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避2-176

「はい、これで今日の撮影はお終い。お疲れ様!」

「おつかれさまでした~」
「おつかれさまでしたー」


読モのお仕事。今日は企画物と呼ばれる撮影だ。


“恋人とデートする時の勝負服”


先輩のモデルさんとカップリングで特集を組んでもらえた。こちらは読モ、片やあちらは雑誌
の専属モデルだ。少し羨望の眼差しで見てしまう。
気さくな人で、新人の頃からよく声をかけてくれた。


「美希ちゃん、素敵だったよ。最近綺麗になったんじゃない。誰か好きな人でもできた?」
「そんな――アタシは好きな人なんていません。男の人に興味ありませんし」

「へ~そうなんだ。あ、もしかして、女の子が好きとか?」
「あっ、えっ、ちっ、違います! そんなんじゃありません」

「慌てるところが怪しいな。そうだ、美希ちゃんにイイモノ、ア・ゲ・ル」


誰にも内緒よ。気に入らなければ捨てちゃってもいいから。
ひそひそ声で耳にささやかれる。そして貰った一枚の無地のディスク。


「美希ちゃんファイト! 命短し恋せよ乙女、よ。頑張ってね!」


違うと言ってるのに聞いてもらえない。思わず苦笑する。
明るくて、優しくて、綺麗なのにちっとも気取らない。あんな素敵なモデルさんになりたいと
思う。
ディスクをカバンに入れて、挨拶して別れた。

この一枚のディスクがアタシ達の運命を大きく変えるなんて、その時には知るよしもなかった。







「そう、いいわね、その調子よ。呼吸まで合わせるくらいの気持ちで踊るのよ」


いつもの公園。ミユキさんのダンスレッスン。アタシのもう一つの夢。
せつなが加入して四葉になったクローバー。ただ一人増えるだけ。そう思ったのは甘かった。

三人と四人では動きをあわせる難易度がぜんぜん違う。倍は難しいと言ってもいいくらいに。
それだけに、ピッタリあわせた時の迫力と華やかさもまた、倍に跳ね上がる。

やはり中心になるのはラブ。最近は本当に動きにキレが出てきた。何より、ラブには人を惹き
つける魅力、いや引力がある。
アタシ達の中では特別美しいわけでもなく、スタイルがいいわけでもない。
それでも、いつの間にか視線はラブに集まっていく。始めはアタシに注がれていたものまで。
そして、そのラブの視線は最近はずっと一人に注がれていた。


「おつかれさま。せーつなっ、すっごく良かったよ。せつながいれば今度こそ優勝だね!」
「そうかしら。でも、なんとか付いていけそうで嬉しい。本当は不安だったの」

「大丈夫だって! せつなにはあたしが付いてるんだから」
「そうね。でも、ちょっとくっつきすぎよ、ラブ。私も汗かいてるのに」

「せつなの汗なら平気だよ。温かくって気持ちいい」
「ちょっと、もう。恥ずかしいからやめて!」


見ているこっちが恥ずかしいと思う。ラブが追いかけて、せつなが逃げて。でも、本当はせつ
なも喜んでいるのも伝わってくる。
せつなのことはアタシも好き。大好き。でもせつなの加入で、アタシ達の親友、幼馴染として
のバランスが壊れつつあるのも確かだった。

三人と四人ではあわせる難易度がぜんぜん違う。それはダンスだけでなく、アタシたちの関係
にも同じことが言えた。いや、多分ダンスより難しいだろう。割り切れる数なのだから……。


「美希たん。美希たん。どこか調子わるいの?」
「あ、ごめんラブ。考え事してて」

「ならいいんだけど。ね、頼んでおいたDVD持ってきてくれた?」
「ええ、『ブロードウェイの星』ね。はい、どうぞ」


やったねっ! とはしゃぐラブを横目に見る。今日はご両親が出かけてて、せつなと二人っき
りらしい。いちゃいちゃしながら鑑賞会する姿が目に浮かぶようだった。


「美希ちゃん、帰ろうか。体冷えちゃうよ」
「ええ、そうね。ラブ、せつな、またね」
「美希たん、ブッキー、ばいば~い」
「美希、ブッキー、さようなら」


ブッキーと肩を寄せて歩く帰り道。道を敷き詰める黄色い葉っぱ。吹き抜けるひんやりした風。
ラブとせつなに見せ付けられたからだろうか。無性に人の体温が恋しかった。
ちっちゃくて可愛いブッキーの手を盗み見る。さりげなく、さりげなく手を繋ごうとして……
思いとどまった。

