儀正しく優しい人柄。もとから人気は高かっ
た。反面、遠慮がちで自分から交流を持とうとしない子でもあった。
帰ってきてからのせつなは、まるで人が変わったようだった。以前の魅力はそのままに、自ら
話しかけ、積極的に人と関わりを持とうとするようになった。おせっかいな一面も見られるほ
どで、学級、学年の外にもファンは急速に増えていった。

「そう、良かった。ラブは勉強とか大丈夫なんでしょうね?」
「いやぁ、あたしは、その……」

「は~しょうがない子ね。せっちゃん」
「はい、まかせて。おかあさん」

あゆみは無言で二階を指差す。今夜のせつなとのおしゃべりは、勉強会に変更になるだろう。
「は~い」とラブはしょぼしょぼと上がっていった。

「ラブっ~! 後片付け済んだら私も行くから」

せつなが声をかけると、今度は元気な声で「早く来てね~」と返事が帰ってきた。


「せっちゃんも上がっていいわよ。片付けはやっておくから」
「ううん。私にやらせて、おかあさん」
「じゃあ、一緒にやりましょう」
「はい」



今度はあゆみと一緒にキッチンで後片付け。せつなが洗った食器を、あゆみは拭きあげて並べ
ていく。
時折、チラチラとせつなの方を見る。

「どうしたの? おかあさん」
「あら、やだっ。ごめんなさい。
こうして――またせっちゃんと一緒に過ごせるのが夢のようで、ついね」

「私と暮らせるのが、楽しいの?」
「当たり前でしょ。娘と一緒に居られることが幸せで無い母親なんているものですか」

「ありがとう。おかあさん」

せつなはあゆみにそっともたれかかった。以前より物怖じしなくなった。
あゆみが優しく抱きしめた。

「ねえ、せっちゃん。遠慮も何もいらないから、あなたが思った通りにやりなさい。
そして、何でも相談してちょうだいね。必ず力になるわ」
「そうだぞ、せっちゃん。おとうさんも、せっちゃんの幸せを誰より願ってるんだからな」

おかあさんばかりずるいぞ! と言った目で見ながら圭太郎も会話に混じってきた。

「ありがとう。おとうさん。おかあさん」

せつなはしばらく二人に甘えてから、ラブの部屋へと向かった。



幸せの街、クローバータウン。

そしてきっと、どこよりも温かい幸せな家庭。少なくとも、この家の四人はそう信じられる。

待っててくれる人。迎えてあげたい人。心を優しく満たしてくれる人。

それは家族と言う名の幸せ。


優しい夜は、その日もゆっくりとふけていった。



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最終更新:2010年04月24日 21:57