ん~~~~~。
ラブが大きく伸びをする。ほどいた髪が蛍光灯の光を浴びて金色に輝く。
すでにお風呂も入り終えていて、ピンクと赤の可愛らしいパジャマが並ぶ。
ラブの部屋。夕ごはん後の恒例お勉強タイム。
机の上には終えたばかりの問題集と、教科書や辞書が山のように積み上げられている。
ただ宿題をするだけ。でもその意味をちゃんと理解するまでせつなは関連問題を出し続ける。
「せつな厳しいよ~」と愚痴がこぼれることもしばしばあった。
「やっと終わったよ。ありがとう、せつな」
「どうしたしまして。おつかれさま、ラブ」
「さ~今夜はパジャマパーティーだね!」
「今夜も、でしょ。パーティーと言っても二人きりじゃない」
「せつなは、楽しくない?」
「そりゃあ……凄く楽しいわ」
恥ずかしがって横を向くせつなを、ラブは嬉しそうに見つめた。
せつなが帰ってきて以来、前にもまして共に過ごす時間を大切にするようになった。
パジャマパーティーと称して、一緒に眠ることが増えた。表向きは遅くまで勉強するためだ。
少しでも遊ぶ時間を確保しようと集中するためか、あるいはせつなの教え方がいいからなのか、
ラブの成績も目に見えて上がってきていた。
今夜の遊びはトランプ。これも最近のお気に入りだった。
相手の表情を探りながら手の内を読む。手札を操り駆け引きを行う。
自然と見つめあう時間は増える。お互いの色んな表情や感情を感じ取れる。
ババ抜き
「参りました――グタッ」
「ラブは顔に出すぎなのよ」
神経衰弱
「ほとんど取れなかった……」
「ラブってば、自分でめくったのすら全然覚えてないんだもの」
ポーカー
「やったね! フルハウス」
「ストレートフラッシュよ」
「…………せつな、容赦ないよ」
「何言ってるの。手加減する方が失礼でしょ」
「でも、せつなのトランプさばきって凄いね」
「そうかしら。まあ一応、占い師だったもの」
解説つきで実演してもらう。
ヒンズーにオーバーハンドにリフルシャッフル。切る手が早すぎて指の動きがまるでわからな
い。
真似しようとして、バラバラと落としてしまった。
「あちゃー。できないよ、せつなぁ……」
「いきなり早さを求めてはダメよ。丁寧に、正確に、早さは自然についてくるものよ」
せつながラブの背中に回って手を取った。上から握るようにして、カードの切り方を教える。
急な出来事にラブはどきまぎしてしまう。ラブからせつなに抱きつくことはあっても、その逆
は初めてかもしれない。
(せつなの指、すごく細いな。しなやかだな。頬に吐息がかかるよ。いい匂いだな)
「もうっ、ラブ。手が全然動いてないじゃない。やる気あるの?」
「ごめん、せつな。ちょっと考え事しちゃって。ちゃんとやるよ」
「そう。でももう遅いわ。また今度にしましょう」
せつなはちょっと心配そうにラブの顔を覗き込む。大丈夫そうだと確認すると優しく微笑んだ。
「さあ、もう寝ましょう。明日も学校あるのよ」
「うん、そうだね。おやすみ。せつな」
「おやすみなさい。ラブ」
まくらは持参してある。一緒にふとんに潜り込む。ラブが先でせつなが後から。逆だとラブが
寝返りを打ってベッドから落ちてしまうことがあるからだ。
二人で眠るには少し小さめのベッド。自然に体はくっつきあう。
せつなはラブの体温を感じながら、幸せな気持ちで目を閉じた。
もぞ。もぞ。もぞもぞ。
「きゃあ! なにっ、ラブ!?」
「あ、ごめん。なんかもったいなくて眠れなくて。起こしちゃったね」
「もう。ウトウトしてたからびっくりしたじゃない」
「だって、目が冴えて眠れないんだもの……。何かお話ししてよ、せつなぁ」
「ええっ? 私、お話なんて知らないわ」
「なんでもいいから。今日あったことであたしが知らないこととかでも」
そうね――。じゃあ、とせつなが話し始める。
それは今日のお昼休み。ラブがクラス委員の仕事でいなかった時間のこと。
「あの時、私は校庭で花壇を見ていたの。色んな種類のお花が咲いていて、とても綺麗だった」
「そっか。せつなはお水あげたりしてたよね。そう言えばラビリンスではお花とかないの?」
「昔は――咲いていたのかもしれないわね。でも、私は見たことが無いわ」
「あたしたちがラビリンスに行った時も見なかったよね」
「そうね。でも今は異世界から適性のある植物や動物を探して、栽培・繁殖させようって計画
もあるのよ」
話がそれちゃったわね、と言ってせつなは続けた。少し低くて優しい声が、薄明かりの部屋に
心地よく響く。
「それでね、花壇のお花が突然動いたの。よく見るとね、黄色いちょうちょだったの。
ひら、ひら、ひらって不思議な飛び方だったわ。
まるで木葉が空に向かって落ちていくみたいに。
そしたらね、もう一枚……じゃなくて、もう一匹ちょうちょが飛んできて、一緒に舞いはじめ
たの。
じゃれあうみたいにくるくる位置を入れ替えて、まるで空でダンスを踊ってるみたいに見えた
わ。
お花みたいに綺麗なちょうちょ。空を飛べるのにまるで目的がないみたい。
とても自由で楽しそうで――そして、幸せそうだったわ」
「ねえ、ラブ。聞いてるの?」
「すぅ~~~~」
「もう……自分だけ先に寝ちゃって」
せつなは、布団から出たラブの腕を優しく中にしまいこんだ。
「おやすみなさい。ラブ」
愛らしい寝顔を見つめてそっと囁やく。そして静かな寝息を子守唄に聴きながら、緩やかな眠
りへと落ちていった。
今夜は同じ夢を見られるかもしれない。そう願いながら。
最終更新:2010年05月21日 00:34