アタシを信じきっているブッキーの横顔。アタシは親友で幼馴染。その距離を壊しちゃいけな
い。
ずっと、守ってきたものだから。

でも、だからこそ、あっさり踏み越えていったラブとせつながうらやましかった。







「ただいま~」


返事は無い。当然だ。この時間はまだママはお店で働いている。もとより帰っていたとしても、そんなに会話があるわけでもない。

今日の夕飯はアタシの当番だ。難しいものや凝ったものは作れないが、料理は一通りこなす。
サーモンのホイル焼きと色とりどりのサラダ。暖かいパンプキンスープ。

それも――二人分だけ。ちょっとだけ。華やかな食卓と呼ぶにはほど遠い。

どうしちゃったんだろう……アタシ。

そんなの当たり前。ずっとそうだったのに。


「いただきます。ママ」
「いただきます。美希ちゃん」


ママは明るい人。人生を楽しんで生きる術に長けた人。アタシもそうなんだって思ってきた。
最近、その自信が無くなってきた。

ママは――寂しくないのだろうか……。


部屋に戻る。お風呂、勉強、表情の訓練、肌の手入れ、ストレッチなどを済ませる。
それだけで結構遅い時間になる。

あ~あ、今頃はラブとせつなは楽しくやってるんだろうな。
ぼやいてみても始まらない。モデルの先輩からもらったDVDを見ることにした。


最初は衝撃だった。とてもいけない物を見た気がして、忘れようとした。でも、気になって。
ちょっとだけ、もうちょっとだけ、そう言い聞かせて見てるうちに、いつの間にか最後まで見
てしまった。


女性同士で愛し合う。そんな世界が、方法があるのは耳にしていた。でも、遠い世界のような
気がしていた。
それが、映像とは言え具体的なものとして知ってしまった。頭から――離れなくなった。
若い女性同士の絡み合い。それはとても淫靡で、そして――美しかった。


あった、これね。


ケースから取り出して――固まった……。
サァァ――と顔が青ざめる、というのを始めて体験として思い知った。

それは――ラブに貸したはずの『ブロードウェイの星』のディスクだった……。







結局、その夜は携帯は繋がらずメールの返事も来なかった。
朝になって返信が来た。DVDが間違ってたから、明日返すって……。

見ちゃったんだ……。


カオルちゃんのドーナツ屋さんで待ち合わせる。
しばらく悶々と悩んでると、ラブがやってきた。


「お待たせ、美希たん。せつなは今日は来られないって」
「こんにちは、ラブ。ブッキーも今日は来れないそうよ」


これは嘘だ。後で待ち合わせてる。今はラブと二人で話したかったからだ。


「ごめん、ラブ。あれはアタシのじゃなくて、借りてたというか、押し付けられたというか」
「うん、びっくりしたよ。でも――謝ることじゃないから」


心なしかラブに元気が無いように見えた。思い切って理由を尋ねた。始めは口ごもっていたも
のの、最後には話してくれた。悪い予想が見事に当たっていた。

DVDを見てしまった後、ちょっとだけエッチなことをせつなにしてしまったらしい。


「それでね、終わった後は普通だったんだけど、朝起きてからのせつなの様子がおかしいの」


返事が――出来なかった。

理由は想像が付く。相手は真面目なせつなだ。勢いでイタズラしたものの、一晩したら気まず
くなった。そんなところだろう。


「ごめん、ラブ。何て言っていいかわからない。ごめんなさい……」
「美希たんが謝ることじゃないよ。でも、美希たんに相談したことは誰にも話さないでほしい」


それは絶対に約束する。そう言って別れた。


気まずくなるきっかけを作ってしまった。ラブに申し訳ないと思う。
それなのに――なんだろう。この謝罪とは明らかに違う胸の中は……。
うらやましいのか――親友すら超える関係になろうとしてる二人が。
今回は上手く行かなかったらしい。でも、これで互いに意識したはず。いつか遠くない未来に
二人は、きっと……。

アタシは昔からラブやブッキーの相談相手になることが多い。だから今回の話だって聞けた。
でも、今回ばかりはそれが疎ましいと思った。自分で聞き出した身勝手さに呆れながら……。







戻ってきたDVD。戻らない心の安らぎ。
やるせない代償行為でも、今のアタシには必要だった。

音量を少ししぼって体をベッドに横たえる。汚さないように下にはバスタオルを敷いた。
家に家族が少ないって、こんな時は便利だなと思う。もっとも賑やかであれば、こんなことも
必要ないのかもしれない。

下着も全て脱いだ。画面の動きに自分の手をシンクロさせていく。ダンスの訓練の成果だろう
か、呼吸までもが重なっていき、一体となる感覚に包まれる。

胸を頂に向けて撫で上げる。やわやわと揉み解す。始めはくすぐったいだけ。そのまま撫で続
ける。イメージする。この手は自分の手じゃない。

優しい手。ちっちゃい手。柔らかくてぷよぷよした手。ブッキーの――――手。

ぶるっと体が震える。甘美なむず痒さが生まれる。じんわりと快楽の波が左右のふくらみから
広がっていく。
自然と荒くなる呼吸。ねじれ悶える四肢。何も我慢する必要は無い。誰も居ないのだ。声も零
れるにまかせた。

