映-163

みんなのために。
あなたはいつだってそうだった。
そんな優しさが、私には凄く眩しく見えて。



眠い目をこすりながら、ラブは一人、大切な思い出の修復に悪戦苦闘していた。
何度も何度も失敗しては、やり直し。その度に増えていく、ほつれた糸くずと指の傷。
一生懸命になればなるほど上手くいかない。

溜まっていく―――フラストレーション


気が付くと時計は深夜を指していた。
血の滲んだ指先を見詰め、ラブは一つ、溜息を吐く。

息抜きをするため、ベランダへと歩を進める。
やっぱり夜は肌寒い。それでも、今の彼女には頭を冷やすいい風のように感じられた。
生憎、夜空から星の光は差し込んでいない。

また一つ、溜息を吐いた。



あたしってどうしてこう不器用なんだろ。
うさぴょんの綻びすら直せない。ちゃんと家庭科勉強しとけばよかったな。


こんなんじゃ―――



その時、脳裏に過ぎった物は何だったのか。
ただ一つ、はっきりとしている物は〝東せつな〟と言う存在。


すやすやと眠る彼女を窓越しから見詰め、ラブは思う。


幸せにしたい―――と。




頬を伝う一滴。
それは自分への苛立ちと、焦り。

完璧とまでは言わない。七十点ぐらいで構わないから、大人の女性へと成長したいと感じた。
そうでもしなければ、とても彼女を―――せつなを幸せにする事なんて出来ないのだ、と。






再びそっと、部屋へ戻る。
あたたかい部屋の温もりが心地よい。


せつなの寝顔を独り占めしてみる。
自然と笑顔になれる自分が、そこにはいた。



ねぇ、うさぴょん。
こんなあたしだけど、一生懸命頑張るからさ。
もう少し。
もう少しだけ付き合ってよ。


都合ばっかよくて.....ごめん。






ラブは泣いていた。
私にはわからなかった。

ラブがあんなに一生懸命になる姿を見たのは、初めてだった。
それはダンスをしている時の姿や、プリキュアで戦っている時の姿とはまた別。

そう。
何かを背負ってしまっているような姿。

傷だらけの指。
それはとても痛々しくて。

何度も何度も、失敗しては繰り返すそのひたむきな姿に、私も胸を打たれる。
何気無しに起きて、一層の事手伝ってしまおう。二人でやればきっと上手くいく。




だけど。

ラブのプライドが許してはくれないだろう。
絆創膏の数が物語っている。

想いが強いはず、と。


自分のためなのよね、ラブ―――








子供の頃、あたしはこのうさぴょんがとっても大好きだった。
いつも一緒だった。

そう。
今のあたしとせつなみたいに。

大事にしたい。
大切にしたい。

ねぇ、うさぴょん。
気が付くの遅かったかな?


でもさ、気が付いただけでも凄いと思わない!?
今、こうしてあたし頑張ってるんだもん!


想いを込めて―――頑張るから






(ありがとう)








「えっ?」
「なに?」

声が聞こえた。
二人一緒に感じた、思いと想い。

付いてしまった傷と、背負っていた傷と。
これからも互いに傷付く事はあるだろう。
それでも。

人は治癒する力を持っている。
人は癒す力を持っている。

互いに助け合う事が出来る。





貴方にとって、大切なモノとは何ですか?
修復してでも、守りたいモノはありますか?


想う事で、沢山の得られるモノがそこにはある。
傷付く事を恐れずに。真っ直ぐに。








「よしっ!出来たっ!」






(幸せ―――ゲットね)




~END~



映-173はうさぴょん視点のお話となります。
映-175は後日談となります。
最終更新:2010年08月07日 22:17