イメージが現実を塗り替える。この手は自分の手じゃない。今は大好きな人の手。
目を閉じる。流れる声はあの子の声。一緒に昂ぶり、昇りつめていく。


「んっ、うぅ、んんっ、あっ、あっ、ああっ」


指が胸の頂に触れる。硬く尖った蕾を扱き上げるように縦にこする。人差し指の腹で正面をな
ぞる。波のように押し寄せる感覚に全身をくねらせながらも、手は休めない。

くっ、も……もう、……限界。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


力尽きて体を楽にして休む。悶え狂った体と酷使した腕も疲れていたが、何より胸の先が尖り
すぎて痛いくらいだった。
両手で自分を抱くようにして疼く体を丸める。そして切なさをやり過ごす。もし、抱きしめて
くれる、抱きしめられる相手がここに居たならどれだけ幸せだろうか。


一息ついたら再び愛撫を再開する。今度は下半身に指を滑らせていく。そこはもうすっかり濡
れていて、更なる刺激を欲してズキズキと脈打っていた。

日増しに体が敏感になっていくのを感じる。――首を振って悪い考えを振り払う。
当たり前だ、体はどんなことにも順応するだけ。ただそれだけのこと。

疼き震える割れ目を覆い隠すように手のひらを添える。甲から指先の腹までをいっぱいに使っ
て、下から上に撫で上げる。ゆっくり、ゆっくり、何度も、何度も繰り返す。


「っ、うっ、く、んんっ」


体の中身が押し上げられるような、逆に降りていくような不可思議な感覚に襲われる。
撫で上げる手のひらから雫がこぼれそうになり、ようやく動きを止める。
準備ができたことを知る。これが――一番感じる状態の体。

そっと指を差し入れる。奥には入れず上の方に滑らせる。薄い皮に包まれた芯に触れる。


「うっ、くうぅ!」


それだけで下腹部から頭までを電流が貫く。歯を食いしばって皮の上から刺激を与え続ける。
皮を剥いたり被せたり。そのつど頭にチカチカと白い光が点灯する。
大きくなったら今度は直に触れた。円を描くように小指の腹で撫でる。軽い痛み、そして、む
き出しの神経に直接触れたかのような強烈な感覚。
下半身の筋肉が収縮する。おびただしい電気信号が脊髄から脳に駆け昇る。処理しきれずに体
中に逆流する。
二度、三度大きく体が痙攣する。全身の筋肉が硬直する。思考が遮断され、視界が真っ白にな
る。
ゾクッとする感覚が走る。これは予告。到達の兆し。


「うっ、くうぅ! いっ、くっ、あっ、ん~~っ!」


白かった視界が暗転する。自分がどこにいるのかも、どんな姿勢でいるのかも知覚できない。
突然放り出されて――そして、衝撃もなく布団の上に落下した。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


激しく痙攣を繰り返す下腹部を押さえながら、荒い息をつく。
力の入らなくなった体で、途中から見なくなったDVDの電源を切った。


呼吸が収まるとともに、火照った体も静まってくる。上がった体温も急速に冷める。
人の――好きな人の――ブッキーの――――肌の温もりが欲しかった。


「何よ……寒いじゃない。裸――だものね、当然か――」


こんなことしても、ごまかせるのは一瞬。わかってる、わかってるのに――ノロノロと服を着
て、シャワーを浴びに浴室に向かう。

「どうしちゃったのよ――アタシ――全然――完璧じゃないじゃない」


シャワーにまぎれて、そっと涙を流した。







「どうしたのラブ、せつな。なんだか様子がおかしいわよ」
「いつも本当に仲が良いよね、うらやましくなっちゃう」


平静を装って軽口を叩いた。いつも通りのいちゃいちゃ。でも違うのはせつなの態度。
逃げなくなった。あまり恥ずかしがらなくなった。嬉しそうな顔を隠さなくなった。

心配かけてごめん、仲直りできたよって。もう元通りだから大丈夫だよってメールがあった。

見てて感じる。これは……元通りなんかじゃないって。
何があったんだろう。

まさか……でも……ラブはともかく、せつながそんなこと。


ラブとせつなが先に帰った。買い物に寄ってから帰るって。
しっかりと繋がれた二人の手を、ブッキーも不思議そうに見ていた。


「何か、あったのかな……」
「うん……。わたしもそう思うよ。美希ちゃん」


あったんだろう……きっと。嫉妬と羨望が心を蝕んでいく。アタシの一番嫌いな感情だ。
ブッキーなら、癒してくれるような気がした。
このままだと、アタシはアタシが……嫌いになりそうだった。


「冷えるのが早くなったわね。美味しい紅茶があるの。続きはアタシの部屋で話しましょう」
「うん、お邪魔するね」


(ごめん、ブッキー)


心の中で謝った。
信じるしかない。ブッキーもきっと、アタシと同じ気持ちなんだって。

はやる気持ちを隠して、アタシはブッキーを部屋に誘った。
あれだけ嫌いだった寂しい秋の風情が、今はとてもありがたかった。



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最終更新:2010年07月07日 22:52